脱炭素の先進地域、今治市の「バリグリ」を学ぶ。タオル工場の見学ー西染工

今治市にやってきました!

皆さん、今治市と聞いてどんなものが思い浮かびますか?
今治タオル、サイクリングやしまなみ海道、造船、食いしんぼうな人は「焼き豚玉子飯」?

焼き豚玉子飯

今治に来たら絶対食べる。
甘辛くておいしい、みんな大好き❤️

しかし、今治市が現在、注目を集めているのは「バリグリ」です!

街の2つの課題「地域の脱炭素」と「人口減少(特に女性人材の流出)」。この一見関係なさそうな2つの課題を同時に解決しようとする試みが「バリグリ(イマバリグリーンプロジェクト)」。今治市全体のCO2排出量は約300万トン、そのうち7割が企業から。ものづくりの街・今治が、企業の脱炭素化と働きやすい職場づくりを結びつけ、地域の魅力を高めようとしています。

バリグリの詳しいお話は後ほど今治市役所の皆さんに伺うとして――まずは、実際にバリバリ、バリグリしている企業を見せてもらいましょう!ということで、今治タオルの製造元である「西染工株式会社」さんのファクトリーツアーにお邪魔しました。

西染工ファクトリーツアー

西染工の山本まりな(漢字を確認)さんです。

西染工は、1954(昭和29)年に創業し、名前の通り染色加工業として事業をスタート。
モットーは『染まるものは何でも染めてみる』。今日までもいろいろなものを染めてきました。

しかし、加工業単体では事業継続が困難と判断し、約20年前から自社商品製造への転換を決断。糸から最終製品まで一貫生産体制を構築し、高付加価値商品の開発に注力しています。

今治のホコリ(西染工提供)

染色後のタオルを乾燥させる際に出てしまう繊維クズから生まれた、カラフルでおしゃれな着火剤「今治のホコリ」も有名です。

におわないタオル。50回洗濯OKの保証付き(西染工提供)

他にも繊維に付着させたプラチナナノ粒子が雑菌の繁殖を抑制し、放置臭や生乾き臭などのイヤなにおいの発生を防ぐ「におわないタオル」や、何度でも使えて環境にも使う人にも優しい「プラチナウエットタオル」などの商品を続々と開発。

現在は、オリジナルのアパレル開発、東京・青山への出店、アーティストとのコラボ製品の開発...果ては、かんきつ類・海産物加工品の直売所!まで運営しています。

では、工場の中を見せてもらいましょう!

まずは、整経工程。
織機用の経糸(たていと)の準備工程を見せてもらいます。
「織機にかかる縦糸を巻く機械です。たくさん立てた糸をこのドラムに巻き付けて、ビームという銀色の棒に巻いて織機にかけて経糸になります」

工場内は全て、LED照明への切り替えが完了済み!

西染工は脱炭素への取り組みにも一生懸命な会社。今治市の中でもバリグリに先進的な企業です。

西染工が脱炭素経営を決断した背景には、「脱炭素ありき」の理念ではなく、まず経費削減と経営の合理化という実務的な判断がありました。コストを下げるための取り組みが結果として脱炭素につながった、というのが実情です。

西染工では、重油ボイラーからガスボイラーへの転換やLED照明への切り替えを、環境対策ではなく経費削減を目的に実施しました。その結果として、CO₂排出削減につながり、脱炭素経営を実現することになりました。

設備の更新に加えて、重視しているのがピークカットの考え方です。電気や蒸気の使用が一時に集中しないよう、作業時間をずらし、エネルギー使用の波を平準化する工夫を現場同士で連携して行っています。

その成果として、高圧電力の契約容量はかつての1,100キロから800キロまで削減。必要なときに一斉にエネルギーを使うのではなく、使い方を調整することで設備負荷とコストを下げることができました。

こうした取り組みは、単なる省エネにとどまらず、従業員一人ひとりに「ピークカット」という意識を根づかせ、仕事の進め方や機械の使い方にも波及し、結果的に会社の利益に貢献する文化となっています。

続いては生地を裁断したり縫製する区域。
ここで検品も全て行います。

“ホールガーメント”といってデータをセットすれば縫わずに全自動で製品まで仕上げる機械もあります。
「糸をセットすれば製品になります。縫製をしないから裁断クズれてもでない。無駄な糸も使わない、ちょっと脱酸素かな、って感じですね!」

続いては、糸を巻き替える工程へ。

タオル作りの最初の工程、糸が入荷するとこのコーンのようなものに巻かれていますが、その後の加工を容易にするため穴の空いた染色用ボビンに巻き返す必要があります。

なぜわざわざ巻き返すのか?
染色液を内側にまで浸透させるために巻き替えないといけないからです。

先ほどの糸は生成りの糸でしたが、こちらは「精練漂白」が終わった糸です。
精練漂白とは不純物を除去し漂白することです。

精錬漂白で白くなった糸は、さらに木管に巻き替えます。

木管に巻き替えるのは、タオル屋さんが経糸、緯糸(よこいと)として使えるようにするためです。
約120本をこの機械で巻き返しています。

しかし、途中でやはり切れたり絡んでしまったりするために人の監視が必要。
切れてしまった場合には、人の手で直さないといけません。

先ほどソフト巻きした糸がここに運ばれ、染色用ボビンに糸が巻かれています。
これらを染色用キャリアに立てます。

糸だけで300kgくらいあります。

ちなみにこの建屋もLEDになっています。
以前の照明は水銀灯だったのだそうですよ。

続いては、精練漂白と染色の工程です。

精練漂白では、圧力釜で120度まで上げて不純物や油分を除去します。

真っ白な糸!
続いては、染色工程です。

こちらで糸を染色しています。

綿の場合、60度ほどの温度で染めます。合繊の場合は、110度になります。

綿の場合、染めただけでは耐久性が低く、毛羽立ちが残るのでそのまま織機で織ることができません。
従って、染色後の糸にデンプンなどを含んでグルテン化した糊をつけます。

見学中、静電気で繊維くずがつきやすくなります。繊維工場あるあるです。

次に染料室を見せてもらいます。

イエロー・レッド・ブルーという3原色を混ぜて色を作ります。

色ビーカーで配合し、確認した上で染めていきます。

綿が天然素材なので同じ配合が同じ仕上がりになるとは限りません。
同じ綿であっても色合わせがとても難しいので、仕上がり見本を参照しながら色を作ります。

この機械で糸を織って生地にします。
「二重ビーム」といって2種類の経糸を織ることができる特殊な織機です。
タオルを作るには上下の二つの経糸が必要。上のビームがパイルのループを作り、下の部分でタオルの地の部分(グランド)を織っていきます。

その後、緯糸が入ることでタオルが織りあがります。

「他のタオル屋さんだと、もっと高速のエアジェットと言って空気で緯糸を飛ばすことができる織機がありますが、西染工ではあえて旧いレピア機を使って作っています」

これまで見てきたのは糸加工の工程(先染め)でしたが、次は反物を染める工程(後染め)に進みます。

生地から染める場合は、ロール状の反物からがスタートです。
ロール状のままだと加工しにくいので、まず「解反(かいたん)」します。

この解反は、次の加工や検査のためにほどいて、広げたり、別の巻き方に巻き直したりする作業のことです。
さらに加工方法が同じ布をまとめて、どの機械に入れるかという振り分けをこの段階で行います。

「一見地味な作業なんですけど、ここで事前に傷や汚れをチェックして、加工に進むようにしています」

続いては布を染める工程へ。

染色機に生地を入れる前にこの「バスケット」という円筒に生地を敷き詰め、生地の密度を高めることによって染めムラを防ぐことができます。

完成品や半成品(ピース)を隙間なくうめるため、ふんづけます!
その後、生地を精練漂白へ。

バスケットに敷き詰めた漂白後の生地を染色釜に入れます。

こちらが染色機で、生地を詰めて、フタを閉め、少し圧力をかけて染料機を運転します。
この機械は「オーバーマイヤー」というドイツのメーカー製です。

染め上がった生地を脱水機で絞ります。

3階に上がって乾燥の部屋へ到着。
夏はかなり暑くなります。

コインランドリーの乾燥機のでっかいのがずらっと並んでいます。

連続乾燥機といって反物を輪っか状にして、ここで回して風合いを出しながら乾燥します。乾燥にかかる時間はこの生地だと約40分ほど。ただし、生地の状態や厚さによって異なるとのことです。

乾燥機の裏側には西染工の看板商品でもある「今治のホコリ」の素材。
先ほど赤い生地を乾燥したので赤い色がついています。
ホコリは機械にみっしりとフェルト状についていて簡単に剥がすことができます。

「以前は毎日捨てていたんです。だって要らないじゃないですか。乾燥機にくっついたホコリなんか。
このホコリは、空気中にも飛び散ってしまい火事の原因にもなりえます。例えば電線がショートするとホコリづたいに火が走って大変なことになります。タオル屋さんはとても困っていて、本当に悩みの種でした」

次はテンターという、幅出し機。

未加工の生地をかけて熱を加えながら向こうに流すことで生地の幅を出したり、シワを伸ばします。

続いて はスリッター。
縦方向にタオルを切っていく機械です。
タオルには「スリッター線」という溝が入っていて切りやすくなっています。

奥にある円形の刃物で生地を切断。
ただ切っているように見えますが、なかなかの技術が必要。スリッター線がうすいとミスが生じてB品になってしまうこともあるので慎重に作業を行います。

最後にプリント室へ。

こちらが染料のプリンター。

染料の方が顔料に比べ図柄を繊細に表現できますが、顔料のメリットはは前処理・後処理が要らないこと。生地を入れて刷ったらそのまま出荷できます。
ヘッドが左右に動いて、幅は160センチぐらいまで刷ることができます。

「ライブやスポーツイベントや試合で、選手名の入ったタオルなんかがプリントしたタオルです。値段で海外で生産されることが多いです。なぜ日本で作るのか?という理由やこだわりがないと。海外産に価格でなかなか太刀打ちできません。なかなか厳しいです。FC今治のタオルを刷ったこともあります!」

これにて工場見学は終了。
いろんな機械があって働いている人たちも楽しそう!
とても活気のある工場でした。

見学の後には情報交換が行われました。

今日のファクトリーツアーはさまざまな経営課題、特に製品開発や脱炭素経営、バリグリに関心のある企業経営者の皆さんも参加しており、その後も事業承継や情報発信などさまざまな課題について活発な意見の交換がありました。

西染工の生い立ち

昭和29年、初代である敏明さんのお父様が「商売が伴う織物屋よりは技術に専念したい」と染色加工業を創業。約30年前に現社長である敏明さんが事業を継承しましたが、加工業は需要に左右されやすく、さらに瀬戸内海地域の厳しい排水規制などの課題への対応もあったため、約20年前に「自社製品を持ち、一貫生産体制へ転換する」決断をしました。

転換のきっかけは重油ボイラーから天然ガスボイラーへの設備の切り替えでした。環境負荷の低減とともに、自社製品を製造・販売する企業へと方向転換。オーガニック糸の加工需要増加を背景に国際認証も取得し、織機やインクジェットプリンターなどの設備投資を重ね、糸から最終製品までを自社で生産できる体制を構築しました。

その後、西染工は大量生産ではなく少量でも利益を生む高付加価値商品を志向し、オーガニック認証を強みに世界市場を視野に入れたものづくりを進めています。

「サンプルを織り屋さんにお願いしても、数が少ないので織ってもらえない。通常の生産の仕事があるから。それだったら自社で織るところから作っていこうと考えました。そんな理由から設備を充実させていきました。やりたいことをやるには自身で作るしかない。そうしないと物事が前に進みません。自分で欲しいものを作ってみて、使ってみて改良をしていく。うちはデザイナーに一切お願いしていないので、全て自社で完結します。トライアンドエラーの繰り返しです」

西染工がオープンファクトリーに踏み切ったきっかけ

「以前は、毛糸のような綛糸を外に天日干しして乾かしていると『あそこは繊維の工場』なんだなと理解してもらえていましたが、現在は全て機械化になり建物の中で全て作業するので、音がしたり臭いが出てしまうから、わかってもらいにくい時代になりました。現在は騒音も臭いも対策していますが、地域の皆さんへ理解してもらいながら操業することは企業として欠かせません。そこで工場見学をすることにしました」

また『タオル屋さん』と一括りにされがちですが、織り、染めといった分業しながら生まれていること、工場の仕事や役割、実態といったものを正しく知ってもらい、使う人にものづくりの背景を伝えることもできます。さらに結果的に社員のモチベーションを高め、組織の継続に不可欠な活気も生まれることにもつながりました。

「やはり誰も見ない、評価されないよりは、見にきてもらって皆さんの顔を見て、ああ来てくれて嬉しいなという気持ちになる社員がほとんどだと思うんです。それで社内が活気づくんですよね。活気がなくなると組織維持が難しくなりますから」

工場見学の後には、お楽しみの…お買い物!

いつもなんですが、工場見学の後の物欲といったら…作っているのを見るとつい買ってしまう。

まりなさんの解説付きなので、参加者の皆さんもお財布がゆるみがち。
皆さん、工場見学後のファクトリーショップにはご注意を!


今治市役所で聞く「バリグリ」のこと

さて、西染工さんのような脱炭素に取り組む企業を増やしていこうという今治市の取り組み「バリグリ」。あらためて、今治市役所の皆さんにお話を伺いました。 「きっかけは2023年11月に市長がゼロカーボンシティ宣言をしたことです。今治市には2つ大きな地域課題があり、1つは企業向けに脱炭素っていうのができていなかったこと。今治はタオルを代表とするものづくりの街で、地域全体のCO2の排出量が現在300万トンぐらいあります。そのうち7割ぐらいを企業が出していて、企業の脱炭素化というのは一つの命題でした。 もう1つが人口減少問題。女性の方が多く流出してしまいます。進学就職で出て戻ってこない。製造業の町だから、女性があんまり働けない、働く場がなくて魅力がない、県外に出ていってしまって、そのまま居着かれてしまう」
バリグリ発案者、今治市環境政策課の住吉さん(左)です。 脱炭素と人口減少、2つの課題を同時に解決できるの? 企業の脱炭素化と、地域の人口減少の克服。一見すると、関係のない課題のように見えます。しかし、地域の人口減少を掘り下げて考えていくと、「地域の職場環境をどう改善するか」という視点に行き着きます。 その一つが省エネです。たとえば、定時出社・定時退社が根づいている職場は、エネルギーの使い方が計画的で、使用量の管理もしっかりしています。また、DXが進んでいる企業は紙を使わない分、省エネにつながり、エネルギー使用量の可視化・管理も行き届いています。 このように、脱炭素に向けた取り組みは、働きやすい職場づくりと結びつき、結果として地域に人が定着する土台にもなります。 「一つの物ごとを働き方という別の側面で見ることで、実は脱炭素っていうふうなところにつながっています」
バリグリロードマップ(今治市提供)

「職場環境を改善していくことを通じて、それが脱炭素につながっていく、もしくは女性の目線や入社したばかりの、新しい若者の目線で脱炭素を考えていくと、職場の環境は改善され、結果として脱炭素につながる。

そのような企業が増えていくと地域の企業の魅力も高まって、結果として就職やUターンしてもらえることにつながります。要は、脱炭素と地域の企業の働きがいとかっていうところがイコールでつながるんじゃないか、という視点がはじまりでした」

すごい発見!しかし、それを誰でも理解ができるわかりやすい伝え方が難しいですね。

バリグリというコミュニティ

「脱炭素というのを、地域の企業の人たちのいろんな役職とか性別とか所属を超えた、みんなでコミュニティを作って考えることにしました。企業も地域も良くしていきますっていうふうな脱炭素と人材エンパワーメントというのをコンセプトにして、このプロジェクトを進めています。地域のコミュニティを構成する人たちっていうのをいわゆる"バリグリ"として認定し、所属企業の人たちをきちんとPRをするということと、あと脱炭素って面白くなかったり、堅苦しいので、ロゴマークを作ってもらっていました」

バリグリのロゴ(今治市提供)

バリグリの名前の由来は「イマバリグリーンプロジェクト」から。

BRGR(バリグリ)に生物っぽく個性を加えて、コミュニティとして集まっている様子(集合体)を表現。
何かの生物と、B「知る」=メガネ、R「測る」=メモリ、G「減らす」=矢印、R「吸収量をあげる」という脱炭素経営の3つのステップとその象徴をデザインしたものです。

「ロゴマークによって地域とか企業の価値を高めることは、今治タオルのブランディングで経験済みでした。脱炭素化をすることそのもの自体をブランド化することで、この脱炭素施策は動いている、企業が脱炭素化して、みんながバリグリになったらいいことがあるよ、と。自分たちがバリグリとしていろんなところで啓発したり、いろんな活動をすると、こうやって自分たちも働きがい、やりがいを地域で見いだせるよ、といったことを絵にしたロードマップも作りました」

現在、バリグリに参加する企業はタオルの製造、造船、観光、放送、印刷、金融と今治の多岐にわたる産業分野にまで及び、八幡浜市、内子町といった近隣の市町にもバリグリの活動が広がっています。

西染工さんも、まさにこのバリグリの先進企業。経費削減から始まった取り組みが脱炭素経営につながり、工場見学を通じて社員の活気も生まれる――バリグリが目指す「脱炭素×働きがい」の好循環を体現していました。

最後に記念写真でお開きとなりました。

西染工の皆さん、今治市役所の皆さん、ありがとうございました。

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