紡いでいけ、まちの想いとものづくりの魂。アトツギたちの熱が交錯する、まちこうばの祭典「FactorISM」の挑戦

最近、八尾が「むっちゃアツい」らしい。
そんなウワサを耳にして、今回「しゃかいか!」チームがやってきたのは、大阪府八尾市。
昔から製造業が盛んで、「ものづくりのまち」として知られている地域です。
この八尾市を中心に、ものづくりの現場を見て、ふれて、体験して、地域の魅力を全身で感じられるイベントが、いま大きな注目を集めています。
その名も「FactorISM(ファクトリズム)」。
八尾市や堺市をはじめとする大阪府や三重県など13市町村のものづくりが盛んな地域が参加する、まちこうばの祭典(オープンファクトリー)です。
(画像提供:FactorISM実行委員会)
FactorISMでは、毎年4日間にもわたり、多彩なものづくり企業が工場を一般開放するイベントを開催!
私たちの日々の暮らしを陰で支えてくれている技術や、職人さんの手仕事を間近で体感することができます。

(写真提供:FactorISM実行委員会)
参加している企業は、金属、繊維、印刷、食品…など、多種多様。どのまちこうばも、普段はなかなか見ることのできないものづくりの裏側を、惜しげもなく公開しています。
しかも、ただ工場を見るだけではありません。子どもから大人まで楽しめる体験プログラムやワークショップ、トークイベントなどが盛りだくさん!
まるで地域全体がものづくりテーマパークになったかようなにぎわいをみせます。
2020年に始まったFactorISMは、わずか数年で大きく成長。2024年には91社もの企業が参加し、来場者数はなんと延べ17,600人!いまや関西を代表するイベントへと発展しています。
そんなビッグプロジェクトを立ち上げた人物が、この記事の主役、FactorISM統括プロデューサーの松尾 泰貴(まつお やすき)さん。

「まちづくりがしたい!」という想いひとつで、八尾市の行政マンからスタートした松尾さん。そこから次々と新しいプロジェクトを立ち上げ、さまざまな人や地域を巻き込んで走り続けてきました。
「ネットで『八尾 変態』と検索すると、いちばん上に僕がヒットします」
おかしそうに、でもどこか自慢げに教えてくださった松尾さん。どういうこと…?
松尾さんは、なぜFactorISMを立ち上げ、どのようにまちの未来を描いているのでしょうか?
そして「変態」にこめられた意味は?
FactorISMの歩みとこれからについて、たっぷりとお話を伺いました。
「まちの営業マン」になる!八尾市役所へ就職
八尾生まれ、八尾育ちの松尾さん。関西大学でマスコミュニケーションを専攻し、マーケティングやブランディングなどを学びます。
「フィールドリサーチが基本の学部にいて、『スターバックスとドトールに行って、その違いを書く』みたいな課題をやっていました。それが結構楽しかったですね」(松尾さん)
八尾生まれ・八尾育ちで、フィールドリサーチが好きということは、八尾のまち自体も好きだったのかな…。そう思っていましたが、 当時の松尾さんは、八尾があまり好きではなかったそう。
その気持ちが変わりはじめたきっかけは、 海外旅行に行ったときの経験からだったといいます。

「よく世界のいろいろな地域に行っていたんですが、新しい人と出会うたびに『君の地元は何してるの?』って聞かれたんですよ。
海外の人って、地元にすごく誇りを持ってて。たとえば、イタリアで会ったグアテマラ人は『うちの地域ではこのコーヒーを作ってるんだ』って、小さいバックパックに自分の産地のコーヒー豆を入れてたんですよ。
それで、自分のまちには何があるだろう、何もないかも、って思ったときに『ないんじゃなくて、知らないだけなんじゃないか』と思ったんです」(松尾さん)
そこから、地元・八尾のまちを知る活動をはじめた松尾さん。まちに出てフィールドリサーチをするなら、まちづくりをするのがいちばんだ。それに、八尾に元気がないのは、まちの良さが発信できていないまちが悪い。
それなら、自分がまちの魅力を伝える「まちの営業マン」になろう!
そう決意し、八尾市役所に入庁します。

飲食店のつながり「80会」でB1グランプリ開催
まちの魅力を発信するために、希望したのは広報の部署。これなら、大学時代に学んだマスコミュニケーションの経験も活かせる!
そう思っていた松尾さんが配属されたのは、なんと市長直轄の部署、秘書課でした。
「やさぐれましたね。まちづくりに一切かかわれない部署だったので。1年目にして辞めようかと思ったくらい」(松尾さん)
ですが、こんなところでへこたれないのが、のちの「八尾の変態」。「仕事でまちづくりができないなら、時間外だ!」と、仕事をきっちり定時の17時15分に終わらせ、夕方以降にまちづくりの活動をスタートさせます。
はじめに行ったのは、飲食店の食べ歩き。市内の飲食店に行き、それをブログで発信する活動をはじめます。
「いきなり企業さんに話を聞きに行くのは難しいですよね。でも、飲食店に行けば、社長にも会えるし、昼と夜の営業のあいだの時間帯に取材させてもらえる。ごはんを食べて、取材して、記事を書いて。そうやってまちの情報を発信することからはじめました」(松尾さん)

そうした活動を続けるなかで、たくさんの飲食店の方と知り合っていった松尾さん。あるとき、お店の方から「まちを盛り上げるために何かしたい」と話を持ちかけられます。
その当時、「B-1グランプリ」という、飲食でまちを盛りあげるイベントが日本中で流行っていました。それを八尾でもできないか?と考えた松尾さんは、これまで取材に行った飲食店に声をかけます。
すると、同じように「まちを元気にしたい」という熱い想いをもった、17社もの企業から賛同が!
こうして「食を通じてまちを元気に」をスローガンに、「80会(はちまるかい)」という飲食店の横のつながりをつくる会を結成。そのメンバーで、八尾でB1グランプリを開催することになりました。
そのなかで、松尾さんはイベントの広報を担当。寝る間を惜しみながら、当日のボランティアさんの確保や寄付金集め、チラシ制作などを行います。
さらに、デザインができる同期にロゴの制作をお願いしたり、動き回るための自転車の整備を頼んだりと、さまざまな人を巻き込みながら、どうにか準備を進めていったといいます。

そして迎えた、イベント当日。その結果は「大盛況だった」そう!
10時半にイベントを開始したにもかかわらず、11時にはもうチケットが売り切れた飲食店もあったといいます。
「そのとき、まちが動いた瞬間が見えたんです。『自分ひとりの力じゃなくても、イベントを立ち上げられる』ということが分かって。めちゃくちゃおもしろいなと思って、これをちゃんと仕事にしたいと改めて思いました」(松尾さん)
イベントで味わった、一体感や高揚感。そして「やったことがないことでも、みんなの力を合わせれば実現できる」という手応え。
このときの体験が、のちに立ち上げる共創コミュニティ「みせるばやお」やオープンファクトリープログラム「FactorISM」の原点になったといいます。

100社訪問でものづくり企業とつながる
秘書課に配属され、はや5年。人事に企画書を送りつけるなど、熱烈なアピールで異動を希望し続けた松尾さん。ついに念願がかない、まちづくりができる部署、産業政策課に異動することに!
最初に行った仕事は、ものづくり企業の実態調査。この調査は民間企業に委託していましたが、松尾さんは上司に「現場を知りたいので、100社自分で回らせてください!」と伝え、自転車でまちこうばを訪問する日々がスタートします。
アポイントもなしに、いきなり「八尾市から来ました!」と会社に飛び込む姿は、松尾さんご本人いわく「あやしい人」。
「あれは超楽しかったです。罵声を浴びせられることもありましたけど、100社訪問したらすっかり慣れちゃって。
企業からすると、市役所って何かを規制する側という認識なんですよね。なので、『この前消防が来てさ〜』って、愚痴を言われることもすごく多くて。僕がやってるのは産業政策なので、どちらかというと補助金を持ってきた側なのに(笑)。
でも、そこで『自分は関係ない』ってスタンスじゃあかんなと思ったので、もう御用聞きをすることにしたんです」(松尾さん)
あそこでやってる工事がなにか調べてほしい、使える補助金がないか調べてほしい。そんな企業さんからの要望に、ひとつひとつ丁寧に答えていったといいます。

そうした日々のなかで、企業が抱える課題や悩みを知った松尾さんは、その解決につながればという思いで、知り合いを講師に招いてセミナーを開催するようになります。
会計士やクラウドファンディングの事業者、人材サービスなどの講師を招き、多岐にわたる内容で、1年で30回ほど開催したといいます。
ですが、次第に「自分ひとりで運営するには限界がある」と感じるように。そこで、自分のようなコミュニティマネージャー、ハブになる人材を増やしたいと、「コミュニティをデザインする」ことを意識しはじめます。

産業振興課に配属され、2年がたったころ。企業のコミュニティがうっすらとできはじめ、 そろそろ新しい事業を立ち上げようとしていた、その矢先。松尾さんは、経済産業省 近畿経済産業局への異動を告げられます。
「絶対に行きません!」と頑なに断る松尾さんに、前の部署でお世話になったという副市長からも声がかけられます。
「もう忘れもしません。『新しいことをやりたいなら、一度国に行って勉強してきなさい』と。副市長に言われたらもう、どうしようもなくて…」(松尾さん)
近畿経済産業局へ出向。「アトツギ」支援にかかわる
こうして、しぶしぶ近畿経済産業局に出向した松尾さんは、関西圏のベンチャー支援を担当。毎日、さまざまなベンチャー企業にヒアリングを重ねました。
そんなある日、とある経営者から「僕、老舗ベンチャーやねん」と告げられます。その企業は、創業83年。一般的にはベンチャーとして扱われる企業ではありません。ですが、松尾さんは「これだ!」と直感します。
創業がいつであろうが、挑戦を続けていれば、それはベンチャーである。むしろ関西には、そんな「老舗」だけど「ベンチャー」的な企業が多いのではないか?
そう考えた松尾さんは、家業を継ぎながらも新しい挑戦を続ける、2代目・3代目などの「アトツギ」たちに注目します。
「アトツギが、先代から受け継いだものをそのまま守るのではなく、技術や人脈などの経営資源を、地域や社会のニーズにあわせて最大限に活かしていく。それが、関西のアトツギが行うベンチャー、新しい挑戦のかたちなんじゃないか、と思ったんです」(松尾さん)

松尾さんがその説を提唱しはじめると、それが『東洋経済』に取り上げられ、なんとNHKにも取材されることに。すると、放送を見た経済産業省からも「なんだあれは?」と問い合わせが。
さらに、ふだんは一切接点のない部署の課長が突然やってきて、「この話を自民党の小委員会で話してほしい」と依頼されたそう!
この「小委員会」というのは、政策の方向性を左右する重要な場。そこで話してほしいと頼まれるなんて、すごいどころの話ではありません。
そして、松尾さんの提案は政策の場にまで届き、のちに全国へと広がる「アトツギ甲子園」(事業承継者が新たな事業アイデアを競うビジネスコンテスト)のモデルになったといいます。

ものづくり企業の共創コミュニティ「みせるばやお」立ち上げ
2年の出向を終え、ふたたび八尾市産業政策課に戻った松尾さん。
経産省での経験から、「アトツギの人たちがまちを変えてくれるのでは」という想いがありました。ですが、ひとつの企業だけでは、まちは変えづらい。それなら、ものづくり企業たちのコミュニティを作ろうと考えていたそう。
ちょうどそのとき、日本各地でオープンファクトリー(工場を一般公開し、見学や体験を通じてものづくりの魅力を伝える取り組み)が盛り上がっていました。八尾市は、ものづくりのまち。 まさにオープンファクトリーをするのにぴったりな環境です。
「このオープンファクトリーを1社だけでなく、様々な企業が行うことで、まちを活性化できるかもしれないと思ったんです。
ですが、まちの企業は、これまで工場見学なんてやったことがない。それなら、まずは小さく、工場ではない場所から、ものづくりの場をオープンにする取り組みをはじめようと思いました」(松尾さん)
そう考えた松尾さんは、まちの企業たちに次々と提案していきます。すると、多くの企業から賛同が!
そして、2018年に共創コミュニティ「みせるばやお」を立ち上げます。

みせるばやおの目的は、ふたつあります。
「みせるばやお」とは「魅せる場、八尾」という意味。その名のとおり、ものづくりのまちである八尾の魅力を伝えるための場となる、というのが目的のひとつです。

みせるばやおは、八尾駅近くの商業施設の8階を拠点としており、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えるためのワークショップなどを行っています。コンセプトは「地域版のキッザニア」。

みせるばやおには、会員になっている企業が開発した製品がずらっと並んでいます。

ボルダリングができる壁に、キッズスペースも。星マークの椅子にも、遊び心が感じられてかわいい!たしかにキッザニアっぽい。
また、みせるばやおは、会員になった経営者たちの交流の場にもなっています。企業間の交流を促進するためのイベントなども行われており、実際にコラボレーション商品などが生まれたことも。
松尾さんは、みせるばやおのもうひとつの目的を「企業同士のコミュニティをつくること」だと語ります。
「みせるばやおでは、どんなに忙しかろうが、1ヶ月に1回経営者が集まっています。そこで、まちの課題などに対してどうするかをみんなで話し合う場にしたんです。
あわせて、企業間のコラボレーションを生み出すような交流会もしています。夕方に集まって、イベント運営の進捗状況などを報告して、最後は飲み会が始まることも(笑)でも、それがいいんですよね。コミュニティは、まずは仲良くなることからしか生まれないと思っているので」(松尾さん)
立ち上げ当初、35社だった会員数は、半年で107社に。現在は135社ほどが会員になっているといいます。

オープンファクトリープロジェクト「FactorISM」立ち上げ
ものづくり企業の交流の場として、またものづくりを魅せる場として、まちの活性化につながる活動を続けるみせるばやお。ですが、松尾さんの眼はその先を見据えていました。
みせるばやおは、施設の使用料を市役所が負担していたため、将来的には市の予算が尽き、会場が使えなくなる可能性がありました。
「いつかこの場がなくなったとしても、まちにみせるばやおの思想が根付けば、まち全体が “見せる場” になります。
さらに、大阪には他にも、製造業が盛んな地域がある。みんなが『ものづくりのまち』って言って張り合うより、まち同士がタッグを組んだ方が強いんじゃないかと思ったんです」(松尾さん)
そう考えた松尾さんは、大阪府内の八尾市以外の市町村にも声をかけます。
そして、2020年にオープンファクトリープロジェクト「FactorISM」を立ち上げます。

当初の参加企業は、35社。偶然にも、みせるばやおがスタートした当初の企業数と同じ。なんだか運命的…!
予算は自治体からは一切出さず、すべて民間からの投資で運営することに。これで、将来にわたって活動を続けることができるようになりました。
市役所を退職。友安製作所でまちづくりを継続
FactorISMを立ち上げ、さぁこれから!というとき。松尾さんは、またしても異動を告げられます。今の部署から離れると、仕事としてまちづくりに関わることは叶わなくなります。
迷いに迷った末、松尾さんは原点に立ち返ります。
「自分は、まちづくりがしたい!」
その想いと正直に向き合い、市役所を退職。まちづくりを行う会社を起業することを決意します。
そして、描いたビジネスプランを手に、これまでお世話になった企業さんたちにお礼と報告に行った松尾さん。「がんばれ!」と背中を押してもらえると思っていたのに、 1社目に行った企業からいきなり反対を受けたそう。
「あなたのやりたいことをやるのに10年はかかる、と言われて。それでも食い下がったら、『ウチの会社で全部やればいい』と言われたんです。会社には仲間がいて、実現できるスピードも速いから、と」(松尾さん)
松尾さんは、予想外の一言にとまどい、一度はその申し出を断ったそう。ですが、そこで思い出したのは、「みせるばやお」を立ち上げたときのこと。
「みせるばやおも、僕が一緒にやりたいと思う人たちに声をかけたのが最初だったんです。この人とまちづくりをしたら、絶対面白いだろうっていう。そう思った1人が、このオファーをくださった、友安製作所の友安社長だった。そんな人が一緒にやろうと言ってくれるなら、やってみようかなと思ったんです」(松尾さん)
そうして、松尾さんは友安製作所に入社。まちづくり事業を新たに立ち上げ、現在はソーシャルデザイン部担当執行役員 兼 FactorISM統括プロデューサーとして、まちづくりに取り組んでいます。

写真の左にいらっしゃるのが、株式会社友安製作所の友安社長。この友安製作所、とってもユニークで素敵な会社さんなのです!「しゃかいか!」でも取材させていただきました。
テーマは「文化祭」!ものづくりのまちが盛り上がる4日間
たくさんの人や地域を巻き込みながら、まちづくりを続けてきた松尾さん。
ここからは、松尾さんがいま取り組まれている「FactorISM」について、くわしくお伺いしていきます!
そもそも、「FactorISM」という名称の由来は「まちこうば(Factory)」の「想い(ISM)」を「体験・体感してもらう(tourism)」。
その名が示すとおり、毎年4日間、ふだんは見ることのできない工場を一般開放することで、私たちの生活を支える「ものづくり」を体験・体感できるイベントを開催しています。
合言葉は「こうばはまちのエンターテインメント」!
これまで足を踏み入れる機会のなかったものづくりの現場を実際に見て、人は感動し、作り手に憧れの眼差しを向ける。その驚きや感動こそが、新たな価値や気づきを生み出し、まち全体を舞台にした「エンターテインメント」になる。そんな想いがこめられています。

(写真提供:FactorISM実行委員会)
また、 サブタイトルは「アトツギたちの文化祭」。
「アトツギ」とは、一般的には2代目などの後継ぎ経営者のことを指します。ですがFactorISMでは、ものづくりの現場で培われてきた技術や想いを受け継ぐ、すべての人たちを「アトツギ」と呼んでいます。
つまり、工場を開く側の企業だけでなく、そこに参加し、ともに盛り上げる人たちも「アトツギ」。それを文化祭のように、みんなで楽しみながらやっていこう!という想いがこめられています。
文化祭…なんてワクワクする響き…!当日ももちろん楽しいけれど、みんなであれこれ喋りながら作り上げていく、あの時間がとっても楽しいんですよね。
実際に、年に一度のイベントが終わると、参加した企業さんたちから「FactorISMロス」という声が多数あがるそう。まさに「大人の青春」ですね!
2020年に初めて開催したときには35社だった参加企業は、2024年には91社に。八尾市を中心に、堺市や門真市などの多彩なものづくり企業が参加しています。
5年目の開催となった2024年のテーマは「醸す」。そのテーマのもと、各企業が工場見学やワークショップを実施し、トークイベントなども行いました。

(写真提供:FactorISM実行委員会)
イベント当日には、こんなパンフレットも配布しています。
実はこれ、計128ページの大ボリューム!

参加企業の一覧や当日のトークイベント・ワークショップの案内はもちろんのこと、企業へのインタビューや製品にまつわるクイズ、まちこうばを知るためのキーワード集、さらにはFactorISM事務局メンバーの「推しのこうば」「楽しみ方の推し」の紹介まで!
本として出版されていてもおかしくないくらいの豪華さ。これ、無料でいただいちゃっていいんですか?
このパンフレットからも、FactorISMにかかわる方々の本気度が伝わってきます。
ものづくりの楽しさを世界へ。大阪・関西万博への出展
FactorISMが発足当初から目標としていたのは、現在開催中の2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)。
八尾市などものづくり企業が集積するまち全体が大きなパビリオンとなり、世界中の人々にものづくりの楽しさをエンターテインメントとして届けることをめざして活動してきました。
その中で生まれたコンテンツのひとつが、まちこうばとアーティストをマッチングし、製造工程で出る端材や廃材を使ってアート作品を生み出すプロジェクト「LIVE!SM(ライブイズム)」。
実際にLIVE!SMの取り組みは、大阪・関西万博の「Co-Design Challenge」プログラム(企業・地域・個人が万博に参加し、未来社会のデザインを共につくることを目的とした公式プログラム)に見事採択されることに!
そして、万博会場内の「フューチャーライフヴィレッジ」の中庭に、端材や廃材を活用して制作したスツールとテーブルを展示しています。

(写真提供:FactorISM実行委員会)
実際に展示されているものがこちら。キュートなおばけ!
FactorISMは「まちのこうほうぶ」
FactorISMは、単なるイベントではなく、「まちのこうほうぶ」としての役割も果たしているといいます。
その目的は、企業単体では発信しきれないものづくりの魅力や想いを、まち全体で届けていくこと。そのために、FactorISMの参加企業を対象に、通年で5回ほど広報・人材研修を行っています。
その研修の成果を発揮する晴れ舞台は、なんといってもイベント当日!企業に新しく入った新人さんが工場を案内し、会社の魅力やものづくりへの想いを伝えています。
「自分たちの想いを、自分の言葉で伝えることがカギになる。かっこよく見せなくてもいいんです。コンセプトは『自由に、楽しく、自分ごとに』。それぞれが自分ごととして表現することで、想いはちゃんと伝わっていく。FactorISMは、まちの「想い」を伝えるものなんです」(松尾さん)

まちを未来へ引き継ぐ「式年遷宮」思想
まちづくりの側面をもつオープンファクトリーは、2010年代初頭からはじまり、近年盛り上がりを見せています。
ですが、オープンファクトリーを行うすべての地域が、地域活性に成功しているわけではありません。なかには、継続的な運営が難しく、衰退していく地域も。そもそも、高齢化や担い手不足を背景に、ものづくり産業自体が衰退していくという懸念もあります。
「ものづくりのまち」として、まちこうばやまちの想いを未来へとつないでいくために、松尾さんはこれから何をしていきたいと考えているのでしょうか。
「いまは、少しずつ次の世代に知識やノウハウを引き継いでいっています。よくFactorISMのメンバーに伝えているイメージは『式年遷宮』。伊勢神宮がやっている、20年ごとに神殿を建て替えて、地域の経済や技術を引き継いでいくという。FactorISMにも、その考え方を取り入れています」(松尾さん)
たとえば、実行委員長が「卒業」して別の方に交代したり、FactorISM統括プロデューサーである松尾さんの後継者となる人を育成したりして、次の世代へバトンタッチしていく体制を整えているといいます。
FactorISMはあくまで手段であり、目的はまちを未来へつないでいくこと。そのため、松尾さんはこうも考えています。
「FactorISMは、まちがずっとオープンマインドでいるためのツールです。極端なことを言えば、365日まちの広報ができるなら、FactorISMはやらなくてもいいと思っています。
このまちの人たちが、まちの良さやものづくりの魂を、未来に引き継いでいく。そのためにFactorISMがあるんです」(松尾さん)
松尾さんは、まちの未来を思い描きながら、いまを動かしています。

まちづくりに必要なのは「変態」
行政マン時代に「変態」と呼ばれるようになった松尾さん。
それは、ただひたむきに、がむしゃらにまちの企業と向き合う松尾さんの姿を見て、周りから名づけられたものだといいます。
ここでいう「変態」とは、「変化する」という意味。企業も行政も、時代の変化にあわせて柔軟に対応していくのが「変態」であり、まちづくりに必要なことだと、松尾さんは捉えています。
この「変化」は、松尾さんがずっと大切にされてきたキーワードでもあります。
松尾さんがまだ市の職員だった30代の頃、自分の軸がブレないようにと、ミッションステートメントを定めたそう。それは、「まちの変化の起点になる」こと。
そのために、毎年新たな挑戦を続けているといいます。
FactorISMのコンセプトは、五感を刺激すること。毎年、五感にまつわるテーマを掲げ、それにあわせてコンテンツも一新します。たとえば、「音」がテーマの年には、DJさんと協力して工場のさまざまな音をレコーディングし、音響・映像作品としてインターネット上で配信したそう。
「まちの変化をつくるためには、挑戦し続けないといけない。だから、変化を生み出すFactorISMは、僕の魂みたいなものなんです」(松尾さん)

そのまちに暮らす人、働いている人たちに、元気になってほしい。
そんな想いから、人生をかけてまちづくりに情熱を注ぎつづける松尾さん。
なぜ、そんなに行動を続けられるのでしょうか?
そう問いかけると、ちょっと悩んだ末に、こう教えてくださいました。
「楽しいから、でしょうね。ワクワクすることをずっとやりたくて。八尾の企業には、自分自身の生き方を楽しんでいる人たちがたくさんいる。そんなメンバーと、新しいことに挑戦して、一緒にまちづくりができることがとても楽しいんです」(松尾さん)
「まちづくりがしたい!」
そんな想いをもった行政マンは、いつしかひとり、またひとりと人々を巻き込み、気づけばまち全体を動かしていきました。
まちは、たったひとりの「変態」から、変わっていくのかもしれない。
そんなことに気づかせていただいた取材でした。
松尾さん、熱いお話を本当にありがとうございました!

FactorISM実行委員会
住所:大阪府八尾市光町2-60 リノアス8階
Web:https://factorism.jp/
株式会社友安製作所
住所:大阪府八尾市神武町1-36
Web:https://tomoyasu.co.jp/
(text:小島 千明、photo:衣笠 名津美)
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