世界から注目される木のスペシャリスト!伝統工芸のしごとを学ぶ「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」で千本銘木商会へ

2025年1月13日・14日の2日間、「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」が開催されました。
「HELLO! KOUGEI」は、伝統産業に興味のある学生や若者が実際の現場へ行き、リアルな職人仕事や取り組みなどを身近で学ぶことができるイベント。
【京都】HELLO! KOUGEI 2025|伝統工芸のしごとを学ぼう!京都ものづくり見学プログラム
普段はなかなか触れることのできない“伝統”や“文化”の裏側にふれる貴重な機会!
職人さんの仕事を直接学ぶことで、将来の仕事を考える際に、参考にしてもらうことを目的としています。
今回訪れたのは、「山元染工場」と「千本銘木商会」の2つの工房です。
昨年度に続き、今回も就活生や伝統工芸を学ぶ学生など、ものづくりに関心のある人たちが多数参加。見て、触れて、感じる。そんな体験を通じて、職人の仕事の奥深さを知る2日間となりました。
しゃかいか!は昨年に引き続き、本プログラムの運営をサポートしました。今回の記事では、2日目に伺った「千本銘木商会」さんについてお届けします!
イベントについてお伝えできたところで...こんにちは!渡辺です!
私は現在大学4年生で、この春から晴れて社会人です。旅行先でのものづくりや、大学で京都の日本酒について学んだ経験から、伝統産業に興味を持ち、2年前にしゃかいか!のインターンシップに参加させていただいていました。
職人さんたちのお話を聞くことができたり、体験できたり、記事を書いたり...とても楽しくいい経験だったなと感じています。
近ごろは就活があり取材に参加できていなかったのですが、こうしてまたお声がけいただき、関わりを持てることが本当に嬉しい。みなさんにしっかり魅力をお伝えできるようにがんばります!
それでは早速、私が取材させていただいた千本銘木商会さんについてご紹介していきます!
と言いたいところなのですが...
「銘木」ってなんだろう?と思っている方、いるんじゃないでしょうか。
私自身、初めて銘木(めいぼく)という言葉を知りました。
調べてみると、銘木とは「色や形状、材質が優れており、なおかつ独特の風合いを持っているものや希少価値の高いもの」のこと。
また、材木屋は構造部材を取り扱いますが、銘木屋は内装化粧材で1本、1枚単位で取引するという違いがあります。
材木は材木でも、超スペシャルな材木ということなんです!材木にもランクがあるんですね。
というわけでお待たせしてしまいましたが、「銘木とはなんぞや!」という疑問が解決されたところで準備は万端です!千本銘木商会さんについてお伝えしていきます!
銘木屋ってどんな仕事?意外と知らない木の秘密
千本銘木商会は、二条城を少し南に行った、閑静な街並みの一角にあります。

到着すると、まず目に飛び込んでくる2つの大きな丸太。それを取り囲むように立ち並ぶ木々たち。思わず、「おぉ…」と声が出てしまいます。
これからどんなお話が聞けるのだろうと、想像はふくらむばかり。

今回お話をうかがうのは、千本銘木商会 専務取締役の中川典子さん。
酢屋の屋号が入った法被、かっこいいですよね。法被はここぞというときにしか着ないそうで、嬉しく思うと同時に、気合が入ります。
「酢屋」というのは、創業当時の屋号。千本銘木商会は、1721年、現在の木屋町三条の地で創業した300年以上の歴史を持つ超老舗なんです。
ちなみに酢屋と言っても、お酢屋さんだったわけではありません。ただ、酢屋という名前だと、行政側もお酢屋さんと混同してしまうため、千本銘木商会に変更されたそう。
また、幕末に坂本龍馬を匿った材木商としても知られています!それもあって、典子さんは坂本龍馬ゆかりの地である高知県の観光特使にも任命されています。おどろきですね!

こちらの典子さんが持っているのは、嵐山の写真。川にたくさんの材木が浮かんでいるのがわかると思います。
かつて材木の運搬は、川を利用して行われていました。だから、創業の地である木屋町三条も、現在の壬生も、川沿いに位置しているんです!
また、創業の地である木屋町三条では、現在典子さんのお母さまであり、社長さまが酢屋という木工芸のお店を営んでいらっしゃいます。
木屋町の酢屋ではより木を親しみやすく、壬生の千本銘木商会ではより専門的に、という棲み分けがきれいになされています。
銘木アドバイザーであり、銘木師でもある典子さん。どちらも珍しい称号ですが、とりわけ銘木師はレアキャラで、全国で12人ほどしかいない上に、女性は典子さんたったひとり。
加えて明確な基準のある資格というわけではなく、銘木業界の重鎮の方々の中から3人以上、「あなた銘木師と名乗っていいですよ」と認めてもらわないといけないんです。
容易に想像できるその難しさに、参加者一同啞然。まさに、木のスペシャリストですね。
そんな典子さんが人生を捧ぐ千本銘木商会さんは具体的にどのようなことをしているかというと、床の間づくりを基本とした銘木の販売・加工・施工を手掛けていらっしゃいます。
ここでポイントなのは、床の間づくりというところ。

「床の間づくりにおける銘木加工の技術は、これさえあればなんでもできる、といえるほど基本となる技術です。床の間づくりでは丸い木と四角い木を組み合わせますが、これは世界でも珍しく、日本が誇るべき日本建築の良さなんです。」

現代で床の間があるお家って、どのくらいあるのでしょうか。私自身は、床の間のある暮らしをした経験があるのですが、あまり床の間について深く考えたことはありませんでした。
でも、ひっそりと佇むその空間に、掛け軸や季節の花、お気に入りの何かを飾り、季節の移ろいを感じたり想いを馳せたりする…。
改めて考えてみると、その時間は大切で、日本の守るべき文化なのかもしれない、と感じました。
床の間づくりは日本の大工さんたちの中でも難しく、千本銘木商会は「床の間づくりだけお願いします!」とそれだけを手掛けることがあるくらい、高度な技術をお持ちなんです。
もちろん、千本銘木商会は床の間以外のものも手掛けています。
例えば、お家元の免状板(めんじょういた)やお店の看板、まな板などが挙げられます。
免状板という言葉はあまり馴染みのない言葉かもしれないですが、調べてみると、華道や茶道などの習い事において習熟度に応じて与えられる証状のことだそう。千本銘木商会では、この免状板もオーダーメイドで製作しています。
ひとえに免状板と言っても、その加工方法は千差万別。桧(ヒノキ)で作るのが一般的でしたが、杢目の細かいヒバや杉など異なる種類で作ることもあるようです。
各流派によって木の種類や厚さ、文字の入れ方までこだわりが詰まっています。
また、京都の南座から八坂神社まで、さまざまなお店が軒をつらねていますが、その中で老舗と言われるお店の看板や商品看板などの3分1は千本銘木商会が手掛けていらっしゃるそうです。
「大きい看板を作ってそれを下ろさない」というお店の覚悟、プライドを背負う、重要な役を担っているんです。
木の種類でいうと、面白いなと感じたのがまな板。
うなぎ屋さんは、目打ちをしても穴が戻る摩耗性に優れた朴木(ホオノキ)を使ったり、和菓子屋さんは打ち板として杉の板、木型は木質の硬い桜を使ったり…。まな板1つでそんなにこだわりを持たれているというのが意外でした。
個人的に和菓子で連想される桜が、和菓子屋さんの木型として使用されているというのがなんだかリンクしていて素敵だなぁと感じました。
その人、その場所に合ったものをつくる「適材適所」を大切にしている千本銘木商会。
講演会やワークショップ、インターンシップなど、人と人との出会いの中で、その人のためにできることをしたいという思いがあるのだといいます。
インターンシップは外国人の方も多いそうで、木が大好きだから、と海外から学ぶために来るその勇気と行動力に背筋が伸びる気持ちでした。
海外からのインターンシップ生の方々は、「世界中見渡しても木について教えることができる国、木の建造物がちゃんと残っている国は日本しかない。こんなに誇らしい技術があるのに、日本の人はなぜ自慢しないのか不思議でならない。」という想いを一貫して持っているそう。
「そこには、日本人が持っている木の文化、森や自然に対する考え方の違いが関わってくるんです。」と典子さんは話します。
そんな考えに辿りついたのは、典子さんが昨年11月訪れた、芸術の都フランスでのこと。
フランスでは床の間づくりをするため、現地の学生と関わりを持ったり、フランスの森に足を運んだりしたそうです。

「フランスに行ってみると、日本とは森に対する考え方が全然違ったんです。」と典子さん。
日本は、森を管理することで自然を守るという考え方から、植樹や間引きなど林業政策に取り組んでいます。
一方でフランスでは、管理をしないことで自然を守るという考え方をします。これは、フランスだけではなく、ヨーロッパ全体として言えることだそうです。
「ヨーロッパでは、森には悪魔がいるという考え方をするんです。ハリー・ポッターの魔獣たちもみんな森からくる。だから、森には触れてはいけない。」
ヨーロッパの物語の悪魔や魔女は森からくる、と考えるとすごくしっくりときますね。
それとは異なり、日本人には、森にはトトロ(森の精霊)がいる!と。自然に畏敬の念があるからこそ、森を護る神や精霊がいる。フランスではトトロがとても人気だそう。
トトロは悪魔ではないですが、日本の森への考え方がアニメによって理解され、その人気を引き出すのかもしれないとのことでした。
日本では近年、春になると多くの人が花粉症に苦しんだり、野生動物が山から下りてきてしまったりということが問題になっています。
日本の管理することで森を守るという考え方、ヨーロッパの自然のままにすることで森を守るという考え方、どちらが良いということではなく、どちらの考えも盛り込んでいくことが、これからの未来型森林環境へつながっていくのではないか、と典子さんは話します。
また、私のように今回初めて銘木について知った人が結構いるんじゃないかなと思いますが、日本は木について教えてくれる場や木でできたものが残っている環境があり、木に対する文化や考え方が根付いている、世界的に見ても珍しい国なんです。
近年、世界的に環境や自然素材に価値を見出す傾向にあります。だから、文化的に自然を好む日本の建築家は、世界で活躍できているのだと典子さんは話します。
その文化をいかに継承していくかが今後の課題であり、私たちがこうしてイベントに参加する意味でもあるんです。
北山杉のしぼり丸太、桧さび丸太、木の文化を支える銘木たち
次に、入口の丸太まで移動!

と、ここで典子さんからクイズが。
「この2つの丸太、向かって左が樹齢121年の吉野杉、右側が樹齢280年のマツ、パッと見て何か決定的に違うところがあります、どこでしょう?」
うーーーーん…。どこだろう。みなさんわかりましたか?
「正解は、左側の吉野杉には割れ目があることです。」

たしかに!
「マツには松脂があるから割れないんです。」と典子さん。
割れ目があると言っても、この木がたまたまじゃないんだろうか?と思ったので驚き。
昔バイオリンを習っていたことがあるので、松脂のきゅっととどまる質感は、たしかに木全体が含んでいたら割れにくくなりそうだ…と思いました。
「マツは割れにくい。だから、地震大国の日本では家屋を支える重要な役割を持つ梁に使われるんです。」とのこと。
また、マツは歌舞伎や能、狂言の舞台に描かれていたり、お正月に飾ったり、神様の道しるべとしても用いられます。その所以は、冬でも枯れない常緑樹であること。
つまり八百万の神様を信仰する日本にとってマツは大切な存在であり、銘木のトップオブトップに君臨しています。

さて、次に向かうのは階段を上ったその先…

綺麗なしわ模様の入った、背の高い丸太たちがお出迎え。
これらの丸太たちは、天然だと100本に1本ほど採れる希少価値の高い丸太です。
人工的にこのしわ模様を作ることもあり、その場合丸太1本あたり約280本の竹のおはしが用いられます。

奥の方には、天然の北山杉がずらり。その中には、熊がひっかいたり、鹿が蹴ったあとがあったりする丸太もありました…。
幼稚園の遊具など、傷が影響しないものに用いられることが多いですが、逆にその傷に味がある!とあえて選ばれる方もいるんだとか。
また、こんなにたくさんの丸太を扱う中で、どのように丸太の良し悪しを判断するのか、気になりませんか? 年輪を見ることが一番良いそうですが、仕入れの際、市場などでひとつひとつ年輪を確認するのはかなりの手間です。
なので、丸太を立ててくるくると回すという方法で判断することも。コマのようにきれいに回ったら、質のいい丸太の証拠。

実際に回してみると、なんともきれいにくるくる…♪
そしてそして、ここでなんと丸太を担がせてもらうことに。
「我こそは!という人はいますか~」と聞かれて、即座に手を上げました(笑)

持てるのかなぁと不安でしたが…

持てる!
思ったより軽くて驚きました。典子さんたちの世界では、重さを肩で知れと言われ、丸太を担いで手を離せるようにならないと一人前とは言えないそう。
男性だと3本くらいは担げるそうで、プロのプロたる所以を感じます。

次に先ほどの絞り丸太たちとは少し風合いの違うこちらの丸太。少し黒っぽく模様があって、渋かっこいいですね~
こちらはさび丸太といって、梅雨の雨や冬の雪、そしてなんと!カビによって作られるんです。
カビというと良くないように感じますが、そのおかげでこんな雰囲気のある仕上がりになるのか!と驚きました。
このさび丸太に多く用いられるのが、能登ひばと呼ばれる石川県能登地方のひばの丸太。震災の影響で減少してしまっているそうで、その希少価値に拍車がかかっています。
またこの丸太、茶道でよく利用されているそう。写真のさび丸太は、桧で作られたもの。
さて、このエリア最後です!数ある丸太の中でひときわ異彩を放っていたこの丸太。
木の中に、木?
こちらはヒノキで、芯の部分だけ残った芯(じん)と呼ばれる丸太。
天候など何等かの原因によって周りが腐ってしまい、芯だけ残るのだそう。生命力の象徴として、知る人ぞ知る銘木です。
ちなみに現在この「桧の芯」は、アメリカの有名なファッションブランドに活用されているそうです。
え!あの店で?と思ってしまいましたが、主にディスプレイに使用されているそうです。
「隙間の部分にサンダルを並べるディスプレイがされていて、取り合わせの面白さを感じます。」と典子さん。まさに、適材適所ですね。
まさかそんな有名ブランドとも取引されているとは...世界にも認められているのか!と感じた瞬間でした。
さて、次のエリアは加工場。入った瞬間、木の香りが全身を包みます。


本当にいい香り!

カンナで削った木と、まだ何もしていない銘木を触らせてもらいました。
削っていない方はザラザラ、削った方はスベスベで、質感が全然違います。
こちらはひばの木だそうで、どことなくひんやり。ただ冬だからというのもありますが、ひのきやひばは冷たいのが特徴だそうです。
一方、スギやキリはあたたかく、やわらかいのが特徴。
床材をあつらえる際、傷がつきやすいからと避けられがちですが、断然スギがおすすめ!と典子さん激推し。
「傷は歴史の象徴。その変化を楽しむことが、その姿をさらし、たちがれていく【わびさび】ということなんです。」
たくさんのものを大量生産、大量消費するこの昨今ですが、ひとつのものと長い時間過ごすことを大事にしていきたいなぁと感じた瞬間でした。
伝道師はあなた!木の文化を未来に繋げるには?
最後は、参加者の皆さんと典子さんとの座談会。

いろいろな感想や質問が飛び交います。

将来の仕事の参考にしてもらうことを目的とした今回のイベント。
「建築を学んでいて興味がある」、「大学で伝統産業について学んでいる」、「留学をきっかけに日本の文化をもっと知りたいと思った」、「仕事で福祉系の住宅改修に関わるなかで担い手不足の危機感を感じる」など、理由は様々ですが、もっと知りたいという意欲は参加者みんなに共通する想いだったように感じます。

そんな参加者の話を聞いて、「伝統工芸に興味があっても、どう関わっていったらよいかわからず、一般的な就活の流れに身をまかせてしまうことが多いのだと思います。」と典子さんは話します。
私も就活を経験したので、これには激しく同意。他の参加者にも同じような方が。
そんな中、伝統産業をいかに未来につなげるかを考え千本銘木商会さんが始めたのがインターンシップ制度でした。
インターンシップ後はそれぞれ思い思いの道に進むそうですが、歴代インターン生のグループチャットがあったり、情報共有がされていたりするそうです。
木の文化を支えるコミュニティができていて、またそれが順々に広がり未来につながっていくんだなと、インターンシップ制度の意義を身にしみて感じます。
「元インターン生の中で、僕が典子さんの意思を引き継ぎます!と言って色々と活動している子もいて、私はウイルスみたいなものなんです(笑)」と典子さん。
ウイルス?と思われるかもしれませんが、典子さんの魅力的な人柄には納得するものがありました。私も帰ってから、何人の人に銘木の話をしたことか...。
いまこの記事を読んでいるあなたも、もうウイルスにかかっているかもしれません。

参加者のみなさんもいい笑顔!
終わったあと、インターンに興味がある!もっとお話が聞きたい!と個別で典子さんとお話する姿もちらほら...


こちらはお土産にいただいた、木のかんな屑。お風呂に入れてほっこり香りを楽しみました♪
「床の間づくり」を軸に、木の文化を未来につなげようと取り組む千本銘木商会。作り手と直接関わらせていただき、銘木の魅力を存分に知り、体感することができました。
それと同時に、伝統産業のこれからのあり方や自分の将来について考えたり、とにかく行動してみるのが大切なのかも!と鼓舞されたりする機会にもなりました。
興味のある方は、ぜひ一度千本銘木商会に行ってお話を聞いてみてください。
木の伝道師への道が待っているかもしれませんよ…!
典子さん、改めて貴重なお話と時間を本当にありがとうございました!

京都ものづくり見学プログラム
「HELLO! KOUGEI FACTORY TOUR & WORKSHOP」
開催日:2024年1月14日(火) 、1月15日(水)
主催:京都府、京都府雇用創造推進協議会、京都リサーチパーク(株)
運営サポート:しゃかいか!
株式会社 千本銘木商会
〒604-8871 京都市中京区壬生朱雀町34番地
Web:https://kyoto-suya.co.jp/senbon/home.html
Text :渡辺史香 Photo:市岡祐次郎 Edit:前田恵莉
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