安心・安全の列車運行を支える鉄道作業員の仕事現場をレポート! 京急電鉄 鉄道事故復旧訓練(後編)

京急電鉄 鉄道事故復旧訓練の続きです。前回は事故発生から避難誘導、応急復旧の様子を報告しましたが現地指揮所が開設され、いよいよ運転再開に向けた作業がスタートします。

軌陸タイプのクレーン車施設部緊急自動車が現場に到着。
事故後は「線路閉鎖」といって工事・作業などを安全におこなうため、他の列車や車両を進入させないようにする手続きがなされます。
このクレーン車は軌陸タイプといって、線路の上を走行できるタイプ。応急復旧のため,回転灯をつけサイレンを鳴らしながら緊急走行できます。

検電・接地保線25名・土木9名・電力26名・通信26名が到着し、いよいよ施設関係の復旧準備作業がスタート。

検電・接地作業するために停電します
電力区は電車線の仮復旧準備。通信区(通信)は誘導線撤去と復旧準備作業を行います。
脱線した電車の前で係員が長い棒状のものを持って作業を行っています。
実際の事故現場での復旧作業では,必ず電気を停電させてから行うことが必要。(訓練では電流は流れていないません)目に見えない電力を検電器の音と光で停電を確認後、更に安全確保のために,この長い棒「短絡接地器具」を取付けてから作業します。

この短絡接地器具は、作業中に万が一、誤って電気が送電された場合に,瞬時に変電所の遮断器を開放して,作業員の安全を確保するためのもの。これらは国の労働安全衛生規則で義務付けられています。
ナレーションでは「過去の苦い経験に基づき」といっていたので、過去には停電せずに作業した結果、作業員の方が怪我をするなどの事故があったのだと思います。
こういった経験、改善、また経験、と繰り返し積み重ねられたノウハウが今回の訓練にはたくさん含まれているようです。

曲がった鉄柱に登る通信区の係員が鉄塔に上って列車無線誘導線の撤去作業を行っています。

架線を取り外していく電車の上に登ってパンタグラフの緊縛(きんばく)作業を行っているのは検車区係員。パンタグラフとは、架線より電気を車両に取り入れる部品で「緊縛作業」とはパンタグラフが上がらないようパンタグラフと車体の一部をヒモで縛りつけ固定する作業。
万が一パンタグラフが上がってしまうと架線より電気が流れ作業員が感電する恐れがあるための処置。脱線復旧作業時は架線の停電処置を行っていますが,何らかの拍子でパンタグラフが上がらないように二重に安全処置をして,作業員の感電防止につなげています。

作業はどんどん進む作業はどんどん進みます。
事故で断線した線は傷ついていて、そのまま使用できないので新しい線を張り替えないといけません。
硬い鉄の撚線で直径が1cmほどの「ちょう架線」、純度100%に近い硬い銅でできている「電車線」(トロリー線ともいいます)。この線の下の面に電車のパンタグラフが接触して電気を取入れ電車が走る仕組み。電車を動かすために直流1,500ボルトをもの電気が流れています。
専用の機械工具を使い、張力を1,000kgまでかけ、専用の金具で接続します。
電車線を吊ってあるのがステンレスでできた「ハンガ」という部品で、電車線の高さ調整などを行います。張りすぎてもゆるすぎてもダメ。

レール損傷の確認保線区の係員はレール損傷の確認と、

レールのチェックレール・ガードアングル・まくら木・締結装置(レールのつなぎ目の装置)の更換および軌道整備の準備。

倒れた信号の撤去通信区員は倒れてしまった踏切警報機・遮断機・発光信号機の復旧作業を行っています。

乗用車排出土木区は、京急建設とその協力会社の作業員とともに衝突した乗用車を線路外に排出作業を行っています。

ナレーターも真剣複数の作業が同時並行で行われているので、ナレーター役の社員の方も大変です。僕も作業を追っかけるのが大変です。

大人数での大変な作業ですが、実はこれらは現場からで火災や交通事故など二次災害を防止するため、すぐにできる応急処置でしかありません。
これから事故車両を回送したり、他の列車が安全に通過できるための本格的な復旧作業が始まります。

事故対策本部この頃、総合司令所内では事故対策本部が設置されました。
鉄道本部の本部長・部長・課長や広報課長などが集合し、事故対策本部が設置され、事故への対応が行われようとしています。事故対策本部が設置されると、鉄道本部長を事故対策本部長として、この先の検討・復旧作業の各指示がここから出ることになります。

安全・確実で早期に復旧するため、対策本部の指揮のもと、運輸司令から発信された指示を関係各所が実行し、指示→実行→報告が繰り返されていきます。実況でも同じ指示や報告がしばらく繰り返されますが、これも安全を確実にするため。

復旧準備の作業のため、停電されていましたが、この後の救援車両運行のため、給電が指示されました。

いよいよ復旧に向けた作業が開始されます。

救援車両救援車両がやってきた!
事故に遭遇した車両を助けに行くための黄色い救援列車がやってきました。訓練とはいえホッとした気持ちになります。救援列車には脱線復旧に使用する色々な機材が搭載されていて、黄色に赤帯、トラックのような荷台があります。

一つの区間には1本の列車「自動閉そく式」
通常、列車は線路際に立っている信号機に従って運転しますが、信号機と信号機の間つまりひとつの区間には、1本の列車しか走れないようになっていて、それにより安全を確保する仕組みになっています。この仕組みを「閉そく」といい、京急電鉄では信号機により自動的に行われる「自動閉そく式」を用いています。しかし、救援車両も列車の一つなので、この仕組みだと走ることはできません。このために、

伝令法救援列車の運転では特別な方法「伝令法」を用います。
救援列車の運転には、「伝令法」という特別な方法を用います。救援列車を運転する場合は、事故列車と同じ区間に救援列車を向かわせなければならないので、運転しても良い列車であることを保障するために、救援列車には「伝令者」を乗せることになっています。

救援車両到着から脱線復旧作業へ救援車から降り立った作業員のみなさんです。キリリッ!

いろんな機材下ろす救援車両からはいろんな機材が下ろされていきます。

これから行われるのは、脱線した車両をレールに戻す「脱線復旧作業」です。

脱線復旧の準備脱線車両をレールに戻す
脱線した車両をレールに戻すために、脱線復旧装置が使われます。この装置はドイツのルーカス社製でエンジン付油圧ポンプで作られた油圧を動力源にして車両を持ち上げ、レールの幅にあわせて左右に動かしていきます。
脱線した車両をレールに戻す際に、車両の荷重が掛かるためあらかじめ地面を強固に突き固めておきます。銀色の長いプレート状の物は「ブリッジ」といって、材質は軽合金、幅350ミリ×厚さ140ミリ×長さ2.2メートル、重量が80kgあり最大荷重50トンまで受けることができます。これから使用するジャッキの基礎となるとても重要な機材。据付には砂利との間に短い枕木と薄い板を入れ、水平器を使用し正確に水平状態を確認した後に作業が行われます。

脱線復旧の準備3車両の下にブリッジを設置し、

脱線復旧装置脱線し横へズレてしまった車体を元に戻す時に使用する「ローラーキャリッジ」という機材を左右一台ずつセット。底には小さな車輪がついていて、脱線した車体を元に戻す時に生じる歪みを自動吸収する仕組みとなっていて、正しい方向に修正していきます。

ジャッキで車両をあげる円筒状のジャッキで持ち上げていきます。

うまくいかないこのジャッキは軽合金製。これひとつで最大26トンを持ち上げられることができます。この電車の重量は約35トンありますが、左右平均に荷重が掛かれば十分な余裕があります。また、このジャッキは上げるときはもちろん、下げる時にも油圧によって動作する復動式と言う特殊な方法を採用しており,確実な動作と万一ホースが破損したときでも急激に降下するような事は絶対に起きないようになっており,作業員の安全性と操作性に配慮されています。

コントローラー慎重に持ち上げる
列車の前では、レバーがたくさん付いたコントローラーで左右のジャッキの上げ下げやトラバースユニットの操作を行う装置で、慎重に水平確認を行いながらジャッキアップ作業を進めていきます。脱線した車両は前後・左右にさまざまな力が掛かっており,車輪が浮いた瞬間にジャッキによじれが加わる場合があるので慎重に車体を持ち上げる必要があります。

車両が持ち上がる車両の前方が持ち上がっているのがわかります。これは位置合わせをしている様子。
京急電鉄のレール幅は新幹線などと同じ1435mmで,それに合わせ電車の車輪の幅もできています。正確に位置が合わないとレールに納まらないので、慎重に位置あわせ。

真剣に見守る列車の前方から、

脱線復旧すごく前方からも、

コントローラーしかし、脱線の影響で台車がスムーズに回転しなくなってしまい,車輪がずれてレールに納まりません。

位置合わせそこで新しい機材が投入!
「アクセルプシャー」という,油圧ジャッキを使った装置を準備しています。この装置はハンドポンプからの油圧の力で、ずれている車輪を押し込んで、レールに載せる仕組みの機材です。

無事元に戻った2車輪がレールに無事にセット。
事故車両の車輪がレールの上に納まりました。

無事元に戻った無事元に戻りました。これで回送することができます。

現地対策本部救援列車の出発準備、事故列車の出庫準備手配、そして設備の点検を要請します。なお,事故列車は自力運転可能ですが、安全に配慮し25キロ以下の運転速度厳守!

完了・救援車両退場脱線復旧車両作業は完了。

完了・救援車両退場作業員は救援車両に乗り込み、去って行きました。

出庫を待つ車掌続いて事故車両の出庫
事故列車の運転に向け、出庫準備を行います。出庫準備ではパンタグラフを上昇させたり、各種スイッチが「入り」であることの確認、ブレーキ試験、起動試験などを行います。

救援車両が伝令法により久里浜工場信号所に到着した後、事故車両も久里浜工場信号所にむかって出発。

列車が去った後は、必要な手続きを経て、事故現場は本格的に壊れた施設の復旧作業に取り掛かります。ここで再び作業のために直流停電、

保線区員による復旧作業保線係員が事故箇所のまくら木・締結装置更換、レール更換・軌道整備作業を行います。

掘るレールの下のバラストを掘り起こし整地。スコップの柄にはロープがついていて二人一組で作業。息ぴったりでどんどん掘っていきます。まくら木が更換され、

レールの切断事故でゆがんでいる可能性のあるレールは切断。撤去され、

レールを調整レールが交換されます。

レールの溶接レールの復旧線路をつないだところレールとレールのつなぎ目である目継板も更換。

レール幅の確認その後、脱線防止ガード取付け、軌道整備、通り直し、軌道検測、以上で線路設備の復旧作業は終了します。

通信復旧作業部隊到着保線区員と同時に到着していた通信復旧作業部隊は、仮設柱・電車線復旧作業を行います。

仮設柱・電車線復旧作業傾斜した鉄柱を撤去するために、よじ登り

クレーンで鉄柱を釣るクレーンで鉄柱を釣り上げながら、

電信柱切断鉄柱を切断、

A柱木製の柱を2本使用して仮復旧を行います。この方式はA柱といって,柱をアルファベットのAの形に仮設し,強度を持たせ、主に鉄柱の損傷事故時などに行うものです。

電力柱復旧完了仮の電力柱が完成。

ハンガ取り付け架線のアップ列車無線誘導線のハンガ取付け作業と電車線の最終調整・点検が開始。

ハシゴ自分の命を預けるものは自分で作る
ここで登場したハシゴ。は竹の梯子と緑色(みどりいろ)の絶縁梯子(ぜつえんはしご)の両方を使用していますが、以前主流だった竹梯子が最近では消えつつあります。しかし、京急電鉄では、貴重な技術継承を目的に、電力区では年間20程度の竹梯子を自前で製作し使用。
自分の命を預けるものは自分で作る、という思いもあわせて継承されています。

絶縁タワーによる最終確認絶縁の車輪がついた絶縁タワーを使用して、最終点検。

絶縁タワーによる最終確認この点検作業が終了すると仮復旧作業が全て終了。直流停電は解除され、最後に給電が開始されます。

無事運転再開、しかしまだ残っています。
「線路復旧作業が完了しました。試運転列車は現場を最徐行、その後、終列車まで時速25キロ以下の徐行運転とします。」のアナウンス。
電車が走ることができるようになりました。この状態が僕らがスマホやテレビの速報の画面で「運転再開」と安心する状態。しかし、今行われた保線・電力・通信の設備はあくまで仮設の状態。

事故当日の夜間に、できる限り元の状態に本復旧の作業が行われます。

拍手観客のみなさんも拍手!!
この時点で14時半。お客さんもフゥ〜ッと息つく空気が流れました。

完了事故発生から、乗客の避難誘導、関係各所への指令と連絡、事故車両回送に向けた準備作業、脱線・設備の復旧とおおよそ3時間半で完了。

本当の現場ではもう少し混乱するかもしれませんが、少しでも浮き立つ気持ちを抑えて冷静に動くためという意味合いも持った訓練。通勤時の電車にお世話になる立場としても、身につけておきたい心構えです。

「列車を停めない努力、停める勇気」
列車が止まってしまった時には、僕も「まだかなぁ、チェッ!」とイライラするクチですが、今回の訓練を間近にみて心が震えるほど感動。多くの人の努力に支えられ、安心して電車に乗ることができていることを実感することができました。これからも安全・安心な列車の運行をどうぞよろしくお願いします。

今日は本当に有難うございました!

【詳細情報】

京浜急行電鉄株式会社

URL: http://www.keikyu.co.jp/

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