北海道・十勝の一次産業をめぐり、次なる価値を掘り起こす!『KAIKON -開墾-』フィールドキャラバンに密着

青空の下、どこまでも広がる大地と通り抜けていく風の音。北海道・十勝の風景は、ただそこに立つだけで深呼吸をしたくなります。
今回のしゃかいか!は、そんな十勝を舞台にしたビジネスイベント「KAIKON -開墾-」を訪れました。

このイベントは、地域の資源や一次産業にあらためて目を向け、新しい価値を生み出そうとする取り組みです。
開催2回目となる今回は、キーノートやセッションに加え、実際の現場を巡るフィールドキャラバンも実施。定員40名の枠は満席となり、十勝管内・管外を問わず、さまざまな分野から多くの参加者が集まっていました。
今回の記事では、1日目に開催されたフィールドキャラバン「KAIKON TOKACHI CARAVAN」の様子をレポートします!

立派な黄色いバスに乗り込み、ツアーがスタート!
もちろん今回の出張でも、取材のおともである青ヘルメットはしっかり持参です。
気になる当日の行程は、以下のとおり。
1|アルプス技研ファームとかち(音更町)
2|佐々木畜産(幕別牧場)(幕別町)
3|佐々木畜産(肥料工場)(帯広市)
4|なまら十勝野(芽室町)
農場や牧場、肥料工場、そして加工の現場まで!十勝の一次産業を、さまざまな角度から見て回れる行程にワクワクします。
ちなみに、イベントタイトルの“開墾”という言葉には、土地を耕すだけでなく「まだ見ぬ可能性を切りひらく」という意味が込められているそうです。
この北海道の地で、どのような人や仕事と出会えるのか。どんな挑戦が、いま静かに動きはじめているのか…?
後半記事では、イベントの立ち上げ人へのインタビューも!どのような思いでこの場をつくっているのか、その背景にも踏み込んでいきます。
それでは、現場を巡りながら、北海道・十勝の魅力を一緒にたどっていきましょう!
ミニトマトを「温泉熱」で栽培!アルプス技研ファームとかち

あ!かわいいミニトマト。

最初に訪れたのは、音更町にある「アルプス技研ファームとかち」。
こちらではなんと、十勝川温泉の「温泉熱」を利用してミニトマトが栽培されています!
ご案内してくださるのは、アルプス技研の紀藤 正則さん。

「ここの土地は、実は温泉が出るんです。その温泉熱を使って、冬場に新鮮な野菜を提供することはできないかと模索して建てたのがこのハウスです」

音更町は温泉が豊富な地域。その資源を活用し、こちらのビニールハウスでは、温泉熱を暖房としてハウス内に循環させています。暖房により季節をずらすことができ、冬場にミニトマトの栽培を行っているそうです。
ハウスの奥行きは50メートル、高さ約7メートル。
地面に直接植えるのではなく、6段の棚を設け、上下に並べる方式で栽培が行われています。
1棟あたりおよそ1,620株。2棟合わせると、3,200株ものミニトマトが育てられています。

こちらの奥にある緑の装置は、「グリーンソーラー」という熱交換器。
ハウス内に取り込んだ空気を温泉熱で温め、その温風をダクトを通して循環させています。
なんと、十勝では、冬になると気温がマイナス20度を下回ることもあるそうです・・・!
それでも温泉熱を活用することで、ハウスの中は夜間の一番冷え込む時でも、おおむね13度前後を保つことができ、冬場でもトマトの栽培が可能になっています。
とはいえ、十勝の寒さは本州に暮らしていると想像しにくいほど厳しいもの。
そのため、熱交換器だけに頼るのではなく、小型のバイオマスバーナーも併設されています。
「熱交換器だけだと、冬を乗り切れるか不安な時期もあるので、こちらからも温風を出せる仕組みにしています」
このバイオマスバーナーについては、後ほど改めて見せていただけるそうです!

「実は、灯油や重油を使うよりも、冬場の維持費は抑えられているんですよ」と紀藤さん。
地域の資源を生かしながら、安定して作物を育てていく。環境面だけでなく、現場の負担を減らす工夫にもつながっているようです。
ハウスの建設は約1年前。この土地を所有する農家の協力のもと、アルプス技研、木野農協、そしてアルプス技研のグループ会社で、農業人材派遣を手掛けるアルプスアグリキャリアの三者によって立ち上げられました。
アルプス技研といえば、もともとは技術者派遣を主軸とする企業。
しかし「地域の未来を支える人材づくりにも貢献したい」という思いから、農業分野へと歩みを広げたのだといいます。
「十勝の農産物は本当に魅力的です。ここで育つ野菜を通して、人と地域をつなげていきたいと考えています」と紀藤さん。
言葉の端々には、この取り組みを長く続けていこうとする意思がにじんでいました。
ここで参加者から「トマトはどんな味なんですか?」と質問が。確かに、気になる…。

紀藤さんによると、現在育てているのは「サンチェリーピュア」という品種。
味わいは大玉トマトに近く、甘みと酸味のバランスがとれた王道のトマトらしさが特徴なのだそう。

「化石燃料を使ってないので、サステナブルなミニトマトとして打ち出せば、付加価値にもつながるのではないかと思っています」と紀藤さん。
この土地ならではの温泉のぬくもりと、地域を想う人の手によって育まれるミニトマト。
収穫されたミニトマトは、音更町はじめ、十勝管内のスーパーで販売されています。
この取り組みがどう広がっていくのか、今度の展開が楽しみです!
ゴミを出さない循環を!バイオマスバーナーが拓くエネルギーの可能性

次にご案内いただいたのは、先ほどのトマト栽培の暖房にも使われている「小型バイオマスバーナー」。
開発を手がけた、寿循環合同会社の佐藤寿樹さんにお話を伺います。

「燃料に使うバイオマスと聞いて、どんなものを想像しますか?」と佐藤さん。
たとえば、木材やおがくずなど、いわゆる木質系の素材を想像する人が多いかもしれません。これまでバイオマス燃料といえば、木を燃やして熱として利用する方法が一般的でした。
ただ、その一方で、燃料の調達や加工にコストがかかるという課題も…。
環境にやさしいけれど、経済的には成り立ちにくいという見方がされてきたそうです。
そこで生まれたのが、先ほどの小型バイオマスバーナー!

・・・さて、ここで突然のクイズです!
こちらのバイオマスバーナーは、何を燃料としているでしょうか?
チッチッチッチ

ジャジャン!
答えは「小麦の殻」です。(当たった人いれば拍手!)
こちらのバイオマスバーナーは、十勝管内のJAから出る小麦くず、いわば農業残渣を再利用しているんです。
一見するとシンプルな仕組みに見えますが、農業残渣を燃やすのは、実は技術的に難しいのだそうです。
燃焼の過程で発生するのが、「クリンカ」と呼ばれるガラス状の塊。高温のときは溶けた状態で、冷えると硬く固まり、炉の中にたまってしまうと燃焼が止まってしまいます。
そのため、これまでは小麦くずを使って、安定して燃やし続けることが難しいという課題がありました。
この問題を解決したのが、このバイオマスバーナーの特許技術!

丸い円筒状の炉を、回転させながら燃焼させるという構造になっています。
「燃焼部を回転させることで、クリンカを大きく固める前に崩しながら燃やすことができる。これで、長時間安定して燃焼させることができるようになったんです」と佐藤さんは話します。
また、この小麦の残渣を燃やすと、クリンカと一緒に「バイオ炭」と呼ばれる炭が排出されます。
バイオ炭とは、木くずや小麦の殻などの有機物を高温で燃やしたあとに残る炭のこと。
佐藤さんによると、このバイオ炭をどう活かすかが、今後の大きな課題だといいます。

「目指しているのは”ゼロエミッション”です。農家から出た小麦の殻などを燃料として燃やし、その熱で作物を育て、残った炭を畑に戻す。完璧に循環するというシステムを普及させたいという思いがあります」
その目的は脱炭素。灯油を使わなくてよくなるので、灯油のCO2排出分を削減できます。
さらに、畑に戻された炭は「炭素固定」と呼ばれる働きを持ちます。炭素固定とは、植物が大気中の二酸化炭素を吸収し、その炭素を炭として土に閉じ込めること。
一度土に埋められた炭は分解されにくく、30年から40年ものあいだ地中に留まり、空気中の二酸化炭素を減らすといわれています!
この「炭素固定」という考え方は「Jクレジット制度」という、経産省・環境省・農水省の仕組みによって“見える化”され、企業や自治体の脱炭素活動として評価されるようになっているそうです。農業残渣から生まれたこのバイオ炭も、その対象のひとつ。

「本格的な普及はこれからですが、まだまだ可能性のある装置だと思っています。バイオ炭の使い道、もし良いアイデアがあればぜひ教えてほしいですね」
佐藤さんは、そう語りながら穏やかに笑っていました。
もともと佐藤さんは、バイオマスバーナーの開発・製造を手がけ、知的所有権を持つ武田鉄工所に所属していました。その後、独立して寿循環合同会社を設立。現在は、武田鉄工所と協力しながら、小型バイオマスバーナーの販売や相談対応を続けています。
新たな技術への確信と、次の可能性を見据えるまなざし。佐藤さんの熱がこもった言葉に心動かされ、参加者からは次々と質問が寄せられていました。

ここから新たなコラボが生まれるのかも…?!そんな期待も生まれます。
脱炭素と循環型社会を目指す佐藤さんの活動に今後も注目です!
牛を育て、土を創る。佐々木畜産が見つめる「十勝畜産の未来」

「牛の牧場が初めての方もいるんじゃないかなと思いまして、基礎知識から説明します」
そう丁寧に説明を始めてくれたのは、佐々木畜産の佐々⽊ 章哲さん。
「今日本には大体380万頭ぐらい牛がいますが、そのうち十勝だけで47万頭ほど。日本の1割以上の牛がいるんです」
改めて数字で聞くと、十勝の畜産業の規模の大きさに驚かされます。
さらに特徴的なのは、そのうち半数が乳用牛なこと。乳用牛、つまり私たちが「北海道牛乳」として美味しく飲んでいるミルクをつくっている牛たちのことですね。
そして、残り半分が肉牛です。
みなさん、「肉牛」と聞くと「黒毛和牛」を想像してしまうかもしれません。でも実は、十勝では黒毛和牛はそれほど多くないのだそうです!
実際に多いのは、ホルスタインのオス牛や、ホルスタインに黒毛和牛を掛け合わせた交雑種。これが、北海道の肉牛生産の大きな特徴なのだといいます。

「皆さんは色んな職業でビジネスをやられている方だと思います。日本の1割ぐらいの牛を飼ってるこの北海道の十勝という地域で、何か面白いアイデアがあればよろしくお願いします!」
佐々木さんの投げかけを受けて、参加者それぞれが、自分の仕事や関心と重ね合わせながら話を聞いている様子。このあと巡る現場の見え方も、少し変わってきそうです。
生後25ヶ月までの牛と対面!一頭一頭のいのちと向き合う【牛舎】へ
最初に案内していただいたのは、生まれてまもない子牛たちがいる牛舎。

まだ体の小さな牛たちが、仕切られたスペースの中で大切に育てられていました。
「風邪をひきやすい時期なので、一頭が体調を崩すと他の牛にもすぐに移ってしまうんです。だから今は群れにせず、一頭ずつ分けて育てています」と佐々木さん。
しかし、こうして丁寧に育てている一方で、近年は牛の数そのものが減ってきているのだそう。

「夏の暑さが厳しくて、牛がなかなか妊娠しなくなっているんです。涼しくなってから受胎しても、子牛が生まれるのは翌年の秋ごろ。牛乳が“絞れない”というニュースもありましたが、同じような理由です。気候の変化で、全国の畜産農家が苦労しています」
気温の上昇は、繁殖のサイクルにも影響を与えます。目の前の牛たちを見ながら、「命を育てる」仕事が自然と切り離せないものであることを、静かに実感しました。
続いて案内していただいたのは、生後4か月ほどの子牛たちが過ごす牛舎。

肉牛として出荷されるまでには、ここからさらにおよそ20か月をかけて育てられます。
この時期の子牛たちは、母乳を離れて少しずつ固形のエサを食べ始める段階。とはいえ、まだ“太らせる”ための濃い飼料は与えません。
まずは、胃袋をしっかり大きく育てる時期。腹持ちのよい粗飼料を食べて、これからたくさん食べられる体をつくっていくのだそうです。
エサについて、佐々木さんはこう説明してくれました。
「実は、国産牛のエサの約8割は海外からの輸入に頼っています。しかし、少しでも輸入の割合を減らすために、ここではできるだけ地域の副産物を活用するようにしているんです。たとえば、ビール工場から出るビール粕や、白樺の木をスチーム高圧の窯で炊いてつくる『キャトルエース』という飼料を使っています」
「この茶色いのがキャトルエースです。ちょっと匂いを嗅いでみてください」と佐々木さん。

みんな手にとって、クンクン・・・。

甘いにおいがする!
牛たちはこれを、1日におよそ500グラム。全体の4〜5%ほど食べるように飼育されているそうです。
白樺の白い皮に含まれる成分には、腸内環境を整える働きがあり、牛の食いつきが良くなるだけでなく、成長を助ける効果も期待できるのだといいます。
腸内環境が整うことで、飼料の栄養が体に取り込まれやすくなり、結果として育成の効率も高まります。
一頭一頭の体調に目を配りながら、丁寧に育てられていることが伝わってきました。

続いて訪れたのは、生後6ヶ月から8ヶ月ぐらいまでの牛が過ごす牛舎。
この段階で、体重はすでに300キロほど。見た目にもずいぶん立派です。
とはいえ、ここでもまだ“太らせる”段階ではありません。
今はとにかく、丈夫な胃袋をつくる時期。牧草は食べ放題にし、これから本格的に穀物を食べていくための準備をしています。
ここがいちばん大事な時期なのだと、佐々木さんは言います。この段階で間違って濃厚な飼料を与え過ぎてしまうと、脂肪ばかりついてしまうそうです。
「たまにスーパーで見る、赤身が小さくて、脂が周りについてるだけの肉になっちゃうんですね。ここではまず筋肉と骨格を作るということが大事です。」
たしかに、そういう肉は避けてしまうかも…。購入者として想像すると、育て方の重要性がよく分かります。

今、ちょうど目の前にいるのが生後8ヶ月ほどの牛です。もうすぐこの牛舎を卒業する、和牛とホルスタインの交雑種なのだそう。
足先や頭のあたりに、ホルスタイン特有の白い毛がのぞいていました。

「モ〜」
人が近づくと、条件反射でエサがもらえると思ってしまうみたいです。
(ごめんね、私はエサもってないんだよ…。)
この段階の牛たちが食べているのは、トウモロコシを加熱して潰したフレークや、小麦・大豆・フスマなどを混ぜた飼料。そこに、先ほど見たキャトルエースやアルファルファ(乾燥させた牧草)を組み合わせた混合飼料を与えています。
この8ヶ月という節目で、牛たちは「肥育」の牛舎へと移動します。
肥育期に入ると、エサはあえて固めず、粉の状態で与えるのが佐々木畜産の流儀。 ペレット状だと食べやすすぎて、牛が食べ過ぎてしまうからです。
粉にすることで、喉が渇けば水を飲み、またエサに戻る。そうして自分のペースでゆっくりと食べさせることで、健康な体を作っていくのだそうです。
牛の成長は、エサの内容だけでなく、食べ方まで設計されていました。

次に向かったのは、出荷を間近に控えた牛たちが過ごす牛舎です。
ここにいるのは、生後25ヶ月ほどの牛たち。
体重は900キロ近くにもなり、先ほどの子牛たちとは比べものにならないほどの圧倒的な存在感があります。

「10年ほど前は、枝肉(骨付きの肉)で500キロもあれば十分と言われていましたが、今は600キロ以上に成長することもあります。体が大きくなる血統や品種改良が行われてきた結果です」
佐々木さんは、牛たちを見つめながら静かに話します。
ただ、体が大きくなればそれだけ、環境の変化によるリスクも高まります。特に近年の酷暑は、牛たちの命に直結する深刻な問題です。
「去年は十勝でも40度近い気温を記録しました。暑さで何頭かの子牛が熱中症で死んでしまった。生き残った牛たちも、そのストレスが肉質や内臓に出てしまうことがあります。サプリメントを与えたり、扇風機で換気したりと対策はしていますが、気候変動の影響は無視できない段階に来ています」
一方で、牧場を取り巻く環境には、別の課題もありました。 近年、バイオマス発電への需要増やコスト高騰により、牛舎に敷く「おがくず」が極端に手に入りにくくなっているのだそうです。

「おがくずが足りず寝床がベチャベチャになると、アンモニア臭が強くなります。それが牛には大きなストレスになり、出荷する肉の色が悪くなってしまうこともあるんです」
牛の寝床が不足すれば、牛が健やかに育たないだけでなく、堆肥の発酵も進みません。それはそのまま、畑に戻す堆肥の質の低下を意味します。
畜産、堆肥、畑。それぞれが別の問題のようでいて、実はすべてがつながっていました。
10キロのエサを食べて、増える体重はわずか1キロ。 豚や鶏に比べて効率が悪いと言われる牛を、25ヶ月という長い月日をかけて、十勝の厳しい自然の中で育て上げる。
目の前に並ぶ巨大な背中は、そんな気の遠くなるような手間と、制御できない自然環境とのせめぎ合いの末にある、ひとつの成果なのだと感じました。
「作った限りは責任を持って、良いものを届けたい。でも、資材がなくて寝床さえ整えられない現状がある。この状況を、どうにかできないかと思っています」

現場で積み重なった課題は、そのまま次の問いとして参加者に手渡されていました。
「もったいない」を資源に。地域素材を活かした「土づくり」への挑戦【堆肥工場】
次に訪れたのは、佐々木畜産のグループ会社である肥料工場(帯広有機)です。

工場の敷地には、巨大な原料の山がそびえ立っていました。 ここでは牛舎から出た堆肥を、1〜2年かけて混ぜ合わせながら、発酵・乾燥させています。
取材に訪れた日は天気が良く、天日干しによって最終的な発酵が進められていました。

こうして仕上がった堆肥は、他の原料と混ぜ合わされ、ホームセンターで並ぶ「園芸用肥料」へと形を変えます。
誰もが知る大手ブランドのOEM(受託製造)も数多く手がけており、袋のデザインこそ違えど、中身はこの場所で生まれたものという製品が全国に流通しているのだそうです。
私たちがホームセンターで何気なく手に取る「軽い土」。 そのふかふかとした質感の正体は、海外から輸入されたヤシの殻の粉末(ココピート)などです。 しかし今、この「当たり前」が崩れようとしています。
「為替の影響やウクライナ情勢による輸送コストの高騰で、原料価格はこの1年で3倍ほどになりました。もう、これまでのやり方では国内向けの園芸用肥料を作るのは難しくなっています」

世界情勢の変化が、遠く離れた十勝の肥料工場、そして私たちの家庭菜園にまで地続きで繋がっている。
その切実な現状を打開するために佐々木さんたちが目をつけたのは、一次産業から生まれる「廃棄資源」です。
これまで捨てられてきた「十勝らしい素材」を肥料として再利用を試みる実証実験が、今まさにこの場所で始まっているのだと言います。
また、かつてはコロナ禍の巣ごもり需要で深夜まで袋詰め作業に追われた園芸市場も、現在は高齢化や人口減により年間3〜4%ずつ縮小しているのだそうです。
だからこそ、ただ「安さ」を追求するのではなく、「十勝の中で資源が循環しているというストーリーそのものを価値にしていきたい」と佐々木さんは言います。
「チーズと同じように、十勝ブランドの堆肥として付加価値をつけたい。この土地で資源が回っていることが伝われば、本州の方にも高く買ってもらえるんじゃないかと思っています」
「みなさんからもヒントがあれば、ぜひ」
かつての先人が土を耕したように、今ある資源を新しい価値へと耕し直す。
佐々木さんの投げかけた問いは、十勝という土地の「これからの開墾」を象徴しているようでした。
19軒の志を一つに。なまら十勝野が見つけた新しい農業の形

ついに、最後の訪問地。芽室町の「なまら十勝野」さんへやってきました!
「ようこそ、十勝へおいでくださいました。今回、事務局から『一次産業の現場の話をしてほしい』とのことで、僕たちの活動紹介とあわせて、農場や倉庫をご案内させていただきます」

暖かく迎えてくださったのは、株式会社なまら十勝野の代表、小山勉さんです。
「なまら十勝野」は、2016年に芽室町の農家13軒が集まって設立された農業生産者グループ。
現在は19軒までメンバーが増え、それぞれの農場経営を続けながら、一つの組織として販売や情報発信を行っています。その仕組みに、十勝農業の新しい形を見た気がしました。
「僕たちは”ないものは自分たちで作る”という精神で動いています」
小山さんの言葉の裏には、生産者が直面しているシビアな現実があります。
近年、肥料や燃料などの資材価格は約2倍にまで高騰しました。しかし、スーパーに並ぶ野菜の値段が2倍になることはありません。その膨らんだコストの多くは、実は生産者が飲み込んでいるのだといいます。
一台数千万円もする大型機械を個人で持つには限界がある。だからこそ、組織で共有し、人手の足りない時期には互いに補い合う。
また、サツマイモのような新規作物の産地化にも、グループ一丸となって挑戦しています。

苗の供給から収穫、そして洗浄や熟成まで。一軒の農家ではハードルの高い工程を組織でカバーすることで、個々の農家が安心して新しい作物を育てられる土壌を整えているそうです。
「僕たちの信念は、農業という営みを"仕事"として、しっかり次の世代に残すこと。単に作物を作って終わりではなく、消費者が何を求めているのかを自分たちの目で見て、責任を持って届けていく。今日はその現場を見て、皆さんのビジネスのヒントにしていただければと思います」

現状を憂うのではなく、知恵を出し合って「自ら作る」ことで道を拓く。 小山さんの熱を帯びた言葉に、参加者の皆さんも深く聞き入っているようでした。
十勝の土を生かし続けるために。100年先を見据えた「輪作」という知恵

続いて、畑の方へご案内いただきました。
目の前に広がる鮮やかな緑の正体は…小麦!
ちなみに、この小麦を植える前はここにはジャガイモが植わっていたのだそう。
「えー、こちらがですね、輪作(りんさく)をしている現場になります」

輪作…?聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまいました。
実はこの「輪作」こそが、十勝の農業を100年以上支えてきた、極めて重要な仕組みなのだといいます。
十勝では、「小麦・ジャガイモ(バレイショ)・豆類・ビート(てん菜)」の4品目を基本に、毎年植える場所を変えていきます。その仕組みを「輪作」とよぶのだそうです。
同じ場所に同じものを植え続けると、「連作障害」と呼ばれる病気が出やすくなってしまうため、土壌のバランスを保つためにこの体系が作り上げられたのだそう。来年の夏に収穫するための小麦が、今まさに土の中で育っています。
さらに視線を移すと、別のイネ科の植物が生い茂る一角がありました。
これは「緑肥(りょくひ)」と呼ばれるもので、収穫して出荷するためではなく、そのまま土にすき込んで、文字通り「肥料」にするために育てているのだそうです。

「来年、ここは長芋の畑になる予定です。いまは長芋の天敵となる虫を抑えるために『ブラックオーツ』という緑肥をまいて、微生物の住みかを作っているんです」
収穫を目的としない植物をあえて育てる。それは、目先の利益ではなく、10年、20年先の土の状態を見据えた、十勝の農家の投資のようにも見えました。
しかし今、この伝統的な営みも大きな転換期を迎えています。 肥料や農薬の価格が数年で約2倍に高騰し、これまでのやり方を続けることが難しくなっているという現状があるのだと言います。
だからこそ、なまら十勝野の19軒のメンバーは、「肥料や農薬をどこまで減らせるか」という挑戦を始めています。 例えばごぼう栽培では、ただ量を減らすのではなく、土そのものの状態を良くすることで、これまでの半分の肥料でも十分に育てられることが分かってきました。
施設や機械だけでなく、肥料に頼りすぎない「土の力」さえも自分たちで作り上げようとするその姿に、現代の「開墾」の精神が宿っているのを感じました。
また、なまら十勝野の19軒は、お互いに隠し事はしません。 「今年、どの肥料をどれくらい使って、どんな結果が出たか」というデータをすべて共有しているのだといいます。

「農家って、普通は自分の技術は隠したいものなんです。でも、僕たちは『なまら十勝野』という一つのチームとして、誰かが成功したらそれをみんなで真似し、誰かが失敗したらそれを全員の教訓にする。そうすることで、地域全体のレベルが上がっていくんです。」
土を戻すには10年かかります。 一回の判断ミスで、畑がダメになってしまうこともある。
だからこそ、みんなで知恵を出し合って、肥料を半分に減らしても高い品質を保つための挑戦を続けているのだと教えていただきました。
納得のいく価格で、届けたい相手へ。信頼を形にする丁寧な【選別】の現場

次に訪れたのは、選別と箱詰め作業をしている現場。
「ガタン、ガタン」と、選別機の音が響きます。
この日は、本州の大手スーパーへ届けるための選別作業の真っ最中。一本一本、丁寧にトレイに乗せられ、サイズごとに仕分けられていきます。

「一本一本、トレイに乗せて、カットしてサイズを選別していきます。手作業なので大変な数ですけども、こうして品質を揃えることで、業者さんやスーパーさんに信頼して買っていただけるようになります」
小山さんは、選別機を見つめながらこう続けてくれました。
「僕たちが会社を作って一番大切にしているのが"価格を自分たちで決める"ということです。
20代の頃、市場出荷をしていた時は、出荷した時点では値段が分からなかった。後から『いくらで売れました』と通知が来て、そこから運賃などが引かれて手元に残る。 豊作でみんながたくさん作ると、逆に値段がガクッと下がってしまう。これでは経営の計画が立てられません」
だから、なまら十勝野では、自分たちのコストを計算して、『10キロいくら』と自分たちで価格を決めて、納得して買ってくれる相手に届けるという仕組みを大切にしているそうです。

「やっぱり、顔の見える関係になりたいんです 」と小山さん。
直接すべてのお客さんに会うことはできなくても、飲食店やスーパーの方々に自分たちの想いを知ってもらうことができれば、その方たちが代わりにお客さんへの「代弁者」になってくれる。
だからこそ、こうしたツアーを積極的に受け入れ、対話の場を設けているのだそうです。
また、現場の声を直接届けるために、自分たちで週に何度か配達に走ることもあるのだと言います。
十勝の厳しさが甘さに変わる!熟成サツマイモに宿るブランドの誇り
見学の最後には、お待ちかねのサツマイモの試食タイムが用意されていました!

「これ、ちょっと見てください。蜜が溢れてるでしょう?これが十勝でつくったサツマイモです」
そう言いながら、小山さんが参加者全員へサツマイモを配っていきます。

ほんとだ!みてください。ほっくほくで美味しそう…!
いち早く試食した参加者からは「わあ、すごい!」「めちゃくちゃ甘い!」「ねっとりしてる!」との声が!

思わず笑顔がこぼれます…!
十勝は昼と夜の寒暖差がとても激しいため、この寒暖差が、作物を甘くしてくれるのだそう。
サツマイモも、十勝の厳しい自然に耐えようとして、自分の中に糖分を蓄えるのだと教えてくれました。だからこんなに甘いのですね…!

「はい、どんどん食べてください。お土産もありますから!」

そう言って手渡してくださったのは、野菜本来の味わいをそのまま楽しんでほしいという想いから生まれたオリジナル商品「SOZAI CHIPS」でした。
なまら十勝野が手がけるこの商品は、スナック感覚でつまめるだけでなく、料理のアレンジにも活用できるのだそう。
ひとりの参加者が袋を開けると、自然とみんなが手を伸ばし、少しずつ分け合う光景が広がりました。
ここまでのツアーを経て、参加者の皆さんもすっかり打ち解けた様子…!
口に運ぶと、十勝の土が育んだ野菜の素朴なおいしさが、力強く広がります。
「おいしい……」という声が、あちこちでこぼれていました。
農業という枠組みを軽やかに超えて、多角的に展開される活動の幅広さに、あらためて驚かされるばかりでした。
小山さんは、これからの展望についてこう語ります。

「僕たちが目指しているのは、単に美味しい野菜を作ることじゃなくて、『十勝のこの人たちが作ったものなら間違いない』と言ってもらえるブランドを作ることです。チーズの世界と同じように、サツマイモでも、ゴボウでも、"十勝ブランド"として確立したい」
海外から安価なものが入ってくる時代だからこそ、日本の農家がどんな思いで土に向き合っているかを知ってもらうことが、最後には自分たちを守ることになると小山さんは信じています。
「十勝の農家は、単に大規模だから強いわけではありません。この広い大地で、一株一株、一本一本と向き合って、緻密な設計のもとに農業をしています。安さで選ばれるのではなく、『なまら十勝野のこの情熱にお金を払いたい』と思ってもらえるような、そんな関係性を作っていきたいんです」
そのためには、19軒がバラバラに動くのではなく、誰が作っても「なまら十勝野」の品質になるように、同じ志を持って品質基準をしっかり守っていくことが大切だと語ります。
「難しいことなんですけど、これをやることで、十勝の農業に新しい価値を『開墾』していけるんじゃないかと思っています」
未来を感じる力強い言葉に背中を押されるようにして、今回のツアーは幕を閉じました。

「アルプス技研ファームとかち」、「佐々木畜産」、「なまら十勝野」をめぐる今回のツアーを通じて、私の心に深く残ったのは「開墾」という言葉の持つ新しさです。
かつての先人たちが原野を切り拓いたように、現代の十勝では、すでにある資源や繋がりを見つめ直し、新たな仕組みや仲間とともに"価値を耕し直す"取り組みが行われていました。
その静かな情熱に触れ、私自身も「自分の立場で何を耕せるだろうか」と考えずにはいられません。
十勝の土を、人を、そして仕組みを耕し続ける彼らの挑戦は、これからもこの大地に新しい景色を広げていくはず。これからの十勝の取り組みが、今からとても楽しみです。
本当にありがとうございました!
続く後半記事では、この熱い「開墾」の場を創り出した運営チームへのインタビューをお届けします。
なぜこのイベントを立ち上げたのか?地域の内と外を耕すように混ぜ合わせる仕掛け人たちの想いと展望に迫ります。
ぜひ合わせてお読みください。
▼後半記事はこちら
「KAIKON -開墾-」 主催:公益財団法人とかち財団/LAND 見学先:
URL:https://www.tokachi-zaidan.jp/index.php
・アルプス技研ファームとかち(音更町)
・佐々木畜産(帯広市、幕別町)
・なまら十勝野(芽室町)
(text:前田恵莉、photo:市岡祐次郎 )
※一部写真提供
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