ネクタイ嫌いだからこそ、本当につけたいネクタイを作り上げる 羽田忠織物HADACHU

羽田忠織物ネクタイ

皆さん、ネクタイといえば何を思い浮かべますか?

光沢のあるツルツルとしたネクタイ、酔っ払ったサラリーマンが頭に巻くネクタイ。はたまた、アメリカの大統領選の立候補者のネクタイ…

などなどスーツ姿の男性が仕事モードに変身するアイテムとして、ネクタイのことを思い浮かべた方が多いのではと思います。
そう、私もお父さんのネクタイを想像しました。会社にはスーツ姿の人間がいないこともあって、ネクタイとスーツはセットで頭にインプットされていました。女ですし、ネクタイはつけたことがありませんでした。

羽田忠織物ネクタイ

それがある日、しゃかいか!の市岡が、ジーパンに白シャツ、そしてネクタイをつけて出社。なんてカジュアルにかわいいネクタイをつけているんだ!オシャレなネクタイが流行っているんだな!と、市岡カメラマンのオシャレセンスに驚いていた矢先、山梨・富士吉田の織物取材、ネクタイ企業の話が舞い込みました。

羽田忠織物ネクタイ

前回に引き続き、「セコリ荘」の宮浦晋哉さんのご紹介のもと、老舗の機織り工場「羽田忠織物/HADACHU」さんへお伺いしました!

羽田忠織物ネクタイ

羽田忠織物さんへお伺いする前に、富士山のお膝元、富士吉田駅に到着し、大きな富士山を見てテンションが上がりすぎて、富士山の写真を撮り忘れてしまいました。

山梨はネクタイ生産量日本一
山梨の富士吉田は、全国でも有数の織物の町です。
富士山からの湧き水に支えられ、江戸時代に誕生したといわれる甲斐絹(かいき)と呼ばれる高級絹織物で栄えました。羽織などの和服の裏地に用いられた甲斐絹(かいき)が生産されなくなった後も、その織物文化の技術力の高さは廃れることなく継承され、山梨はネクタイ生産量日本一を誇っています。

まずは、羽田忠織物さんの工場敷地内に設けられたショールームへいってみましょう!

羽田忠織物ネクタイ

ブランドの世界観にどっぷり浸れるショールーム
扉を開けるとそこには、1,000本以上のネクタイがずらり、プラモデルまで舞います。
シルクを中心とした天然素材を丁寧に織り上げた水玉や格子柄のネクタイは、可愛らいしい配色で色鮮やか。従来のテカテカとした光沢は無く、遊び心があり、カジュアルにつけられるネクタイに
プレゼントしたらきっと似合うだろうなと思う自分好みのネクタイを見つけられそうです。

羽田忠織物ネクタイ

さらに、扉の右手には、白いオープンキッチンにかっこいいバイクが目に飛び込みます。
こんな場所で仕事がしたい!と思わずにはいられません。

羽田忠織物ネクタイ

あちらは、フランスの商業ポスターで有名な画家エルヴェ モルヴァンの作品!?と思わせるかわいらしいオリジナルのポスターが飾られています。
エルヴェ モルヴァンが好きな羽田忠織物の代表取締役社長の羽田正二さんが、特別にエルヴェ モルヴァン風なイラストレーターさんを探して特別に作っていただいたものなのだそうです。

羽田忠織物ネクタイ

目を惹くポスターや、アンティークの玩具をみては、おしゃれ!おしゃれ!と連発です。
好きなもので囲まれたこのショールームのネクタイは、実は、羽田忠織物さんのファクトリーブランド「HADACHU」のネクタイなのです。

羽田忠織物ネクタイ

羽田忠織物さんのファクトリーブランド「HADACHU」のネクタイが生まれる織物工場、さらにネクタイのデザインが生まれる現場の見学と「HADACHU」のネクタイができるまでを追っていきます!

羽田忠織物ネクタイ

本日ご案内いただくのは、羽田忠織物三代目の羽田正二さんと、蝶ネクタイがお似合いの天野由美子さんです。よろしくお願いします!たいへん笑顔が似合うお二人です。

羽田忠織物ネクタイ

すみません、さっそくですが、珈琲を淹れていただいたので一口いただきます。

おっおいしいすぎます!
富士山がもたらす豊富な湧き水で淹れた珈琲を毎日飲めるなんてうらやましいです。そうこのお水こそが、この地域で織物産業が発展した理由の1つなのです。

産業の発展に恵まれた自然あり
水に恵まれたこの地域は湿度が高く、機を織るさいに発生する静電気による糸切れが起きにくく、織物に適していました。
さらに、農家が多かったので農閑期の副業として織物をつくる小さい工房が増えていきました。
昔は、富士吉田一帯にガシャン、ガシャンと機屋(はたや)さんの音が響いていたそうです。

羽田忠織物ネクタイ

OEM生産で疲弊する日々
1935(昭和11)年に創業した羽田忠さんは、祖母の代に2台の織り機で座布団生地やわらじ編みから始まり、2代目にあたる父親の代からフォーマルネクタイの生産や、ネクタイ生地のOEM(委託生産)を中心に事業を展開していきます。

羽田忠織物ネクタイ

羽田さんは羽田家の次男として誕生し、もともと興味があった車のエンジニアの夢を目指し、大学入学を機に山梨を出ていました。
しかし、母親の説得の末、家業を継ぐ決意をして山梨へ戻ります。

家業を継ぐことになったが、わからないだらけの織物の世界。
大企業のOEMは、ブランド企業と直接やりとりをする「一部問屋」、さらに一部問屋から発注を受けた「二部問屋」が色やデザインをつくり、二部問屋からの発注で生地を織るという仕事が発生します。
生地づくりに介入する人が多くなるほど、修正や確認に時間を費やし、自分の意見が伝わらず、つくりたい生地とは異なるものができあがっていったそうです。

無駄がないフォーマルネクタイ
だからこそ当時は、色味を黒・白の2色で無駄を削ぎとったフォーマル衣装に合うネクタイをつくっていました。
羽田さんは、父親から「カラーをいれると予算がかかり、在庫を抱える不安がない。だから無駄がない。」と聞かされていました。

ネクタイが嫌いだった
当時の羽田さんにとってネクタイは、仕事の一部としてネクタイを作っているだけで、ほとんどつける機会がありませんでした。
ネクタイをつける機会がなかったこと以上に、テカテカした見た目、いかにもビジネスタイというような自分がつけたいと思えるカッコイイネクタイ、カジュアルにつけたいと思えるネクタイがなかったことも、ネクタイが嫌いな理由でした。

羽田忠織物ネクタイ

大企業からのOEMを請け負う中で、繊維産業の労働力が、賃金・原材料の安い中国、タイ、アジアへだんだんとシフトチェンジしていきます。

近年8年で、ネクタイ業界も時代の流れを感じはじめ、受注の減りを感じながら、いつ契約を切られるのかという危機感が増していきました。その危機感と同時に、羽田さん自身がつけたいと思えるオリジナルのネクタイづくりをしたいう意識が芽生え始めます。

自分で切り拓いていくしかない
OEMで食べられないなら、自分で切り拓いていくしかないという想いが自社ブランド立ち上げの強い原動力になりました。
楽しい仕事ではなかったOEM、「人間らしい生活ができない。」と羽田さんのお母さまがよく言われていたそうです。
寝る時間もなく、徹夜で3交代続けての作業、目の前にある作業をこなすだけの日々にどうしたらいいのかわからず、何も変わらない、変われない状態が続いていました。ただ、委託されたOEMの商品を納品日に間に合わせるためにつくる製品づくり、忙しさとの戦いの日々に疲弊していました。

なかなか踏ん切りがつかずの日々が続きましたが、この際OEMをすっぱりとやめようと決意します。そてから、いろいろな方との繋がりが始まりました。

無駄をしてこそ、つくりたいネクタイが形になる
2008(平成20)年に自社ブランドを立ち上げ、製造・販売を開始します。
「今は、父からいわれていた真逆のことをやっていますね」と羽田さんは笑います。
色は多色のもの、生地の素材にも興味が湧いてきていろいろな生地を試されているそうです。今のメインは、シルクや、ウール、リネンのネクタイづくり。

羽田忠織物ネクタイ

こちらの糸の間に空気を含ませて丁寧に織り上げた空気のように軽いシルクのネクタイは、パリの展示会でお披露目された商品だそうです。

パリでの展示会
2012(平成24)年に、フランスで展示会をするので一緒にやりませんか?と声を掛けていただいたことが切掛けで、パリで「NO TIE, YOU DIE」という合同展示会を行います。

本気でブランドをやっていく覚悟がある企業として手を挙げた、
産地でもいち早く自社ブランドを立ち上げていたリネン生地を扱うTENJIN facttory(テンジン ファクトリー)さん、
トレンドのものを扱っていきたいと新素材で勝負する山崎織物さん、
そして、自分の好きなものをつくっていくと決めた羽田忠さんが参加します。

羽田忠織物ネクタイ

光にかざすと透けて見えるネクタイ、先染めのストライプの上にはドットが光っています。

羽田忠織物ネクタイ

自分が好きなネクタイは、今までのネクタイづくりでは無駄とされてきた所をやっています。

好きの積み重ねで気分をハッピーにするネクタイ
羽田さんは、「今がもっとも楽しい!」と天野さんとの息のあったネクタイづくりを楽しんでいます。

自社ブランドを始めて、海外からも好意をもっていただく機会も増えているそうです。直接企業とやりとりをして、今では、有名企業とのダブルネームでのコラボ商品づくりも携わられ、好きなものをつくれることが何よりも楽しいそうです。宮浦さんも興味深々に生地について聞き込みされています。

羽田忠織物ネクタイ

さあっここで、ネクタイデザイナーによる、ネクタイのお見立ての時間です。
しゃかいか!坂田は、今日の衣装に合うしゃかいか!ブルーの蝶ネクタイをセレクトしていただきました!

羽田忠織物ネクタイ

宮浦さんには、赤色のストライプ柄の蝶ネクタイをセレクト!カワイさが炸裂しています。

羽田忠織物ネクタイ

お見立ていただいたお気に入り蝶ネクタイをつけてレッツ工場見学!

羽田忠織物ネクタイ

こちらが工場ということで、ウッキ、ウッキで潜入します。

羽田忠織物ネクタイ

工場内には、羽田さんの父親の代からのネクタイ生地見本が吊るされています。
なんだか慣れ親しんだネクタイカラーが並んでいます。

糸からネクタイ生地になるまでは、
【1】原糸⇨【2】撚糸(極細の糸に強度を与えるため高密度で織ります)⇨【3】染色⇨【4】整経(織物の設計書にならい、糸を決められた本数、長さ、密度、配列に並べて巻き上げます)⇨【5】製織⇨【6】整理加工(防水、シワなど生地の仕上げ)⇨【7】検品⇨【8】出荷という工程を順を追ってつくられていきます。

本日は、【4】整経⇨【5】製織の工程を見学していきます!

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まずは、糸からスタート!
羽田さんが手にしているこちらのうぐいす色の糸は、すでに京都の染色屋によって先染めされた糸です。

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先染めとは、たて糸・よこ糸をそれぞれ別に染めたものを後から織り上げた染色方法で、後染めには表現できない深みのある色合いが生まれます。

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「その糸ネップですよね」と宮浦さん。ネップとは一体!?
こちらのポツポツと繊維が絡み合ってできた糸のかたまりをネップといいます。ネップが出来ている糸を「ネップ糸」と呼びます。
ネップ糸を使って生地を織ることで、生素材感を活かしたカジュアルな仕上がりになります。

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こちらは、染色屋さんに染めて頂いた糸を織り機に取り付けるため、ボビンに巻く繰り返し機です。

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糸を綛かけ(かせかけ)に均一の枠周にきれいに広げて、

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グルン、グルンと音を立てて

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糸をボビンに巻き取らせていきます。

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糸巻きの最中に、糸が絡まったり、糸が切れることがありますが、
羽田さんは落ち着いて、切れた糸口を丁寧にたどり、糸の端を見つけ出します。

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この細やかな作業を慣れた手つきで、

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さっ、さっ、さっと羽田さんは糸を修繕していきます。

羽田忠織物ネクタイ

後は自動で、繰り返し機が糸を巻き上げてくれるのを待ちます。1ボビンで約1メートルの生地が織れます。

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次は、よこ糸をコーン(紙管)に巻き取らせていきます。

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この作業をチーズ巻といい、生地に使う分を巻きつけ、

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ギュン、ギュンと音をたてて回転させていきます。

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そして、巻きつけられた糸は、
どどーん!
柄物を織るのにこちらのジャガード機という織り機で織り上げられます。ジャガード機の扱いは、技術と手間がかかりますが、その分、繊細な表現を実現します。

羽田忠織物ネクタイ

ジャガード織り機は、たて糸1本毎を自由に上下に分ける器具があり、ジャガード機から通糸(つうじ)という糸で吊られています。
この上からピーンと張っている向こうに見える水平の糸がたて糸です。
本数にして、なっなんと約1万本もあります!これら1万本の糸を自由自在に操りジャガード機は柄を織っていきます。

羽田忠織物ネクタイ

織り機に糸を吊るす職人さんを「つりこみ屋」さんといいます。
その日の湿度に合わせて糸のテンションを調整しなければならず、これぞ職人技です。

羽田忠織物ネクタイ

密度の高い生地では、朝から晩まで動かし続けて1日で3.5メートルほどを織り上げます。これほど手間暇がかかっていれば、ロット数が少なくなってしまうのも納得です。

羽田忠織物ネクタイ

横に細かい糸がズラーッと並びます。
細かい櫛「オサ」に1万本の糸を通す職人さんを「オサ抜き屋さん」と呼んでいます。

羽田忠織物ネクタイ 羽田忠織物ネクタイ

あの、機械の上の方に吊ってあるこの穴のある紙はなんですか?

羽田忠織物ネクタイ

よく見ると穴に規則性がありますね。細かい柄の指定がされているみたい!!

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これは、紋紙(もんがみ)といって、布地に表現する柄の指示書です。
紋紙の穴の位置によってタテ糸が調整され、指示書通りに柄が織られていきます。機械を動かすと指示書がくるくる回転して、糸を織り上げていきます。紋紙を取り付ける作業も職人さんが取り付けられているそうです。今や、取り付けられれる職人さんも一人になってしまったんそうです。

多分業制で職人さんとの連携
この紋紙を作る職人さんを「紋屋さん」といい、羽田さんが紋紙に落とし込むデザインを設計して、紙に落とし込んでもらっています。
糸の染色職人、織り機に糸を張るつりこみ職人と、一枚の布が完成するまでにたくさんの職人さんとが連携してつくっていきます。

羽田忠織物ネクタイ

昔から使われていた紋紙(もんがみ)データがたくさん保存されています。

羽田忠織物ネクタイ

富士山の空気を織り込む
カシャン、カシャンという音と共に朝から晩までジャガード機を動かし、7,8メートルの生地を織っていきます。丁寧につくられる1本のネクタイ生地に職人さんたちの想いも織り交ぜられているようです。
生地が織り上げれるまでに、こんなにも時間がかかり、たくさんの職人さんが携わっていたことがわかると、一つ一つの生地に愛着が増しますね。

羽田忠織物ネクタイ

最後に、デザインが生まれる現場を見せていただきました。

羽田忠織物ネクタイ

好きなものに囲まれて生まれるデザイン
フランスの商業ポスター画家レイモン・サヴィニャックのきりんのイラストもまるでネクタイみたいでかわいいですね!すてきな車の小物も置かれています。やはりどこにいってもオシャレです。

羽田忠織物ネクタイ

黄色いかっこいいバイクも飾られています。

羽田忠織物ネクタイ

こちらは、設計図です。
羽田さんは、富士山の自然をイメージしたりと、なんとなくのイメージをスケッチし、具体的な色、柄と設計図に落とし込んでいきます。

羽田忠織物ネクタイ

羽田さんのデザインには、普段の羽田さんの好きなものたち(=センス)のヨーロッパ的な色使いの中に、富士山の地で生まれた日本らしさも混ざり合い、カジュアルさもありカッコよさもある居心地のよさがあります。

羽田忠織物ネクタイ

今までつくりあげてきた生地ハンガーをみて、色味を組み合わせたり、どのような組織をいれていくのかさらにイメージを膨らませ、カタチにしていくそうです。

羽田忠織物ネクタイ

最後には、設計図をもとにパソコン画面で柄を指定していきます。

羽田忠織物ネクタイ

設計した図の横に出来上がった生地を貼り付け、羽田さんのオリジナルのデザインノートが生まれていきます。
このデザインノートをみているだけで楽しい!

羽田忠織物ネクタイ

丁寧に織り上げる羽田さんと天野さんがつくるタイには、たくさんの「好き」が詰まっていました。楽しみながら生まれているネクタイは、身につける人もなんだか元気にしてくれそうです。
本日は、日々の暮らしを明るく、ハッピーにしてくれるネクタイが生まれる現場をみさせていただき、ありがとうございました!

【詳細情報】

有限会社羽田忠織物/HADACHU ORIMONO

電話番号:0555-22-4584
住所:山梨県富士吉田市上暮地3-7-26
URL: http://hadachuorimono.jp/

(text:坂田、photo:市岡)

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