自分たちの言葉とお店で、ものづくりの物語を伝える。
結果にこだわるデザイナー 堀内康広さん インタビュー 〈前編〉

店舗外観

「ものづくりにたずさわる人」や「ものづくりを応援する人たち」にお会いし、お話を聞いていく、しゃかいか!インタビュー。
今回お話を聞くのはデザイナーの堀内康広(ほりうち やすひろ)さんです。

hibi_image

堀内さんはマッチのように擦って着火させるお香「hibi(ひび)」や、江戸時代から続く播州織に新たな魅力を付け加えたアパレル「iRoDoRi(イロドリ)」を展開するなど、兵庫の地場産業に寄り添いながら、その価値や魅力を国内・海外に発信しています。

店内側面

お話を聞くのは堀内さんのオフィス兼ストア「TRUNK DESIGN(トランクデザイン)」。神戸市垂水区の海へと降りていく商大筋という坂道の途中にあります。おしゃれな町の雑貨屋さんといったたたずまい。立ち止まってのぞきたくなるガラス張りの店内で、心地良さそうな空間です。

お店の中には雑貨を中心にたくさんの商品が並んでいます。手にとって「これ何ですか?」と尋ねてみたくなる。

店主の堀内さん

「コーヒーを飲みながらお話しましょう」と堀内さん。インタビューがスタートしました。

しゃかいか!とは、実はこれまでにいろんな現場で何度もお会いしていて「はじめまして」でないのですが、改めて堀内さんがデザインに携わることなった理由やきっかけを教えてください。

生まれたのは神戸市灘区で幼少期にここ垂水区に越してきて育ちました。デザイナーを目指すようになったのは中学生のとき。映画が大好きで今でもナンバー1なのが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。その映画に出てくるデロリアンという車がとてもかっこよくて、そのプラモデルを作りそれから車のデザイや工業デザインに興味を持ちはじめました。今でこそグラフィックやパッケージなんかいろんな分野があるけど、単純に「デザイナーになりたい!」そんな感じの中学一年生でした。絵を描くのは好きだったし、その頃からレタリングが抜群にうまかった(笑)。「壁新聞のタイトル文字を俺に任せろ!」みたいな感じで、ロゴマークを作ったりタイポグラフィが好きになる原点だったのかもしれません。

高校を卒業してデザインの専門学校を経て、10人くらいの規模の印刷会社にデザイナーとして入社しました。「将来30歳くらいになったら独立しよう」という野望を持ちながら、社長がどうやってお金を稼いでいるのかを学び盗むために、誰よりも早く出社して掃除をし、誰よりも遅く帰る...。デザイナーをしながら、生産管理、在庫管理の見直し、スタッフのスケジュール管理などなど4年間、深夜まで働いて朝からまた出社する、といった生活を続けました。今でいうブラックな働き方でした(笑)。その会社でひと通り学び終わったし、会社の規模も大きくなって自分の役割も終えたかな、ということで、同じくらいの規模の会社に転職しました。この二つ目の会社は午後5時15分にはみんなきっちり終わる。5時20分にはジョッキ持って乾杯!のように、全く真逆のホワイトで(笑)。24歳当時の僕はエネルギーを持て余してしまうわけです。そこで、あり余った夜の時間をデザインワークに充てることにしました。

TRUNKDESIGN看板

ものづくりの背景を伝える、店で自分たちの言葉で伝える、それがとても大切

最初の仕事は、家具やインテリアの広告です。六甲アイランドの家具ばかりが集積されたショッピングモールの仕事を紹介してもらって、広告をプレゼンテーションしたら採用され、年間計画で販促企画とデザインを担当することになりました。その広告を見た同じモールに出店している大手百貨店の家具部門の広告も担当することになり、個人のデザイン仕事が中心となり、26歳で独立しました。年間4回広告を打つので、春夏秋冬と2ヶ月くらいガッツリ制作をやって、ひと月休むことを繰り返す。独立したばかりで超大変。だけど、その当時が一番儲かったかも(笑)。

当時からこのガラス張りのスタイルの路面店の事務所兼店舗を構えてたのですが、広告をずっとやっていく中で、デザインって何かを伝えるための仕事だと思っていたから、マスに対してバラまく広告は自分たちの店とはなんだか逆だな、という思いが生まれてきました。自分たちが見本市に出店したり、店でモノを売りながら思っていることは、世の中こんなにもモノで溢れてて豊かな時代なのに、新しいものってこれ以上要るのかな、ということ。資本主義ど真ん中みたいなビジネスモデルパターンにすごく違和感が生まれました。だったら、作り手の人たちとか、数は多くなくてもクライアントといい付き合いをしていく。人間らしい伝え方のほうが自分にとって良いな、と思いました。1対1で接客するお店の方が熱量の伝わり方が違うんです。ものづくりのスタイルや背景を伝える、自分たちの言葉で伝える、それがとても大切だと思っています。
この事務所兼お店という場をずっと持ち続けている理由も、そういうところにあるのかもしれません。

スペース

そんな思いを持ちはじめた時に出会ったのが「神戸マッチ」という会社です。きっかけはうちの嫁の父ちゃんです。義父は印刷機材を販売する商社に勤めていて、マッチのラベルをテスト印刷したサンプルを家にたまたま持って帰ってきてたんです。そのレトロなマッチ箱を見たときに「世界最小のキャンパスに対してすごいいろんなストーリーが込められてて、すごいな」と感じました。それで「何かこれを使ってできないかな」と思い、そのテスト用の校正紙を一枚もらって、マッチ箱ではないいろんな商品サンプルを作ったみたんです。それが現在の「レトロマッチ」シリーズのはじまりです。

神戸マッチイメージ

2日後に、作ったサンプルを持って神戸マッチさんに会いに行きたいから、アポとってほしい、と義父にお願いをしました。その後、神戸マッチの当時専務だった嵯峨山さんにお会いして「マッチに火をつける文化や行為、その良さを伝えてみてはどうか?」という話をしました。火をつける道具としてだけじゃなくてパッケージのコレクションのような視点で、マッチの魅力を発信していけるようなブランドを一緒にやりたい、という話を4時間くらいして、即決。
「やりたい、一緒にやりましょう!」ということになりました。

いろんなラベルの資料が何万と残っている中から絵柄をチョイスしていって、例えば猫だけ・ゾウだけを見つけシリーズ化したり。そんな風に視点を変えることで、今まで値段を叩かれて12個入りパックがホームセンターで200円だったのを、これからは5個パックで650円にしてセレクトショップに販売して行こう!と。しかも工場内でやっている作業は何も変えずに、ターゲット・販売先・伝え方を変える。ラベルをそのままTシャツの柄にしてオマケで一個マッチをつけて販売したり、いろんな可能性を一緒に探っていきました。 セレクトショップで取り扱ってもらうこともできて、このマッチ箱のデザインをあしらったTシャツがめっちゃ売れたんです。

その時から、デザインをして一緒に売るというスタイルを確立してきたような気がします。

神戸マッチ

工場に通うからこそ見つかる。現場の人が捨ててしまうようなものでも、僕らからすると超宝物の可能性もある

その後社長になった嵯峨山さんとは他にも一緒にたくさんチャレンジしました。伊藤園さんの茶殻のリサイクルシステムに参加して「おーいお茶」の製造後の茶殻でマッチを作りました。
打ち合わせで飲み終わったお茶の葉っぱを乾燥させて粉末にして自分で練りこむという実験した結果、採用され茶殻入りのマッチができました。他にも兵庫県に本社のあるストーブメーカーに連絡して一緒に営業活動。ストーブとマッチをコラボする提案をしたり。ストーブに火をつけるのもチャッカマンよりもマッチの方が風情があるんじゃない?という、今でいう「暮らし方」みたいな視点です。ライターじゃなくてなぜマッチなのか?というところを突き詰めて考えて、仏壇にろうそくつける行為や「バースデーキャンドルもマッチの方が気持ちがこもっている」など、長い軸の専用マッチをもっと販売しよう提案してみたり。長い軸のマッチはあまり知られていませんが以前から普通に存在していて、工場の人たちにとっては当たり前。でも、僕らは見たことない。この長い軸のマッチをもっと世の中に出していきましょう!と。お金もかけずに商品化できてしまう、工場に通うからこそいろんな宝物が見つかります。
はじめて行く工場ではそんな視点で、現場の人が捨てるようなものでも、僕らからすると超宝物の可能性もあるし、そんなことをやりつつ2015年に生まれたのが「hibi(ひび)」という商品です。

このhibiは「マッチのように擦って着火させるお香」という商品開発のアイデアでは必ずといっていいほど出てくるアイデアで、播磨のマッチと淡路島のお香という兵庫県の二つのエリアの地場産業のコラボによって生まれた商品です。初めて見せてもらったサンプル品は頭デッカチのマッチにめちゃくちゃ太い軸、「ダセー、これじゃダメだ」みたいな(笑)。そこから、いかにマッチに見せていくか、香りの選定、燃え方のテスト、一つの箱に収まるように、といったようにいろんな角度からブラッシュアップしていきました。苦労したのが「いかに折れずに強度を持たせられるか」という問題。マッチは軸が木なので折れしまっても木に含まれる繊維がつながって折れにくい、でもお香だけの軸だとパーンと割れちゃう。もし火をつけた時に割れて火の玉が飛んでしまうと、安全面で問題になるので必ず解決しなければならない。この問題はお香の繊維の中に紙の繊維を練りこんで割れを防ぐ方法で解決することができました。他にも、ナチュラルなアロマにしたいから、パラフィンではなく天然原料の蜜ろうを使いたいとか。香りも何回もテストしないといけない、スタッフ総出で毎月香りのテスト...などで結局3年半という開発期間を費やしました。

マッチもお香もイメージはお線香...。仏壇仏具、あまりいいイメージはない、フレグランスとかアロマとかそのイメージにふりたい。日常的に火をつけるというその行為の回数を圧倒的に増やすためにはどうするのか?1日1本でいいから香りを楽しむために使って欲しいという願いと“everyday”という意味を込めて「hibi=日々」というネーミングにしました。デビューしてから1年目には東京のギフトショー、フランスのメゾンエオブジェに出展し、日本だけではなく海外とのつながりも生まれました。4年目に入りましたが、海外26カ国で取り扱ってもらっていて、現在では数億円規模のビジネスに成長しています。

hibi05

広告から地場産業にシフトしていくきっかけになったのが姫路のマッチと淡路島のお香だったんですね。

お店でマッチを手に取ってくれたお客さんとお話していると「実はマッチは姫路で、お香は淡路島の地場産業なんですよ」という話になっていきます。マッチの工場のある太子町をはじめとした姫路エリアがマッチの国内生産の8割を担っていて、もとは神戸の港から輸出されるので立地的に条件が良いからマッチが産業として発展したんだ。お香ももともと大阪の堺で作っていたのだけど、その原料を運んできた船が入港待ちしているうちに淡路島の西側を吹き抜ける風などの気候の条件が線香作りに適していることがわかった、結果的に淡路島がお香の産地として根づいてしまった。そういった話をしていると同じ兵庫県の人でも「そうなんだ知らなかった、へぇ〜」となります。そういったことを伝えられるのがお店の役割であり良さですね。

播州織のシャツ

このシャツは西脇市の播州織の職人さんと一緒に作ったシャツです。
播州織は実は世界的に誰もが知っているブランドの生地を織っているのですが、ある職人から「俺らは世界に通用するいい生地を作ってる、でもデザインができない。やはりOEMの産地で仕様書があってこその自分たち。自ら発信でモノを作るアイデアがないしデザインする能力がないから、そこ手伝って欲しい」というお話をいただきました。
はじめ僕は「テキスタイルデザイナーじゃないんだけどな」と思いましたが、昔からシャツが大好きで一回やってみるか!と、柄をプリントアウトしたアイデアを持っていって、こんな感じの生地を織ってくれませんか、とその職人さんにお願いしました。そのサンプルで作ってもらった生地がめちゃめちゃ面白くて!

播州織_シャツ

立体的にドットが入ってる生地なんですけど、実は立体的になっているのは生地の裏側なんです。ドットを表現する生地の裏がどうしてもあんな風になってしまう、って職人さんには言われたけど「裏がおもろいやん!」ということになって、知り合いのパタンナーにお願いしてシャツを作りはじめ、アパレルブランドが生まれました。それが「iRoDoRi(イロドリ)」です。仕上げたシャツをはじめて見た職人さんは「それ裏やぞ!間違ってるぞ」って(笑)。ファッションはルールや流通が複雑で大変なんですけど、新参者だからこそ職人さんや現場の人が気がつかないところに着目できる...「あなたたち作り手の当たり前は、みんなの当たり前じゃないよ」ということを実感することができました。

その職人さんの生地を織る機械は「ジャガード」というんですけど、一番コストがかかるのは、糸を変える時なんです。縦糸が1000何本あってミシンと一緒で針で一個一個糸を通していかないといけない、専門の内職のおばちゃんがいているわけ。「色変え」ってめちゃめちゃ大変で、だから大量ロットでないと割りが合わないっていうのが、この仕事です。この事情を逆手にとって他の生地を織った後に僕の柄を20mだけ入れてってお願いすることにしました。20mはシャツでいうと10枚取れるかどうかというくらい少量です。しかし、時には奇跡的な配色パターンもできたり、職人さんが横糸にラメを入れてみたりとか、いろんなトライをしてくれます。ドット柄というルールは作るけど配色は職人におまかせで。

播州織のタビ

全部ではなく、その人と一緒に作ったからこそ、自分の想像を超えたものが生まれる

常に感じるのは僕がデザインを100%やってしまうと、誰とやってもあんまり変わらないじゃん、ということ。その人らしさ、その人やメーカーと一緒にやったからからこそ、生まれたっていうのがとても大事だと思っています。だからルールは作るけど配色は任せるとか生地の風合いはお任せしますとか、「そこは考えてよ」と言うようにしています。そうすると自分の想像を超えるものが上がってくるんですよ。自分が全て設計しちゃうと自分の想像の範囲内のものしか作れないけど、その想像を超えたものが生まれるっていうのは、その余白にこそあると考えています。

播州織_パンツ

同じ播州織の産地でも違うコンセプトのアパレルブランドが「megulu(メグル)」です。播州織では伝統的に産元さんといわれる問屋さんがブランドやメーカーから仕事を受け「この原料を仕入れて、織りはここの機屋に発注する」というように、産元さんが組織を全部作って発注する、といった商習慣になっています。そんな役割の産元さんの倉庫に連れて行ってもらって、たくさんの眠れるサンプルやデッドストックの生地を見せてもらいました。
「これを何かに活用してくれないやろか」という相談を受けて、その眠れる生地に形やデザインをプラスする。それでいろんな人々の生活の中に巡っていくんじゃないかということで、「megulu(メグル)」という名前にもつながるコンセプトが生まれました。循環していくという意味合いを込めたブランドを作るぞ!訪問する度に厚手、薄手さまざまな生地を持ち帰って、帆布の生地だったらトートバックにしよう。その後知り合いのバッグのデザインをして縫製会社にお願いしたりとか。実は僕が今履いているパンツも「この生地どうしようか、いっぱい余ってて」ということで作ったものです。

デザインフィーをもらわない代わりに、僕らが販売することでお金を稼いでいく

通常のデザイン会社としてのスタンスだと、デザインを依頼されたら依頼元にデザインフィーを請求するのが通常なんですが、このmeguluではデザインの版権は僕らが持ちながら生地を発注し、逆に僕らが生地の代金をお支払いするという流れにしています。デザインフィーをもらうBtoBのやりとりじゃなくて、僕らが製品化して僕らのお店で販売して、カスタマーからお金を稼いでいくっていうやり方。お金をもらう方向を変えるという、結構ややこしい話ですね(笑)。メーカーに請求してもお金もらえないのならば、彼らはものづくりをして、僕らは販売をしてそっちで稼いでいく。
僕らが店舗を持ってイベントに出て出店して物を売ることもできる。マーケットの感覚をわかってないといけなかったり、流通とつながっているからこそ実現できた仕組みです。

「デザインフィーをもらわずに、コンセプトに基づいて製品化し、半製品を仕入れ自分たちで販売する」というこのスタイルは、この「Ku(クゥ)」というお香でも採用しています。お香メーカーさんが手漉き和紙のお香を開発した板状のお香のシートを商品化するというプロジェクトです。

Kuパッケージ

香りを付着させる技術はこれまでもありましたが、香料を混ぜ込んで作るっていう技術で製造特許をとっています。香りを付着させるのではないから、実はめちゃくちゃ手間がかかるんです。一度スティック状のお香にして、燃えるのを促進する材料などを混ぜ込みます。乾麺と基本的に一緒なんです。水に原料を混ぜて粘土状の塊を作って、押して穴が空いてるところにムニューって出てきてそれを乾燥させる。着色してないスティック状のものを作ってそこから石臼で粉に戻すんです。粉だったものをまた粉に戻す作業をするんです。「そもそもその材料のままでよかったんじゃん」ってみんな思うんですけど、それじゃうまく燃えない。一度完成したお香まで行ったのにわざわざ石臼で引いて粉にして、手すき和紙の材料の中に水に溶かしてミックスする、それをさら乾燥させるのですごく手間がかかっています。B4サイズになったお香シートを「堀内さん、こんな製品作ったんだけど、ここから商品化すること売って行くことは得意ではないのでTRUNKさんお願いします」って。いろんなプロトタイプを作って最終的に僕がフリーハンドで描いたこの葉っぱで切り抜くという製品になったんですが、葉っぱだからちぎって燃やす、火をつけなくても香るのでちぎった葉っぱを財布や名刺入れとかに入れて使うこともできます。この葉っぱのお香の「Ku(クゥ)」は、僕らが原紙をお香メーカーから購入して自社で加工する。そして内職さんに出してパッケージング、最終的にウチのスタッフが検品して店頭に出したり、国内のセレクトショップとか海外のショップさんにTRUNK DESIGNから卸しています。

Kuのシート

同じ和紙を使ったお香でスティックタイプのものは「Daily(デイリー)」といいます。毎日使ってね、という意味ともう一つ...「工場で毎日作られているものを特別にデザインすることなく商品化して世の中に出していく」という意味も名前に含まれています。

ホームセンターで売られているようなすごい量で安いお香を作るのに慣れているお香メーカーさんに「パッケージリニューアルして売っていきませんか」って言ってもなかなか動くことはありません。じゃあもう自分たちでブランド持ってしまう、プライベートブランドにしてしまったんです。

僕らで箱だけを設計して、箱屋さんに作ってもらったパッケージをパターンにして、工場に送っちゃうんです。中身は工場の中に山ほどあるんで、僕らは在庫を持つことなく工場にオーダーして例えば30個ずつ箱詰めしてもらう。あとは僕らが内職でシール貼ったり最終製品にして卸します。何千個何万個の在庫を持つというリスクを負うことなく一つのブランドを持つことができる、というやり方をしています。お香メーカーさんとの信頼関係もあって「TRUNKで在庫を持たなくていいよ、うちで持っとくよ」と言ってくれるので、そういった点でもメーカーさんと伴走している感じですね。

Daily

オリジナルブランドを作って半製品を仕入れて自分たちで売る、ってすごいですね。

自社ブランドの他にも今はOEMもやってて、その窓口も僕らで担当しています。ノベルティ会社などいろんなところから引き合いをいただいています。葉の形さえ同じでなければいいですよ、という条件で供給しています。ロンドンのアロマキャンドルのメーカー、海外の自動車会社のプロモーションで使いたいノベルティ会社などいろんなところから連絡がきます。来客や成約プレゼントイベントで何千個配る、みたいな見積もり依頼も来ていたり。OEMだけでも大きな売り上げを生んでいます。お香のシートをごっそり買い取って加工に出して検品してお送りします。
メーカーが動けないことをこちらはで腹をくくって動く。得意不得意があるのでちゃんと役割分担する、メーカーは作ることに集中する。PRや販売、やりとりは僕らの方が得意なのでやってしまいます。

王地山焼

伝統って何だろう?ってことをよく考えて技法と色・サイズを絞り込み、魅力がきちんと伝わる製品に

この器は「王地山焼(おうじやまやき)」といって、篠山市役所さんから伝統的な磁器を守っていこうというご依頼です。
なかなか売れないから篠山市も困っていると、だからプロデュースしてほしいということでした。まずは職人さんとの関係性作りっていうのがすごく大事なので毎月通いながらミーティングして、一年間かけて商品開発を行いました。王地山焼は、素焼きしたものをちょっと変わった形のカンナのような道具で丸く削っていって「鎬(しのぎ)」というのを出していく。色は「染付け」といって白磁を作って有田焼などでも使われる釉薬を着色して焼く、他にも青磁という緑や青白磁といううすい緑もあり、伝統的な釉薬を使用します...という技法で作られる磁器です。

しかし、はじめて王地山焼の器を見せてもらったときに僕らの世代がこのお皿を買いたくなりますか、というお話をしました。これが家にある生活に憧れますか?憧れませんよね、と。「伝統的なものを復刻するのは今までも事業としてやり続けてください。しかし、これから売れていく、売っていくものを世の中に広げていくためには、今までと同じではとダメだ」ということをネガティブではなく、価値を届けるためにまず伝えました。

喋る堀内さん_tarumi

その時、王地山焼の過去3年間の売上も全部出してもらったんです。どういう時期にどういうものが売れてるかというデータを全て洗い出してもらって、だいぶ苦労されていましたが原価率などの計算も自分たちで全部やってもらいました。原価計算の表もフォーマットを作ってお渡しして、製作時間や材料費、グラム数から何から何まで全部出して販売価格を決めるっていうことをやりました。その結果、職人さんが「あぁ、これ作ってたけど売れば売るほど赤字やん」みたいなこともその場で実感してもらうこともできました。

予算の話もしたのですが、指定管理ということもあり年間の使える予算もすでに決まっていて、ふたを開けてみるとPR予算もわずかで。プロダクトデザインやパンフレット、ウェブサイトを作って、展示会。全く予算のない状態で、進められるかどうか...困ったな、みたいな。でも、僕、器が昔から超好きなんです(笑)。

器のコレクションも家に山ほどあって、いつかそんなのも作れたらいいな、という思いもあったので、「じゃあ予算なくてもやりましょう!」ということにしました。しかし、その代わり完全ロイヤリティ制にしましょう、と。イニシャルでもらうかランニングでもらうかという違いだけ。結果、100%ランニング契約にしました。

元々のオリジナルの昔から作ってるやつを見ながら職人さんに話を聞いていくと、みんな絵を描くのが得意じゃない、と。完成品として絵柄によって左右されるから、じゃあ絵はナシでいいやん、無地でいきましょうと。絵の品質によって売れる売れないが決まるから、じゃあ無地で行きましょう、ということにしました。でも「伝統って何だろう」ってことをよく考えて、器のベースとなる形はそのまま使っているものもあります。用途が限定されるしコストがかかるから持ち手は要らないね、など無駄なものは省くこともありますが。鎬・面取りの技法を継承しながら、色も白磁、青磁、青白磁の3色、3つの技法と3つの色に絞りました。同じ白のカップでも技法違いがある、色違いがある、同じ形で9種類並ぶ。ですからデビュー当初からSKUがなんと81もある(笑)、バリエーションが多いんですが、技法と伝統的釉薬をちゃんと伝えるプロダクトにしたかったんです。

王地山焼_斜め

お皿のサイズをちゃんと4サイズ揃えたり、飯碗、ボウル、スープボウルがあったり、ボウルもちゃんとインスタントラーメン一杯がちょうどはいる容量にしたり...。容量計算をやって、実用途を整理していきました。陶芸家さんはお茶碗を大小二つの夫婦で作っています。でもその中間を狙って一つでいいんじゃないか、女性も男性も同じサイズでいい。でも、小さ過ぎず大き過ぎず重過ぎず、というところを狙って作りました。

売れるか売れないかわからないですけどお金もらいます、っていうのに違和感があったんです

デビューして一年目はそんなに売上としてはなかったんです、正直、思ってたより売れなくて。しかし、今年の2月に「ててて見本市」に出展してから超ブレイクしつつあります。
先月の一ヶ月の注文だけで、去年一年分の注文を超えました。セレクトショップさんからオーダーも入ったりして、大量注文をいろんなところからもらっていて、今でも最短の納品で、受注分は数ヶ月待ってもらって納品、現場がてんやわんやな状況です。
販売元をTRUNK DESIGNに、製造元を王地山陶器所という分担にして、王地山焼というこのシリーズは、うちで受注管理・生産管理・在庫管理を全てやっています。売れてるバリエーションの構成比、どういう色が売れてるか、全部出してたりだとか、という全部データを取ってます。海外、香港だったらどう変わるか、台湾だったらどうだったとか、日本市場と比べてみたデータも取りつつ、販売先の国によってチョイスを変えながら自分たちで販売しています。

デザインをやってて「売れるか売れないかわからないですけどお金もらいます」っていうのに違和感があったんです。じゃあそれ分は確実に自分たちで売らないと、そこにコミットしないと、という思いが昔からありました。

プロダクトを作ってモノを売る、他にも観光施設のプロデュースをされていますね。

兵庫県たつの市にもともとある醤油蔵だったスペースを観光施設にするというのを、たつの市役所さんと一緒にやりました。「KURA TERRACE TATSUNO(クラテラスたつの)」という施設です。たつの市は「ヒガシマル醤油」をはじめ淡口醤油の産地で、そうめんの「揖保乃糸」、皮なめし「龍野レザー」の産地です。

KURA TERRACE TATSUNO外観

加えて地元の食材。海があるので地元の牡蠣や、農産物も。皮なめしがあるってことは牛の屠殺場がありますから新鮮な牛肉やホルモンもある。肉、野菜、魚介が豊富にある。そういう土地柄をちゃんと発信していくカフェに加えて、3つの地場産業の商品がちゃんとあるストアが施設にあります。皮をつかった小物を作ったり、発酵の町なので麹屋さんがあったり。なので、味噌やマイ醤油を作るワークショップや体験できるコーナーもあります。醤油を使って地元のおばちゃんたちと一緒に、佃煮などの商品開発をしていく。外に売って外貨を稼ぐようなことをやっていく。地場産業の商品を売る場所、カフェ、体験やワークショップ、地元の人との交流と4つのコンセプトがあります。
この醤油蔵を内装のデザインからカフェのメニュー開発、商品セレクトみたいなところをTRUNK DESIGNで1年半くらいかけて進めました。完成後も3カ月間ここの運営に携わり、発注・在庫管理システム、スタッフオペレーション、ユニフォームなど全部作成し、そしてこのパッケージごと地元のNPOにごそっとお渡ししました。もちろんプレスリリース打つなどのPR活動も担当しました。

さまざまなプロジェクトの取り組みをご紹介いただいた今回のインタビュー。次回は塩屋にあるカフェ&ストアの「TRUNK DESIGN SHIOYA」に場所を移し、堀内さんのこれからについてお話を聞きます。

プロフィール画像

堀内康広 さん

クリエイティブディレクター、デザイナー。1981年兵庫県神戸市生まれ。
2008年に独立、「TRUNK DESIGN」を設立。
数々の企業のPRや製品開発、ブランディングを手がける。
クライアントワークのほか地元神戸を拠点に、兵庫県のものづくりを紹介する「Hyogo craft」の活動、自らのブランド製品の開発から販売、地域の場づくりなどさまざまなプロジェクトに参加。多くのヒトと交流しながら地域や企業、製品の新しい価値を創造している。
海がないところでは暮らす自信がないほど、海の見えるこの環境から元気をもらっている。愛車はVWカラベル・ビートルとハーレー883スポーツスター。
URL: https://trunkdesign-web.com/

【詳細情報】

TRUNK DESIGN INC. / トランクデザイン株式会社

住所:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町11-10
電話番号:078-708-0661
URL:https://trunkdesign-web.com/

TRUNK DESIGN KOBE SHIOYA /塩屋 カフェ&ストア

住所:兵庫県神戸市垂水区塩屋町3-14-25 2F
電話番号:078-797-4940

TRUNK DESIGN ONLINE STORE

URL:https://trunkdesign.stores.jp/

有限会社グラミックプロセス

住所:兵庫県神戸市兵庫区三川口町1-3-8
電話番号:078-651-2085
URL:http://www.gramic.co.jp

(text:西村 photo:加藤 ※一部の写真はTRUNK DESIGNさん提供)

関連するキーワード

最新インタビュー

最新訪問ブログ

インタビュー一覧へもどる