「組む」技術は、宇宙からアニメまで。職人・内職・企画がワンチームで挑む、昇苑くみひもの現場力【HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム】

こんにちは!「しゃかいか!」編集部の小倉ちあきです。

皆さんは映画『君の名は。』で注目された「組紐(くみひも)」、覚えていますか?「おばあちゃんが静かに組んでいる伝統的な紐……」というイメージがあるかもしれませんが、実は今、組紐は最先端の宇宙開発や医療、そして人気アニメのグッズまで、縦横無尽に世界を広げているんです。

「HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」は、伝統産業に興味のある学生や若者と実際の現場へ行き、リアルな職人仕事や最先端の取り組みを身近に学ぶことができるプロジェクトです。2026年1月21日・22日の2日間にわたって開催されました。 前回に引き続きレポートするのは、京都・宇治に拠点を構える「有限会社昇苑くみひも」さん。新しい発見ばかりだった現場見学と、「これからの働き方」を語り合った座談会の様子をレポートします!

【13:00】集合!「組紐」をひも解く言葉たち

京都・宇治。抹茶の香りに包まれた街を歩き、辿り着いたのは路地裏にある「昇苑くみひも」のショップ兼工房です。店内には帯飾りや帯紐、名刺入れなどさまざまな商品が並んでいます。

2階の作業場で、まずは、昇苑くみひも・企画・営業担当の八田俊さんから組紐のキホンを教わります。

「皆さんは、紐(ひも)と縄(なわ)の違い、分かりますか?」

八田さんのそんな問いかけからレクチャーはスタート。「組紐は、3本以上の糸束を交差させて作る技術のこと。3つ編みは正式には『3つ組』と言います。実は、僕たちの生活の中には紐にまつわる言葉が溢れているんですよ。『糸口をつかむ』『縄張り』『緊張』……。これらはすべて、紐が古くから日本人の生活に密接だった証拠です」

その歴史はなんと縄文時代まで遡るのだそう。「聖徳太子の肖像画を見ても、腰から組紐を下げています。斜めに糸が交差する独特の矢羽根柄は、組紐ならではの表情。奈良時代に仏教とともに伝来して、その後は侍の刀や鎧を繋ぎ止める『武具』として、そして江戸時代以降は『着物の帯締め』として、時代に合わせてその役割を変えながら生き残ってきました」

歴史に続いては、昇苑くみひもさんの今についてのお話。

驚いたのは、現在の守備範囲の広さです!和装の帯締めはもちろん、最近では大阪・関西万博の公式グッズ(ミャクミャクのストラップ)や、そんな伝統と最新が重なり合う工房に、早速行ってみることに。

【14:00】職人の技術が光る、機械組と商品加工

紐が生み出される現場として、「加工場(かこうば)」と、「工場(こうば)」での機械組みという、2つの異なる様子を見学しました。

工房に一歩足を踏み入れると、黙々と糸に向き合う職人さんの姿が。丁寧な手作業によって紐が加工されていきます。

ストラップから念珠や扇子のふさ、神社の衣装(神職・巫女装束)に施される組紐まで、皆さんの手から生み出される商品は、大きさも種類もまちまち。

職人になるときは、誰でもまず、紐を締めて結ぶ「くくる」作業からスタートするそう。基本を抑えると徐々にいろんな手法を覚えていきます。作業は基本的に分業性。パーツパーツを組み合わせて一つに仕上げることもあれば、1人が最後まで全部仕上げることもあるそうです。

昇苑くみひもさんでは、宇治市内に住む約50名の「内職さん」と協力体制を築き、パーツづくりから最終一つの商品に仕上げる工程までを完結させるシステムを作っています。

続いて訪れた機械工房は、圧巻の迫力!50台以上の機械がガシャガシャと音を立てながら動いています。驚くことに、これらのほとんどが、たった2台のモーターから床下のシャフトを伝って動いている「からくり仕掛け」

組紐作りの第一歩は、作る紐の太さと長さに合わせて必要な糸を準備するところから。何本の糸を1束にするか、その束をいくつ作るかを計算し、必要な分の糸を長さを計りながら枠に巻き取っていきます。レバーを1回転させると、4メートルの糸をまとめられるそう。今は30本の糸を1つにしているところです。

これは、機械組用のボビンへ糸を移す「木管巻き」。糸の状態や長さに合わせた細やかな調整が必要なため、手作業で行われます。これは糸の崩れを防ぎ、その後の組み上げ工程を完璧に進めるための大切なひと手間です。

工房の端には、シルクの染色場やタッセル機なども。

「『注文に合わせて機械をカスタマイズする』のが僕たちの仕事。糸の太さや色、重りのバランスを毎回微調整します。工業的な量産というより、工芸的な運用です」と八田さん。

(※詳しい工場の様子は、こちらの記事をご覧ください!)

工場の説明してくださった社員の保木本さんも、実験的にスマホストラップを自作して使っているそう。「耐久性があるかや使い難くないかどうか、まずは自分で作ってみて使っているんです。そういうことは結構社内で行われていますよ。組紐で何ができそうか、何かアイデアあったらください!」と話されていました。

最新のアニメグッズや万博の公式ストラップも、この「手仕事」と「機械」のハイブリッドな体制、そしてスタッフや職人さんのチャレンジ精神があるからこそ、高いクオリティと多様な商品ラインナップが実現できるのだと知りました。

【15:10】座談会:伝統工芸で「はたらく」のリアルを語り合う

見学の後は、今回のイベントの主催企業である京都リサーチパークの野口卓海さんがファシリテーターとなり、八田さんを囲んでの意見交換会。京都リサーチパークは、京都の伝統工芸の現場と、そこで働きたい若者たちを繋ぐ活動を長年続けています。

ここからが本番!ここでは、「伝統工芸×ビジネス」にまつわるストーリーが明かされました。

まず話題に上がったのは、昇苑くみひもさんの雑貨展開の歴史です。八田さんによると、今や和装の売上は全体の1〜2割程度だそう。「20年前、先代の社長が『和装だけでは会社が続かない』と決断したのが始まりでした」と八田さんは振り返ります。当時はガラケー全盛期。そこで開発した携帯ストラップが爆発的にヒットし、ヨドバシカメラやセレクトショップへと販路が広がりました。

「でも、単に流行に乗ったわけではありません。組紐が『工芸品』として美しく見えるよう、しつらえ(パッケージ)にも徹底的にこだわりました。だからこそ、類似品が消えていく中で、私たちのストラップは今もお土産やギフトとして愛され続けているのだと思います」

「伝統を守る」とは「変化し続ける」こと。また驚いたことに、昇苑くみひもには、製品の見本帳がありません。「私たちは『紐の見本』ではなく、『糸の色見本』からスタートします。お客様の『こんな色が欲しい』に合わせて、その場で糸を選んで、必要なら自社で染めて、新しい紐を作る。この圧倒的なカスタマイズ性が、建築素材やジュエリーブランドからの信頼に繋がっています」

ここ数年は、ホテルや建築関係からの「空間を彩る資材」としての相談が急増しているそう。「紐=結ぶもの」という固定観念を捨て、一本の「素材」として捉え直すことで、新しい市場を切り拓いているんですね。

「どんな人が求められていますか?」という問いかけに対して、八田さんは「多才さ(マルチスキル)」というキーワードを挙げました。

「うちには専任のデザイナーはいません。現場で手を動かしているスタッフが、営業と相談しながら『これなら作れる』『こうすればもっと可愛くなる』とデザインも兼務します。今後は、さらにウェブ発信やネット販売に強い人材も必要。作ること、伝えること、売ること。それらが地続きになっているのが、今の昇苑くみひもの面白さだと思います

最後には、八田さんが描くこれからのビジョンについて話が展開しました。「今後は、さらに単価を上げたブランディングや、海外市場への挑戦も加速させたいです。海外ではやっぱり、『サムライの刀の紐』という説明が一番響きます(笑)。日本の『結ぶ文化』を、現代のライフスタイルに合わせてどう翻訳していくか。宇治という地に根を張りながら、世界を驚かせる紐を作っていきたいですね」

【16:00】見学を終えて:一本の紐が繋ぐ、新しいキャリアの形

「2日間連続参加しました。『漆』と『組紐』の現場を見学して、工芸への視野がぐんと広がりました。全く異なる2つの現場でしたが、どちらも共通していたのは、伝統を守りながらも新しい可能性を模索する柔軟な働き方でした。 今、情報学部で就職活動を控えています。いつか人生のどこかで伝統工芸やものづくりの世界に貢献したい。その思いが、この2日間で強くなりました」 
大学生

「組紐を組む」という行為の裏側には、時代の変化を読み解く感性と柔軟な思考がありました。特別な日のための紐から、毎日を楽しくするアイテムまで。そして、現場が企画も兼ねるマルチな体制によって、多様な関わり方を受け入れる土壌がある「開かれたチーム」の姿がありました。

伝統を背負いながらも、軽やかに未来へジャンプしている伝統工芸のいま。あなたもその「新しい視点」を、組紐の世界で活かしてみませんか。

京都ものづくり見学プログラム「HELLO!KOUGEI FACTORYTOUR&WORKSHOP」

開催日:2026年1月21日(水)、22日(木)

主催:京都府、京都府雇用創造推進協議会、京都リサーチパーク(株)

運営サポート:しゃかいか!

(text:小倉ちあき photo:市岡祐次郎)

今後の予定

3月11日・12日には「みやこめっせ」で開催される京都ギフトショーにて、様々な仕事で伝統工芸と関わる事業者とお話しができる「HELLO! KOUGEI」ブースを出展予定。興味がある方はぜひ遊びに来てくださいね!

 

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