ガラスにも毛がはえる!?「伸栄プラスチック」がデザイナーとの共創で切り開いた「静電植毛加工」の新たな可能性

もけもけ、しっとり、つんつん、さらさら。

ジュエリーケースや靴、眼鏡ケースなどで使われていて、実はたくさん身近に溢れているのに、知っている人があまりいない技術。

皆さんは、これを聞いて何を思い浮かべましたか?

正解は、「静電植毛加工(フロッキー加工)」

あの少しモフモフしているけどすべすべ感も併せ持ったジュエリーケースの表面や、お化粧で使うパフ、眼鏡ケースの内側の表面など、糸で織られた布とはまた違った独特な触感、光沢感を生み出していたのが、実は「静電植毛加工」だったんです。

写真からも、光沢を伴ったエレガントな装いが伝わると思います。このように人工芝のような質感も出すことができるんです。

今回、しゃかいか!は、そんな静電植毛加工を使って、たくさんの驚き、感動、喜びを生み出してきた「伸栄プラスチック」さんへ伺いました。

伸栄プラスチックさんは固定観念に囚われず、静電植毛加工の本質、魅力を引き出し活かすための試行錯誤を続けている、とても面白い発想で溢れた企業さん。

ぜひ、その柔軟でユニークな一面に着目していただきたいです!

初めまして。本記事を担当するしゃかいか!インターンの秋山です。

早稲田大学社会科学部1年。高校時代は、地元群馬県伊勢崎市の伝統的工芸品である伊勢崎絣に強く惹かれ、技術を学んだり、全国の土地に息づいてきたものづくりを見たりしてきました。

私のワクワクは、「知らない」を探求し続けること。今は、ものづくりを通して見えてくるその土地だからこその無意識の知恵や創造力の差異やその要因について興味があります!

今回の取材は、公益財団法人日本デザイン振興会さんとのコラボ企画
日本デザイン振興会さんは、グッドデザイン賞の主催をされていますが、実は、地域のデザインを盛り上げる支援もされています。

今回は、東京都が主催、日本デザイン振興会さんが事務局としてサポートしている東京ビジネスデザインアワード(通称 TBDA)」を過去に受賞した企業さんにお邪魔させていただいております。
「東京ビジネスデザインアワード」は、都内中小企業が持つ優れた技術や素材と、デザイナーからの企画提案のマッチングを通して、新たな事業の可能性を生み出すコンペティションです。

その中で、今まで知らなかった「静電植毛加工」という技術と、固定観念に囚われない新たな「静電植毛加工」の可能性への探求姿勢に興味が湧き、2016年の受賞企業である伸栄プラスチックさんに取材をさせていただきました。

伸栄プラスチックさんがあるのは、東京都八王子市。

11月下旬、高尾駅を降り、伸栄プラスチックさんへ向かう道中は山々が深紅と黄金色に色づき、うっとりするような絶景が広がっていました。

水と空気以外ならなんにでも植毛できる「伸栄プラスチック」

今回の取材でお話を伺ったのは、4代目代表取締役の近藤学さん

ワクワクする未来への推進力とユーモアに溢れる雰囲気と話し方に、次々と聞きたいことが湧き上がっていきました!

さぁ、まず、「静電植毛加工(フロッキー加工)」についてご紹介します。
(後ほど、静電植毛加工の現場もリポートするので、お楽しみに!)

(ご提供写真)

「静電植毛加工」とは、電力を利用して素材(基材)に短繊維(以下パイル)を植え付ける加工技術のこと。

様々な色や特徴を持つパイルを表面に塗布することで、柔らかで高級感ある製品となり、断熱効果・保温効果・遮光性・結露防止など様々な機能をあわせ持つようになるそうです。

基本的な原理は、「クーロンの法則」

実は、小学校時代、一度は皆さんやったであろう「下敷きで頭をこすって、髪の毛を逆立てる」あの遊びと同じ原理なんです!

「クーロンの法則」とは、電気を帯びた物体が違う種類の電気を帯びている方向に飛んでいく原理のこと。

この法則を活用し、接着剤をつけた物体(アースをつけているため、電気的に安定した状態)に、電気を帯びたパイルを吹き付け、パイルを植えこんでいくのが「静電植毛加工」です。

ふるいのようなものに電気を帯びさせ、アースをつけた物体にパイルを塗布するダウン法、下にパイルを置き、電気を帯びさせて、上に行かせるアップ法など植毛方法にもいくつかの種類があるそうです。

原理はとてもシンプルな技術なため、植毛する物体や形状、パイルの原材料、長さ(0.3mm~4mm)によって色々な組み合わせをすることができます。

近藤さん曰く、 伸栄プラスチックさんでは、水と空気以外どんなものでも植毛ができるのだそうです。

だから、なんとガラスにも植毛ができるんです!

日本は、静電植毛加工に最適な国?!

静電植毛加工の起源は1800年代頃のチェコスロバキアとされ、当時は多くの米農家さんで使われていたもみ殻と米を分ける道具のようなものを使って、繊維を吹きつけ、壁などの装飾をしていたのだそうです。

そこから、100年ほど経った1900年代初頭に、日本の墨田区でも静電植毛加工を始めた方が出てきました。そして、1964年の東京オリンピックの聖火台までの階段に静電植毛加工が使用されたことで、日本国内での認知が広がっていったそうです。

実は、静電植毛加工において欠かせない要素のひとつが「湿度」
年間を通して湿潤な気候である日本は、静電植毛加工に最適な国の一つだったんです。

空気が乾燥する時は加湿器を回して、1年を通して常に室内が湿度45-60%を保つ工夫をし、品質を保っているそうです。

そして、近藤さんは海外企業との仕事を行う中で、「日本は、パイルの品質もいいからもっと、その質に誇りを持つべき!」と日本の企業によって製造されるパイルの可能性に気がつき、大きな期待を寄せています。

ものづくりは、作り手だけでは成立せず、開発する人、原材料をつくるひと、作り手、検品する人、運ぶ人など沢山の職人が集まってできるため、どこか一つでも、欠けてしまったら、技術はあっても、ものをつくれなくなってしまいます。

だからこそ、近藤さんは今後の産業のあり方も常に考えておられ、例えば中国を「パイルの生産拠点としてではなく、これからは販売拠点として活用していった方がいいのではないのか?」など、自分たちの技術や会社のことだけではなく、原材料の現状にも、常にアンテナを張り、産業全体でこれからも日本らしく進化していくためにはどうするべきなのかを真剣に考えられていました。

その姿勢に、固定観念にとらわれず、物事が持っている魅力を発見し活すことの大事さを学びました。

「伸栄プラスチック」のはじまり

そんな伸栄プラスチックさんは、近藤さんの祖父が創業した成型品のバリをとる仕事をする伸栄工業所から始まりました。その後は自動車の塗装業も始めるなど、当時需要の大きかった仕事を次々に請け負っていました。

そんなあるとき、創業者が静電植毛加工のことを知り、可能性を見込んで事業として開始しました。

そして、しばらくの間は、塗装と静電植毛加工の両方を行っていましたが、埃などがNGな塗装加工と、とても細く短い繊維(パイル)を扱い、工場内をずっと繊維が漂っているような空間にしてしまう静電植毛加工は相性が悪く、最終的に静電植毛加工の一本に絞っていくことに決まったそうです。

近藤さんの祖父や父親の時代は、自動車業界や弱ジャグ電系の仕事などが立て続けにどんどん入ってくる時代でしたが、現在は、斜陽化。

そんな状況の中でも、固定観念に囚われない新たな「静電植毛加工」の可能性を探求し続ける姿勢の裏には、こんな想いがありました。

「静電植毛加工の可能性を信じているからこそ、静電植毛加工だけに特化するのではなく、新たな可能性を模索していきたい。」

「過去の成功とは異なる状況下の今だからこそ、同じことをやるのではなく、探求して、静電植毛加工の価値を再構築していきたい。そのためには、これまでの常識にとらわれない新たな植毛ブランドを創りたい。」

親子3世代でカタチを変えながらも繋げてきた伸栄プラスチックの静電植毛加工という技術の可能性を信じ、自分の視点で価値を再構築し、現代社会の需要に応えようとする近藤さんの覚悟と、ワクワクを感じ、胸が躍りました!

そして現在は、実際に「So.」(ソー)というオリジナルブランドをもち、誰も見たことのない静電植毛加工を目指し続けています。

(2025年にはPVC素材のiphoneケースに植毛加工を施した実例も!)

近藤社長のユニークな発想はどこから来るのか?

時代の最先端に静電植毛加工を使って挑戦しようとするワクワクを、取材する中でたくさん 感じる近藤社長。

伸栄プラスチックさんは、2016年度の東京ビジネスデザインアワード(以下TBDA)で「フロッキー加工技術のブランディング提案」でテーマ賞を受賞しました。

アワードに参加するまでは、自動車産業のスマイル曲線の最下層部に位置しており、「なんにでもできる加工技術はあるけど、なんも見せられる製品もない。」という状況だったという伸栄プラスチックさん。

先代から行っている量産の仕事以外にも、新しい産業に飛び込み、自分たちならではのポジションを確立していかなければいけないと思っていた時に、TBDAに出会いました。そこでマッチングしたデザイン事務所のhitoeさんとともに、デザイナーやクリエイターにも刺さるホームページづくりなどに積極的に取り組んだことで、デザインの領域にもビジネスを広げられたそうです。

そして、今は、国内外の名だたるアーティスト、団体と様々なコラボをするまでに成長しています。

TBDAを運営する日本デザイン振興会の吉田さんによると、「TBDAの中でも、とんとん拍子でうまくいっていた事例だった。」だそうです。

この言葉からも伸栄プラスチックを変えたい!と熱く燃える近藤さんの熱意とワクワク、そして、そこに対してとてもうまくコミットしたhitoeさんの相性の良さが伺えます。

また、「伸栄プラスチックは、なんか変わった植毛をしているぞ!」「こういう植毛があるとは思わなかった!」など、新たにデザインの要素が掛け合わさり、どんどんと新しい静電植毛加工の可能性を探索できたことで、今まではあまりご縁のなかった人たちにも、興味を持っていただける機会が増えたという話も印象的でした!

会社としても、かつて、自動車産業からの仕事が大部分を占めていた際、静電植毛加工は、あってもなくてもいいからこそ、実際に評価を受けたり、自分たちで評価をしたりする機会が少なかったそうですが、店舗のディスプレイやデザイン関係の仕事では、自分たちが加工したものが目に見えた状態で評価されるため、会社が盛り上がるそうです。

私も、高校生の時から伝統工芸について活動を行う中で、デザインの視点でものづくりを見ることで、ものづくりのコアな部分のワクワクさえもより多くの人に届き、新たな可能性が生まれる「ものづくり×デザイン」の重要性、力の大きさに着目していたので、今回、実際に事例をお聞きできてとても勉強になりました!

そして、TBDA受賞から約9年経った今、新たに見えてきた静電植毛加工の可能性があるのだといいます。

それはずばり、、、
 「 アートとの親和性が高いこと。」

静電植毛加工をアートに用いることで、色以外に質感など、様々な感覚、表現を伝えることができるという、静電植毛加工は、芸術の世界の表現の新星だったんです!

この発見を嬉しそうに語る近藤さんは、常「自分でできることは限られているからこそ、周りに頼る」スタンスで、積極的に色々な人を頼ったり、なるべく、海外にいったり、国内の別の土地の産業を見たりすることで、会社を客観的に見る環境を創っており、この姿勢こそが、伸栄プラスチックさんがもつ固定観念に捉われないユニークさをカタチづくっていました!

あえての「職人技と半自動」

さぁ、いよいよ、伸栄プラスチックさんの工場を見させていただきました!

初めての光景と近藤さんのお話に驚いてばかりで、口が取材中はずっと開いたままでした。

びっくりしたことは、機械はあまり使われておらず、静電植毛加工が、ほとんどが手作業で行われていたこと。

てっきり、工場内が機械で埋め尽くされ、敷き詰められたレーンの上に製品が流れて、接着剤、パイルが吹き付けられるようなほぼ全自動で製造されているものだと思っていました。

私は、工業製品といったら、このような人を感じないイメージで、伝統工芸や作品などが手作業で、人を感じることのできるものというイメージがなんとなくありました。

しかし、工業品といっても色々な形態があり、「職人技」の概念の多様さにも気付かされました。
そして、今回の取材で少し偏見のあった自分の思考の特徴に気が付くことができました。

さて!どのように、工場内で静電植毛加工が行われているかというと...

まず、1人目が製品に接着剤を均一に塗布し、

2人目に手渡され、そこにパイルを吹き付ける。

そして、最後に3人目が仕上げとして、もう一度、足りない部分にパイルを吹き付ける。

これらの作業は、本当に一瞬で行われ、この無駄の一切ない洗練された一連の流れのなかで、とても美しい静電植毛加工が施された製品が物凄いスピードで完成していきます。

これこそ、職人技!

こちらは、10年携わる熟練の職人さんの手捌きです。

水鉄砲のようなカタチをした噴射機から0.3mm-4mmのパイルが連続に出ていて、接着剤で白かった表面が一瞬で、黒いもけもけの表面へと変わり圧巻でした!

現在は、11名の従業員が製造に携わっており、皆さんそれぞれが職人技を併せ持ち、人の丁寧さ、温かみを一点一点に込めながら作業を行っています。見ていてそのスピード、信頼の上に成り立った無駄のない連携がとても気持ちが良かったです!

これから、静電植毛加工をされた物を見たら、伸栄プラスチックさんの方々を思い出しそうです。とても愛着が湧きました。

もちろん、伸栄プラスチックさんの工場には、ロボットもありますが、現在はほとんどロボットや機械に頼らず、「人の手」「職人技」で行っているそうです!

そうすることで、中小ロット、多品種に対応でき、より多くのニーズに応えることができるため、あえて、「人の手」で一個一個作っています。

そして、だからこそ、近藤さんが、

「静電植毛加工は、”アイデア”一つで生産性が変わる。技術の根本はシンプルだからこそ、アイデアやノウハウが企業力に影響してくる。」とおっしゃっていた意味がよく分かりました。

工程は、シンプルだけれども、よく観察すると、その技術は全然シンプルじゃない!

静電植毛加工は、製品に対して接着剤やパイルを均一に塗布する必要があります。
つけすぎても駄目。同じところにずっとかかってしまっても駄目。
加えて、3人の作業の息を揃えるのも大変。その技術を習得するには、3-4年はかかるそうです。

そして、その後もよりよい製品に仕上げるために、試行錯誤の日々。

実際に工場を見学して、シンプルな技術だからこそ、職人の腕の凄さが工場内で際立ち、そして、人々の感動につながる技術を紡いでいけるのだと、静電植毛加工の技術の無限の可能性にワクワクしました。

これから伸栄プラスチックはどうなっていく?

常に、静電植毛加工の新たな可能性を模索し続ける伸栄プラスチックさん。

近藤さんが静電植毛加工で数々の試作に挑み続ける背景には、固定観念にとらわれない発想とチャレンジ精神があります。

そして、その根底にあるのは、昔ながらの量産仕事にとどまらず、新しい産業へ自ら飛び込んでいきたいという思い。祖父の代から積み重ねてきた歴史と経験を武器に、「下請け」という枠を超えた独自のポジションを確立しようとされています。

この技術が持つ可能性に多くの人が触れ、ワクワクするような場をつくること。それが、静電植毛加工技術を未来へと紡いでいくことにつながるのだと感じました。

「小さいパイをみんなで取り合っても面白くない。だからこそ、誰も気が付いていないことをやって、うまくいった暁には、仲間に声をかけて大きくなっていきたい。

という近藤さんの覚悟を教えていただきました。

コロナ禍真っ只中の中で、社長に就任してから、何度も下り坂に直面してきても、新しいことに挑戦し続ける原動力を知ることができ、その姿勢は、とてもかっこよかったです。

また、「20代以上の価値観は、様々な世代の従業員がいるため分かるが、10代の価値観は、10代の人たちにしかわからない。」ともおっしゃっていました。

現在は価値観が多様化していたり、テクノロジーが日々進化したりする中で、各世代におけるバリューを見つけていくことが難しいからこそ、近藤さんは、企業にいない年齢層の価値観を持っている学生インターンの力に期待を寄せていました。

現在は、サステナブルな静電植毛加工の可能性を探求しているそうで、今後の新たな静電植毛加工の躍進にとても胸が躍ります。

「なんでも植毛すると人が驚いてくれて、喜んでくれて、なおかつ、お金をくれるんだぜ。こんなに最高な仕事ないじゃん!」

近藤さんが、創業者である近藤さんの祖父に亡くなる直前に聞いた、伸栄プラスチックが静電植毛加工を行う理由。
そして、ユニークな発想と豊富な経験と確かな技術で自分たちならではのポジションを模索し続ける姿勢...

”驚き、感動、そして喜びを製品に込めてお届けする”伸栄プラスチックさんには、日本のものづくり業界の現状と希望がたくさん詰まっています。

そんな今回の取材は、ものづくりを続けていく覚悟と面白さをぎゅっと知ることができ、ずっと口がふさがらない二時間でした。

そして、私たちの当たり前の日常の中には、あまり人々が意識したことがないけど、そっと日常を豊かに彩ってくれているものがたくさんあり、そこには、たくさんの工夫と想い、挑戦と実践のワクワクするストーリーや技術があることを実感することができました。

改めて、ものづくりから見えてくる、その土地の暮らしや工夫。そうした日常に新たな気づきをもたらしてくれる光景にふれることが、私はとても好きなのだな、と実感しました。

実は身近なところにたくさん施されていて、お世話になっているのに、あまり知られていない「静電植毛加工」ですが、伸栄プラスチックさんのこれからのユニークな取り組みを通じて、私たちが認識し、目にする機会が今後増えるのではないでしょうか。

そんな未来が、とてもとても楽しみです!

ぜひ、みなさんも、日常の中で、「静電植毛加工」を探してみてください!

取材をさせていただきありがとうございました!

有限会社 伸栄プラスチック

住所:東京都八王子市下恩方町308-23(下恩方工業団地内)
Web:https://www.shineipla.co.jp/

(text :秋山友花、photo:市岡 祐次郎)

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