新茶シーズン真っ盛りの茶産地へ! 日本茶の魅力を五感で感じるツアー型オープンファクトリー「産地の本番。」に行ってきた!

♪ 夏もちぃーかづく、はちじゅうはちやっ
で、知られている『茶摘』の歌は音楽の授業で習った人も多いですよね。急須やティーパックなど自宅でいただくだけでなく、飲食店やペットボトルでも飲まれることの多い緑茶。日本人には馴染み深いものですが、どのような姿で栽培されているのか? どのように加工されているのか? は、案外知られていないのかもしれません。
「お茶産業の魅力を多くの人たちに届けたい」と立ち上がったのが、静岡県菊川市出身の中土真奈さんを中心とした「菊川お茶ひらく人たち。」のメンバーです。今回は彼らが主催するツアー型オープンファクトリー『産地の本番。』に参加してきました。
主催の中土さんは、現在滋賀県在住とのこと。なぜ静岡県でこのイベントを実施することに至ったのでしょうか?

「私の親がお茶の生産者(菊川市)なんです。新茶の季節って、活気というより殺気を感じるほどピリピリしています(笑)。若い頃、お茶に関わる皆さんが一生懸命に働いている姿をみてかっこいいと感じていました。この気持ちを多くの人にも知ってほしいと企画しました」と、中土さん。約2年の構想期間を経て、ツアー型オープンファクトリーが開催されたのです。
産地の本番では、どんなかっこいい姿を見せてくれるのでしょうか? 今回は、片山製茶工場有限会社さんの茶畑と工場を見学させていただく「昼の部」と、株式会社美緑園の工場見学ができる「夜の部」、それぞれの様子をお届けします。お茶農家さん、そして茶園のリアルを体感しちゃいましょう!
茶摘みのポイントは「一芯二葉」

昼の部に集まったのは、約20名。「今日は八十八夜! みなさんラッキーですよ!」と案内があり、始まる前からワクワク。まずは、茶畑に移動し、茶摘み体験からスタートです!

お茶の木として収穫できるまでには、苗から育てると5年ほどかかるのだそう。茶畑は、常においしいお茶の葉が収穫できるように、ある程度の年月が経った木を入れ替えるなど毎年手入れをされています。

収穫される日を待ち望んで成長中のお茶の木たち。子どもみたいでかわいいですね!
5年ちかく大事に大事に育ててきたお茶をいざ収穫! ……とはいえ、実はお茶農家さんのお仕事で手摘みをすることは、今ではほとんどありません。今回はイベントのための特別な体験として、手摘みをさせていただきました。
そして、好きなように摘むのではないのだとか。ポイントは「一芯二葉(いっしんによう)」だと教えていただきました。

「一芯二葉とは、茶葉の先端にある成長点にあたる芯の部分とその下にある2枚目の葉までのこと。茶摘みをする時には、一芯二葉を意識して摘んでみてください。ただし爪を立てて切ってしまうとそこから苦味が出てしまうので、折るように摘む”折り摘み”をしてください。成長点の部分には、お茶のうまみ(アミノ酸やテアニン)がたっぷりとつまっています。ここだけを摘んだお茶は、お高いお茶になるんですよ」(農協職員・袴田さん)
ポイントを伺って、畑の中へと進んでいきます。びっくりするほどふかふかな土で、土壌からも大切に育てられていることがわかります。

心の中で「一芯二葉で、爪を立てないように……」と唱えながら次々と収穫していきます。

参加者のみなさんも夢中になって摘んでいました。一芯二葉に慣れてくるとポキポキと折れる感覚が心地よく、時間を忘れてしまうほど。

茶摘みに夢中になっていると、大きな機械がやってきました。

お茶を収穫するための機械「乗用茶摘み機」です!
車の運転をするように、茶畑の畝に合わせてまっすぐに刈り取っていきます。

手摘みの場合は一芯二葉ですが、機械の場合はそれ以上に刈り取るのだとか。
「機械で摘んだお茶は、さまざまな用途に合わせて加工されていきます。手摘みよりも短い時間でたくさんの量を収穫することができるようになりました」(農協職員・袴田さん)

乗用茶摘み機が刈り込んだあとは、葉っぱの色も変わっていて「ひとつのお茶の木でもいろんな緑色があるのだな」と感じます。
しゃかいか! チームもいっぱいお茶の葉を収穫! 思っている以上にやわらかくてほわほわしていました。かわいい〜♪


袋に入れて香りを堪能してみるととってもフレッシュなお茶の香りが!
「天ぷらにすると美味しいですよ」と、中土さんが教えてくれました。今の時期にしかできない贅沢な逸品ですね。ちなみに……茶畑に扇風機の羽のようなものがいくつもありました。これは一体なんなのでしょうか?

「これは春先の霜から新芽を守る『防霜(ぼうそう)ファン』です。朝方など気温が下がると自動的にファンがまわって、上空の温かい空気を茶畑に送ります。新芽を守るための設備ですね」(中土さん)
さまざまな設備に守られて美味しいお茶が味わえているんですね。さて続いては、工場見学へと参りましょう!
静岡県菊川市は「深蒸し茶」発祥の地!


今回訪れている静岡県菊川市は、「深蒸し茶」発祥の地でもあります。
深蒸し茶とは、緑茶を作る工程に欠かせない「蒸し」時間を、通常より2〜3倍にしたお茶のこと。渋みが少なく、まろやかな味わいが特徴です。深蒸し茶そのものは全国の茶産地でつくられていて、静岡県内でも掛川茶のほうが名前は通っているかもしれません。それでも、この地域を語るうえで欠かせない名産品であることに変わりはなく、2023年(令和5年)には「深蒸し菊川茶」として地理的表示(GI)保護制度にも登録されました。
茶畑から工場へ移動していくと、なんだかかわいい煙突を発見!

見えてきたのは、片山製茶工場有限会社さんの工場です。周辺を歩くとふわ〜っとお茶のいい香りが漂ってきます。
工場見学をする前に、お茶を作る工程について勉強しておきましょう。大きく分けると3つの工程に分けられます。
① お茶の葉っぱをまんべんなく蒸す「蒸熱(じょうねつ)」
② 水分を均一にしながら揉み込む「揉捻(じゅうねん)」
③ 茶葉の水分を乾燥させる「精揉(せいじゅう)」
また、茶葉を摘む時期によってお茶の呼び名も変わってきます。八十八夜にあたる5月初旬頃に収穫したお茶を「一番茶(新茶)」、それ以降に摘まれたものを「二番茶」「三番茶」、9〜10月頃の秋ごろに収穫したものを「秋冬(しゅうとう)番茶」とわけているのだとか。店頭でお茶を選ぶ時の参考にしてみてくださいね。
今回見学したのは、もちろん「一番茶(新茶)」の工程です。片山製茶工場有限会社の片山裕司さんの案内で、二手に分かれて見学しました。




あっつあつの蒸気が漂う空間に参加者のみなさんも「暑い……」とぼそり。片山さんは「ここで1日働けばダイエットになるくらい汗をかきますよ!」とさわやかにおっしゃっていました。……働かせてもらおうかな??(笑)
蒸熱の工程を経た茶葉は濃い深緑色に! 特別に食べさせてもらったのですが、蒸しただけではと〜〜〜っても苦い葉っぱでした(汗)。

蒸された茶葉は、レールの上で冷却されながら揉捻へと進んでいきます。



とっても大きなモップのような毛先がついた機械がグルグルと回り、茶葉を揉んでいきます。ゴーゴーとした大きな音とアクロバティックな機械の動きに目を奪われます。揉みに揉まれた茶葉は、またまた別の機械に流されていきます。


最後の工程となる精揉では、左右にある機械がグルグルと回り、茶葉をさらに乾燥させていきます。ガシャンガシャン! と大きな音を立てる機械を覗いてみると、見慣れたお茶の姿が!

熱を加えながら一定方向に揉み込んでいくことで、蒸してしっとりとしていた茶葉はパリパリとしたお茶へと変わっていくのですね。

しっかりと乾燥させたら、葉と茎などに分類され出荷されていきます。

「この工場で出来上がった茶葉は、みなさんが大好きなお茶として出荷されます。茎は、茎茶やほうじ茶に、大きめの茶葉は川柳茶に、細かい茶葉はティーパックや粉末茶に。お茶は捨てるところがないと言われるほど、収穫したものは余すことなく楽しむことができるんですよ」(片山さん)


見学後は、敷地内でお茶を一杯。片山さんたちとお話ししながら、新茶をいただきました。



こちらは菊川市茶業協会さんによる「お茶の淹れ方教室」。湯の温度や蒸らし時間ひとつでこんなに味が変わるのかと、参加者一同びっくりです。茶摘みからお茶を飲むまで、たっぷりと知ることができました。


昼の部の最後には、豪華賞品が当たる「お茶ガチャ」大会も! 楽しいひとときはあっという間に過ぎていきました。

黄金色の緑茶の秘密は、蒸しにアリ
夜の部は場所を移動し、美緑園さんに伺いました。

ここでは、夜ならではのかっこよさを堪能できるとのこと! 1日で複数の茶園さんを巡ることができるのは「産地の本番。」ならではですね。
工場見学をする前に、美緑園さんの美味しいお茶をいただきましょう。美緑園さんのお茶の特徴はなんといっても「黄色い深蒸し」と呼ばれる黄金色のお茶です。


「緑茶のトレンドは濃い緑色を出すものですが、うちでは黄色い深蒸しにこだわった製法で作り続けています。この色の秘密は、蒸し! その日の気温や湿度に合わせて、調整しているのですが、蒸している時に出てくる蒸気の香りで蒸す時間や温度を決めています。このあと、みなさんにもぜひ体感していただくのでお楽しみに!」(美緑園・土井宏通さん)

お話上手な土井さんに会場も盛り上がりました。では、工場の中に潜入してみましょう!

細い通路を抜けて奥へと進むと、出てきました! もっくもくの蒸気です。



「お一人ずつ蒸気の香りを体感してみましょう!」と、土井さん。


体験した人たちからは「おぉ〜」「ふわ〜!」と感嘆の声が! なんだかご利益がありそうな蒸気ですよね。
「蒸気の量や時間だけでなく、機械の中に入ってくる茶葉の量、撹拌させる傾斜角度など、全体のバランスを大切にしています。中が見えないので、頼りになるのは蒸気の香り。納得がいくまで1時間でも2時間でもこの場所にこもり、蒸気の香りと向き合います。それくらいうちにとっては肝となる工程なんです。ちなみに、夏場の工場の室温は42〜45度になるので……とっても暑いです!」(土井さん)
土井さんの努力の結晶があの美しい黄金色になっているんですね。美緑園さんこだわりの黄金色のお茶、ぜひ味わってみてください!



揉捻と精揉を経て、茶葉が完成します。「みなさんこの下に集まってもらえますか?」という土井さんについていくと……。

「めっちゃいい匂い〜!」
ここにもご利益スポットがありました。茶葉を乾燥させていく機械から、温風とともにお茶のいい香りがしてきます。「香水にしたいね」「すでに美味しそう」と喜びの声が聞こえていました。



工場見学から戻ると、待っていたのは石橋さんによるお茶会です。おいしいお茶をいただきながら、蒸しの工程の大切さ、お茶師さんごとにお茶の仕上げ方が変わってくること、問屋の味(茶筋)をどう作るか、昨今のお茶トレンドなどお茶界隈の専門用語を含めて、奥深いお茶の話を聞かせてくれました。
あっという間に外も真っ暗! 夜の茶畑の見学へと参りましょう。


工場の明かりが茶畑を照らして、なんとも幻想的な風景に! 新茶の時期は、夜も休むことなく動いている工場もあるそうです。お茶の木の成長に追いつくように、人間たちも美味しいお茶を届けられるように、ぐんぐんと稼働し続けているんですね。

夜の部でも「お茶ガチャ」大会が開催され、みんなで美味しいお茶とお菓子を囲みながら、楽しい時間が過ぎていきました。
お茶に関わる全ての人たちが誇りを持てるように
お茶の産地の本番を体験して感じたのは、新茶という限られた時期しか味わえない農作物を素早く消費者に届けるため、真剣に丁寧に向き合っている現場の「本気」でした。冒頭で「新茶の季節は、殺気を感じる」と笑顔で話していた中土さんでしたが、その気持ちがちょっとわかったような気がします。
日本には古来から「旬」を楽しむ文化が根付いています。美味しい時期に、一番美味しい方法で届けるためにお茶に関わる全ての人たちが本気で向き合っている姿を知り、お茶のことがより一層愛おしく感じることができました。
「『産地の本番。』は、今しか味わえない現場の雰囲気を多くの人に知ってもらいたいと企画しましたが、もうひとつお茶を作っている人たちが自分たちの仕事に誇りを持ってもらいたいという思いもありました。知ってほしいと思っている農家さんや茶園さんは多いものの、その機会はまだまだ少ないのが現状です。これからも多くの人に、リアルな現場のかっこよさを知っていただけるように発信していけたらと思います」(中土さん)
ほんわかとしたなごみの時間を与えてくれるお茶の現場には、痺れるほどにかっこよくて本気で取り組む大人たちがたくさんいることがわかりました。一杯のお茶に思いを馳せながら、ツアー型オープンファクトリー「産地の本番。」が続いていくことを願いたいですね!
新茶の季節でお忙しい中、様々な体験をさせていただいた片山製茶さんと美緑園さん、そして主催の菊川お茶ひらく人たち。のみなさん、本当にありがとうございました。

お茶のオープンファクトリー 産地の本番。 片山製茶工場有限会社 株式会社美緑園
https://sanchinohonban.studio.site/
住所:静岡県菊川市古谷147-2
Web:https://ktymtea.com/
住所:静岡県菊川市牛渕2128-1
Web:https://miryokuen.co.jp/
(text:つるたちかこ、photo:石井裕也)
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