Sponsored by Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE

全国から57の作り手がホテルカンラ京都に大集合!「Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE」出展者インタビュー

みなさん、こんにちは!

しゃかいか!インターン生の河野です。今回は、前回の記事に引き続き、2023年3月にホテル カンラ 京都で行われた工芸の見本市&展示販売会”DIALOGUE”について、レポートしていきます!

DIALOGUEは、工芸界のビッグイベント!全国から集まった57の作り手さんが、出展されています。

このイベントの特徴は、ホテルの客室を使って展示が行われているということ。この記事では、DIALOGUEで私が実際に訪れたお部屋と出展者さんについて、ご紹介していきたいと思います。

DIALOGUEって何?ホテルで行われる工芸の展示会ってどういうこと?という方は、ぜひこちらの記事も合わせてご確認ください!DIALOGUEというイベントの紹介と、運営の方へのインタビューを掲載しています。

DIALOGUEというイベント全体のご紹介をする上で、私自身も多くの出展者さんのお部屋を訪問させていただきました。

224号室「YUKKO」「tayū」
419号室「AIKA CRAFT」
423号室「堤淺吉漆店」

どのお部屋も楽しさ満点!お部屋に入るたびに、空間にあっと驚かされたり、プロダクトに触れてその良さを体感したり、作り手さんの説明に聞き入ったり…と、本当に充実した時間を過ごすことができました!そして、どの作り手さんもお話上手で、とっても楽しかったです!時間があっという間に過ぎました。

317号室「ケイコロール」
312号室「SHINTO TOWEL」

この記事では、DIALOGUEで出会った素敵な出展者さん、プロダクトについてご紹介できればと思います。

DIALOGUEに出展されているどの作り手さんも素敵すぎて、本当はすべてのお部屋をめぐって、ご紹介したかった!!

ただ、イベントの時間や取材の関係上、回り切れなかったり、ご商談中でお話を聞けなかったり、といった事情もあって、それは難しく…。本当に素敵な出展者さんとプロダクトの集まるイベントだからこそ、取材しきれなかったです。

今回、記事で取り上げるのは、とってもお忙しい中で、合間を縫って、プロダクトや展示空間の魅力を教えていただいた9つの出展者さん!

本当に丁寧に取材に応じてくださり、無知な私にいちから教えて下さいました。そんな優しい作り手さんの皆さんに、改めてこの場でお礼を言わせてください!ありがとうございました!!

お話をお聞きしたタイミングや時間などの関係で、ご紹介する9つの出展者さんの文章量にも差が出てしまっていますが、本当にどの出展者さんも素敵でした。

この記事を通して、少しでもDIALOGUEの雰囲気をお伝えできればと思います。

「床に座る習慣がないヨーロッパに、畳を取り入れたい」フランス人建築家の熱い思いと、日本のものづくり技術が生み出した新たな伝統工芸の形
MAISON-N® – Alexandre NESIさん

最初にご紹介するのは、MAISON-N®さんのお部屋です。こちらでは、フランス人の建築家であるAlexandre NESIさんと、日本のものづくりの職人さんのコラボが見られました!

こちらのお部屋で紹介されていたのは、畳を用いた椅子。

こちらの椅子を設計されたのが、NESIさんです。畳の上に座る習慣のある日本人には、逆に思いつかないとても斬新な発想ですよね。

そして、NESIさんの素敵な発想を支えたのが、京都の畳職人さんと大阪の鉄の職人さんです。

そのことをお聞きして、DIALOGUEの中で海外と日本のものづくりのタッグが見られるとは!と感動しました。

そして、このプロダクトには、椅子以外の用途もあります。

このように畳の部分を取り外して、テーブルと畳の座布団として用いることもできます。テーブルとして使ってもかっこいい!鉄職人さんがこだわってつくられた、シンプルながらスタイリッシュなフォルムが引き立ちます。

このプロダクトはどのような経緯で生まれたのかお聞きしました。

もともと畳が大好きだったというNESIさん。「床に座る習慣がないヨーロッパに、なんとか畳を取り入れたい」と考えたときに思いついたのが、椅子という形だったといいます。

床に敷くための大きい畳を、丸く小さい形に収めることで、床に座る文化のないヨーロッパの人々にも受け入れやすいデザインになりました。

このような丸いデザインの畳も特徴的ですよね。このフォルムも、NESIさんのこだわり。

実は、畳を丸くするというアイデアは、側面部分の加工が難しく、職人泣かせだったとか。実物を見ると、そんなことは全く感じさせない美しい仕上がりになっていました。

畳のカラーも素敵で、畳のイメージを超える多彩な畳や、ツートンカラーのプロダクトも。

今まで見たことがないようなカラフルで丸いデザインに「畳ってポップでかわいいプロダクトにもなるんだ」と新鮮な発見をすることができました。

カラフルで座り心地抜群な畳はもちろんのこと、スタイリッシュで美しい椅子のボディにも、日本のものづくりの良さが表れています。

さらに、このプロダクトの美しさを支えるのは、鉄の職人さんの技術も大きいんです。美しさを追求した半径アーチ形の脚ながら、椅子やテーブルとしてしっかりと重さを支えます。

MAISONーN®さんのお部屋を見学して感じたのは、新たなものづくりの形には、やはり文化の外からの視点がとても重要だということ。

このプロダクトは、日本以外の文化を持ち合わせたNESIさんの視点と、そのアイデアを実現させる日本の職人さんの技術が組み合わさったからこそできた作品。今後もMaison―N®さんがプロデュースされていくであろう、フランス×日本の作品がとても楽しみです。

「障害のある方々と社会との接点をつくる」――新たな挑戦を続ける手縫い刺し子ブランド、TERASさん

続いてのお部屋は…

とっても素敵な刺し子雑貨が目を引きます!手縫いの刺し子ブランド、TERASさんです。

着目すべきは、細かな手作業から生み出される丁寧で多様なデザイン。

このような細かい模様も、一針一針縫ってつくられています!
TERASさんは、障害のある方の就労支援を行う事業所として、2017年、栃木県宇都宮市に設立しました。そこに通所される方々が、丁寧な手仕事で素敵なデザインの刺し子を生み出されています。

障がい者支援事業について、少しご紹介。

TERASさんのように、障害のある方の就労支援を行う場所のことを、「就労継続支援事業所」といいます。就労継続支援事業所には、A型とB型があり、TERASさんはA型にあたります。

雇用契約を行わないB型に対し、A型は雇用契約に基づき、最低賃金以上の給与や社会保障を与えることになっています。その分、事業所として収益を出すのも難しく、売上で賃金を賄うことができている事業所は、2割ほどなのだとか。

TERASさんは、手縫い刺し子ブランドとしての地位を確立することで、収益をあげつつ就労支援の場として運営を行う事業所としての一つの形を提示されているんです。

もちろん重要なのは、収益をあげることだけではありません。事業所は、障害のある方々の就労、そして彼らが生活の中で直面するさまざまな困難を支援する場でもあります。

そのなかで大切になってくるのは、「傾聴」です。事業所に通う方々に対して、家族のことや日々の生活のことなどに関する悩みを聞く時間をとることで、働く人々に寄り添います。

TERASさんの目的は、障害のある人々の居場所、働く場所をつくること。

刺し子は、障害のある方々と社会との接点を作る手段に過ぎないといいます。

TERASさんが提示されるのは、障害のある方の新たな働き方の一例です。
事業所に通う人々が制作された作品を世に出し、販売していくことで、新たな仕事が生み出されていきます。

このような就労支援の現場から一歩踏み出したTERASさんの活動は、障害のある方々や就労支援に対する周囲の理解を深めます

TERASさんは、他社と連携したプロジェクトや海外進出に向けても積極的。まだまだ活動の幅を広げています。

TERASさんの今後の活動がどのように広がっていくのか、私自身とても楽しみです。

異なる窯元の文化が融合した、新たな陶芸の形
ご夫婦で新たな挑戦をつづける蘇嶐窯さん

京都の清水焼の技術を受け継ぐ旦那さんと、福岡の小石原焼の窯元から嫁がれた奥さんがご夫婦で営まれる蘇嶐窯さん。

その魅力は、やはり異なる窯業地のふたつの技が融合して生まれる新しく素敵な作品の数々です。

蘇嶐窯の青磁は、「練りこみ青磁」といって、生地に顔料を練り込み釉薬を掛けることで、深みのある青を表現しています。

そこに小石原焼の技法の「とびかんな」(刃先を使って連続した削り模様をつける技法のこと)を入れることで、削られた土の溝に釉薬が溜まり規則的な文様が浮かび上がるそう。

こちらは、今年の新作。釉薬を用いずにつくられています。

上記のような食器に加え、アクセサリーや置物の制作も行われています。

こちらは、飛びかんなの削ったかけらを用いてつくられたジュエリー。器を制作するときに出たかけらを丁寧に焼き上げて、ジュエリーへと昇華されているんです。

とってもかわいい土偶たちが見られる縄文シリーズ。洗面所とお風呂のスペースで発見。土器や土偶をモチーフにしたデザインは、とってもキュートで目を引きました。

蘇嶐窯さんの窯元は、工房兼ギャラリーとなっているそうで、お二人が制作をされている様子を見たり、その場で作品を購入したりすることもできます。さらには、企画展も行われているんだとか。

作品がつくられる過程を見て、じっくり鑑賞し、自分の生活の中へと取り込んでいく。
そんな一連の流れが体験できる蘇嶐窯さんの工房にもぜひお邪魔したい!

伝統的な工芸を日常を彩る「祝いの品」へ

いぐさプロダクトで笑顔を届けるIGUSA DESIGNさん、カフェギャラリーときじくさん

次のお部屋に入ると、

入り口横の洗面台で、たくさんのうさちゃんがお出迎え!

思わず、他のインターン生と「きゃー、かわいい!」と叫んで、写真をパチリ。

すると、奥のほうから笑い声が。暖かく迎えてくださった出展者さんは、こちらのお部屋を担当されているIGUSA DESIGNさんとカフェギャラリーときじくさん。

入り口で出迎えてくれたうさちゃんは、カフェギャラリーときじくさんが手がけられた「祝いのいぐさ人形」だそう。「祝いのいぐさ人形」は、「呪いの藁人形」のイメージを反転させてつくられたプロダクト。

生育過程で倒れることがなく、縁起がよいといわれるいぐさを芯とし、「祝い尽くし」の友禅の図案をプリントしたウサギは、まさに祝いのパワーを詰め込んだ縁起物。かわいくて、贈り物にもぴったりです。

カフェギャラリーときじくさんは、名前の通り京都のカフェ兼ギャラリーであると同時に、今回のように京都の技術を組み込んだプロダクトを、現代の私たちの生活に継承する活動も行われています。

IGUSA DESIGNさんは、いぐさを用いた商品をつくられるブランド。

いぐさと聞いてイメージしやすい祝いの俵のほか、

しめ縄も販売。

私たちが生活の中で、いぐさを用いた飾りに触れる機会として、最も多いのはお正月のしめ飾りだと思います。しかし、上のデザインを見ていただけるとよくわかるように、さまざまなカラー、デザインを施すことで、クリスマスなど年中の行事にマッチするプロダクトとなっています。

IGUSA DESIGNさんは、いぐさという普段私たちがなかなか関わる機会のない素材を、より日常に取り入れやすい製品にデザインし、私たちが手に取りやすい形にすることを目指しておられます。

いぐさの持つ縁起物としての側面を生かした「祝いの品」の数々には、目を奪われました。素敵な縁起物を私も生活の中に取り入れたい!

ありそうでなかった「木×ガラス」のワイングラスをデザイン

信州松本の木工作家ブランド、MOKU glassさん

こちらは、信州松本の木工作家ブランド、MOKU glassさんのお部屋。

とっても斬新なデザインのお部屋になっていて、入った瞬間圧倒されました。

部屋全体に木でつくられた展示スペースがめぐらされていて、インスタレーションアート空間のよう。

木枠のデザインは、ベットの上にも。ベットの白いシーツも相まって、まるで食卓のようです。

さらには、

お風呂場にまで、素敵な仕掛けが!

DIALOGUEへの参加は、今年が初めてだというMOKU glassさん。
これまでDIALOGUEに参加された出展者さんのお部屋を参考にしながら、展示空間をつくりだされたといいます。
お部屋全体を使った独創的でセンスの光る展示空間は、新しくおしゃれ、そしてかっこいい!!

さらに、展示空間を構成するプロダクトひとつひとつも、とっても素敵なんです。

MOKU glassさんがつくられるのは、持ち手の部分が木でつくられたワイングラス。ありそうでなかった「木」と「ガラス」を融合したグラスになっています。

このグラスは、和食の現場に従事していた旦那さんが「自分が盛り付けたい器」というコンセプトでつくられたものだそう。
使い手の目線でつくられているからこそ、プロダクトとしての美しさだけでなく、使い勝手の良さも大きな魅力になっています。

お酒を嗜むワイングラスとして使用できるのはもちろんですが、前菜を盛りつけたり、パフェグラスとして用いたりと、使い方は無限大。中には、アクセサリー入れとして用いられるお客様もいらっしゃるそうで、グラス以外での用途も広めていきたいと話されます。

プロダクトの魅力は、素材である木材へのこだわりにもあります。MOKU glassさんが拠点を置かれている信州松本は、林業が盛んなクラフトの街。

木材とかかわりの深い土地柄を生かして、地元で豊かに育った木々を用いたプロダクトづくりをされているそう。

MOKU glassさんのものづくりのあり方がわかるのが、新たにはじめられた二つの試みです。

一つ目は、思い出の木材をプロダクトへと再生させるというプロジェクト。古民家で使われていた梁や、思い出の家具などを用いたプロダクトづくりを通して、ストーリー性のあるグラスを制作されています。

二つ目は、今年の1月からスタートした「無二」というシリーズ。
このシリーズの中で行われているのは、木目の粗さや節、変色など、悪く言えば「病気」の木々を用いたプロダクトづくりです。これらの木材は、量産型のものづくりの過程でははじかれてしまうもの。ですがそれは同時に、二つとない柄や模様を持った木材であるとも言えます。
MOKU glassさんはそこに着目し、唯一「無二」の特別な木材を使ったプロダクトづくりをされているんです。

これらの試みからわかるのは、MOKU glassさんが木材一つ一つと丁寧に向き合ったものづくりをされているということ。
木材にこだわり、大切にするものづくりの姿勢が、プロダクトの魅力や美しさにつながっていると感じました。そして、MOKU glassさんの丁寧なものづくりと、新たな挑戦は、わくわくするプロダクトの誕生へとつながっています

「仏具×おりん×サウンドインスタレーション」の異色のコラボ⁉︎
工芸品であり、アートであり、プロダクトであるSyncleeがおもしろい

次にご紹介したいのが、今回3つの出展者さんのコラボで出展された、LinNe(リンネ)さん、Bench Work Tatenuiさん、Laatory(ラットリー)さんです。

3つの出展者さんは、仏具である佐波理おりんの伝統的な制作をされながら、新しいものづくりを模索されるLinNeさん、木製品を通した木のぬくもりや体験を提供されるBench Work Tatenuiさん、新しいサウンドインスタレーションを提案されるLaatryさんという、それぞれ異なる領域で活躍される作り手さん方なんです。

そんな3社が異なる領域を取っ払って、共同でプロダクトづくりに取り組まれたというから驚き。今回のDIALOGUEには、そのプロダクトの発表の場として臨まれました。その名も、「Synclee(シンクリー)」。

外見からして、とーってもおしゃれですが、ここで驚くことなかれ。「Synclee」は、その奏でる音を楽しむサウンドインスタレーション作品兼インテリアなんです。

まずは、その音を、雰囲気を、味わってみてください。

皆さんがお聞きになった音は、LinNeさんが手がけられたおりんの音色。ターンテーブルを用いて奏でられる音の響きは、Laatryさんのプロデュース。
そして、「Synclee」を支え、インテリアとして環境に溶け込ませる木枠のデザインは、Bench Work Tatenuiさん。まさに、異なる分野の知恵と技術がつまった、今までに見たことがない作品となっています。

「Synclee」制作の背景には、LinNeさんとLaatryさんのコラボで2020年につくられた「CYCLEE(サイクリー)」という作品があるそう。

「Synclee」は、もともとサウンドインスタレーション作品としてつくられたのですが、展示の折に「販売してほしい」という声が挙がり、商品化することになったといいます。

プロダクトとして販売に向けて動く中で、インスタレーション作品としてすでに完結していた「CYCLEE」をそのまま商品化するのではなく、アート作品としてのイメージは残しつつも、改めてプロダクトとして形にしていこうという話になったそうです。

そして、その段階で企画に加わることになったのが、Bench Work Tatenuiさん。「CYCLEE」は、昨年のDIALOGUEにおいて展示されていたのですが、その折に、同じく参加されていたBench Work Tatenuiさんとのコラボの話が生まれたといいます。

美しいおりんの音色を提供するLinNeさん、それをアート作品として昇華させるLaatryさんのコラボに、木のぬくもりを伝える木製品を得意とされるBench Work Tatenuiさんが加わって「Synclee」の制作が始まりました。

半年にわたって改良が重ねられ、サウンドインスタレーションとしてのよさや要素を残しつつ、お部屋や環境に溶け込む生活の一部となるインテリアとしての側面も持ち合わせたプロダクトが生み出されたんです。

3社のコラボで生まれた「Synclee」に、「作り手さん同士の交流は、DIALOGUEの大きな魅力の一つだ」というDIALOGUEを運営される山崎さんやキュレーターさんのお話を思い出しました。
「Synclee」は、まさにDIALOGUEの魅力を体現するプロダクトだと思います。

作り手さん方のお話を聞いて、「Synclee」が生み出す音に耳を傾け、その世界観の中に身を置く中で、一見交じり合うことのないような作り手さんのつながり、関わり合いが生み出す、ものづくりの無限大の可能性を感じました

このようなすばらしいプロダクトを生み出した3つの事業者さんについても、少しご紹介させてください。

まず、「CYCLEE」「Synclee」の音色の要、おりんの制作をされているLinNeさん。

こちらは、京都で伝統的な技術を守り、佐波理おりんを制作されてきた南條工房さんが立ち上げられたブランドです。

その背景にあるのは、もっと身近に佐波理おりんの音色を楽しんでほしいという想い。
貴重な伝統技術を守り続けるだけでなく、生活の中ではなかなかおりんに触れることのない人々にも、その音色を届けようとされているところが本当にアツくて、かっこいいです!

実は、しゃかいか!でも、南條工房さんに一度お邪魔し、取材させていただいたことがあります。
プロダクトも作り手さんもとっても素敵なので、ぜひご一読ください。

さらには、LinNeさんは、2023年5月に新たにLinNe Studioをオープンされています。私も行ってみたーい!

続いてご紹介するのが、Bench Work Tatenuiさん。Bench Work Tatenuiさんは、ベンチ(長椅子)専門アトリエとして、木製家具を制作されている企業さんです。京都の伝統的な技術である京指物の木材加工技術をもとに、手仕上げによる丁寧なプロダクトづくりを行われています。

今年のお部屋のコンセプトは”be relaxed”(リラックス)だそう。

2つの椅子を通して、ひとりでゆったりと過ごす時間と、親密な友人や家族、パートナーと過ごす時間という二つの局面におけるリラックスを表現されています。

ひとり時間のリラックスを提案するのは、こちらのひとりでくつろぐ寝椅子。体が沈み込みすぎないように、ファブリックの下に生地を張ってつくられています。

一方こちらは、二人掛けのソファ。

実は二人掛けのソファにしては少し狭く設計されているんです。その理由は、親密な誰かと寄り添って座れるように。なんとも素敵ですよね。

デザインが素敵なのはもちろんのこと、二人が違和感なく座れるような工夫がこらされているのだとか。座る部分に独立した種のスプリングコイルを使用することで、近距離で二人が座っても、座面がどちらかに引っ張られないようにしているんだそうです。

椅子を通して、2種類のリラックスを提供するというコンセプトも、思考と工夫のこらされた椅子も、本当に素敵だと感じました。

さらに森林木材の使い方への意識も、Bench Work Tatenuiさんの素敵なところ。プロダクトづくりにとどまらず、産業を大きくとらえ、山や森の活用や循環方法について考えられているそうです。

その活動の一環として、考え始められていることに、広葉樹の植林があります。

日本の植林で用いられるのは、一般的には育てやすく育ちの早い針葉樹。しかし、針葉樹だけでは、単純な山の形になってしまうといいます。そこで、広葉樹の植林を行うことで、より自然の生態系に近い形で持続的な山のあり方を考えられているとのことでした。

「ものづくりの前後の工程には、ブラックボックスなところがある。しかし、ものづくりの背景や素材などはとても大切な要素であり、大切にしていきたい」と語られるBench Work Tatenuiさん。このような活動は、工芸の未来を考えるDIALOGUEとの意識ともマッチしているように感じました。

そして、最後にご紹介するのは、Laatryさん。2011年から活動を開始されている京都拠点のメディアラボレーベルです。その中心となって、サウンドアーティストとして活躍されている江島和臣さんと武田真彦さんに、お話を伺いました。

サウンドアーティストと聞くと、工芸とものづくりの祭典であるDIALOGUEの中では、毛色が異なるように感じられると思います。
私も伝統工芸とサウンドアートのコラボというのは、個人的に聞いたことがなくて、いったいどんな経緯で、どのように行われてきたものなんだろうかと興味津々でお話をお聞きしました。すると、お二人がものづくりや伝統産業とも深いかかわりを持って活動されてきたことがわかりました。

まず、「継承」をテーマに制作活動を行われている武田さんに、伝統工芸を用いたサウンドアートを産み出されたきっかけをお聞きしました。

ご実家がもともと、黒共帯(女性の喪服専門の帯)の西陣織をされていたという武田さん。しかし、ご実家の廃業が決まってしまったといいます。そのとき決心されたのは、サウンドアーティストとして、ご自身の手段で伝統工芸を伝え届けていこうということでした。

そして、工場がたたまれる際に、廃棄されることになったものを用いて作品作りを行われました。その後も、武田さんのアーティストとしての活動には、「自分たちの手法で伝統工芸をいかに伝えるのか」を考えながら活動されています。

そして、もともと武田さんと音楽関係のつながりがあった江島さんは、武田さんから伝統工芸を用いた作品作りにおいて、相談を受けたそうです。

江島さんがされていたのは、メディアアート作品を空間に「調和」させる作品作り。演奏者と鑑賞者の関係に着目し、一方的でなく、鑑賞者が能動的にかかわれる作品作りをテーマに活動されてきました。

例えば、こちらはギターを解体して再構築してつくられたアートインスタレーション作品。

よく耳をすますと、ギターの弦の部分が震えて音を出しています。DIALOGUEでは、ギターを再構築した作品が二つ並んでいたのですが、どちらもギターを再構成した作品でありながら、違う音を奏でていました。
なんだか、ギターとしてギターをみるよりも、ギターの存在や弦の音を意識してしまう、不思議な体験でした。

Laatryさんの手がけられた客室の奥には、先ほどご紹介したCYCLEEが。

ホテルの浴室から眺める庭園の雰囲気ともあいまって、心落ち着く空間となっていました。

このように、それぞれが異なるアプローチ、手法をもって活躍されるお二人が創り出された空間をDIALOGUEでは見ることができました。
「継承」と「調和」という二つのテーマを融合させ、音楽と伝統工芸を用いたアート作品が並べられた空間は、どこか不思議でなんだか落ち着く素敵な空間でした。

とはいっても、いったいどのような経緯で、LinNeさんとコラボされるようになったんでしょうか。お聞きしてみると、Laatryのお二人とLinNeさんの出会いは、偶然でなんだかロマンチック。

というのも、お二人がとあるレセプションに出かけられたときに、偶然聞こえた音色に心惹かれたのだといいます。それが、同じく参加されていたLinNeさんの担当の方がカバンにつけていたおりんでした。

おりんの音に感動されたお二人は、そのあとすぐに工場に見学に行き、おりんがどういうものなのか、どのようにつくられるものなのかをしっかり学ばれたといいます。
そして、「継承」、「調和」をテーマとした作品作りに取り込めるのではと考えられたお二人は、早速LinNeさんからおりんを借りして作品作りを開始され、CYCLEEが生まれるにいたったそうです。

おりんの音色に導かれた偶然的なコラボの誕生も、おりんの音色に惹かれてすぐに工場までご見学されたLaatryのお二人の音楽と伝統工芸に対する熱意も、ほんとに素晴らしくて、このお話が大好きです

最後に、Laatryのお二人に今後の活動についてお聞きしました。

お二人は、工芸の世界に音の視点、芸術、アートの視点からアプローチをすることに可能性を感じられているといいます。異なる領域に属する3社のコラボによって生まれたSycleeは、工芸のアプローチとしては、とても特殊でユニークなものです。

そのため、3社それぞれが異なる領域に踏み込んで、DIALOGUEに出展したことは、意味のあることだといいます。

「工芸をする人間ではない」からこそ、今回のような出会いを探しながら、新しいアプローチで作品をつくっていきたいと話されました。

また、サウンドアーティストとしての今後の活動の中で、音とともに空間づくりをしていくことを目指されているといいます。

現代社会において、音楽が空間に取り入れられること自体は、あまり珍しいことではありません。しかし、あくまで音楽が空間に取り入れられるのは、空間が完成してから、というのがほとんど。

すでに、空間としてのイメージも、空間自体も完成した状態で、そのイメージに合った音楽を創り上げていく、つまり「音が空間につけ加えられる」というのが、現代の主流です。

お二人が考えられるのは、空間づくりの川上の段階からかかわり、音の視点から空間ごとプロデュースしていく未来。お二人の挑戦は、まだまだ続いています。

工芸品とサウンドアートというと、伝統と最新技術という対極にあるもののように思っていたのですが、今回、両者の高い親和性を感じることができました。

一見かかわりのないようにみえる領域から、真剣にものづくりを見つめるお二人のお話から、新たな視点から吹き込む工芸の未来をひしひし感じました

私は、個人的にアートがとても好きで、このようにアートの新たな領域を切り開いていかれるアーティストさんのお話や展望、目標を聞くと、とってもわくわくしてしまいます。

こんな素敵な空間プロデュースと、伝統工芸を扱う作り手さんとのコラボを成し遂げられたLaatryのお二人が、今後どのような新たなアートインスタレーションをつくり、アート、ものづくりの未来を描かれるのか、本当に楽しみです。

以上、6つのお部屋、9つの出展者さんのご紹介でした。

DIALOGUEに出展されるみなさんのお部屋は、独自の色や良さが現れた展示の場となっており、一つ一つのお部屋に入るときに、ワクワクしました

出展者さんと話し込んで、プロダクトの裏にある出展者さんの思いや生み出される過程を教えていただいて、思いを馳せたり…。本当に楽しい時間を過ごすことができました。

今回の取材を通じて感じたのは、ものづくりの世界の奥深さ。工芸と聞くと、伝統を守り続けた作品づくりのイメージが強かったのですが、DIALOGUEの中で工芸品や作り手さんたちが見せてくれた工芸の世界はその真逆。

伝統工芸品が現代の日常生活になじむように形を変えたり、多様な文化や人のあり方を積極的に取り入れたり、意外性のあるコラボを始めて新たな挑戦に乗り出したりと、驚かされることばかり。どのお部屋でも、その発想はなかった!と、工芸のおもしろさを何度も何度も教えてもらいました。

そして、挑戦をつづける作り手さんのストーリーは、とってもおもしろいものばかり!そして、ものづくりへの熱意がひしひしと伝わってきました。

普段から、ショップなどで伝統工芸品を見て回ることはできても、直接作り手さんにお話を聞いて、ものづくりのかっこよさを感じられる機会は、なかなかありません。
DIALOGUEを通じて得ることができた、様々なジャンルの作り手のみなさんとの出会いは、本当に貴重なものとなりました。

ご協力いただいたみなさん、本当にお忙しい中、ありがとうございました!

Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE

Web:https://dialoguekyoto.com/wp/
Instagram:https://www.instagram.com/dialogue_kyoto/
Facebook:https://www.facebook.com/DIALOGUEKyoto

【開催期間】2023年3月8日〜3月11日(開催期間終了)
※次回は2024年3月6日〜3月9日を予定しています。

【開催場所】ホテル カンラ 京都
〒600-8176 京都府京都市下京区烏丸通六条下る北町190
Web:https://www.uds-hotels.com/kanra/kyoto/
Instagram:https://www.instagram.com/hotelkanrakyoto/
Facebook:https://www.facebook.com/hotelkanra/

協力:Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE

text 河野萌音  photo 市岡祐次郎、本田コウイチ、町田益宏

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