岐阜で6次産業化を企てる狩猟民族を発見! 猪鹿庁(けもの塾合宿1日目)

やってきました今日の現場のテーマは狩猟!
「ふるさとけものネットワーク」という団体が主催する「けもの塾」に参加します。

狩猟の様子ふるさとけものネットワークは、獣害などの野生動物の課題で悩む地域を対象に、各地で対策支援を行っている団体のネットワーク組織。専門性の高い獣害のスペシャリストとして、自治体単位での各地の現状や課題を把握し、情報を発信するといった活動をしています。
現在は岐阜県郡上市の「猪鹿庁(いのしかちょう)」、新潟県の「ワイルドライフリサーチ」、千葉県の「合同会社AMAC」、山梨県の「甲斐けもの社中」4つの組織が加盟していて、獣害に関するトレンドや情報を交換し合い、活発に交流。今回の「けもの塾」も4つの組織が持ち回りで行っている強化合宿の一つ。今回は猪鹿庁がホストとなり、ここ岐阜県郡上市で2015年11月に開催!

参加者挙手まずは座学で猪鹿庁の活動を勉強。
参加者のみなさんは、上に書いた4つの組織のメンバーの他にも、全国からそれぞれの地域の獣害対策の現場の人が集合。狩猟免許を持っている人もたくさん参加しています。ちなみに狩猟免許は散弾銃やライフル銃を使うことのできる第一種銃猟免許や、ワナや網など種類によってできることが変わってきます。

興膳さんお世話になる興膳 健太さんです。「ぜんさん」と呼ばれている猪鹿庁長官。福岡生まれの郡上歴9年目の住人。よろしくお願いします!

猪鹿庁はもともと郡上の土地が好きな人たちの集まりからスタート。地域支援や子どもキャンプなどの自然体験のプログラムを提供しているNPO法人「メタセコイヤの森の仲間たち」という組織で活動していましたが、主に活動期間は春から秋。雪に埋もれることの多い郡上では、スタッフも冬の間一旦契約が切れ、地元のスーパーなどに努めていました。「冬の仕事がいるなぁ」ということで、里山保全事業チームがスピンオフ。「猪鹿庁」が2009年に生まれました。

今日は、猪鹿庁の農家集落支援の現場を見せてもらいます。

里山保全見学にいくど!ということで、早速現場へGO!

オリ遠景>農家集落支援の現場、に到着。オリがある!
車で数分、現場に到着しました。
猪鹿庁の農家集落支援とは獣害対策のお手伝いのこと。農家の人から農作物の鳥獣被害のSOSを受けて、鹿やイノシシの捕獲支援、狩具の提供とその使い方の指導、捕獲後の処理などを一緒に行いながら、やがては農家さんたちが自立して対策できるようにすることが主な活動です。

着替えて狩猟のユニフォームに着替えました!
猟師スタイルがすっかりサマになっている興膳さん。猪鹿庁の設立当初は、4名でスタートしましたが、みんな山や川の遊びの達人であっても冬のことはわかりません。
そこで目をつけたのが、猪。
郡上市は日本三大イノシシの産地と言われていて、シシ鍋屋さんも多くあります。そして、猟師さんもたくさんいます。猪鹿庁のみんなはシシ鍋が大好きだし、自分たちで実際にやってみよう!ということで、まずは自分たちが猟師の免許をとるところからスタートしました。

制服のマーク猟師の証
捕獲支援は、狩猟免許が必要なので、まだ免許のない集落のみなさんには、1〜2時間の簡単な講習を受けてもらい、補助者として参加してもらいます。実務を体験してもらうことで、将来的には集落ごとに一人ずつくらい、免許をもってもらって自立してもらうことを目標にしています。
これまでに8人の農家さんが免許を取得!

掘った跡ガードレールの土台がむき出しになっています。これはイノシシが掘った跡です。

ぶつかった跡これは車の事故ではなく、イノシシがぶつかった跡。衝突の威力を想像すると怖い。
獣たちがたくさん出没するポイントです。

ワナがこの辺りにあるワナと餌のチェック。
鹿がきている監視カメラのチェック。
鹿が映っています。この場所に来ていたことは間違いない。
監視カメラを設置しておくことで、「鹿は来てたけど、ワナのところを取っていないな」といった反省会をすることができます。少しお高いのになると、SIMカードを入れておきメールでJPGで送ってくれる機能があるものもあります。

ワナを踏むワナで攻める、オリで守る。
これは「くくり罠」と言います。
猪鹿庁では狩猟用の檻やくくり罠をレンタル。くくり罠は獣道に獣の餌となる小糠でおびき出して捕獲する「攻め」の道具。一方、檻はじっと待つ守りの道具なので、なかなか根気が必要。檻は猪鹿庁で溶接して自作しています。

ワナ素材比較ワナには鉄製とゴム製があります。

しゃべる止め刺しが一番重宝されます
猪鹿庁が一番重宝されるのは捕獲後の処理、つまり止め刺し(とめさし)とも言います。檻や罠にかかった獣たちにトドメを刺すのですが、やはり、殺生が嫌だという人もいるので、電話一本でかけつけて作業を行います。農家さんたちのちょっと離れたところで処理する気配りも必要。この止め刺しが、体力的にも心理的にも一番ハードルが高いので、猪鹿庁がここを受け持つことで「これなら捕獲できるか」という気持ちになってもらい、捕獲の難度を下げます。猪鹿庁の一番の活躍しどころとも言えます。

思いっきり引っ張るワナの設置を体験させてもらいます。ワナにつながるワイヤーにバネがセットされていて、このバネが開放されることでワナが作動し、イノシシや鹿の足を縛り動けなくなるのがざっくりとした仕組みです。バネの張力が足りないとギュッとならないので、セットするときには思い切り、引っ張っておきます

踏みつけるちゃんと動くかな?鹿になった気持ちで踏んでみる。
ワナは感度が大切。感度が高すぎると狸などの小動物がかかってしまうこともあります。

ワイヤーも埋め戻すワナの土台を作って埋めます。最後にワイヤーを隠して設置完了。

集落の人登場「やってるねー」
この集落の農家の方が登場。もともと役場にお勤めで、退職後に就農しました。ワナトークに花が咲きます。

捕獲支援や道具のレンタルといったアクションの前に行うのが、農家の方への説明会。目的は集落全体の意思と方向性の統一で、捕獲や処理などアクションの前に行うこのステップが、実は一番大切。困っているレベルも農家さんごとに作物や場所によって異なるため、だいたい「うちの方が困っている」「大変だ」と愚痴大会になってくるので、集落全体でどうしよう?と一緒に考え、「よしやろう!」と次のアクションへつながる気持ちを高めていきます。

集落環境診断の写真そして、被害の見える化。「集落環境診断」といって獣害に遭った地点をマップ化するために、農家さんたちと一緒に歩いて、自分たちの集落がどういう状態か、よくやられているところや獣道の現場のマップを作ります。柵が壊れている、もしくはないところを現実にみんなで見て回り、理想の状態に落とし込んでいき「今後やらねばいけない対策」が見えてきます。
この時猪鹿庁から「どうしましょうか?」と問いかけを発信し、獣害対策を「やってもらう」のではなく自分ごととして考えてもらいます。そのようにして、スケジュールを決め、会合の中で盛り上げながら「やろう!やろう」となっていくことが多いのだとか。
この時点での目的は意思のレベルをみんなで同じところに持ってくることです。

さらに補助金・助成金の説明も。時には役場の職員さんにも来てもらって、お金をもらえる制度の説明をしてもらい、費用と具体的な作業へとブレイクスルーして、行動計画へと進めていきます

猪鹿庁ロゴ「私たちは、自ら猟師として里山に生きること、を決めました」
それは自分たちの暮らしを自分たちで守るためです。
今の時代だからこそ、アカルイミライは地域にあります。
日本三大猪の産地ともいわれる岐阜県郡上市という地域を愛し、地域で生きていく仲間が集まって猪鹿庁は結成しました。 私たち猪鹿庁は、6つの課がそれぞれのプロとして、狩猟の技術を磨き、里山の生態系を保全し、里山を最大限に資源化することで、猟師として生き続けます。
以上は、2015年11月の猟期解禁に合わせて発表した猪鹿庁のステートメント。

郡上が好きで集まったメンバーが多いとはいえ、みんなの目的はまちづくりなど。
狩猟がしたかったメンバーかといえばそうでもありませんでした。狩猟の免許を取ったからといってすぐに猪を捕まえることができるとは限りません。初年度の狩猟の成果は残念ながら0頭。そこで、地元の猟師さんに「何かお手伝いできることないですか?」と尋ねてみても、ヨソ者の集まりだった興膳さんたちに対して「自分たちの猟場を荒らされる」と警戒してしまい、かえって煙たがられることもありました。

猪骨ラーメンそこで、ラーメンを作りました。
頭をひねったヨソ者たち。地元に混じり合うために最初にしたことは、なんとラーメン作り。イノシシの骨で豚骨ラーメンならぬ、猪骨(ちょこつ)ラーメンを作るために、「骨をください」と言って地元の猟師さんに言って骨を集めて回りました。
集めた骨をプロに作り方を教わりながらスープを取り、作ったらみたらこれが結構ウマイ!これを
地元の漁師さんに振る舞いました。これをきっかけに地元の漁師さんと徐々に溶け込んで、猟友会、解体場開設のお手伝いなど徐々に声をかけてもらえるようになりました。

猟師の六次産業化猟師の六次産業化を狙う。
猪や鹿を狩り、解体することは経験を積むことで上手になりましたが、猪鹿庁の収益の仕組みはどうしよう?と頭をひねり、農家集落支援の活動にたどり着いたのは活動から4年目(2013年)でした。

活動理念「猟師としていき、猟師として山を守る」の意味するところは、ちゃんと地域に暮らしの一部として猟師が暮らし続けること。
まずは、猟師がキチンと食えないとダメ。興膳さんは、農業も含めて生産者が弱いのが嫌で、猟師として肉を生産する立場として生産者による変革を起こしたい、と考えています。ゆくゆくは生産者ネットワークを拡大し、適正な対価を得ることができる仕組みをもっともっと作って、こだわりがある生産者が食えるムーブメントを起こす、ということが興膳さんの企みです。

続きは「林業を守る、お料理を作る、解体する、ケモノの職人たち 猪鹿庁(けもの塾合宿2日目)」をご覧ください。

【詳細情報】

猪鹿庁( NPO法人メタセコイアの森の仲間たち一事業部 )

電話番号: 0575-88-1085
住所:岐阜県郡上市大和町剣82-1
URL: http://inoshika.jp/

(text:西村、photo:市岡 ※一部の写真は猪鹿庁さん提供)

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