西陣織は可能性がいっぱい!伝統工芸のしごとを学ぶ「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」で六文字屋・岡文織物へ

2023年の12月5日・12月6日・12月8日の3日間にかけて「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」が開催されました。

「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」は、伝統産業に興味のある学生、若者がこのイベントを通して直接職人から仕事を学ぶことで、将来の仕事の参考にしてもらいたいと企画されました。しゃかいか!は以前から京都の職人さんに取材をおこなうなどしてきたこともあり、本プログラムの運営でサポートをおこないました。

なかなかリアルな現場を知る機会のない伝統産業の世界。その仕事をリアルに見ることで「働いてみたい」まででなくとも、身近に感じたことが将来の仕事に関係していくかも……。そんな期待を持って企画がつくられたのですが、ありがたいことに、伝統産業に関心を持つ多くの学生さんや、若い社会人の方に応募いただきました。

予想を上回る応募があり、伝統産業に興味を持っている若い方の多さに未来への期待が高まった今回のプログラム。現場の方々にとっても、若い世代に自分たちの仕事を伝え、さまざまな意見をその場で聞くことができる機会となりました。

京都の、ひいては日本の文化をかたちづくってきた職人たちの高い技術や矜持を、見て・触って・感じることができた時間を、レポートにしてお届けします。

3日間の初日にうかがったのは、西陣織の帯を製造する六文字屋・岡文織物株式会社。創業から300年を超える老舗です。

「昔からものづくりに非常に興味があって、将来は何かをつくる人になりたい」という人、「茶道を習っていて着物が身近にあったから」という人、「伝統工芸を就職の選択肢にしたい」という人。

いろんな興味や関心を持った多くの若者が集まりました。

工房を案内いただいた山田さん。岡文織物で営業・広報などにたずさわっています。

山田さんの案内のもと、工房を見学しながら、帯の成り立ちや製造の様子、現代の西陣織のビジネス事情などもおうかがいしました。

美しい庭にうっとり!景観重要建造物と風致形成建造物の歴史ある町家社屋

まずは社屋の見学から、社屋である「榎邸」は、明治時代後期に建てられた大型の町家。

京都の商家は、お客さんを入れる商用部分と、その奥に製造をおこなう工房や人々が住まう居宅部分が分かれているつくりになっています。岡文織物の社屋もりっぱな商家のたたずまい。

庭をぐるりと囲む廊下の向こうには、お客さんをもてなすための茶室も!

四季折々の花が植えられている琵琶湖を模したという庭もこれまた立派!

初春の時期には梅の花が咲いていい匂いが漂ってくるんですって。

そもそも西陣織ってなんだ!?

2階の広間で、まずは西陣織の基礎知識から教えてもらいました。「そもそも西陣織ってどういうものかご存じですか?」と山田さんの質問に、手をあげた人たちはまばら。詳しい定義や違いってあまり知る機会がありませんよね……。

布のプロダクトには大きく分けて「染」「織物」「編み物」「刺繍」の3種類があります。

「縦糸と横糸を交差させて織っていくのが織物。1本の長い糸をループで繋げていくのが編み物ですね。そして、縦横無尽に糸が走っているのが刺繍です」 と山田さん。

手にとって、触ってみると違いがよくわかります。

礼装の折に使われる百人一首をテーマにしたゴージャスな帯には、参加者の人たちから「ほお〜」とか「は〜」とため息が。近くで見ると細い糸がみっしりと織り込まれていて、めちゃくちゃ緻密!

ちなみに、豪華な帯ほど使われる糸の数が多いので重たくなりがち。

重さの違う帯を持ち比べて、重さの違いを体感しました。見た目にも左の帯のほうに重厚感がありますね。最近はライフスタイルの変化もあって、軽い帯が人気なんだそう。

そして、西陣織のもっとも大きな特徴は「先染め」にあると山田さん。

「先染めというのは、あらかじめ染めた糸で生地を織るつくりかたのこと。京都には『京友禅』がありますよね。友禅は織られた生地に絵を描いて染めていく技法です。染めた糸で織るのか、白い糸で織られた布にあとから染めるのか。ここにある帯はすべて、先染めの糸で織られたものになるんです」。

「これも織ってるんですよ〜」と見せてもらった帯の柄。このグラデーション、染めてるんじゃないなんて……。

こ、これはものすごく手間のかかる仕事。職人さんの技術にびっくりです。

「西陣織というと伝統的な柄が多いイメージですが、現代的な柄もたくさんあるんですよ」と、山田さんが見せてくれたのはかっこかわいいレオパード柄の帯!

パンチが効いてるのに、しっかり上品さがあるのは、さすが西陣織といったところ。

参加者には「着物は成人式の時に着たくらいで、それもレンタルだったので……」という人も少なくなかったなか「こんな柄もあるんだ〜!」という声も聞こえました。

西陣織は帯以外に、ストールやネクタイなど、織物であればなんでもつくることができます。光る糸を織り込んだタペストリーなども見せていただきました。

仏画や絵巻物を織り上げた西陣織は、仏教の信仰が盛んな地域で人気だそう。ちなみに、なかなかこういった「THE アジア」な柄の豪華な織物は、ヨーロッパでの展開は難しいんだとか.......。

この龍のまわりの雲の表現なんて、ものすごいんですけどね。これ織ってるなんて信じられます……?

ものすごい技術なので、柄や色がちょっと違うだけでヨーロッパ圏内でも高い評価を得られそう。求む、新しいアイデア!

複雑な柄を織り上げるための綿密な設計図づくり

たくさんの帯を実際に手に取り、西陣織の基礎知識を学んだあとは製造の現場へ。

こちらは帯の設計図となる図案をつくる職人さん。

西陣織は、まず絵師さんが柄をつくるところからはじまります。織物なので絵だけで製造することができないため、どこにどんな糸を通すのか、綿密な設計図が必要になるそうです。

身を乗り出して、熱心に見学するみなさん。

描かれた柄をPCに取り込み、ドット絵に処理して図案をつくります。さらに縦横に配置されたバーでどこにどんな色の糸を通すのかを指定して、はじめて織る作業に移ることができるそう。

複雑な色合いや柄を生み出すために、地道な下準備がいるんですね。

創業以来、岡文織物はさまざまな図案をつくり、ストックしてきたわけですが、図案の保存はなんと現役のフロッピー!

「なるべく早くUSBメモリに移行させる対応が必要ですが、高齢化が進むいま、新しい機械導入や、保存媒体を使いこなすためのコストを考えると、なかなか進まずにいるのが現状です」と山田さん。

別注で染めることも!一色ごとにニュアンスの異なる色たち

続いてやってきたのは糸の保管庫。大量の糸が保管されており、設計図にあわせて必要な色の糸をここから取り出し、織る職人に渡していきます。

色とりどりの糸たちに、テンションがあがる!なお、必要な色がない時は白い糸を仕入れて、特注で染めてもらうこともあるそうです。

白ひとつとっても色合いのニュアンスが異なるそう。「白って200色あんねん」でおなじみ、アンミカさんの世界がリアルにここにある……!

古い帯の補修などは、いまストックがある色と帯の糸の色が微妙に異なる場合があるため、オーダーメイドで糸を染めてもらう必要があります。しかし糸によっても染まりやすさや色の出やすさは異なるので、染めるのにもまた別の技術が必要になるそうです。

熟練の職人でも1日10cm未満!ジャカジャカの音が心地よい織り機

いよいよ織りの工程を見学。岡文織物では蔵を改築した工房に、巨大な織り機が入っています。職人さんはこの道半世紀以上の大ベテラン。

踏み板を踏むことで縦糸がガシャンと動き、横糸を通してまたガシャンと織りを進める。昔はこの織り機のジャカジャカという音が西陣一帯で響いていたそう。

いまは織り手の減少はもちろん、織り機自体も直せる人が激減。自分たちで手直し手直しを繰り返して、大切に使っているとのことです。

色とりどりの糸を用意して、設計図にあわせて織り込んでいきます。

う、うつくしい〜!

「糸、見てみる?」と職人さんが織り込んでいる金糸を手渡してくれました。

西陣織には絹糸だけではなく、金箔などを糸にして折り込むことも。髪の毛よりも細い糸の繊細さがすごい。

この柄だと、1日で織れるのは7〜8cm。帯1本が出来上がるまで1ヶ月以上かかります。さらに複雑な柄だと1日4cm程度が限界なんだとか。

作業靴はなぜか上履き!

隣の蔵では機械式の織り機も導入されていました。こちらは海外産の機械をカスタマイズして、西陣織の仕様に変更しています。

伝統産業というと、昔ながらの手法でずっとやり続けるイメージを持ちがちですが、現代的な機械に頼れるところはうまく頼って、バランスを取っているんですね。

いま崩れつつある「分業制」のバランス

お話をしていただいたのは、代表取締役の岡本社長。

屋号は十四代目 六文字屋半兵衛さんです。平気で「創業何百年」や「店主が十何代目」というワードが飛び出すのが京都のすごいところ……。

岡文織物は最初、僧侶の袈裟などを製造していたそうですが、明治時代以降に帯の織りに転向。現在は昔ながらの西陣織の帯のほか、技術を活かしてファブリックやインテリアのジャンルにも挑戦をされています。

西陣織の特徴は、なんといっても細かく分かれた「分業制」であり、それゆえに未来の若者に期待する課題があると岡本さん。

「西陣織は、まず糸屋さんがいて、それを染める人がいて、それから錦糸を織る人がいて。さらにそれを帯に仕立てる人がいて……と、それぞれ非常に細分化されて、それぞれのすごいプロがいっぱいいたんです。ところがね、いま高齢化が進んで、昔ながらの分業化が、できなくなりつつあるんです」。

そもそも着物の売上は減少していますが、それよりも深刻なのが、分業制のなかで培われたそれぞれのプロの技術を未来にどう残していくかが課題だと、岡本さんは話します。

「着物に興味がなくたっていいんです。課題を解決するのが好きな人とか、新しいジャンルに挑戦したい人とか。西陣織の技術を次に繋いでくれるような若い人に来てもらえたらなと思いますね」。

驚きや発見をみんなで共有するワークショップ

見学後は別の蔵を改装した会議室でワークショップをおこないました。岡文織物さんは蔵がめっちゃある!

余談ですが蔵には大きなプロジェクターがあるので、たまにみんなで映画鑑賞会をするそうです。

プロダクトやプロセスに関する発見や学び、西陣織の現場に関するイメージが見学の前と後でどう変わったのか、ポストイットに書き出してみんなで共有します。

「あんなに工程が細かいとは思わなかった……」

「高級品のイメージだったけど、あれだけの人が関わって、手間がかかってるのを見ると納得〜」

「あの設計図の細かさ、やばかったですね」

見学中、みんながノートやスマホに学びをメモしていたので、ワークショップの時間は書きたいことや言いたいことが山盛り状態。みんなでワイワイ感想を共有しながら、学びを述べ合いました。

チーム内での共有のあとは、参加者全体へも各チームの学びを共有しました。

どこのチームでもコメントがあったのは、分業制に対する発見。全ての工程に専門の職人がいて、技能が異なっているということ。ゆえに分業制が崩れると道筋が途切れて大変なんだという課題も手に取れました。

また、伝統的な柄の帯だけではなく、現代的な商品もつくっていること。帯だけではなく、織りを活かしたプロダクトがたくさんあるというのも発見でした。「西陣織は着物だけだと思っていた」「伝統的な柄の帯も、いまもきちんと売れているんだと知れた」など、現場を間近で見たからこその知見を得ることができました。

盛りだくさんの見学のおかげで、どのチームも大量のポストイットが!

ただ「デジタルにもっと強い人が必要なのかも」「分業制だからこそ、業界全体で一気に変えないといけない大変さがありそう」など、忌憚のない意見もたくさん出てきました。

古い業界だからこそビジネスチャンスがある!求められる「営業力」

ワークショップの終わりに「西陣織の業界は確かに古い業界ですが、だからこそ新しい取り組みひとつでガラリと変わるチャンスがあるんです」と山田さんが話してくれました。

じつは伝統工芸の企業の多くは家庭内手工業をベースとすることもあってか、山田さんのように新規開拓ができる「営業マン」が圧倒的に不足しているそう。

「いままでにしてこなかった売り方や、いままでアピールしてこなかった業界にむけて売り出していくチャンスがものすごくあるんです。伝統工芸にこそいま、営業の専門家が必要なんですよね『西陣織って将来なさそう』って不安に思うかも知れませんが、岡文織物は大丈夫ですよ、営業の私がいるので!」。

ウフフ、と山田さんは自信をもって笑います。

実際、岡文織物は西陣織の技術を活かして「テキスタイル」の業界に参入。商品開発に取り組んでいます。帯やタペストリーを見せていただいた最後に、1枚の布を見せてもらった布が、これまた新しいものでした。

これは和紙でできた糸を織り込んだ『ペーパーワッフル』という生地で、岡文織物が西陣織の技術を応用してつくった新しい布なのだそう。

「2024年の2月にミラノで開催されるテキスタイルの展示会に出展することになってます。生地それ自体が立体的で、和紙という気泡が多い素材で織っているので、軽くて通気性があるのにとても暖かいんです」と山田さん。

拡大してみると、部分部分にニュアンスの異なる立体的な織りが入っていて、とても心地よい触り心地。みんな触りながら「これも西陣織なんだ!」と驚く声がたくさん出てきました。

この布は日本のテキスタイルコンテストでも、テキスタイルをずっとやってきた他社を跳ね除け、見事3位に入賞したそう。

「こんな売り方していきましょうよ、こういうのつくってみましょうよって、西陣織の業界でもまだまだやれることがあるし、伸ばせる幅があるなって思いながら働いています」。

そして新しい売り方で販路を開拓していくことが、西陣織の業界のボトムアップに繋がると山田さん。

「私が『こんなんつくってみましょうよ』を形にしてくれる職人さんのおかげで、商品は成り立っています。分業制が崩れつつあるいま、岡文織物も内製化を進めてはいますが、やっぱりいろんなプロに外注しなければいけない部分が多い。糸を染める職人さんが廃業したら、私たちは自分で糸を染めないといけない。でも、そんなのすぐにできないから、たちまち織れなくなってしまいます」。

「やっぱりそこは仕事をたくさん出し続けて、みんなで支え合わないといけないんです。そのための取り組みとして、西陣織をテキスタイルの業界で売り込んでいくための勉強会を、西陣織の工業組合組合員のみんなでお金を出し合っておこないました。さきほど紹介したペーパーワッフルの生地が好評だったように、衰退するだけじゃなく、1歩ずつ前に進んでいっています」。

課題は多いですが、ぜんぜん手詰まりじゃないです。ものすごく可能性がある。岡文織物で営業をしていて、毎日感じてますと山田さんが自信をもった目で教えてくれました。

伝統を土台に新しい商品でバトンを繋げる、西陣織の未来

プログラム参加者は学生を中心とした若い方々でしたが、攻めの挑戦を続ける仕事のあり方に、スタッフたちもワクワク。

新しい販路開拓が、今までになかった価値を産むだけじゃなく、西陣織に関わる全ての人を守って、次世代にバトンを繋いでいくことに繋がっていく。伝統的な技術を継承するだけではなく、技術を応用して現代のライフスタイルに合った新しいプロダクトを生み出す岡文織物から、たくさんの発見や気づきを得ることができた時間でした。

京都ものづくり見学プログラム「HELLO! KOUGEI FACTORY TOUR & WORKSHOP」
開催日:2023年12月5日(火)、6日(水)、8日(金)

主催:京都府、京都府雇用創造推進協議会、京都リサーチパーク(株)
運営サポート:しゃかいか!

text :ヒラヤマヤスコ photo:市岡

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