工場を開くと、まちが動き出す。オープンファクトリーを全国へ広げた津田さんが見てきた、ものづくりの未来
京都橘大学 経営学部 客員研究員
津田哲史

最近、日本各地で「オープンファクトリー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
ふだんは入ることのできない工場を開き、ものづくりの現場を見てもらう。職人さんや作り手の話を聞き、機械の音、素材の匂い、手ざわりを感じる。そんな取り組みが、いま全国のものづくりのまちで広がっています。
でも、オープンファクトリーは、ただの工場見学イベントなのでしょうか。
どうやら、それだけではなさそうです。
工場を開くことで、働く人が自分の仕事を誇れるようになる。まちの人が、近所の工場を見る目が変わる。若い人が「ここで働いてみたい」と思う。企業同士がつながり、新しい商品や企画が生まれる。
つまり、工場を開くことは、まちを開くことでもあるのです。
今回お話を伺ったのは、京都橘大学 経営学部 客員研究員の津田哲史(つだ さとし)さん。近畿経済産業局で長年、オープンファクトリーの推進に関わってきた方です。
八尾市への出向をきっかけに、地域一体型オープンファクトリーの可能性に出会い、そこから関西、そして全国へと、その動きを広げてきました。
「僕らが取り組んできた『オープンファクトリー』は、観光施策ではなく、産業施策なんです」
そう語る津田さんは、この7年ほど、日本各地のものづくりのまちを訪ね、キーパーソンたちをつなぎ、冊子をつくり、フォーラムを開き、言葉になりにくい現場の変化を可視化してきました。
工場を開くことで、まちに何が起きるのか。
そして、これからの地域には、どんなコミュニティが必要なのか。
たっぷりお話を伺いました。

きっかけは、八尾市への出向だった
津田さんがオープンファクトリーと深く関わるようになったきっかけは、八尾市への出向でした。
当時、近畿経済産業局には、八尾市、堺市、門真市、尼崎市など、ものづくりのまちから出向してきた職員さんたちがいました。みんな、地域のものづくり企業が好きな人たちだったといいます。
「株式会社友安製作所(元八尾市職員)の松尾さんもその頃、一緒だったんです。ほかにも尼崎市や門真市、堺市の方々がいて、みんな結局、ものづくり企業が好きな人たちだったんですよ。せっかくなら、みんなで何か一緒にやりたいよね、という話になって」
そのときに活用したのが、大阪府内の市町村職員が連携して研究を行うための研修制度でした。旅費や謝金の多くを補助してもらえる仕組みがあり、それを使って、各地の先進的な取り組みを見に行くことに。
そこで向かったのが、新潟県燕三条地域で開催されている「工場の祭典」でした。


「2017年に行ったんですけど、正直、シンプルに感動したんです。工場がきれいだったことにも驚いたんですけど、それ以上に、若い人たちがめっちゃ楽しそうに働いていたんですよ」
燕三条の工場では、若い女性や若い男性が、今どきの服装で、楽しそうに爪切りや金属製品をつくっている。その光景が、津田さんには強く印象に残りました。
「八尾では、若い子が採れない、採れないって言っているのに、なんでこの地域では、こんな若い子たちが楽しそうに働いているんだろうと。これって、ものづくりのまちが目指したい方向なんじゃないかと思ったんです」
ものづくり企業は、知られていないだけなのではないか。
中小企業や町工場に就職すると聞くと、親が心配することもあります。けれど、たとえば有名なラジオ局や芸能事務所も、規模でいえば中小企業かもしれない。それでも名前を知っているから、そこに就職すると聞けば「すごいね」となる。
「結局、知っているか知らないかって、すごく大きいんじゃないかと思ったんです」
ものづくり企業も、見えるようになれば、きっと印象が変わる。
その気づきが、後の取り組みにつながっていきます。
「見せる場」が必要だ。みせるばやおの原点
八尾市に戻った津田さんたちは、オープンファクトリーの可能性について企業さんたちと話し合いました。
ただ、最初から「工場を開きましょう」と言っても、簡単にはいきません。
「企業さんからすれば、町工場なんか見てもおもしろくないでしょう、危ないし汚いし、いいイメージなんかないよ、という反応もあったんです」
一方で、八尾市のようなものづくりのまちには、住宅と工場が近接する「住工混在」の課題があります。工場の隣に住宅があり、音や匂いへの苦情が出る。結果として工場がまちから出ていく。
けれど津田さんは、それは単に「迷惑な工場がある」という話ではなく、知らないことによるすれ違いでもあると考えました。
「住民も企業のことを知らなきゃいけないし、企業も住民のことを知らなきゃいけない。お互いに知る場が必要なんじゃないかという話になったんです」
ただ、いきなり工場を開くのはハードルが高い。
ならば、まずは工場ではない場所に、企業がものを持ち寄って、市民に見てもらう場をつくろう。
そうして生まれたのが、八尾のものづくり企業の魅力を見せる場、「みせるばやお」でした。
「八尾というまちには、企業が見せる場、見に行く場が必要だったんです。だから『みせるばやお』という名前にも、見せる場が必要だという意味が込められているんです」
2018年8月8日。八尾にちなんだ「8」が並ぶ日に、「みせるばやお」はオープンしました。
子どもたちがものづくり体験をして、「おっちゃん、すごい!」と声をあげる。そんな光景を目の当たりにした社長さんたちは、少しずつ変わっていったといいます。
「子どもたちが喜んでくれると、社長さんたちも『そんなにかっこいいんだったら、工場にも見に来るか?』となっていったんです」
まずは、見せる場をつくる。
そこから、まちの工場を開く動きが生まれていきました。


「工場が主語」だから、産業政策になる
津田さんが何度も強調していたのが、オープンファクトリーは「観光」だけではない、ということでした。
「観光として見れば、見る人が主語になります。でも、オープンファクトリーは工場が主語なんです」
観光施策であれば、来場者が楽しむこと、地域に人が来ることが目的になります。もちろん、それも大切です。
けれど、オープンファクトリーの本質は、工場を開くことによって、企業の内側に変化が起きることにあると津田さんは言います。
自分たちの仕事を説明するために、社員があらためて技術や製品の意味を考える。新人さんが工場案内をすることで、自分の会社への理解が深まる。来場者から「すごい」と言われることで、働く人の誇りが育つ。
「工場を見せたり、技術を見せたりすると、中ではインナーブランディングが成長して、イノベーションが起きる。それ自体が産業政策になるんです」
この視点は、とても大きな意味を持っていました。
オープンファクトリーを単なるイベントや観光施策として捉えると、どうしても「来場者が何人だったか」「売上がいくらだったか」という短期的な成果に目が向きます。
でも、企業の中に変化が起き、人が育ち、採用につながり、企業同士の連携が生まれるなら、それは地域産業の未来をつくる取り組みです。
津田さんは、その意味を言葉にし、経済産業省が取り組む理由を可視化していきました。
「オープンファクトリーは、工場を開くことによって起こる企業内変化が、産業振興になっていく。そう定義することで、事業化していったんです」
万博という時間軸が、全国へ広げる理由になった
2019年、津田さんは近畿経済産業局に戻ります。
その頃、大阪・関西万博の開催が決まり、近畿経済産業局の中にも万博関連の部署が立ち上がっていました。津田さんも、中小企業の変化の兆しを探す仕事をしながら、万博に関わる役割を担うことになります。
「ざっくり、万博のために何かやれ、という職務を与えられたんです。じゃあ何をするかと考えたときに、八尾でやっていたオープンファクトリーが頭にありました」
八尾で起きていることは、他の地域にも広がる可能性がある。
まち全体が工場を開き、地域のものづくりを見せる。そうした動きが日本各地に広がれば、万博に来る人たちにとって、日本そのものが大きなパビリオンのようになるのではないか。
「八尾がやっていることが、ひとつのモデルになる可能性がある。それを国の立場で見せていくことが、結果的に八尾への恩返しにもなるし、万博を盛り上げることにもなると思ったんです」
ただ、当時は「オープンファクトリー」という言葉自体が、今ほど一般的ではありませんでした。
そこで津田さんは、まず言葉を可視化することから始めます。
各地のオープンファクトリーを訪問し、効果を調査し、レポートにまとめる。そして、そのレポートをもとにシンポジウムを開きました。

「最初は、オープンファクトリーに関わっている人たちは、もうみんなつながっていると思っていたんです。でも実際には、SNS上では知っていても、本質的にはつながっていないところが多かった」
表に出てくるのは、どうしても成功事例や華やかな話になりがちです。
けれど現場には、地域の団体との関係、行政との調整、企業間の温度差、継続の難しさなど、なかなか外には出てこない悩みがあります。
「ぶっちゃけ、地域の団体さんとの関係をどう乗り越えたかとか、そういう内情ってなかなか出てこないんですよ。でも、シンポジウムではそういう悩みの共有が起きたんです」
近畿経済産業局という立場だからこそ、地域のキーパーソン同士をつなげることができる。
そう気づいた津田さんは、各地の実践者が登壇するフォーラムを重ねていきました。


43回のフォーラムが生んだ「身近なヒーロー」
津田さんたちが開催してきたオープンファクトリー関連のフォーラムは、のべ43回にのぼります。
そこに登壇したのは、全国的に有名な経営者や大企業のトップではありません。
各地のものづくりのまちで、実際に汗をかきながらオープンファクトリーを立ち上げ、続けてきた人たちでした。
「各フォーラムの登壇者は、地域のヒーロー、ヒロインなんです」
もし、孫正義さんのような大きな存在が登壇すれば、多くの人は「すごい」と思うでしょう。でも同時に、「自分にはできない」と感じてしまうかもしれません。
けれど、自分と近い立場の人が、同じようなまちで、同じような悩みを抱えながら挑戦している姿を見ると、「もしかしたら、自分の地域でもできるかもしれない」と思える。
「ここに登壇してくれた人たちは、自分の地域なら自分もなれるんじゃないかと思わせてくれる存在なんです」
フォーラムを聞いた人が、次の地域で実践者になる。
実践者になった人が、また次のフォーラムに登壇する。
そうして、オープンファクトリーの知見と熱量は、少しずつ全国へ広がっていきました。
「小さな主人公が多いまちほど、オープンファクトリーはうまく回っている気がします」
津田さんはそう言います。
ひとりのスーパーマンだけに頼るのではなく、いろんな人が少しずつ主人公になる。事務局の人、参加企業の若手、地域の金融機関、デザイナー、行政職員、学生、来場者。
それぞれが「自分ごと」として関わることで、まちの動きは続いていきます。
「村人A」がまちを誇る瞬間
津田さんが、オープンファクトリーの力を強く実感した出来事があります。
福井県鯖江市の「RENEW」を訪れたときのこと。うるしの里会館から別の工場へ向かう途中、田んぼの横にお父さんと子どもが立っていました。
そのお父さんが、子どもにこう言っていたそうです。
「これな、すごいやろ。この田舎のまちに、人が歩いてるのがすごいんや」
車社会の地域では、人が歩いていること自体が珍しい。だから、まちに人が歩いている光景がすごいのだと。
その言葉を聞いた津田さんは、最初は「確かにそのとおりなのかもしれないけど、それだけなのかな?」と思ったといいます。
でも帰りの電車の中で、ふと気づきました。
「違うわ、あれは村人Aなんだと。村人AがRENEWを誇って、子どもに自慢していることがすごいんだと思ったんです」
イベントの主催者でも、参加企業でもない。たまたまそこにいた地域の人が、自分のまちで起きていることを誇らしげに子どもへ語っている。
それは、イベントがまちに根づいた瞬間でもありました。
「参加者が多いとか、売上が上がったとかも大事です。でも、そのまちの人が自分のまちを誇っている。その光景は、つくろうと思って簡単につくれるものじゃないんです」
オープンファクトリーが生み出すものは、数字だけでは測れません。
まちの人が、自分たちの地域を見る目が変わる。
その変化こそ、地域にとって大きな資本なのかもしれません。



イベントではなく、地域の資本になる
津田さんは、オープンファクトリーの役割は変化してきていると言います。
最初は、工場を開く年に一度のイベントだったかもしれません。
けれど、続けていくうちに、それは地域を動かすコミュニティになっていく。
「イベントとして考えると、損益計算書なんです。この日にいくら収入があって、いくら支出があって、プラスかマイナスかを見る。でも、オープンファクトリーは貸借対照表で見るべきなんです」
津田さんは、オープンファクトリーを地域の「資本」のようなものだと捉えています。
たとえば、FactorISMやRENEWのような取り組みが地域にあることで、企業同士がつながる。外から人が来る。大企業やスタートアップが地域と組みやすくなる。学生がまちに関心を持つ。新しい企画を始めるときに、すぐに声をかけられる仲間がいる。
それは、単年度の売上ではなく、地域の基礎体力です。
「オープンファクトリーという取り組みの成長は、地域の自己資本比率が高まる感じなんです。自己資本比率が高いまちだから、外から投資が生まれる。このまちに期待して、何か一緒にやろうという動きが出てくる」
オープンファクトリーは、イベントでありながら、イベントを超えていく。
ある年は工場見学をする。別の年は商品開発をする。大企業と組む。スタートアップの実証実験を受け入れる。学生の学びの場になる。
そのときどきで形を変えながら、まちの中に残り続ける。
「地域を動かすための、新しい企業集団になっていると思うんです。行政では動きにくい。企業1社でも難しい。でも、ゆるやかにつながったコミュニティだから、とりあえずやってみようか、ができる」
この「とりあえずやってみようか」が、まちを少しずつ動かしていきます。
コミュニティとコンソーシアムの違い
現在、津田さんは京都橘大学の研究者として、オープンファクトリーを研究対象として捉え直そうとしています。
その中で重要な視点が、「コミュニティ」と「コンソーシアム」の違いです。
「コンソーシアムは目的に集まるんです。だから結果が大事。即戦力が集まって、同質性のある人たちで一点突破する。Doingに価値があるんですね」


一方で、コミュニティは少し違います。
「コミュニティは、まず理念がある。理念に共感した人が集まって、居心地を求める。Doingじゃなくて、Beingに価値があるんです」
何をするかより、そこにいることに意味がある。
だからこそ、コミュニティには多様な人が集まります。すぐに成果が出るとは限らないけれど、横からの変化に強く、長く続く力がある。
オープンファクトリーは、このコミュニティの力で動いていると津田さんは考えています。
もちろん、すべてをコミュニティにすればいいわけではありません。具体的な商品開発や採用プロジェクトなど、目的が明確なものはコンソーシアム的に動いた方がいい。
ただ、その下にコミュニティがあることで、必要なときに必要なプロジェクトが立ち上がる。
「コミュニティの上に、コンソーシアムが乗っている感じなんです。FactorISMというコミュニティの中に、採用をやるチームがあったり、商品開発をやるチームがあったり、メディア戦略をやるチームがあったりする」
まず、仲間がいる。
その上で、必要なときにプロジェクトが生まれる。
この順番が大事なのかもしれません。
名前を考える時間が、まちをつくる
オープンファクトリーを始めたいという相談を受けると、津田さんがよく伝えていることがあります。
それは、「できれば名前にオープンファクトリーと入れない方がいい」ということ。
少し意外です。
「今やっているものは、それで全然いいんです。でも、これから始めるなら、何のためにやるのかをちゃんと考えたネーミングにした方がいいと思っています」
たとえば、FactorISMは、産地Tourismを通じて産地やこうば(Factory)の想い、主義(ISM)を伝えるという意味が込められた名前です。RENEWは、古いものをもう一度新しくするという意味が込められている。京都・丹後の「NeoTAN」、伊丹の「あるこ~ば」など、それぞれの地域に、名前の理由があります。
名前を考えることは、その地域が何を大切にするのかを考えることでもあります。
「ロゴマークをつくる過程も大事なんです。ロゴができると、自分たちのものになる。Tシャツにしたくなるような名前やロゴができたら、もう強いですよね」
たしかに、いい名前は何度も口にしたくなります。
口にするたびに、その名前に込めた意味を思い出す。なぜこの名前にしたのか、何を目指しているのかが、少しずつ体に染み込んでいく。
「名前に対して、ちょっと疑問符を抱かせるくらいの方が続くんじゃないかなと思っています」
まちを動かす前に、まず名前を考える。
その時間そのものが、地域のコミュニティをつくる最初のプロセスなのです。
町工場がトレカになる。「不器用FACTORY」の発明
名前の話をしていると、津田さんが一枚のカードを取り出しました。
枚方・交野・寝屋川のものづくり企業が集まるオープンファクトリー、「不器用FACTORY(ぶきようファクトリー)」のトレーディングカードです。
「不器用って名前ですけど、全然不器用じゃないんですよ。めっちゃくちゃ器用なんです」
そう言って笑う津田さんが見せてくれたカードは、想像していた企業パンフレットとはまったく違うものでした。星やレインボー、妖精、ヒーローのように並ぶ社員さんたち。

なぜ、カードなのか。
「地域の企業って、何を作っているのか分からないじゃないですか。聞いても分からないときがあると思うんです。それをちゃんと分かるように絵にする。絵にして、一言でどういう仕事なのかを語れるようにしているんです」
「ふざけて考えている時点で、もうクオリティが高いんですよ」
津田さんは、そう評価します。
そしてもうひとつ。カードをつくる過程そのものが、企業にとっての価値になっていました。
自分たちの会社を一枚の絵と一言で表すには、「うちは何が強みなのか」「何のためにこの仕事をしているのか」を言葉にしなければならない。
つくる過程で、社員さんたちが自社を語り直す。これもまた、インナーブランディングです。
工場を開くだけでなく、企業の魅力を伝える手段そのものを地域で発明していく。
そんな動きが、各地で生まれはじめています。
これからは「ローカルクロスラボ」へ
津田さんは、これからの地域に必要なものを「ローカルクロスラボ」と表現します。
ローカル、つまり地域。
クロス、つまり何かと何かを掛け合わせること。
ラボ、つまり実験場。


「Xは可変変数です。そこに工場が入ればオープンファクトリーになる。でも、農業ならオープンアグリでもいいし、漁業ならオープンフィッシャーマンでもいい」
大切なのは、工場かどうかではありません。
地域にある課題や資源を開き、いろんな人が関わり、実験しながら解決していくこと。
工場を開くことで住工混在の課題に向き合う。漁業の現場を開くことで海洋プラスチックの課題を考える。林業の現場を開くことで、木材や山の未来を考える。
「地域特有の社会課題を、実験的に解決する団体が、これからのローカルイノベーションをつくっていくんじゃないかと思っています」
だからこそ、固定化された組織ではなく、ゆるやかにつながるラボであることが大事です。
誰が偉いのか、代表は誰なのか、という組織の論理だけで動くと、身動きが取りにくくなる。
そうではなく、面白がれる人が集まり、必要なときに動く。小さな主人公がたくさんいる。
そんな地域の実験場が、これからのまちを動かしていくのかもしれません。


スタートアップと町工場が出会う場所にもなる
現在、津田さんはスタートアップ支援の仕事にも関わっています。
そこで感じているのが、オープンファクトリーのコミュニティとスタートアップの相性の良さです。
「スタートアップと大企業は、スピード感が合わないことがあるんです。大企業は組織が大きく、安全性の担保や意思決定に時間がかかる。一方で、スタートアップは早く試したい」
でも、中小企業や町工場の場合、社長が「やろう」と言えばすぐに動けることがあります。
しかも、オープンファクトリーのコミュニティには、複数の企業がゆるやかにつながっています。新しい技術やサービスを試す実験場としても機能する可能性があります。
「各地のオープンファクトリー自体が、未来社会の実験場になっていっていると思うんです」
たとえば、AIを使う、新しいSaaSを試す、スタートアップの技術をものづくりの現場に入れてみる。1社だけでは難しいことも、地域のコミュニティとして取り組めば、学び合いながら進められる。
「一社で使うより、みんなで遊んだ方が早いんじゃないかなと思うんです」
オープンファクトリーは、工場を見せる場であると同時に、新しい技術やアイデアを試す場にもなっていく。
まちこうばとスタートアップ。
一見遠く見える存在が、実はとても近いところでつながり始めています。
若い人へ。社会に触れる入り口として、オープンファクトリーへ
最後に、これから就職や進路を考える若い人たちへ、メッセージを伺いました。
津田さんは、学生のうちにもっと社会に触れてほしいと言います。
「就職しようと思ったら、会社に入らなきゃいけない。会社に入ったら、簡単には逃げにくいじゃないですか。でも、大人って、面白い人がたくさんいるんです」
会社説明会や採用サイトだけでは、その会社の本当の空気はなかなか見えません。


でも、オープンファクトリーなら、働く人の表情や話し方、現場の雰囲気に触れることができます。仕事の説明だけではなく、その人の人柄や、会社の文化がにじみ出る。
「まず側面から触れてもらう機会として、オープンファクトリーは参入障壁が低いと思うんです。社会に触れる入り口として、行ってもらった方がいい」
津田さん自身、学生時代にもっと社会を知っていたら、大学での学び方も変わっていたかもしれないと振り返ります。
社会に出てから、「学生時代にこれをやっておけばよかった」と思う人は多い。だったら、学生のうちに社会に触れてみる。会社に入る前に、働く大人たちと出会ってみる。
「一ヶ月でもいいし、一度でもいい。そういう機会に飛び込んでくれたら、自分がやるべきことが見えて、有意義な大学生活に変わると思うんです」
オープンファクトリーは、工場のためだけのものではありません。
まちのためであり、企業のためであり、そこで働く人のためであり、これから働く若い人のためのものでもあります。
「始まったばかりのまち」を、取材してほしい
取材の終盤、津田さんから、私たちしゃかいか!への宿題をいただきました。
「初期段階のオープンファクトリーの取材は、めちゃくちゃ意義があると僕は思います」
これから始まる地域。一回目を終えたばかりの地域。参加企業もまだ少なく、成果も見えていない。ニュースとしては、決して派手ではありません。
でも、だからこそなのだと津田さんは言います。
「新しいヒーローを可視化する手段として、メディアに載ることは大きいんですよ、正直言って。『お父ちゃんが載ってた』とか、そういうことなんです」
あの「村人A」の話と、つながっていました。
そしてもうひとつ、記事になる前の段階から、取材そのものに効果があるのだと言います。
「取材を受けると、『あ、確かにそれ抜けてたわ』っていう気づきになる。一年目が終わって、次どうしようと悩んでいるときに、『他の地域はこんなことをやっていましたけど、どうですか』と聞かれる。取材を受けること自体が、内省を促して、他の地域を学ぶことになる。それが成長の糧になっていくと思うんです」
聞かれることで、自分たちの言葉になる。
それは、この記事の中で何度も出てきた「インナーブランディング」と同じ構造なのかもしれません。
「これは、しゃかいか!さんにしかできないと思うんですよ。新聞社が通り一遍に『何がすごいんですか』と聞くのとは違って、他の地域と比べながら面白さを引き出せる。『それ、他にないですよ』って言われた瞬間、その地域は自信を持てるんです」
うれしい言葉であると同時に、身が引き締まる思いでした。
さらに津田さんは、記事を書くことだけでなく、みんなが集まる機会をつくることも、しゃかいか!ならではの役割ではないかと話してくれました。全国のまちを見てきたメディアだからこそ、地域と地域をつなげられるのではないか、と。
いま面白いタイミングを迎えている地域として、京都・丹後のNeoTAN、伊丹のあるこ~ば、そして兵庫・姫路の市播(いちばん)の名前が挙がりました。
そして最後に、津田さん自身が感じている課題も聞かせてくれました。
「現場に行ってくれた人には伝わるんです。でも、行っていない人、経験していない人にも『意味がある』と思ってもらう。その一般化が、いちばんの課題だと思っています」
それはそのまま、私たちメディアの課題でもあります。
工場の中で起きている小さな変化を、そこにいなかった人にも届く言葉にすること。
まずはこの記事から、始めてみたいと思います。
工場を開くことは、未来を開くこと
津田さんの話を聞いていると、オープンファクトリーとは、工場を開くイベントでありながら、もっと大きなものに見えてきます。
それは、まちの人が自分の地域を誇るきっかけであり、企業が自分たちの仕事を見つめ直す時間であり、若い人が社会と出会う入口であり、地域に新しい挑戦を生み出す実験場でもあります。
工場が開く。
すると、人が来る。
人が来ると、会話が生まれる。
会話が生まれると、まちを見る目が変わる。
その変化は、すぐに数字にはならないかもしれません。でも、地域の中に少しずつ積み上がり、やがて大きな資本になっていく。
「別に、僕が主役なんじゃないんです。みんなが主役の時代になった気がしていて」
津田さんはそう話してくれました。
小さな主人公がたくさんいるまち。
そんなまちは、きっと強い。
オープンファクトリーは、工場の扉を開くだけではありません。
地域に眠っている人の力を開き、まちの未来を開いていく取り組みなのです。
津田さん、貴重なお話をありがとうございました。教えていただいた「宿題」、しゃかいか!としてこれから一つずつ取り組んでいきます。

(text:加藤洋 photo:加藤光太郎)
関連するキーワード