刺繍で考える、新しい文化継承のかたち。繊細でユニークな刺繍製品が生まれる京都亀岡の刺繍工場「ドゥオモ」

みなさん、こんにちは。

今回訪問させていただいたのは、細い糸が描き出す小さな世界がたくさん生まれる場所。

京都亀岡にある刺繍加工の工場の「ドゥオモ」さんです!

ドゥオモさんは、刺繍を用いたオリジナル和雑貨の製造販売を行う自社ブランド「京東都(きょうとうと)」の運営や、国内外のミュージアムショップのグッズ製作などをされています。

こちらは「和の欠片」と書いて「ワッペン」と読む、京東都の人気商品「和片」。写真に写っているのは洛中洛外図に描かれた1000を超えるモチーフから100人を抜き出して刺繍のワッペンにした洛中洛外図シリーズ。とっても細かくてユニークで、可愛らしいですよね。

和片はほかにも鳥獣戯画、妖怪、お寿司、縄文……アンドモア!日本ならではの様々なモチーフが、手のひらサイズの「和の欠片=和片(ワッペン)」として販売されています。

今回記事を担当させていただくのは、インターンの堀田です。
今年の春に京都の大学を卒業し、現在は編集事務所のアシスタントとして勉強中の京都生まれ京都育ちの若輩者です。

振り返ると、生まれてからの二十数年を京都で過ごし、京都の大学で学んでいたにも関わらず、あまり京都で行われていることに直接は触れてきませんでした。

こうして京都のものづくりの現場を取材させていただける機会に恵まれたことで、自身の生まれ育った京都という場所を改めて捉え直す日々です!

昔から小さくモチーフがプリントされたアップリケや刺繍のワッペンを眺めるのが好きで、今回取材先の候補を探すために「京都」と「刺繍」でリサーチをして出会ったのが京東都だったのですが、赤いロゴに見覚えがあるような……。そう思い記憶をたどると、小・中学生の頃に雑貨屋巡りが好きな母と市内を歩いていた際に立ち寄った刺繍の和雑貨のお店を思い出しました。

可愛いアイテムの数々と、その扱うモチーフの多さに驚いたという記憶があり、おそらくそこは京都・東山にあった京東都のお店だったのではないかと思います。端から端まで見て回り、お気に入りを見つけては「これ見て!」と、嬉々として指をさし母に報告する。そんな「誰かにこのときめきを知らせたい!」という気持ちは、京東都のオンラインショップを眺めていても引き起こされました。

かつて訪れたそのお店が京東都だったかは確かめようがないのですが、小さい頃に感じたワクワクとときめきと同じ気持ちにさせてくれるアイテムが誕生するまでのこと、そしてそれを作る方達のことが知りたい!と、今回取材のお願いをしたところ、快諾いただき取材をさせていただくことになりました!

心ときめく刺繍がどのように誕生しているのか、どのような思いで作られているのか……どんなお話が聞けるのかとても楽しみです。

さっそく、工場へ向かいましょう!

京都亀岡の住宅街の一角で始まった工場へお邪魔します

工場まではJR馬堀駅から車で10分ほど。駅までお迎えしましょうか?とのご好意に甘えさせていただき、駅から送っていただきました。(ありがとうございました!)後部座席に鎮座する「ぬいぐるみ たま(猫飼好五十三疋シリーズ|京東都)」にお出迎えしてもらい、そのなんとも言えぬ表情に緊張がほぐれました。

トンネルをくぐり抜けてぐんぐんと山の方へ。

京都府亀岡市の閑静な住宅街の一角にある工場へ到着しました。

看板がかわいらしく、絵本の世界に来た気分に。

今回は、お父様の後を継いで二代目社長となられた岩井左木子(いわいさきこ)さんと、パートナーのロイさんにお話を伺いました。

株式会社ドゥオモは1984年創業。レース業界で修行された先代の岩井武治さんの自宅の一角からスタートし、主にアパレルの刺繍加工を手がけていました。創業当初から刺繍技術の高さが評判で、徐々に受注が増えていったそう。

今もドゥオモさんの刺繍製品がすごく繊細で表情が豊かなことは製品を見れば一目瞭然なのですが……彼らは一体どのように生み出されているのでしょうか。

手縫いではない、機械で行う刺繍における「技術の高さ」とは具体的にはどのような部分なのでしょうか。見学をさせていただく中で明らかになっていくのでしょうか。気になっちゃいますね。

それではいよいよ、工場のなかへ……!

まるで生き物?創業時から現役の刺繍機にあいさつ

まずはじめに見せていただいたのはこちら。

一度に4つ同じ刺繍ができる機械です。

創業時からあるものなのだそうですが、令和も現役バリバリです!

機械の種類としては「多頭刺繍機」といって、これは4つ「頭」があるから「四頭機」。

他にも六頭機や十二頭機(多い!)が揃っています。一頭、二頭、と数えるのは大型の動物みたいでなんだかおもしろい。だけどこの機械そのものを動物と考えると、ケルベロスとかヤマタノオロチとかを感じます。

正面から見るとなかなかの迫力。糸は最大15色までセットできるのだそう。

刺繍が開始すると高速で動く針と一帯に響く駆動音も相まって、さらに迫力を増します。

「カバーを開けるな」の注意書きのイラストはなんとも言えない味がありますが、事故を想像すると恐ろしい。私たちが目にするのは繊細な刺繍ですが、産業機械で作られているのだということを感じさせます。

刺繍データ作成は作り手の目と手技が必要な職人技!

さっきの距離からではまだ何の柄かわからないですよね。

もう少し寄ってみましょう。

どうでしょう、わかりましたか?そう、そうです。2024年の干支、辰のワッペンです。

細かい!あなたのことがもっと知りたい。40mm×45mmの空間に吸い込まれていきます。

主線が無い状態だとより立体感がわかりやすいのではないでしょうか。

この辰は10色の糸で作られているのですが、よく見るとどうやら「糸の向き」と「どの色から刺繍をするかの順番」を指定することでこのように奥行きが生まれるようです。

そしてワッペンの設計図がこちら。

針を落とす向きや回数、色ごとの順番などを指定したデータで、「パンチングデータ」と呼ばれるものです。

今はパソコンを使ってデータを作成していますが、昔は紙のテープにパンチマシーンで穴を開け、データを作っていた(穴を開けることで刺繍枠の移動距離を記録していた!)ことから「パンチング」と呼ばれています。

2000年頃まではアナログパンチングデータを読み込む機械もあったそうなのですが、今はもう一台も残っていないのだそう。

しかし、デジタルデータで作成するようになってからもパンチングが職人技であることに変わりはありません。

専用の刺繍ソフトを使い、パソコンで作成されますが、デザインを取り込むと自動で刺繍データにしてくれるわけではなく、生地の縮みや糸の細さによって出来るだけ糸が繋がるように順番を考えながら、どの部分が上にのってくると立体的に見えるかなどを考えながら作り上げていきます。

このデータの良し悪しによって仕上がりが大きく変わってくるため、まさに職人技。

工場に勤務されている方の全員ができるわけではなく、パンチング担当の方がおられます。

こちらがパンチングデータを作成する画面。

目の部分を拡大するとこのように。赤い線が糸の道筋で、白い点が針が落ちる場所です。

そんな細かいデータ。これをなんと機械に手入力します。

……と聞いた時は驚きましたが、この刺繍機だけは刺繍をする色の順番を指定してあげないといけないとのこと。

データ自体は有線で送られてくるのだそうで、安心しました。

とはいえ準備はとても大変なのだそうで……。

機械でも手間暇、かかってます

先ほどの辰の刺繍に使われた糸は10色。それを4つ同時に作れる機械に糸をセットするということは、全部で40回機械に糸をセットする必要があるということ!

これが本当に大変で、「指定の糸を壁一面を埋める箱の中から探し出す」「糸を40個の針それぞれへセット」「糸の順番を手入力」これだけで半日はかかるのだそう。

機械の後ろ側に糸がセッティングされています。

糸の色を変える時は、今セッティングしてある糸を長めに残して切り、その残した糸と新しい糸の先を結んで繋げます。

ちなみに糸は何種類ぐらいあるんですか?とお聞きしたところ、「知らん。いっぱい(笑)」とロイさん。

刺繍糸の色見本を見せていただきました。ものすごい数です!

この見本帳の中だけでも約700色あるのですが、同じ色でも細いものと太いもの(120デニールと75デニール)の2種類を使い分けているため、工場内では少なくとも1400種類以上の糸を扱っていることに!それに加えて特殊な糸もたくさんあるので、実際は数えきれないほど。

そんな数だからあっちにも 、

こっちにも、四方八方に刺繍糸が入った箱の壁があるわけです。

2種類の細さの異なる糸はデータを作成する時点でどちらを使うかを指定します。

同じデータを使い回すと仕上がりがスカスカになったり、逆にぎゅうぎゅうになって糸切れの原因になるため、データを作る前にあらかじめ決めておく必要があるのです。

細かい刺繍には細部を表現するために細い方の刺繍糸を、面積の広い部分は刺繍にかかる時間を減らすために太い方の刺繍糸を、といったように使い分けるのだそう。

完成時に立体感のある仕上がりになるよう、撚り(より)が甘くふんわりとした刺繍機専用の糸を使用しているため、どちらも簡単に手で千切れてしまうほどの柔らかさ。

そのため、刺繍機のセッティング作業を終わらせてしまえば第一関門はクリア!なのですが、動かしてみると糸が切れて機械が止まってしまうことが結構頻繁にあるのだそう。止まるたびに人の手で針へセットし直す必要があるようです。 

糸が切れてしまったら………

チューブから出ている糸を巻きつけて、

 また巻いて……

穴に通して引っ張って……

また穴に通して……

通します。

かなり細やかな作業なのですが、慣れると高齢の方でも指先の感覚で通せるのだといいます。

「僕ももう針穴見えてないよ」とロイさん。それでも手際よく切れた糸を元に戻していきます。

ただ、なぜかお客さんが来た時はなかなか切れないらしく、「よそ行きの顔」をするのだそうです。

本当に生きているみたいです。

刺繍機で作る刺繍は工業製品。工業製品にとっては時間=コストなのでデータ作成にも工夫が隠されています。

色数が少ないとトラブルも少なく、1つ完成するまでにかかる時間も短くなるため、この2色のお歯黒ワッペンは4つで1つのデータとして作成し、土台である布をセットし直す回数を減らしています。また、ずらして隙間なく配置することで土台にしている布やワッペンシート素材のロスも軽減。

糸のセッティングが終わっても、まだやることは残っています。

気温や湿度によって、また機械によっても刺繍の「クセ」が出てきてしまうので、ズレや歪みを目で確認して、またデータを調整してテストして……を繰り返します。

特にワッペンは、ウェディングドレスやリボンなどに使われるような薄い布(ポリエステルやナイロンのオーガンジー生地)を土台に刺繍をしていくため、新しいデザインのものは縮みを想定しながらデータを調整しつつ、作っていきます。

1mmズレるだけで全然違って見えてしまうのだそう!

そうして布一面に刺繍が仕上がったものがこちら。鳥獣戯画に登場する動物たちがみっちり。

蛙の背中の模様など、墨のにじみの風合いが再現されていてスゴイです。

それに特殊なシートを貼り付け、ヒートカッターで輪郭をなぞり、手作業でカットしてワッペンが完成。

裏面が粘着になっているので、そのまま貼るとステッカーとして使えて、アイロンを当てると布製品にも接着できるようになります。

異なる質感の刺繍技法を組み合わせて生き生きとした刺繍に

こちらはまた別の機械で、「サガラ刺繡」という特殊な刺繍ができるもの。

さっきの刺繍機は大ベテランでしたが、導入した年代でいうとこちらは中堅さんです。

サガラ刺繡はタオルのようなふわふわモコモコした仕上がりが特徴。 

通常の刺繍が上糸と下糸の2本の糸で縫い上げていくのに対し、サガラ刺繡は一本の糸をかぎ状の針ですくい上げながら模様を描く刺繍技法で、シェニール刺繍とも呼ばれています。

通常の刺繍よりも太く、ふわふわした特殊な糸を使います。 様々な場所で見かけたことがありましたが、作り方までは考えたことがありませんでした!

台の下に糸をセットする場所がありました。セットできる糸は最大6色まで。

他にもボコボコとしたチェーンのようなステッチで木の幹や枝を表現したり、シャープに見せたい細い線は平縫いを施すなど、様々な質感の刺繍を組み合わせて製品を作り上げます。

大ロット大量生産から小ロット多品種生産へ

こちらはピカピカの1年生の新入りの刺繍機で、既製品の状態の洋服などに直接刺繍ができるもの。台を下に動かすことができるため、布製品を刺繍枠に挟みこむことで空中で刺繍ができるという仕組みです。

ここには12頭式の古い刺繍機があったらしいのですが、今は12頭で大量に作ることはあまり無くなったことから、1年ほど前に代替わりしたそうです。

先代の頃は主にアパレルの加工業務を、4台の12頭刺繍機で大ロットでの注文を受けていましたが、国内での縫製産業の衰退と共に仕事が減少。技術者の高齢化や機械の導入コストなどによる新規参入の難しさもあり、業界そのものが右肩下がりになっていく中で、小ロット多品種でニーズに応えていく方向へ転換していったのだといいます。

現在の業務は自社ブランドの京東都の製品と、展覧会グッズ制作などのOEM生産の半々。

最低ロット数が100から対応していること、OEM業務が100%ではないことである程度の自由が生まれ、急なOEMの追加生産が必要な場合には自社ブランドの製造を止めて追加生産に対応可能。そんな柔軟性があるので少々高くても重宝されているんじゃないかと思います、とのことでした。

そしてこちらが唯一残っている12頭刺繍機!壮観です。

最初に見せていただいたものと世代は同じぐらいとのことですが、データはフロッピーディスクで読み取るのだそう。あれですよね、CDのカバーがついてる状態みたいなまま差し込むやつで、CDよりふた回りほど小さい、あのフロッピーディスク!

こちらも今は工場2階のデータを作成している部屋から有線で繋いでいるため、フロッピーディスクは使わないそうです。新しい機械はデータをバーコードで呼び出せるそうですが、古い機械は「データ送って~」と言わないといけないのだそう。「まぁフロッピーよりはいい(笑)」とのこと。

タオルに2024年の干支「辰」が刺繍されています。干支のタオルはお年賀として人気商品だそうで……それはたくさん作らないと……!年末年始に向けて、12頭刺繍機が大活躍です。

辰年生まれなので今日は辰をたくさん見られて嬉しい。

ほかにも、このような金ピカでおめでたそうなコースターなどを作られていました。

「糸をしゅっしゅっとしてだーってしたらキンキラキンのができる」のだそうで、いわゆる企業秘密。作っている最中の写真は「まぁわかる人が見たらわかるけど別にいいよ」と言っていただいたのですが、作り方は各々想像してみてください。私は見てもよくわかりませんでした。

「ニッポン、京都発、東京経由~世界行き。」刺繍で新しい文化継承のかたちを考える

壁一面にずらりと並ぶ京東都のワッペン。鳥獣戯画、妖怪、坪庭、きのこ、縁起物……シリーズ数は20種以上。

お気に入りを見つけたときに持ち帰るのは、素敵なワッペンそのものだけではありません。

裏面には一つひとつ、日本語と英語でモチーフの説明が書かれているのです!

ここに書かれている日本で最初の植物図鑑、「本草図譜」は初めて知ったのですが、調べてみると多色刷りの木版画で印刷された植物たちがあたたかく綺麗で、興味を惹かれました。

京東都の和片(ワッペン)は新しい「知」への切符にもなってくれるんですね。

そんなワッペンたちに囲まれながら、改めて京東都ブランドを立ち上げた経緯をお伺いしました。

ドゥオモさんは創業時から主にアパレルの加工業を請け負っていましたが、当時2000年頃、縫製が国内の工場から海外の縫製工場にシフトしていくのと同時に加工業の仕事も減っていくという状況に。国内でのアパレル業界も右肩下がりで自分たちの親世代までは仕事はあるが、今後はどうするか?もう廃業してしまうのか?という問題に直面します。「今後日本でものづくりができなくなっていく」ということを寂しく思った岩井さんは、下請けの仕事に頼らず、自分たちで仕事を作る方法を模索し始めます。

そうして立ち上げたのが「京東都」のブランド。「ニッポン、京都発、東京経由~世界行き。」をサブタイトルに2007年にスタートしました。自分たちの刺繍の仕事を守るために始まった、日本の刺繍ブランドです。

京都や日本の伝統的なものをそのままではなく、今の日本の一番最先端の「東京」を経由し、流行を取り入れつつ、海外にも発信していきたいという思いが込められているそう。一点物の作品や工芸的な物の素晴らしさはそれとして、自分たちの作っているものは工業製品だから、実際に使ってもらい、また買ってもらえなくては残っていけない。そんなところから手軽に手に取ってもらいやすい雑貨に、自分たちの刺繍の技術を使って日本の文化を発信しているのだといいます。

製品に使う糸などの材料も日本のものづくりを応援する気持ちで、全て日本国内のものを使用しています。

こちらは先ほどの金ピカのおめでたいコースターにも使われていた金糸で、芯となる糸を薄いフィルムで包んでいるもの。西陣織に使われるような本物の金を使ったものではありませんが、こちらも技術の結晶。どの作り方であれ、金糸作りは日本が得意な技術のようです。

京東都のワッペンは海外の雑貨の展示会にも出展していて、特にヨーロッパの人からは特に反応がよく、「どういう意味があるの?」「どうやってできてるの?」など根掘り葉掘り聞かれるそう。

確かに扱われているモチーフのユニークさは唯一ですよね。

妖怪シリーズなんかは日本人でも知らない妖怪まで登場しますし、知っているモチーフでも意味までは知らなかったり。

「どうやってできてるの?」と尋ねたくなるのは、やっぱりあの繊細さがその理由ではないでしょうか。「他国でワッペンの文化が根強いのはアメリカなどだけど、帽子やスカジャンにつけるような型で抜いた大ぶりのワッペンなどがほとんど。京東都ワッペンのように一つひとつヒーターカットで切ったりするような繊細なことをしているのはあまりないんじゃないかな」と岩井さんは言います。そして職人技のデータ作りによって表現される細やかな表情。刺繍用のミシンは工業機械のため、性能は同じでもその使い方や目指す方向の違いで、全く異なるものが仕上がるんですね。

そんな京東都のワッペン。モチーフの選定は、「おもしろいかどうか。うちでしか、こんなんやらへんやろ」が基準なのだそう。デザイナーさんの熱い希望で作った縄文シリーズは、企画会議では最初はみんな「ええ……」という反応だったところを、「じゃあ5種類ぐらい……」と作ってみたら今は大人気になったなんていうエピソードも。

SUSHI!は日本のモチーフで言えばメジャーかもしれませんが、この「うに軍艦」の立体感を見てください。本気です。のりの部分も一色で埋められているのではなく、何色かの糸と糸運びによって繊維感や凹凸、テカリが表現されています。うに軍艦の刺繍を作る人は他にいても、ここまでやるのはきっと京東都さんだけ。寿司シリーズは全部で30種で、赤身マグロや玉子といったメジャーなものから赤貝や青柳といった貝類まで充実のラインナップです。

他にも子供向けっぽくなりやすい虫や恐竜などは、大人もコレクションしたくなるように、かわいくなりすぎないようなデザインの工夫をするなど、バランスには気を配っているのだそう。

京東都の実店舗は東京スカイツリーのソラマチ店と京都・東山の本店の2店舗ありましたが、残念ながら東山の本店の方は2022年の秋に閉店。コロナの影響で物販の店が次々と閉まってしまう中でもなんとか続け、町にも少しずつ活気が戻っていったものの、コロナ後は食べ歩きの店が急増。若い子達や海外からの観光客で賑わってはいるものの、ゆっくりお店に入って買い物をするといった雰囲気ではなくなってしまったことが影響したのだそうです。

以前は、東山は観光地の中でもゆったりとしたエリアで、海外から訪れた観光客よりも、京都が好きで年4回は行く!といった京都好きな方がゆっくり商品を見てくれたり、お土産をたくさん買ってくれる、といったようなことが多かったけれど、そういう方はなかなか戻ってこず……。客層がガラッと変わってしまったところに無理やり合わせていくこともできたかもしれないけれど、そうはしなかったのだといいます。

京都だから売れる、というわけではなく、観光地には観光地ならではの難しさがあるのですね……。

2013年のオープンから約10年続いたお店がなくなってしまったことは寂しいですが、「無理やり合わせていかない」ということを選んだのも、10年も愛された理由のひとつなのではないかと思いました。

また京都でお店をされることは考えていますか?とお聞きしたところ、「今はまだ考えていませんが、また京都にお店を出すとしたらその時はコンセプトを変えて一からやってみたいですね」とのこと。その回答を聞いた瞬間、近くに用事があるたびに通う自分の姿を幻視しました。もしそんな日が来たら、少しずつコレクションしていき、その日の出来事と一緒に大切に集めていきたいなと思いました。実店舗ならではの出会い方を楽しんでみたい。

今もある京東都の実店舗、東京のソラマチ店は郊外にあるものの、地元のお客さんが根付いている場所で、車でショッピングに来る地元のファミリー層が結構来られるのだそう。観光地にしかないと思っていたので、ちょっと意外です。特別な観光地でなくても日本の文化に触れられるのってなんだか素敵ですね!

子どもに人気なのはやっぱり……妖怪!というか、光るワッペン。

この山精の白い肌は蓄光糸を使っていて暗いところで光るのですが、そういうことを伝えると喜ばれるのだそう。当然です。大人でも楽しいんですから!

亀岡から発信するものづくり

たくさんの素敵な刺繍製品を生み出されてきたドゥオモさん。2021年からは、同じく亀岡にある「みずのき美術館」が、同じく活動拠点が亀岡である企業やメーカーと取り組む新しい試み、「かめおか・みずのき・ものづくり」を立ち上げました。

みずのき美術館は、その母体である「障害者支援施設みずのき」の創立5年目に開設された絵画教室「みずのき絵画教室」から生まれた作品の所蔵と展示を行っている美術館。その立ち上げの際にノベルティを作ったこともあり、その時から館長の奥山さんとは一緒に何か作りたいねという話はずっとしていたものの、お互い忙しく中々叶わなかったのだそう。そんな中コロナで時間ができ、動き出したのがこのプロジェクト。2021年11月には京東都ソラマチ店にて展示会も行われました。

第一弾の取り組みでは、みずのき美術館のコレクションの自由で個性的な作品に登場するモチーフたちがキャンバスから飛び出して、バッグやポーチ、キッチンクロスやワッペン付きポストカードなどの日常使いできるアイテムに。

こちらがワッペン付きはがき。なんと24種!どれもめちゃくちゃかわいいです。

「みずのき絵画教室はアール・ブリュットという言葉ができるずっと前から先駆者的にそういったアート活動をされてきていて、今では2万点もの素晴らしい作品が所蔵されており、それを限られた範囲の中ではすごく知られているけれど、そこに触れる機会のない人たちや亀岡の人たちさえもあまり知らないというのはなんだか勿体ない」という思いでこの取り組みを始められた岩井さん。

「まだまだ課題も色々あるし、まだまだ収益になっているとは言えないけれど、企業として町と関われるというのはいいなと思っています。まずは次に向けての発信も頑張りたいです」と、これからも続けたいという意志を語られました。

自分たちで仕事を作るために立ち上げられた京東都。刺繍を施すためのタオルなどの既製品や糸などの素材も全て日本製のものを使用するのは「日本のものづくり」というブランディングの面だけでなく、国内の他のメーカーや工場を応援するという気持ちもあったのだそうですが、それは何も素材や材料に限ったことではないのだなと思いました。

同じ気持ちをもつ人たちと一緒にものを作り、その考えを発信していくこと……。そんなことがいつか自分にもできたらな、と少し自身の将来に思いを馳せました。

とにかく機械は動いてなんぼ!な、時間=コストな工業製品の面と、作り手の目と手技が必要な工芸的な面。どちらもを併せ持つ、ドゥオモさんの刺繍製品たち。今回の取材でそれらが誕生するまでの過程と、その小さな世界に込められたこだわりに触れたことで、刺繍たちがより素敵に目に映るようになりました。

京東都のユニークな和片(ワッペン)や和雑貨は東京スカイツリータウン・ソラマチの実店舗とオンラインショップにて購入できます!気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。

ドゥオモさん、今回は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!

株式会社ドゥオモ
〒621-0827 京都府亀岡市篠町王子唐櫃越 1-191

Web:https://www.duomocoltd.com/
TEL:0771-24-0157
E-mail:info@duomocoltd.com

京東都

京東都オンラインショップ:https://www.kyototo.jp/
Instagram:@kyototo_official
Facebook:https://www.facebook.com/kyototo
X(Twitter):@KYOTOTO_OFCL
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text:堀田りん photo:市岡祐次郎

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