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世界に一つのカーテンを。織物と旅でまちの魅力を伝える「PARANOMAD(パラノマド)」原田美帆さん

今日見学させてもらうのは、京都府与謝野町にある織物の工房「PARANOMAD(パラノマド)」さんです。

オーナーの原田美帆さん(愛称はパラちゃん!)は、芸大で彫刻を学び、インテリアメーカーに就職。インテリアコーディネーターとしてカーテンや照明をはじめインテリア全般の業務に携わり、退職後にアーティストのアシスタントを経て、与謝野町に移住。現在はオリジナルのカーテンや織物を活用したさまざまなプロダクトの企画開発を行っています。

(写真提供:原田さん)
(撮影:Yusuke Kinaka / 写真提供:原田さん)
(写真提供:原田さん)
(写真提供:原田さん)

PARANOMADのある与謝野町は京丹後半島の付け根に位置し、景勝地の天橋立が近くにあります。織物業が盛んで丹後ちりめんの産地としても有名な町です。江戸時代中頃から京都西陣の高級絹織物である西陣織の技術を導入し、丹後一円に広まり「丹後ちりめん」が誕生し、もともとあった紬などの織物技術と融合し、この地域の名産となっていきました。

同町の加悦谷(かやだに)地区には、京都と丹後をつないだその名も「ちりめん街道」という通りがあり、ここを通って着物の消費地である都に産地から丹後ちりめんをはじめとする織物が運ばれていきました。現在、ちりめん街道は機場や商家、旅館が立ち並ぶ重要伝統的建造物群保存地区になっています。

取材でおじゃましたのは大雪の日!あたりは真っ白。さむかったー!!

原田さんの目指すオリジナルカーテンとは

「インテリアコーディネーターの頃から、カーテンについて考え続けていました。仕事柄、新築のお家をたくさん見てきましたが、お家を何も家具がない状態で、床材と壁紙だけのところに布が一枚かかると、空間がすごいフワッと柔らかくなったりだとか、一気にイキイキして見えました。硬質な場所に柔らかい質感が加わることで、空間がすごく良くなるんです。

新築の家の中で家具や室内装飾も揃っていない中、カーテンを1枚掛けるだけですごい空間に作用する力を感じました。布一枚が空間に力を与えるのを目の当たりにしました」

日本でオーダーカーテンと呼ばれるものは、好みのものを選んで寸法を選ぶこと。サイズの他にも、色・柄・素材と布の種類と同じだけ、また、使う人のライフスタイルや、かけられる窓…と無限に種類がありそう…それが「空間に作用する布の力だ!」と原田さんは気づきました。

そんな原田さんのカーテン作りは、使う人の要望や話をていねいに聞き取りながら、その家や場所が持つパーソナルなストーリーを拾い出し、形にしていくというスタイル。だから、カーテンづくりのお声がけをいただくと、可能な限りそのお家や場所に足を運ぶようにしています。

(写真提供:原田さん)

「舞鶴の個人のお家のカーテンを作らせてもらった時は、窓からそのお家の奥様の大好きな植物が見える、というお話を聞きました。春になるとその植物にとてもきれいな花が咲くそうなんです。夏にはその大好きな植物に小鳥が飛んできたり…でも、冬や夜になるとその植物が見えなくなるのがさみしい、というお話をしてくださって。その植物が冬も夜もいつでも見えますように、ということで、その植物をカーテンのデザインや色に取り込みました」

(写真提供:原田さん)

宮津の古い建物をリノベーションしたゲストハウスのカーテンを作った時には、その建物にあった木彫り看板をカーテンのモチーフに使ったり、奈良(蚊帳の産地なんだとか!)のホテルでは、蚊帳の生地を使い蚊帳の形をモチーフにした四角いキューブ状のボックスプリーツを採用しました。布と布を重ねて縫いプリーツを作ることで蚊帳のキューブのイメージを平面のカーテンに取り入れました。

(写真提供:原田さん)

世界に一つの家や部屋、窓にこだわるならば、カーテンももっともっとユニークになっていいはずだ、と可能性を信じて、原田さんはオリジナルカーテン作りを生業とすることに決め、やがて布そのものにも心が惹かれていくことになります。

その後原田さんは、カーテン作りに欠かせない日本各地の布の産地、さらに海外にも範囲を広げ、カーテンづくりに最適な布と環境を求め、やがて与謝野町にたどり着きました。しかし、すぐに布を織りはじめたわけではありません。まずは町の地域おこし協力隊に参加、1年目は学生団体の事務局業務に邁進。その後は町の人たちとの交流も深まり、与謝野町でカーテンの企画開発や織物をやりたいと決断。町の織物の職人養成所「織物技能訓練センター」で織りの技術の習得を目指しながら、産地の織物職人のすごさを目にすることになりました。

「産業の布…今まで芸大出身ということもありアートの方の関わりが大きかったんですけど、工芸でも美術でもなく産業においての布の美しさや職人さんのすごさ。決して彼らは伝統工芸の職人のように製品に名前がつくわけではないですが、産業に携わる職人のレベルの高さに衝撃を受けました。

例えば、職人さんの作り出す色彩。ある職人さんに帯を見せてもらった時、すごいきれいだなぁと思って感心して見ていたんですが、拡大鏡で見た時に何本かに一本キラッとした糸が織り込まれていて、その糸一本がすごい力を放っていて。質感も色使いも、技術的にすごくレベルが高いし完成度も素晴らしい。その職人さんが、もし絵を描けばすごい色彩になるんじゃないかと思いました。こんなきれいなのをこんなお爺ちゃんが!専門教育を受けたわけでもないのに、昔から機屋さんに育ってきて、こんなに美しい自然と素材に囲まれてて、やっぱり感性ってこういう土地で育つんだなぁと!おしゃれなものをたくさん見たり、学校で学ぶとかそういうことをしなくても、丹後の美しい自然と厳しい寒さといった環境的なものも全部ひっくるめて、こんなに素晴らしい感性が育まれるんだ!と驚きました。

今までアーティストもいっぱいみてきたし、芸大の先生もたくさんいたけど、引けをとらない…やっぱり現場でずっとものを作ってきた人の強さがあって、びっくりするくらい素晴らしかった。産地のすごさを実感しています。

アート、美術と工芸といったこれまでの自分の背景と、この土地の持つ産業としての布の間を行ったり来たりしたいな、といま思っています」

原田さんが、養成所に通った第一目的は自分自身で織物の技能を極めることではなく、自らの望みである「世界に真にただ一つのオーダーカーテン」を作る際に職人さんに注文するために、どんなふうに織るのか、どこが技術的に難度の高い工程なのかを見極めるためでした。しかし、自分で織ってみるとだんだん楽しくなり、養成所で学び1年半ほど経過した頃、どんどん機屋の人たちとツテも生まれ、話をするうちに「やっぱり外に注文するってとても難しいことを実感」することに。発注量や規格、仕様など、産業としての織物が本当にオーダーカーテンに適しているのか、という壁にもぶち当たりました。

そして、織機を購入し、自らが目指す布を織っていくことを決断しました。

織機を買ったら原田さんの株が急上昇!

工房の中は現在ただいま改装中。リノベーションを徐々に進めながら購入したばかりの織機を動かし布を織っています。

この取材の2週間前に動くようになったホカホカの織機です。触るとまだ温かい(イメージです!)。

大変だった搬入の様子です(写真提供:原田さん)
(写真提供:原田さん)
(写真提供:原田さん)

この織機は「革新織機(かくしんしょっき)」といいます。織機のシャトルの代わりに「レピア」という小型の金属パーツが緯糸を走らせます。現在もデニムの布を折るときなどに用いられ、このレピア織機が登場した時には、生産性の高さ(織る速さ)や、織り幅や糸の色数の自由度など旧織機に比べ性能が向上した頃から「革新」織機と呼ばれました。

「この織機を動かせるようになったのがつい最近で、今は初期調整段階。初期エラーが今も頻繁に出るんですけど、機械をメンテナンスしてくれる人がいるというのも産地の強みですね。丹後地域には織機のメンテナンスを行う職人さんがまだいて、出張メンテナンス屋さんとして日本全国、他の織物の産地に呼ばれるほどなんですよ。私が他の産地にお邪魔した時にも、丹後の織機の職人さんにはお世話になった、という話もよく聞きます」

この日は、ブランケットを試作中。
手触りはモチモチ…いやモッチモチで、暖かさを欲する身には、思わず包まりたくなる。織ったばかりなのに柔らかい。

モッチモチの柔らかさの秘密は「ガラボー」という特徴的な糸にあるそうです。ガラボーは日本古来から糸に使われていた和綿のコットンを「ガラ紡機」という紡績機で紡いだ糸です。ガラ紡機で紡いだ糸は、良い意味で太さにムラが生まれるので、独特の触感になります。

ガラ紡の紡績機は現在、日本では数台になってしまったのですが、原田さんはラオスにあるガラ紡のオーガニックコットンの糸を使っています。

「糸を変えると仕上がりも全然違うんです。次の展示会に出品する布にどの糸を使うか考えていたんですけど、他を試すことなくこれがいいや~と一目惚れです♪」


ガラ紡の糸で織っているとこをを僕らに見てもらおうを準備していた、という原田さん。残念ながらこの日はガラ紡の糸を使い切ってしまったということで、同じ種類の太さ違いの糸を繋いで布を織ってくれました。

「ここまでがモチモッチの糸、でここからが太い糸。同じデザインで糸の太さを変えただけなんですけど、太さ以外に布の表情が全然変わって楽しいんです♪」

たしかに境目がわかるし、目の細かさ以外にも布の質感や手触りも全然違う。布の面白さがだんだんわかってきたぞ!

織機は本来「紋紙(もんがみ)」を用いて、目的とするデザインを型紙(柄のパターンを記号化した穴が空いた紙、物理的にも固い紙)によって織機に伝え柄を織り上げていくのですが、原田さんは、布のデザインをイラストレータやフォトショップで行い、柄をこの機械に読み込ませて翻訳(データ上の型紙)し織機に伝え、織り上げていきます。賢いこの機械は京都市の産業技術研究所によって開発されたものです。

しかし、織機が細かい図案を織り上げる仕様ではないため、ソフトであるイラストレータ上で滑らかな表現をしても、この機械では解像度が低いため再現されにくい柄もあります。イラストレータ上では1,200ピクセルで、布の横幅に対して1,200個の穴になります。最新の織機は5,000~10,000ピクセル(=穴)の高解像度のものと比べ、細かい柄を織ることはあまり得意ではありません。

「アナログで古いものなので、粗めになるのは仕方がありません。でも、それが気にならないように組織のデザインや糸の使い方で、最新の織機のように美しいものは織れないけど、かえってこの機械の良さがでるようなデザインのものを織ろうと思っています。制約のある中でのデザインを楽しんでる。柄とか糸とか密度を変え、工夫することで生まれるデザインがあるはずです」

この織機の個性的でおもしろいところはまだまだあります。

この織機には、釜わけ(釜・加間・かま=生地幅の中で、同じ柄がいくつ繰り返すか生地幅を設定する)がないので、リピートの制約がなく、一つの大きな絵柄、例えば円を布幅の中でいっぱいに描くことができます。

例えば、ネクタイの場合には、機械の種類によりますが3つとか4つ繰り返して織る方がたくさん仕上げることができます。また、生地幅を2つに分けて着物の布を2つ同時に織ることいったように、売りやすい製品や効率よく織ることのできる布を作るために釜分けして使われることが大半です。

しかし原田さんの織機の場合、カーテンのように大きな図案を描いた方が面白くて楽しいから、という理由で一釜にこだわっています。現在では一釜の拵えの織機で織っている機屋はあまりなく、この織機の拵えは希少だといえます。

ガシャコン♪ガシャコン♪

ガシャ♪コン♪ガシャ♪コン♪

経糸が上下して柄が入っていく。

機械の音が心地よくて、落ち着く時間。

布が織りあがってきたら、ウフフと思えてくるという原田さんの気持ちも、なんだかわかります。

「機屋はなかなか新規参入が難しい世界なんです。組合にも入って織機を買ったって伝えると私の株価が急上昇しましたね(笑)。織機の掃除の様子をタイムラプスで流したら、地域のみんなからの株価が上がりました。これからは暴落しないようにしないと!」と笑顔で話してくれました。

織物と旅で丹後の魅力を伝える、何足ものわらじ

「ここ(丹後)の人はみんなキャラクターがあって面白いです。都会の時の人付き合いはお勤めの方が多いけど、ここはみんな社長さんなんです。社長や自営業が多いからなんだかおもしろい。昔、織物で潤っていたから、レベルが高いというか、着る物はもちろん、食べ物、家具に至るまで本物志向でこだわりが強い。田舎の企業、田舎の自営業だから小さなことをやっているかというと決してそんなことはなく、本当に世界レベルで海外に輸出していたりとか海外の有名なホテルに採用されていたりとか、世界観がとても大きいんです」

実はカーテンの企画開発や織物以外にも、ライターとして丹後の魅力を伝える記事を書いて発信したり、旅行の企画やプロデュースなど、原田さんは多彩な顔を持っています。

コロナ前は学生さんを対象に「織たび丹後」というツアーで100人近く学生さんをアテンドしたり、

NEW WeAVE NEW TANGO(ニュー ウィーブ ニュータンゴ)では、織物・工芸・食など与謝野町の他、丹後半島の魅力を丸ごと詰め込んだような商品をプロデュースに携わり、大手の百貨店にポップアップショップを出店したり、

ツアーアテンドの様子(写真提供:原田さん)

丹後地域の交流・融合拠点となるイノベーションハブATARIYA(あたりや)では、旅行商品の企画や、ものづくりツアーを展開!丹後の織物ツアーの企画では、町中の機屋さんの工房をガイドしました。

原田さんは2足にとどまることなく、いくつものわらじを持っています。

これからのパラノマド

織機は1階の天井を突き抜けて、上からものぞき込むことができます。

「織機を置くには1Fの天井を抜くしかないので、大工さんに天井を抜いてもらって、この空間が生まれました。で、ここがコーヒーカウンターになる予定です。織機を見下ろしながらコーヒーを楽しんだり…♪もうすぐ台湾楠の銘木がここのカウンターにつくんです」と楽しそうに教えてくれました。

織機の搬入とセットアップがようやく完了し、これから本格的なリノベーションに着手するという原田さん。

「手機(てばた)もあと2台置く予定で手機りもできる場所になります。織機は職人さんのお願いしないと搬入したり設定はできないけど、壁を縫ったり照明といったリノベは自分でもできます。NEW WeAVE NEW TANGO(ニュー ウィーブ ニュータンゴ)っていうグループがあるんですけど、そこの製品をセレクトしておいたり、自分の事務所兼ショールームとしてこのスペースを使います」

ニコニコしてお話ししてくれる原田さんの頭の中には、雪が止む頃には完成するという工房の様子がすでにはっきりと思い浮かんでいるのでしょう。

PARANOMAD(パラノマド)」という名前には、2つの意味が込められています。

ひとつ目は原田さんのニックネームのパラちゃんとカーテンを飾る「窓」を合わせて。次に旅好きの原田さんが好きな言葉、遊牧民や放浪を表す「nomad(ノマド)」です。

「はじめて丹後を訪れたときに、ここがすごいんだ!ということがわかったので他の人にも知ってほしい、と思いました。織物も旅の事業も、丹後の魅力を伝える記事の執筆も全部その思いがベースになっています。自分が窓口役の一つになって、地域の外の人をここにつなぐような場所にしたいと思って、それでファクトリーの名前を窓『MADO』にしました。ショップもその一つだし、織物を軸とした観光、織物を軸としたインターンの受け入れもしたいなと思っています」

原田さんと話をすると、織物の新たな魅力や産業としての力強さ、丹後のという土地とそこで生きる人たちの面白さを肌で感じることができて、なんだかワクワクしてきます。雪で真っ白な外の風景も色鮮やかに見えるくらい♪
春になって工房が完成する頃にまた、元気いっぱいの原田さんに会いにきたいなと思います。

出展情報
原田さんの作品は2023年3月8日(水)〜11日(土)開催の「Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”」というイベントで見ることができます。
オリジナルのアパレル、カジュアルなスヌードやバッグなどのプロダクトの展示、インテリアの相談にも乗ってくれますよ。ご興味のある方は、テキスタイルと丹後が大好きなパラちゃんに会いにいってみてくださいね♪

Kyoto Crafts Exhibition “DIALOGUE”
https://dialoguekyoto.com/
期間:2023年3月8日(水)〜11日(土)
場所:京都市下京区烏丸通六条下る北町190(ホテル カンラ 京都)

PARANOMAD(原田 美帆)
ファクトリー住所:京都府与謝郡与謝野町加悦185-1
電話:090-7767-0829
Instagram:PARANOMAD@paranomad / MADO@mado_textilefactory

ご興味のある方はぜひご支援を♪
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協力:Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE
https://dialoguekyoto.com/

(text:西村 photo:市岡)

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