【奈良】工芸の未来へ、新しい一歩 ―― 三百年企業・中川政七商店が「B Corp」認証を取得

1716年創業の中川政七商店が、社会や環境へ配慮した企業に与えられる国際認証「B Corp」を2025年8月に取得しました。
世界のB Corp認証企業の中でも、三百年を超える歴史を持つ企業による取得は珍しく、工芸の現場で活動してきた同社ならではの判断として注目が集まっています。

B Corp認証とは?

B Corp(B Corporation™)とは、米国のNPO法人「B Lab™」が運営する国際的な認証制度です。
企業がビジネスを通じてどれだけ社会に“より良い影響”をもたらしているかを、「ガバナンス(企業統治)」「ワーカー(労働者、従業員)」「コミュニティ(地域社会)」「エンバイロメント(環境)」「カスタマー(顧客)」の5つの観点から総合的に審査します。

2025年10月時点で、世界102か国・1万社以上が認証を取得。日本でも60社以上が取得しています。(※B Market Builder Japan調べ)
中川政七商店は、2年以上にわたる取り組みの結果、基準点を上回る84.1点を獲得しました。

なかでも「コミュニティ(地域社会)」と「ワーカー(従業員)」への向き合い方が高く評価されています。

なぜ老舗がB Corpを取得したのか

同社のビジョンは「日本の工芸を元気にする!」。

工芸産地とともに歩む“製造小売”と“産地支援”の両方を続けてきましたが、その一方で、土や漆、染料、木材といった自然素材の枯渇が、いま工芸の未来に静かに影を落としています。

つくって売るだけでは、工芸は続いていかない。
その気づきから、「ものづくりの循環をどんな姿で実現できるか」を見つめ直したことが、B Corp取得の背景にあります。

代表の千石あやさんは次のように話します。

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この時代に、ものをつくって売る会社としてどうあるべきか。

中川政七商店は、文化のよりしろである工芸を百年先にもつなぐために、健全に続けられる形を探していきたいと考えています。

工芸の知恵を手がかりに、“つくる・つかう・終わらせる”の循環を実践し、ものづくりの新しい責任を、世界の皆さんとともに見つけていきたいです。

(中川政七商店 プレスリリースより)

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“工芸のしまいかた”を考える新プログラム

B Corp取得を機に、同社では2026年2月から“工芸のしまいかた”をテーマにした循環プログラムが動き出します。

まずは陶磁器から。使われなくなった同社の商品を店頭で回収し、金継ぎなどで修復したうえで再び販売します。回収は全国の直営店約60店舗で行う予定で、欠けや割れのある器も対象です。状態に合わせて修復し、再販売した際の収益の一部は作り手や産地に還元され、次のものづくりの財源となります。修繕が難しい器については粉砕・精製し、土として新たな素材に生まれ変わらせるなど、原料からの再利用も見据えているといいます。

さらに、器を手放す際には任意で“思い出のメッセージ”を添えることができ、その言葉は次の使い手へと受け継がれます。使われ方だけでなく、ものに込められた気持ちまでも循環していく仕組みです。

日本に昔からある「直して使い継ぐ」という文化を、現代において再構築しようとする取り組みと言えます。

工芸の未来を考える手がかりとして

工芸は、自然素材と人の手仕事によって生まれています。
素材の枯渇や担い手不足という現実がある今、企業がどんな姿勢で工芸と向き合うかは、これからの産地にとって大きなテーマになっています。

中川政七商店のB Corp認証取得と循環プログラムの始動は、
「工芸を続けるために、企業はどう変わっていけるのか」
という問いに対する、ひとつの実践と言えます。

長い歴史を育んできた企業が、次の時代のものづくりにどんな景色を描いていくのか。
その動きに今後も注目が集まりそうです。

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