新幹線清掃の現場に潜入!磨き抜かれた技術とチームワークが起こす「7分間の奇跡」の舞台裏

目にもとまらぬスピードで繰り広げられる、新幹線の清掃。
ホームでその様子を見かけて、窓越しに思わず目で追ってしまった…。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか?
日本最大級のターミナル駅、東京駅。そのホームには、1日に最大400本を超える新幹線が発着しています。
列車が到着してから、折り返し列車が発車するまでの時間は12分。そのうち、お客さまの乗り降りの時間をさし引くと、清掃に使える時間は、わずか7分。
限られた時間のなかで、最大17両ある列車内をくまなく清掃するプロフェッショナル集団が、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(通称「TESSEI」)です。
たった7分で客席からデッキ、トイレまでを完璧に清掃していくさまは「7分間の奇跡」と呼ばれ、海外からも賞賛を集めています。
彼らはなぜ、そんな短時間で清掃をやり遂げられるのでしょうか?
その謎を解き明かすべく、清掃の現場を取材し、実際に働く人たちに話を伺ってきました!
ふだんは窓の外から眺めることしかできない、知られざる「奇跡」の舞台裏。
ちょっとのぞいてみませんか?

新幹線の清掃現場に潜入!

TESSEIが清掃を担当しているのは、JR東日本が管轄する東北・上越・北陸・秋田・山形新幹線です。
平日にもかかわらず、東京駅の改札口は人で溢れ返っています。
この場所で、TESSEIのみなさんと待ち合わせ。本日はよろしくお願いします!

早速、ホームに移動し、新幹線の清掃の様子を見せていただくことに。

TESSEIでは、1つの列車の清掃を1組23人からなるチームで行っています。
それぞれの清掃員さんは、1人につき1車両の清掃を担当します。
今回は、この道9年目のベテラン、篠澤さんに密着させていただきました!

清掃員さんは全員、紺のショルダーバッグと赤いポーチを身につけています。


このなかに、清掃に必要な道具がぎゅっと詰まっています。
ここに「7分間の奇跡」を起こすための道具が入っているのだと思うと、なんだかドラえもんの四次元ポケットみたいに見えてきますね!
さて、そろそろ新幹線が到着するようです。
清掃員さんは、それぞれ自分の担当車両が止まる位置でスタンバイ。

新幹線がホームに入ってきました!
すると、清掃員さんたちは一斉に礼。
周りに気を配れるようにという安全面の配慮から、その角度は15°と決まっています。
礼の角度ひとつとっても、きちんと意味があるんだなぁ…。
新幹線が止まると、降りてきたお客さまからゴミを受け取ります。

ゴミはあとでまとめて回収すればいいのでは?と思いますが、おもてなしの一環として行っているとか。さらに、先に回収しておくことで、清掃の効率もよくなるのだといいます。

お客さまが全員降りたことを確認すると、何かを指さす篠澤さん。

これは、移動禁止表示器(通称「移動禁」)。写真のように信号が赤になっていれば、列車が動かないことを示しており、清掃に取りかかることができます。
「移動禁・赤よし、足もとよし!」
かけ声とともに周囲の安全を確かめ、車両に乗り込みます。

まずは、車内に残ったゴミを集めつつ、忘れ物がないかを確認。ここで車内の状況をチェックし、どこを重点的に作業するかなどを考えます。
ひと通りゴミを集めたら、椅子を進行方向に回転させてから、いざ座席の清掃へ!

ものすごいスピードで、1つ1つのテーブルや窓を拭いていきます!
座席は、1車両につき20列、全部で100席ほど。
これを1列あたり12秒で掃除していきます。

ふたつのテーブルを同時にあけて拭くことも!
あまりの手際の良さに、思わず見入ってしまいます。見学していた「しゃかいか!」メンバーも「すごい…」「はやい…」とつぶやくばかり。

テーブルを拭くのと同時に椅子の汚れもチェックし、背もたれと枕を所定の位置に戻します。
こんなに同時にいろんなことをしていたら目が回ってしまいそうなのに、ふらつくことなく颯爽と動き回る姿がカッコいい!

テーブルの掃除が終わったら、今度は床の掃除へ。
バッグに入れている折りたたみ式のホウキを組み立て、細かいゴミを回収します。
一度、すべての座席からゴミを通路に掃き出して…

車両の端から端まで一気に駆け抜け、ゴミを集めます。

デッキ(車両と車両をつなぐ部分)まで掃いたら、チリトリで回収!
最後に、回転させた椅子にロックがかかっているかを確認します。

清掃が終わると、それぞれの担当車両で作業していた清掃員さんたちが、決められた車両の扉から出てきて整列します。
すべての車両で清掃が完了した合図を確認し、乗車を待っているお客さまに礼。
これにて清掃終了!

清掃をはじめる前に礼、終わった後にも礼。これは、お客さまへのリスペクトの気持ちを表したものであり、オンとオフを切り替える意味もあります。
見学していて驚いたことは、お客さまが目の前にいない回送列車が到着したときにも礼をされていたこと!目には見えない相手にも敬意を払っているようで、素敵だなぁと感じました。
ちなみに、もし自分の担当車両に忘れ物があった場合は、全員で整列・一礼するところには加わらず、清掃が終わり次第すぐにJRの事務所にもっていきます。
これは、お客さまが困っていたときに、すぐお返しできるようにという配慮だとか。あくまでお客さまファーストなところが素敵!

清掃に使うさまざまな道具たち
清掃をたっぷり見学させていただいたあとは、清掃員さんたちが使用しているお部屋や道具を見せていただけることに。
東京駅のホームに立っているとき、反対側のホームの下を歩く人を見かけたことはありませんか?もしかすると、それはTESSEIの清掃員さんかもしれません。
通常は立ち入ることのできない、魅惑のホーム下をご案内いただきました!
ホームの下にある従業員通路からは、新幹線の車輪が間近に見えます。その反対側にある壁には、清掃に使う道具がずらり。

ここにあるのは、新幹線専用の座席の枕カバー。
普通車・グリーン車・グランクラスなどによって、使う大きさや色が異なっています。

使った道具を洗うための洗い場もあります。

こちらは、清掃道具が置いてあるお部屋。

入り口から向かって右手には、組み立て式のホウキとチリトリが。さきほど清掃中に使われていたものですね!

左右の棚には、道具を入れて持っていくバッグがずらり。自分が担当する車両のところにあるバッグを持っていきます。

こちらは、テーブルや窓を拭くためのクロス。窓拭き用、テーブルを拭く用と色を分けています。

ひときわ目を引くのが、このあざやかな色をしたクリーナー。

なんだか新幹線に似ているような…?
実はこれ、社員さんがテープを貼って、新幹線のようにしたのだとか。

えっ、こんなにあるの!?
新幹線の種類ごとに作られたそうで、よく見かけるものからめずらしいデザインのものまで揃っています。
ひとつひとつ箱に入っていたにもかかわらず、わざわざ取り出して並べてくださいました!「この並び順のほうがいいかな?」「後ろのイス片付けようか」と、写真映りまで考えてくださる…。本当にサービス精神が旺盛で、おもてなしの心を見せていただきました。

こちらは、サーモグラフィ。
サーモグラフィというと、温度を検知するものですよね。清掃にどう使うんだろう…?

これは、座席が濡れていないかの確認に使うのだとか!
座席はパッと見ただけでは濡れているかが分かりづらいため、サーモグラフィをかざして、青いところ(温度が低くなっているところ)があれば「濡れているのでは?」とあたりをつけて確認するのだといいます。
ちなみに、ベテランになると、サーモグラフィに表示された形を見て「濡れているのか、ペットボトルを置いたあとなのか」を瞬時に判別できるそう。

サーモグラフィが導入されるまでは、この水を検知するホウキを1席ずつ座席に当て、濡れていないか調べていました。1車両の100席すべてにかがんで行う作業は「腰が最高につらかった」とか…。
時代にあわせて少しずつ掃除道具も進化しているものの、人間が手作業でやらなければならないところがまだまだ多くあります。
たとえば、効率化のために床の掃除にルンバを導入してみたところ、気づいたらそのルンバが行方不明に!「ルンバ行方不明事件」として、今も語り継がれているといいます。
7分間という短い時間での清掃、いったいどんな秘密道具が飛び出すのかと思ったら、そこには家庭にもあるような一般的なものがたくさん。
この道具に、効率的な身体の動きや視線の使い方を組み合わせることで、短時間で清掃ができるようにしていたんですね!
清掃員さんの休憩所「詰所」

次にご案内いただいたのは、「詰所」と呼ばれる清掃員さんたちの休憩所。

テーブルやイス、ロッカー、洗い場、冷蔵庫などがあります。

それぞれのテーブルには、なにやら数字の書かれた緑のテープが貼られています。
実はこの詰所、なんと全席指定席!「7-10」は「7組10号車」という意味。清掃チームが「7組」で「10号車」を担当する人が座る席という意味。
なぜこうしているのかというと「新人さんでも馴染みやすいように」とのこと。ありがたい配慮ですね!
伝令を届ける「運用指令」
さて、ホーム下から移動し、お次は室内へ。
迷路のような地下を進んだ先には、TESSEI東京サービスセンターの事務所がありました。

無線機が置いてありますね。
ここは、JR東日本の関係各所から、TESSEIに伝令がくる場所。その伝令を「指令」と呼ばれる担当者が、無線機を通じて各責任者に伝えるのだといいます。
んん、どこからか視線を感じるぞ…?

なんか可愛い子がいる〜!
この子は、TESSEIのマスコットキャラクター「ちりとり」くん。
イラストが得意な社員さんが考案されたそう。ぽってりした赤いくちばしがキュート!
廊下に貼られた「ありがとう」の声
運用指令のお部屋を出ていくと、廊下でたくさんの清掃員さんたちとすれちがいました。
しゃかいか!の取材陣にも「お疲れさまです!」と元気よく声をかけてくださいます。

ガッツポーズいただきました!
あれ、壁になにか貼ってある…。

壁一面に貼られたこちらは、「エンジェルリポート」。
エンジェルリポートは、社員がお互いの感謝やがんばりを報告し合うという取り組みです。

リポートには「清掃中に〇〇さんが手伝いに来てくれた」など、感謝のことばがたくさん!
自分の行動を仲間が見ていてくれていると思うと、うれしいですよね。「ありがとう」のことばがたくさん並んだこの掲示板の前にいるだけで、心があたたかくなりました!
実はこれ、海外からも注目を集めるスゴイ取り組みなのだとか。
いったいどういうことでしょう?気になりますが…ここはいったん、見学を続行!

エンジェルリポートが貼ってある反対側の壁には、お客さまがSNSに投稿した内容をまとめた掲示が。どれどれ、なんて書いてあるのかな…?
「ホームで一瞬の隙をついて子どもが親の手を離れた瞬間、TESSEIの人がホームと子どもを遮る位置に移動していて凄えなと思った」
おお、それはすごい!こうしたふるまいから、清掃員さんの気配りがお客さまにも伝わっているんですね。
清掃の枠を超えて。「おもてなし企業」TESSEIの素顔、社長さんに聞いてみました
これまで、車内清掃の様子や、使用している道具、スタッフのみなさんが過ごす部屋などを見学させていただきました。
では、いったいどうやって「7分間の奇跡」を実現しているのでしょうか?
そのヒントを探るべく、TESSEIで働く方々にインタビューさせていただきました。
まずは、TESSEIの伏田社長から、これまでの会社の歩みや現在の取り組みなどを伺いました!

TESSEIは、東京駅や上野駅、首都圏にある複数の車両基地にて、JR東日本の新幹線の車内清掃や、駅構内のトイレ・コンコースなどの清掃を行っています。
社員数は、全員で800人近く。その大半が、清掃作業にあたる方々です。20代から70代まで幅広い年齢層の方が働いていますが、平均年齢はなんと54歳!
それであんなスピードで動き回れるのはすごすぎる…!年齢を全く感じさせないパワフルさです。
新卒採用は行っておらず、全員が中途採用。多様なバックグラウンドをもった方々が集まっています。

「清掃業からサービス業へ」TESSEIの歩み
TESSEIのはじまりは、1952年に設立された鉄道整備株式会社。まだ新幹線がなかった時代から、国鉄(現JR)の列車清掃を担っていました。
現在のような「7分間清掃」がスタートしたのは、1991年に東北・上越新幹線が東京駅に乗り入れるようになってからのこと。
ですが、当時は清掃の質が安定せず、お客さまからの評判は思わしくなく、また社員の離職率も高い状況でした。

そこから大きく変わるきっかけとなったのが、2006年からはじめた意識改革。
「自分たちの仕事は清掃業ではなく、お客さまをおもてなしするサービス業である」
社員自身が誇りをもって働くことができるよう、次々と新たな取り組みをしていきました。
そのひとつが、制服の変更。

現在は、社員が考案し、スポーツメーカー「ミズノ」が製作した、伸縮性のある動きやすい制服になりました。デザインも、紺と赤のスタイリッシュなものに!
ダボっとした制服から変わったことで、社員の意識も前向きになったといいます。
さらに、創立60周年を迎えた2012年には、社員からアイデアをつのり、社名を「株式会社JR東日本テクノハートTESSEI」に変更。
「テクノハート」は「技術と心で創るおもてなし」を意味しているのだとか。理念をあらわす素敵な社名ですね!
こうした改革によって、意識をお客さまのほうへと向けるとともに、社員それぞれが自分の仕事に誇りを持って働けるようになっていきました。

技術の向上×認め合う文化の醸成
7分という短い時間で清掃を終わらせるためにとりわけ力を入れていることが、清掃技術とチームワークの向上。
技術向上のための取り組みとしてユニークなものが「新幹線車両清掃競技会」。その名のとおり、清掃の技術を競う社内の大会です。
新人さんが挑戦する「チャレンジ部門」、熟練スタッフによる「エキスパート部門」、トイレを清掃する「トイレ部門」の3つに分かれて技術を競います。

短時間で清掃を行うには、チームワークも大切。そのために「認め合う」文化の醸成にも取り組んでいます。
その代表的なものが、先ほど廊下に掲示されていた「エンジェルリポート」。社員のモチベーションと生産性を向上させるために役立っています。
2006年からの意識改革では、この清掃競技会やエンジェルリポートをはじめ、数々の新たな取り組みが行われました。それらはビジネスリーダーにとって重要であると世界からも評価され、なんとハーバード大学のMBAの講義にも取り上げられているとか!
ひとつひとつの努力が積み重なり、今では「7分間の奇跡」と称されるまでに変わっていったんですね。
伏田社長、貴重なお話をありがとうございました!

清掃員さんのリアルな声、聞いてみました
清掃という枠を超えて、日々の業務に「おもてなし」の心を込めるTESSEIさん。
それでは、実際に現場で働く清掃員さんは、いったいどんな想いでこのお仕事をされているのでしょうか?
先ほど圧巻の清掃を披露してくださった篠澤さんに、リアルなお話を聞かせていただきました!

篠澤さんは、今年で入社9年目になるベテラン。
どんなきっかけでこのお仕事をはじめたのでしょうか?
「実家でやっていた蕎麦屋をたたんだあと、次は何の仕事をしようかと考えていたとき、『新幹線の7分間清掃』が話題になっていることを知りました。もともと鉄道が好きだったので、興味を持って応募したんです」(篠澤さん)
習うより慣れろ。実践で身につける清掃技術
TESSEIの清掃チームには、早朝から午後までの列車を担当する「早組(はやぐみ)」、「遅組(おそぐみ)」がそれぞれ6組ずつ、合計12組あります。篠澤さんは、早組になることが多いのだといいます。
「朝はだいたい5時50分くらいに出勤します。私は千葉県から通っていて、始発ではないものの、かなり早い電車に乗っています。ですが、そのぶん勤務終了も早いので、自分の時間がしっかり取れるのがいいところですね」(篠澤さん)

一切ムダのない身のこなしで、テキパキと清掃をされていた篠澤さん。
どうやってその技術を身につけていったのでしょうか?
「仕事をはじめたばかりの頃は、まずは見習いとして先輩と一緒に作業をしました。そこから1ヶ月たつと独り立ちして、1人で清掃にあたることになりました。独り立ちした当初は、もうめちゃめちゃ緊張しましたね。1人で大丈夫かな、みたいな。
覚えることが本当に多いので、最初の頃はやり残しもありました。慣れるまでに半年以上かかりましたね」(篠澤さん)
身体の動かし方や目線の使い方、道具の使い方。それらは研修でひととおり学ぶものの、習得するにはとにかく実践あるのみなのだとか。
たとえば、目線は目の前だけではなく、常に2歩、3歩先を見るように意識。テーブルを拭く動作に入る前に、その奥にある窓際にゴミが溜まっていないかなどをチェックするのだといいます。
身体の動かし方も慣れるまでは大変で、はじめたばかりの頃は筋肉痛になったとか。あんなにハードな動きをしていたら、やっぱりそうなりますよね…。

毎回異なる状況で、試される対応力
清掃員さんが仕事をするうえでいちばんに守らなければいけないことは、新幹線の定時運行。そのためには、与えられた時間内で清掃することが求められます。
この「時間内に終わらせる」というのが、とにかく大変なのだそうで…。
「清掃の手順は決まっていても、客室の状況は毎回異なっています。窓が汚れていたり、ケーブルまわりの汚れが気になることもあるので、臨機応変な対応が必要です。
あとは、繁忙期でお客さまが多かったり、車内で眠っている方がいらっしゃると、作業を始めるまでに時間がかかって、実際の清掃時間が短くなることもあります。そんなときでも、慌てずに落ち着いてやることを意識していますね」(篠澤さん)
ちなみに、もし新幹線が遅れていた場合は、清掃の時間が3分や4分になることも!その場合は優先順位を考えて、どうにか決められた時間内で清掃を終わらせるのだといいます。

チームワークを大切に、お客さまへ快適な旅を届ける
限られた時間のなか、列車ごとに違う状況に合わせ、落ち着いて臨機応変に対応する。
それだけでもかなり大変そうですが、先ほどの伏田社長のお話にもあったように、仕事の目的はあくまで「お客さまサービス」。そのため、こんなことも気をつけているといいます。
「ホーム上では、お客さまからいろいろなことを尋ねられます。〇〇駅に行くのはどの電車か、自由席はどこか、喫煙所はどこかなど。東京駅や新幹線の利用に不慣れなお客さまもいらっしゃるので、気配りを忘れずに対応するように心がけています」(篠澤さん)

こうしたお客さまへの気配りも、現場で覚えていくことが多いといいます。
たとえば、スタッフさんの間には「魔の3両目」と呼ばれている場所が。ここは、ホームと列車の間に少し距離があるため、お子さん(特に3歳の子)が足を踏み外しやすい場所なのだとか!「3歳」まで特定できてしまうところに、積み重ねてきた経験や知見を感じますね…。
こうした経験をスタッフ同士で「ツボ・コツ」としてシェアし合うことで、お客さまの安全を守ったり、ニーズに合ったご案内ができるようにしているのだといいます。
「私たちの仕事は、チームワークがとても大事です。限られた時間内でみんなの力を合わせて、次のお客さまにご利用していただけるよう車内をセットアップする必要があります。
毎回状況が違う中で、決められた時間内に作業を終わらせるのは、正直簡単ではありません。だからこそ、いかに手際よくきれいに仕上げるかを考えて実践して、やり遂げたときはうれしいですね」(篠澤さん)
このインタビューではとても謙虚なお答えをいただきましたが、流れるような速さで動き回り、車内をみるみるうちに美しく整えていく篠澤さんの姿からは、このお仕事への誇りがひしひしと伝わってきました。
篠澤さん、ありがとうございました!

「育てる」人のリアルな声も、聞いてみました
TESSEIの社員は約800人、そのうちの大半が清掃をされている方々です。
多様な個性や価値観を持つ人々が集まるなかでチームワークを維持するのは、かなり大変なのでは…?
チームで一丸となって仕事に取り組むために、どんな工夫をされているのでしょうか。
そんな疑問の答えを、社員の指導・育成を担当されている菊地さんに伺いました!

菊地さんの前職は、コンビニエンスストアの経営者。15年ほどお店を切り盛りしたのち、TESSEIに入社されました。
「入社後は、田端サービスセンターで清掃員をしていました。そこで3年働いたあと、主任や責任者、運用指令の勤務などを経て、現在に至ります。入社してから、今年で18年目になりますね」(菊地さん)
TESSEIでは、清掃員→複数車両(3両程度)の清掃の最終チェックを行う責任者→責任者を束ねるインストラクター、という流れでステップアップしていきます。
菊地さんはインストラクターとして、主に責任者を対象に指導やフォローをされています。

「伝わる」ことの難しさ
菊地さんは、社員を指導・育成する立場として、日々難しいと感じていることがあるといいます。
「『伝わる』ことです。『伝える』ことはできても、それが『伝わる』かはまた別の話ですよね。何か伝えたいことがあったときに、同じ言葉を聞いても、100人いれば100通りの伝わり方がある。
言いたいことが伝わらないのは、相手に問題があるのではなく、伝える側に問題があります。なので、一人ひとりに合わせた伝え方をすることが自分の課題であって、難しいなと思いますね」(菊地さん)
たしかに、上司と部下の関係だと、部下が思っていることを言いづらい場面もあります。伝え方にはとくに気を遣う必要がありそう…。
「人間ですから、感情がありますよね。同じ言葉を聞いたとしても、受け止められるときとそうでないときがある。
なので、相手の様子を見ながら、言葉を選び、いいタイミングを選び、どう伝えればちゃんと伝わるのか工夫しながら、社員を向き合うことを常に意識しています」(菊地さん)

まちがった判断も、まずは「認める」
菊地さんにはもうひとつ、社員と接するうえで気をつけていることがあるといいます。
「新幹線の清掃は、社員一人ひとりが自分の判断で動くことが大事な仕事です。なので、その判断を否定しないことを大切にしています。
たとえば、ある社員が、本来はAの道を選ぶべきだったところで、Bを選んだとします。その判断を『そこはAだったよ』と、あとから言うことは絶対にしないようにしていて。あれはまちがいだ、と伝えるのは簡単です。でも、それでは本人の気づきにはならないので。
本人が『あの判断は良くなかったな』と自分で思えるように、Bの道を選んだことをきちんと認めたうえで、次はどうすればAの道を選べるかを一緒に考えていくことを大切にしています」(菊地さん)

たとえまちがった判断をしてしまったとしても、それを否定せず受け入れたうえで、正しい道を選べるようにサポートする。
まるで上司の鑑のような菊地さんですが、そうした育成の仕方をするに至ったのは、こんな経験があったからだといいます。
「私自身も、自分で考えて行動したことを『違う』って否定された経験があったんです。まちがったことをしてしまったことは自分でよくわかっていて、それを指摘されるのは仕方がない。だからといって、やったこと全部を否定されてしまうのは、なんだかつまらないなと感じたんですよね。
だから、いつか自分が部下を持ち、指導する立場になったときには、社員がそんな思いをしない会社にしたいなと思ったんです」(菊地さん)

取材中も、すれ違う清掃員さんに気さくに声をかけたり、かけられたり。
その様子からは、菊地さんが社員さんたちから信頼されていることが伝わってきました。
チームを導く立場にある方が、社員の考えやがんばりを認めているからこそ、多様な社員がそれぞれの個性を生かしながら仕事ができる。お互いを認め合うことが、チームワークの向上にもつながっているんですね。
菊地さん、心に響くお話をありがとうございました!

清掃の現場と、そこで働く人たちの声によって照らし出された「7分間の奇跡」の舞台裏。
大変な仕事だからこそ、みんなで力を合わせてやり遂げる。
その姿からは、仲間への思いやりと、このお仕事への誇りがにじんでいました。
取材をさせてくださったTESSEIのみなさん、本当にありがとうございました!

株式会社JR東日本テクノハートTESSEI
住所:東京都中央区八重洲1-5-15 田中八重洲ビル内
Web:http://www.tessei.co.jp/
(text :小島 千明、photo:篠原 豪太)
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