漆のアップデート現場を訪ねて。合同会社COCOO×佐藤喜代松商店で見つける、伝統工芸の新しい繋ぎ方【HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム】

こんにちは。「しゃかいか!」編集部の小倉ちあきです。

皆さんは「伝統工芸」と聞いて、どんな風景を思い浮かべますか?「頑固な職人さんが一人、工房にこもって……」なんてイメージを持っているなら、ちょっともったいない!

HELLO! KOUGEI 京都ものづくり見学プログラム」は、伝統産業に興味のある学生や若者と実際の現場へ行き、リアルな職人仕事や最先端の取り組みを身近に学ぶことができるプロジェクトです。
2026年1月21日・22日の2日間にわたって開催されました。

今回私たちが訪れたのは、京都・西陣。100年続く老舗の漆屋さんの建物内に拠点を構える「合同会社COCOO(こくー)」さん。
そこで目にしたのは、最先端の科学とクリエイティブが融合した、これまでにない「伝統工芸の現場」でした。

みんなが目を輝かせた1日の様子をレポートします!

【13:00】集合!「漆=特別」の壁を壊すところから。

合同会社COCOO(こくー)のオフィス兼ギャラリーに集まったのは、美大生から一般大学の学生、フリーランスまで、バックグラウンドもバラバラなメンバー。
少し緊張した面持ちの参加者を迎えてくれたのは、COCOOの共同創業者・前田愛花さんです。

前田さんのキャリアは、実はとってもユニーク。ホテルのサービスマンや大手テーマパークのデジタルマーケティング職を経て、「漆」の世界へ飛び込みました。

「漆って、お正月のお重や高級な器のイメージですよね。でも実は、接着剤や錆止め、抗菌性もある万能な天然素材。9000年前の縄文時代からあるこの素材を、もっと日常を楽しくする道具としてアップデートしたいんです」

COCOOは、2022年に起業。事業を支えるのは、老舗との深い信頼関係です。
創業100余年の老舗漆屋「佐藤喜代松商店」とパートナーシップを締結し、なんとその工房内にオフィスを構えているのが大きな特徴です。 「老舗の圧倒的な技術力」と「スタートアップの軽やかな企画力」が同じ屋根の下で混ざり合っているのです。

職人さんとの交流が取りやすい距離で、漆の新しい用途を日々模索する。
そんな伝統の核に飛び込むようなビジネスの進め方に、参加者たちも「そんな働き方があるのか!」とワクワクした目線で見入っていました。

COCOOの事業の柱は3つ。漆の日用品ブランド展開、ワークショップ、そして佐藤喜代松商店と共同開発の技術を活かした「塗装サービス(コーティング)」。
魔法瓶に漆を焼き付けたカップや、紙と漆を掛け合わせた「KOMLA」など、革新的なプロダクトが次々と生まれる背景には、老舗の職人とスタートアップのメンバーが日常的にアイデアを交わし合う、この「共創」の形がありました。

【14:00】無心で塗る!漆塗りワークショップ体験

会社説明の後は、早速漆に触れてみよう!ということで、ワークショップへ。
今回は、COCOOオリジナルの紙×漆のエコカップ「KOMLA」の仕上げ工程を体験します。

漆は肌に触れるとかぶれる可能性があるため、全員ガウンと手袋を着用して準備万端。
「漆の感触、思っていたよりトロッとしてる。」「筆の跡を残さないように塗るのが意外と難しい……」。

ラインに沿って、ハケで漆を重ねていきます。簡単なようで、緊張感の漂う作業です。
教えてくださったスタッフさんも、テキスタイルデザインを学ばれていたとか。専門分野を活かしながら漆の世界で活躍する姿に、学生さんたちも刺激を受けているようでした。

「KOMLA」の機能性は、かなり本格的。漆をカップの内外両面に塗布し、強い漆層を形成させることで、酸やアルカリ、塩分にも負けない強さを持ちます。
コーヒーや炭酸、お茶など、入れる飲み物も選びません。漆を塗るだけでこんなに変わるなんてすごいです。。

歴史的背景や伝統的な技法を再編集し、現代のライフスタイルに落とし込む工夫。これが漆を身近にする第一歩なんです」と前田さん。

最終工程の漆を塗り終えたカップの乾燥を待ちながら、次の見学工程へ参ります。

【14:30】「漆の精製」は、まるで理科の実験!?

続いては、佐藤喜代松商店内にある、漆の精製工房へ。

案内してくれたのは、COCOO共同代表でもある北山浩さんです。 まず、会社の敷地内に植わっている漆の木の前で、「漆という素材そのもの」についてのレクチャーから始まりました。

「漆は木の樹液。いわば、木が傷ついた時に自分を守るための『かさぶた』のような体液なんです」と北山さん。

日本での利用は約9000年前から。驚くのはその貴重さです。1本の木から採れる量はわずか200cc(コンビニのコーヒーSサイズ程度)ほど!そんな貴重な樹液を「塗料」に変えるのが精製職人の仕事です。

工房は、オフィスビルの4階にあります。エレベーターの扉が開くと、そこに広がっていたのは、木の樽や鉄の機械が雑然と置かれた空間。

漆の香りがこっくりと、なんとなく懐かしい気持ちにさせてくれます。

見学した工程は、まるで理科の実験室。
精製前の漆からゴミを取り除き、「なやし(攪拌)」と「くろめ(水分除去)」を経て、酵素の働きをコントロールしていきます。

「なやし」は、大きな桶に入れた漆を、巨大な撹拌機でじっくりと混ぜ合わせていく作業です。
ただ混ぜるだけではなく、漆の粒子を細かく均一に整えて、成分を安定させることで、漆特有の「粘り」と「光沢」を引き出していきます。

続いて行われるのが「くろめ」。太陽光に見立てたヒーターを当て、水分を蒸発させて濃縮する工程です。
漆に含まれる天然の水分を3%前後まで減らし、同時に酵素の働きを活性化させます。

「どちらも、温度が50度を超えてしまうと漆が焼けて死んでしまう。逆に低すぎると水分が抜けません」と北山さん。

刻一刻と変化する漆の状態を見極めて、回転数や熱を微調整する。まさに科学的なデータと、職人の長年の勘が融合する瞬間です。

(佐藤喜代松商店の代表取締役社長・佐藤貴彦さん。参加者たちが工房を見学する様子を温かく見守っておられました。)

さらに紹介されたのが、革新技術「MR漆®」。(これはお写真は企業秘密!)

漆をナノレベルまで細かくすることで、数日で乾き、かつ耐久性・耐水性を高めた仕上げを実現しています。「漆は科学なんです」という北山さんの言葉通り、技術がクリエイションの土台であることを実感しました。

用途に合わせて漆を即座に調合・提供できる強みこそが、COCOOのクリエイションを支える土台なんですね。

【14:45】漆の糸に、世界的なアートワーク!?概念がひっくり返る「お宝」たち

佐藤喜代松商店の商品たちを見せていただくために、工房の2階へ降りると、そこはまるで漆の博物館。

色あざやかなホワイトボードには、色とりどりに並んだ色見本が貼られています。これは西陣の色漆約150色の中から厳選された、絶妙なニュアンスの伝統色たち。

これだけ多くの種類の色合いを出せるのは、京都・西陣の漆屋、佐藤喜代松商店だけなのだそう。

キラキラと輝く繊細な糸は、西陣織の帯にも使われているもの。染料ではなく漆を使っているため、100年経っても色褪せません。
明治や大正時代の美しさを支えてきたのは、漆の力だったのですね。

ふと目をテーブルに向けると、重厚な「鎧」の一部も置かれていました。これは、平安時代の技法を忠実に再現したもの。

原料から育てた草木で染めた絹糸を使い、鹿の皮に漆で模様を描く「印伝(いんでん)」の技法を駆使して再現された鎧は、実際に上賀茂神社の行事でも使用されている本物!
その優しい色合いと細やかな技巧に、思わずため息が漏れます。

他にも、GINZA SIXでも展示された話題作、現代アーティスト・ヤノベケンジさんの作品「SHIP'S CAT(シップス・キャット)」のパーツや、漆のあらゆる技法を駆使して作られたさまざまなプロダクトが棚にはずらり。

「伝統的な鎧も、最先端のアートも、根っこにある漆の技術は同じなんです」と北山さん。

伊勢型紙の接着などにも用いられてきた漆の技術を礎に、時代を経て海外のラグジュアリーブランドや現代アートの世界へと縦横無尽に広がっています。
その自由すぎる漆の可能性に、参加者のメモを取る手も止まりませんでした。

【15:10】座談会:伝統工芸で「はたらく」のリアルを語り合う

イベントの締めくくりは、COCOOの前田さんと北山さん、そして今回のイベントの主催企業である京都リサーチパークの野口卓海さんを交えた座談会。
京都リサーチパークは、京都の伝統工芸の現場と、そこで働きたい若者たちを繋ぐ活動を長年続けています。

ここでは「伝統工芸×キャリア」というテーマで、さらに深いお話が飛び出しました。

驚かされたのは、二人のバックグラウンドの多様さです。
代表の前田さんは、もともと
ホテルでのサービス経験やデジタルマーケティング、つまり「伝えること、人と人をつなぐこと」を専門としてきたキャリアの持ち主。

「漆の産地(岩手県二戸市)に家族のルーツがありますが、職人として入ったわけではありません。デジタルとアナログの両面から、伝統産業との関わりしろを探る中で、ご縁が重なり、今の形にたどり着きました」

一方、元家電メーカーの研究開発者という経歴を持つ北山さん。
普段使いできる魔法瓶の開発を考えていた時、漆を知り、調べる中で、「焼き付け」という技術に出会い驚いたそうです。

「通常なら1ヶ月半かかる工程が、これならわずか1日で終わる。それなら小ロットの生産も現実的になります。そして佐藤喜代松商店の佐藤さんと出会ったことで、抱えていた課題がバババババッと一気に解決したんです」

そうしてCOCOOを立ち上げ、この世界に入った北山さん。漆が塩素系の洗剤で真っ白に色抜けした失敗から、新しい表現のヒントを見つけたエピソードも。

「漆はまだまだ研究の余地があって、面白いですよ」と笑います。
失敗さえも「発見」に変えていく、COCCOの現場の活気が伝わってきました。

「伝統工芸は、チーム戦。COCOOには今、デザイナーやバックオフィス、アルバイトなど約10名のメンバーがいますが、社員は2名。他にも業務委託や副業など、多様な形で関わってくれています」と前田さん。

北山さんも、「デジタル技術を持つ人が、ローカルな工芸の仕事をする。2拠点・3拠点生活をしながら漆に触れる。そんなハイブリッドな働き方が、これからの工芸を支えるスタンダードになるはず」と語ります。

「美大生じゃない私でも入れますか?」という学生の質問に対しても、「結論、本当に自分次第です。むしろ、外の世界の視点を持っていることが強みになる場所なんです」という力強いエールも贈られました。

【16:00】見学を終えて:伝統は、あなたの「得意」を待っている

「伝統工芸の現場って、職人さんが一人でやってるイメージだったけど、若いチームが変化を恐れず挑戦している姿がかっこよかった。キャリアの視野が広がりました。」(大学生)

「今はデザインを学んでいます。自分の技術がどう生かせるか悩んでいましたが、『働く』=『傍(はた)を楽にすること』。デザインの力で、現場の人をもっと楽しく、スムーズにできるような関わり方ができればと思いました」(大学生)

「フリーランスのプロダクトデザイナーとして工芸の仕事に関わっています。今回精製の現場や最新の漆の可能性を目の当たりにして、アイデアがぐんと広がりました。今後は自分自身もこのジャンルで、サービスやブランドを形にしていけたらと思っています」(社会人)

「漆を塗る」という行為の裏側には、科学があり、歴史があり、そして何より「今の時代を面白くしたい」と願う人たちの情熱がありました。

伝統工芸は後継者不足と言われますが、実は、現場に触れる機会がないとか、どんな仕事があるのか知らないとかお互いにマッチングできてないだけかもしれません。
今日のようなイベントを通じて、まずは『関わるきっかけ』を増やしていくことが大切かもしれません。

京都・西陣の路地裏で見た景色は、伝統工芸の「これまで」を尊重しながら、「これから」を自分たちの手で作り上げようとする、新しい働き方のプロトタイプでした。
自分次第でどんなキャリアも作れる。あなたのその「得意なこと」、漆の世界で活かしてみませんか。

京都ものづくり見学プログラム「HELLO!KOUGEI FACTORYTOUR&WORKSHOP」

開催日:2026年1月21日(水)、22日(木)

主催:京都府、京都府雇用創造推進協議会、京都リサーチパーク(株)

運営サポート:しゃかいか!

(text:小倉ちあき photo:市岡祐次郎)

今後の予定

3月11日・12日には「みやこめっせ」で開催される京都ギフトショーにて、様々な仕事で伝統工芸と関わる事業者とお話しができる「HELLO! KOUGEI」ブースを出展予定。興味がある方はぜひ遊びに来てくださいね!

 

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