“つながり”が育む未来。北海道にイノベーションの風を巻き起こす「エア・ウォーターの森」

2024年12月。
住宅街が広がる札幌・桑園エリアに突然現れた、ひときわ目を惹くガラス張りの建物。
これ、なんの建物だと思いますか?
オフィスビル?それとも商業施設?
この建物の名前は「エア・ウォーターの森」。
木造4階建てのこの施設には、コワーキングスペースや企業・大学が入居できるシェアオフィス、さらに地域の人も利用できるレストランまで備わっています。ですが、ただの複合施設ではありません。
ここは、北海道の社会課題を解決するためにつくられた、オープンイノベーション施設。
企業、大学、自治体などが手を取り合い、新たな価値を生み出すことで、北海道の未来を描く。そんな場所になっています。

この施設を運営しているのは、エネルギー・医療・食品など幅広い分野で事業を展開する、エア・ウォーター北海道株式会社。
これまで行政主導の取り組みがほとんどだった地域課題の解決に、産業界から挑む。そんな新しいチャレンジの場として、エア・ウォーターの森は生まれました。
この場所には、どんな想いがこめられているのでしょうか?
その答えを探して、エア・ウォーターの森を訪ねました。

こんにちは!「しゃかいか!」編集部の小島です。
じつは私、このエア・ウォーターの森のすぐ近くにある北海道大学に通っていました。「雪国で暮らしたい!ホワイトクリスマス楽しみたい!」というメルヘンな憧れひとつで、愛知の片田舎から北の大地までやってきたのです。
結局、「雪がちょっと…」という理由で本州に戻ってしまいましたが、今でも心は北海道にとらわれたまま。同じく北海道に魅せられた母とともに、毎年夏には必ず遊びに来ています。
そんな愛する第二のふるさと、北海道の課題解決に取り組むために生まれた、エア・ウォーターの森。
いったいどんな場所なのでしょうか?一緒に探検しにいきましょう!

このエア・ウォーターの森の立ち上げにプロジェクトリーダーとして関わったのが、エア・ウォーター北海道の棟方 祐介(むねかた ゆうすけ)さん。
企業や大学、自治体など、さまざまな人や組織とのつながりをつくるお仕事をされています。
そんな棟方さんに、エア・ウォーターの森を案内していただきました!

1階・多様な人を迎え入れるオープンフロア
まずは、1階から。
建物の入口から中に入ると、そこにはスタイリッシュで洗練された空間が!


入口の目の前にある、植物とオブジェの装飾もおしゃれです。

写真の真ん中に、縦長の銀色の箱が見えますね。
この箱は、水素燃料電池。外部のボンベ庫から配管で水素を引き込み、化学反応を起こして発電させ、その電気を館内の一部で使用しているといいます。
実はこの水素、家畜のふん尿から発生するバイオガスを使ってつくられたもの!エア・ウォーター北海道が、北海道鹿追町で運営する「しかおい水素ファーム」という施設で、全国ではじめて社会実装された取り組みなのだとか。
ここで、ちょっとだけ理科のお時間です!
水素燃料電池では、水素(H₂)と酸素(O₂)を化学反応させることで電気をつくっています。このときに発生するのは、水(H₂O)と熱。
その時に発生する約60度の温水をベンチの下に通らせることで、冬場は座面が暖かくなるようにしているとか。
エア・ウォーターの森を訪れた方に再生エネルギーを体感してもらう場所として、こうした仕掛けをしているのだといいます。

次は、こちらの窓にご注目ください!

北海道は、冬に気温がマイナスにもなるほど冷えるため、どの建物も2重窓が基本です。ですが、エア・ウォーターの森は、なんと3重窓!ガラスとガラスの間にアルゴンガスを入れることで、断熱効果を高めているといいます。
このアルゴンガスは、エア・ウォーター北海道がさまざまな工場や研究施設などに届けている産業ガスのひとつ。自社の得意分野を、建物の快適さにも活かしているんですね!

印象的なのが、このV字の柱。なんだか木の枝のようにも見えますね。
これは、建物全体を支える重要な構造のひとつ。斜めに配置することで、建物の荷重を支え、耐震性を高めています。
さらに、家具や柱にはカラマツなどの道産の木材が使用されており、あたたかみが感じられます。「エア・ウォーターの森」の名のとおり、まさに森にいるかのようなすがすがしい気分になれます。
1階は誰でも利用できるスペースで、たまに学生さんたちが勉強していることもあるのだとか。いいなぁ…私も学生時代にこんな素敵なところで勉強したかった…。

次にご案内いただいたのは、1階の奥にあるレストラン「EUREKA(エウレカ)」。
道産の食材を使ったこだわりのハンバーグやドリア、ジェラートなどを提供しています。
棟方さんによると、一般の方はエア・ウォーターに対して、産業ガスや医療ガスなど「エネルギーの会社」というイメージを持つ方が多いといいます。
ですが、実際は農業や食品加工にも取り組んでおり、国内外への輸出も行っています。こうした農業・食分野の取り組みをもっと多くの人に知ってもらいたい、という想いからこのレストランをつくられたといいます。
さらに、お料理だけでなく、内装にもこだわりが光ります。
たとえば、家具や備品には、北海道の家具メーカー・旭川家具のものを使用。また、札幌周辺でしか採れない貴重な石「札幌軟石」を使用した石壁や、エア・ウォーター北海道が所有する農地の土を使った土壁など、どこまでも「北海道らしさ」を感じられるようになっています。

実際にランチをいただきました!
こちらは、お肉の旨みがぎゅっと詰まったグリルハンバーグ。ナイフを入れた瞬間、あふれる肉汁に思わずテンションが上がってしまいました!

こちらはグラタン。ランチセットには、サラダとスープもついてきます。
お客さんは地元のリピーターさんが多いそうで、ランチは平日でも待ち時間が出るほどの人気ぶり!
たしかに、このおいしさは何度でも味わいたくなってしまいます。

さて、館内の見学に戻りましょう!次に向かったのは…

広々としたお部屋!こちらはエア・ウォーターの森の肝のひとつ、イベントホール。
150人ほどが収容でき、飲食もできるこのスペースでは、講演会やワークショップ、交流会などさまざまなイベントに対応可能。配信機材も備わっているため、イベントなどのオンライン配信もできるといいます。
たとえば、最近では「北海道の農業と食を考えよう」をテーマに、大学生からシニア層までが参加する50人規模のワークショップを開催されたそう。

さらに、この場所の大きな特徴が、この写真の右にあるガラス。このガラスは可動式のパーティションになっていて、開けて使用することもできるそう。
ここをオープンにすると、1階のフロアと隔たりなくつながり、広々とした開放的な空間になります。イベントの内容によって使い分けられるのがいいですね!

こちらは、同じフロアにあるキッチン。
北海道といえば、やっぱり「農業・食」。北海道に根ざしたイノベーションを生み出すうえで、この分野は欠かせない存在です。
そのためエア・ウォーターの森では、先ほど見学したホール・キッチン・レストランを一体で活用できる設計にしており、イベントの内容に応じてさまざまな使い方ができるようになっています。
たとえば、室蘭工業大学が主催した「シカサミット」では、シカとの共生を考えるパネルディスカッションをホールで開催。その後、キッチンでシカ鍋をつくり、レストランで参加者同士が語り合う交流会を行いました。
キッチンは食品会社による試食会やちょっとしたパーティーなどにも活用できる、使い勝手のよいスペースになっています。

キッチンから移動し、1階の廊下を歩いていると…

ずらりと並んだ表彰状が!
実はこれ、「ふるさと応援H(英知)プログラム」への感謝状。
このプログラムは、エア・ウォーター北海道(グループ会社を含む)が道内の全179市町村を対象に、地域の社会課題に取り組むプロジェクトを応援するというもの。2023年度から2030年度までの8年間で、最大なんと10億円を寄付する予定なんだとか!
たとえば、自治体が主体となり、スタートアップや大学の研究室などと組んで企画・実施するプロジェクトに対し、道内の有識者による審査を経て、寄付先を決めているといいます。
10億円の寄付ってすごい…!本気で北海道の課題を解決する、というエア・ウォーターさんの強い意志が感じられます。

こちらは、エア・ウォーターの森の中でいちばんの見どころ。
開放感たっぷりの吹き抜け空間!
天井の大きな窓からは空がのぞき、自然光が差し込んできます。気持ちのいい、爽快な気分になれますね。
この右手にある階段から、2階へのぼっていきます。
2階・新たな価値を生み出すイノベーションフロア

2階は、大学や企業などが入居できる個室や会議室があるフロア。
個室は大小さまざまなタイプがあり、住宅・飲食・ITなど幅広い業界の企業が入居しています。大学のサテライト研究室としても利用されており、研究をビジネスに活かすための拠点にもなっています。
15室ある個室は、すべて満員御礼なんだとか!とても人気があるんですね。

個室・会議室の各部屋には顔認証システムが!セキュリティもばっちりです。

こちらは、会議室。
2階の入居者と3階のコワーキングエリアの契約者が利用でき、外部とのミーティングやセミナーなどで使用されています。

お次は、ちょっと変わったお部屋「ウェットラボ」。
ラボという名の通り、研究室として使えます。
一見、ふつうのお部屋ですが…

天井近くに蛇口を発見!
そうです、このお部屋では水が使えるんです。
火も使えるそうで、たとえば農業食品の実験などができるといいます。なんだか学校の理科室みたいですね!
ほかに特徴的なところは、このお部屋の奥にあるインナーテラス。

のんびりくつろげそうなリラックススペース!
ここは、隣にある個室とひとつながりになっています。
この施設を建てるとき、エア・ウォーターグループの会長がおっしゃったのが「壁を作らないこと」。さまざまな人とコミュニケーションがとれるように、ということを徹底して設計されたそう。
この白いパーティションもそのひとつ。相手の顔はよく見えないものの、だれかがいるという存在感はわかるようになっています。
施設の入居者同士が、自然と交流しやすいような仕掛けがされているんですね!

次は、エレベーターで3階へ向かいます。
このかわいい表示、何に見えますか?
木にも見えるけど…。正解は、アスパラ。
ちなみに、1階はにんじん、3階はとうもろこしになっているそう。こんなところからも「北海道らしさ」を感じられるようになっているんですね!エア・ウォーターさんのこだわりが随所に見られます。
3階・つながりをつくるコミュニケーションフロア

3階に到着!
このフロアはすべてコワーキングスペースになっており、申込みをした方が月単位で利用できるようになっています。
北海道では、コワーキング施設自体がまだ少ないのが現状。あったとしても「ただ仕事をする場所」というイメージが強いなかで、ここは「人と人との交流」を大切にしているのが特徴です。
実際に、テレビ局のプロデューサーや医師、投資家、さらには牡蠣の養殖をされている方など、多彩な方々がこの場所を利用しているそう。思いがけない出会いや対話が生まれる場となっています。

こちらが、ワークスペース。
エア・ウォーターの森の4階には、エア・ウォーター北海道本社のオフィスがあるため、社員さんたちが3階に降りてきて仕事をされることも多いのだとか。
ここに棟方さん専用のお席もありました!

社内と社外のハブになるお仕事をされている棟方さんは、オフィスのある4階よりも、こちらのオープンエリアにいることの方が多いそう。
看板には「よろず相談」の文字。施設の中で、ちょっと困ったときに頼れる方がいるのはとてもありがたいですね。

ワークスペースの一角には、本棚が。
並んでいるのは、エア・ウォーターの経営陣や社員の方々が自宅から持ち寄った書籍。
写真の真ん中あたりに、棟方さんおすすめの本もありました!

通路に目を向けると、掲示板にイベントやワークショップのチラシがずらり。
エア・ウォーター主催のものから、入居している企業が主催のもの、一般参加OKのヨガイベントや入居者限定のビール会まで、バリエーションもさまざま。
楽しみながら人とつながれる、そんなイベントが月に10回以上も行われているそうです!

ワークスペースから少し離れたところにあるのが、集中スペース。
ここでは電話や打ち合わせなどは禁止しているため、静かな環境で集中して仕事ができる場所になっています。

こちらは、ラウンジ。
まるで南国リゾートのような、開放感あふれる空間!
このスペースは、館内のほかの場所に比べて、少し空気がひんやりしています。
北海道では雪の影響でテラスをつくるのが難しいため、外にいるような雰囲気を味わってもらえるよう、あえて空調を控えめにしているそうです。
このラウンジで、朝ミーティングをしている企業さんもいるのだとか。こんな場所で1日をスタートできたら、スッキリした気持ちで仕事に取り組めそうですね。うらやましい〜!

ラウンジは、3階から階段を少し降りた、中2階のような場所にあります。
ちょっとした隠れ家のような雰囲気が魅力的です。

次に向かったのは、休憩スペース。

家のリビングでくつろいでいるかのような、癒される空間です。
あれ?なにかいるぞ…。

か、かわいい…!動物をモチーフにしたオットマンがちょこんと。
まぁるいフォルムに、さわりごこち良さそうなふわふわ。愛らしい…。

吸い寄せられるように、なでなでしてしまいました。幸せなふわふわ…。
これはかなり癒されます。
ですが、棟方さんはこのスペースを「勇気がなくて使えない」のだとか。
その理由は、「サボってると思われそうで…笑」
たしかに、ちょっと休憩どころか、ぐっすり眠ってしまいそうなくらい心地よさ満点の場所でした。

ここで館内の見学ツアーは終了!
どのエリアもスタイリッシュで機能的、さらには癒しも感じられる、とっても素敵な空間でした。
さて、このエア・ウォーターの森。建設にかかった費用は、なんと50億円にものぼるそう!
ここからも、エア・ウォーターさんの気合いの入れようがうかがえます。
この場所には、いったいどんな想いがこめられているのでしょうか?
ここからは、棟方さんにくわしくインタビューさせていただきます!
地域課題の解決に、産業界から挑む。「エア・ウォーターの森」設立の理由
なぜ、エア・ウォーターの森が作られたのか?
その背景には、北海道がこれまで歩んできた歴史が関係していました。
北海道では、長らく行政が中心となって開発を進めてきました。その予算の多くは道路や港湾などのインフラ整備に使われてきたため、土木・建築業が地域経済を支えることに。一方で、製造業などの産業は育ちにくく、地域課題に向き合う取り組みも、主に行政や大学が担ってきました。
ですが、行政主導の取り組みでは、対応に時間がかかったり、民間ならではの技術やアイデアが活かしきれないなどといった課題もあります。
そんな中で立ち上がったのが、エア・ウォーターグループ。地域課題に、企業が主体となって取り組む。それは、北海道ではあまり例のない、新しいチャレンジでした。

もともとエア・ウォーターグループは、1929年に北海道で創業した「北海酸素」をルーツにもつ企業。エネルギー・農業・食品・宇宙といった幅広い分野で事業を展開し、北海道全域に180もの拠点を持っています。そのため、地域とのつながりが深く、道内での認知度も高いといいます。
「オープンイノベーションを進めるには、さまざまな立場の人たちが集まることが必要です。特に地域課題の解決には、自治体とつながりのある企業でなければ、取り組むのが難しい。
ありがたいことに、北海道ではエア・ウォーターのことを知ってくださっている方が多く、自治体とも接点があります。だからこそ私たちは、地域課題解決のためのオープンイノベーションに取り組むハブになれるのでは、と考えました」(棟方さん)
エア・ウォーターは、もうすぐ創業100年。「これまで育てていただいた北海道に恩返しをしたい」という想いが、エア・ウォーターの森を設立した根底にあるといいます。
「私たちには、幅広い分野に関する技術があります。それらを最大限使いながら、自治体や大学、企業、スタートアップなどと連携して、新しい価値やイノベーションを生み出し、北海道の社会課題の解決につなげていきたいと考えています」(棟方さん)

「北海道だからこそできる」スタートアップ支援を
オープンイノベーションによって北海道の地域課題を解決するために生まれた、エア・ウォーターの森。
では、この場所で具体的にどのようなことに取り組みたいと思っているのでしょうか?
棟方さんによると、ひとつは「スタートアップ支援」だといいます。
「札幌には、エア・ウォーターの森のようなイノベーション施設はほとんどありません。そもそも北海道自体に、スタートアップを生み出し、応援していこうという文化が根付いておらず、まだ始まったばかりなんです」(棟方さん)
北海道には、スタートアップ支援のプラットフォームとして、2022年に北海道大学が主幹となって設立された産官連携組織「HSFC(エイチフォース)」や、2023年に札幌市・北海道・北海道経済産業局が中心となって立ち上げた「STARTUPHOKKAIDO」などの取り組みが進んでいます。
ですが、いずれも行政や大学が中心となっており、民間企業が拠点を構えてスタートアップ支援を行う例は少ないといいます。
「北海道と相性の良いスタートアップは、たくさんあると思うんです。東京では、同じ分野の企業がひしめいていて参入が難しかったり、規模感が大きすぎたりする場合でも、北海道の産業や規模感なら、ぴったりハマるスタートアップもあるんじゃないかと。
また、四季がはっきりしているという気候にも強みがあります。北海道は夏と冬で環境が大きく変わるので、異なる条件下で実証実験ができます」(棟方さん)

昨今、めざましい発展をみせるAI分野でも、北海道には注目が集まりはじめています。
AIの活用には、大量のデータを処理するデータセンターが欠かせません。その設置場所として、いま北海道に期待が寄せられています。近年では、苫小牧にソフトバンク、石狩にさくらインターネットがそれぞれデータセンターを開設するなど、道内での整備が進んでいます。
「北海道は、太陽光、風力、水力など、再生可能エネルギーのポテンシャルがとても高い地域です。そうした豊かな自然資源を活かしてデータセンターを運用できるのも、大きな強みですね」(棟方さん)
こうした北海道ならではの特徴を活かしながら、エア・ウォーター北海道では、北海道におけるスタートアップの挑戦をあと押ししていきしたいと考えているそう。
「たとえば、企業がある技術を試してみたいと思ったときに、それなら北海道でできますよ、と伝えていきたいと思っています。また、私たちエア・ウォーターも、企業の皆さんと連携して課題に向き合っていけるような関係性を育みたいと思っています」(棟方さん)
その一環として、棟方さんは東京や大阪で開催されるスタートアップ関連のイベントに積極的に登壇しては「ぜひ北海道に来てくださいね」と呼びかけているそうです。

若い世代が、北海道で未来を描けるように
エア・ウォーターの森では、北海道の課題解決に向けて、人材育成にも力を入れているといいます。
「北海道で育った人でも、北海道では就職せず、本州・首都圏に出ていってしまうことが多いんです。ですが、北海道では人口減少や高齢化が進行しています。だからこそ、若い人たちにこれからの北海道を支えていただきたいと思っていますし、エア・ウォーターの森をそのための場所にしていきたいと思っています。
たとえば、学生が『北海道で働きたい』『地元に関わりたい』と思ったときに、そのきっかけになるような場所や仕事、関係性をつくっていくこと。それが、私たちのような企業が果たすべき役割のひとつだと思っています」(棟方さん)
その一環として、学生を対象にしたワークショップやイベントにも積極的に取り組んでいるそう。
「北海道には、たくさん大学があります。なので、学生さんと一緒に、たとえば『食の未来について考える』といったテーマでワークショップを行ったり、新しい企画を立ち上げたりする取り組みをしています」(棟方さん)

また、2024年12月のエア・ウォーターの森の開設にあわせて、エア・ウォーターは北海道大学と連携協定を締結。この協定は、大学院生への給付型奨学金の支援や研究費提供、また学生や教職員などとの人材交流を通じて、社会で活躍できる人材を育成することを目的としています。
「学生さんには、まずは気軽にエア・ウォーターに来ていただきたいですね。こういう場に少しずつ慣れていけば、社会で活躍している大人たちとも自然に会話ができるようになると思うので。学ぶ場・将来について考える場として、エア・ウォーターを活用していただきたいと考えています」(棟方さん)
あとは、こんなお話も。
「私の息子がいま中学生なんですが、将来就職するときに『東京で働きたい』なんて言われたら、ちょっとイヤだなと…。北海道には魅力がない、って言われているような気がして。
逆に『北海道で何かおもしろいことできないかな?』って聞かれるような地域にしたい。それが個人的な目標でもありますね」(棟方さん)

海外と北海道をつなぐ、ビジネスの「はじまりの場」に
近年、北海道は国外の企業や投資家からも注目を集めているといいます。
たとえば、次世代半導体の製造拠点として千歳市で建設が進められている「ラピダス」の工場のように、これまで北海道では珍しかった大型の産業プロジェクトも進出してきています。
こうした変化を受けて、エア・ウォーターの森を「国内はもちろん、海外から北海道でビジネスをしてみたいという人たちが集まる場にしていきたい」と棟方さんは語ります。
「海外の方が日本でビジネスをしづらい理由は、言語の壁だけでなく、知り合いがいないというのがリアルな本音なんです。なので、人と人とをつなげられるようなお手伝いもさせていただければと思っています。
たとえば、海外の方が『この自治体にアプローチしたい』『この企業と話してみたい』と思ったときに、エア・ウォーターの森に来れば、誰かを紹介してもらえる。そんなふうに、海外の方が北海道でビジネスを始めるきっかけの場になれたらと思っています」(棟方さん)

人と人とをつなぐために。大切なのは「断らない」
エア・ウォーターの森で、日々さまざまな人たちをつなぐ橋渡し役を担う棟方さん。
いったいどんなことを大切にしてお仕事をされているのでしょうか?
そう尋ねると、一瞬の迷いもなくこう教えてくださいました。
「断らないことです。こういう場所で、人と人とをつなぐお仕事をさせていただいている以上、どなたでもどんなお話でも、基本的に一度はお会いしようと決めています。棟方さん飲みに行こうよ、どこか行こうよっていうお誘いも、基本断らないようにしていますね。深い話ができるくらい、仲良くなれるのがベストだと思うので」(棟方さん)
実際、日々の予定はかなり詰まっているそうですが、それでもどうにかスケジュールを調整して「お会いできません」という返事だけはなるべくしないようにしているそう。
この「断らない」という姿勢には、エア・ウォーターの森の立ち上げを任されたときの経験が影響しているといいます。
「私はこうした施設の立ち上げに関しては知識も経験もなかったので、とにかく人に会おうと思って、北海道中で名刺を配り歩いていました。
そうしてつながった方々から、本当にいろいろなことを教えていただきました。一緒に考え、動いてくれた人たちがいたからこそ、今があります。なので、そのときにしていただいたことを、自分もできるようになりたいと思ったんです」(棟方さん)

人と人とのつながりを育み、北海道の未来を創る。
そんな想いから生まれた、エア・ウォーターの森。
ここでは、さまざまな人が出会い、対話し、アイデアを交わすことで、新たな価値が生み出されています。その中心には「断らない」をモットーに、どんな声にもまっすぐに耳を傾ける棟方さんの姿がありました。
札幌・桑園で生まれた小さな風が、少しずつ北海道全体に広がっていく。
その風は、いったいどんな未来を運んできてくれるのでしょうか?
北海道のこれからが、楽しみで仕方ありません!
そして、実は…
棟方さんのお話を伺って、北海道が持つ大きな可能性とおもしろさに惹かれ、「しゃかいか!」編集部と株式会社TAMは、エア・ウォーターの森に「TAM HOKKAIDO」を開設させていただきました!
生成AIを活用しながら、道内の自治体や企業と協力し、地域の課題解決につながるような取り組みを進めていけたらと思っています。
棟方さん、素敵なお話をありがとうございました!

エア・ウォーターの森
住所:北海道札幌市中央区北8条西14丁目28−148
Web:https://airwater-souen.jp/access/
(text:小島 千明、photo:市岡 祐次郎)
関連するキーワード