久留米絣とテキスタイルについて学ぶ。産地デザインキャンプ in 広川町参加レポート -後編-

天然染料にこだわる宝島染工で藍染めの魅力や柄について学ぶ!Tシャツ藍染体験

3日目に訪れたのは三潴郡大木町(みずまぐんおおきまち)の宝島染工さんです。

大木町は八女からだと車で約30分、広大な平野には田んぼが広がり、町中に水路がたくさん張り巡らされています。水路には農業用水と雨水の排水によって水害を防ぐという目的があり、総距離はなんと200km以上。ちなみに特産品はゴザに使われる“い草”です。

宝島染工の代表、大籠千春(おおごもりちはる)さん。大木町出身で約20年前に宝島染工を立ち上げました。天然染料に特化しアパレルメーカーの染め加工の委託のお仕事からスタートしましたが、現在はオリジナルラインとOEMで展開中です。

オリジナルラインでは性別や年齢、体型の垣根を取り払った“ジェンダーレスエイジレス”なデザインが人気。宝島染工は糸染や絣はやっていませんが、筑後の伝統的な藍染めの世界にデザインという武器で風穴を開け、独自のポジションを確立しています。

今日はそんな宝島染工さんで、Tシャツを染めちゃいます!イエィ楽しそう♪

染め方は「防染(ぼうせん)」
「防染はですね、染料のついたところが染まって、つかないところは染まりません。単純な理屈です。例えばゴムで縛るとそのゴムの跡だけくっきり白く残ります」。

昨日の山村さんのところでは染液につける回数で色の違いを体験しましたが、宝島染工さんのワークショップでは防染という技法を使って柄や模様を染めていきます。布地に色や模様を染め出しプリントしていく捺染(なっせん=色を付けるところを決める)に対して、色に染まらない部分を決めて模様をあらわすのが防染。道具を使い、部分的に染まる部分を防いで染め上げるから防染です。

使う道具は限りなく自由。防染の中には、ゴムや糸で絞って柄をつける「絞り」や板で押さえた部分を染まらなくして染液につける「板染め」などのいくつかの方法があります。このワークショップでは紐やゴム、板...そして自分の手を含めありとあらゆるものが道具になりえます。千春さんは実はホームセンター大好き。染めに使うもの以外でも、染めた生地を干す竿など道具たちは見覚えのあるものばかりです。

みんなが防染の柄の作り方をイメージできるように、縦長に折り畳んだり、二等辺三角形を作ったり、辺の長さを揃えて正三角形に折りたたんだり、手ぬぐいやTシャツを自在に折り畳んで見本を見せながら、説明は続く。

柄やデザインを考えるトレーニング
Tシャツの生地は厚みがあるので、細かすぎる柄は難しく、また何重にも畳んでしまうと、Tシャツの生地の厚みのため畳んだ部分の内と外では径の内外差どうしても生まれてしまうので、例えば縞の場合は太さが揃えにくい、チェックだとマスの大きさが揃えにくいなどの限界もあります。その辺りも考慮しながら柄を考えなければなりません。

板締めの4センチピッチの柄にしたい場合8センチの幅で畳まなければ均等な幅の縞にはなりません。また、逆に細い太い細いのようなランダムっぽい縞にしたい時は、締める部分と染まる部分の太さのバランスを計算し、使う板の太さや畳む幅とピッチを決めて…と図形の展開図を考えるように仕上がりを想像できるかがポイントになります。

千春さんの説明を聞いていくうちに、みんなの脳内で柄作りの方法がインストールされていくのがわかります。それはだんだんおしゃべりが少なくなっているから!

自分の考える柄に向かって、どんな折り方をすればいいのかどんな道具を使ってやろうか、など実現方法を考える構想力もこのワークショップでは大切。

「なんとなくでもそれなりの柄には落ち着きますが、思い描いた柄にたどり着けるかがこのワークショップの面白さです」と千春さん。

インド藍で染めていく
ワークショップで使うのはもちろん天然染料です。藍染めをはじめとする草木染めで用いられる天然染料と化学染料では、原料と染色スピードが違います。化学染料に比べ草や葉っぱや木などの素朴な原料由来の天然染料は染まるスピードが弱いため、防染の技術がより生かされやすい。「天然染料を使うことで技術性が試されるんです」と千春さん。天然染料はシンプルだからこそ職人さんの技のすごさがより実感できたり、染める人の想像力や独創性が発揮されて防染の面白さや真髄に近づける、ということですね。

そして、今日使うのは天然染料の中でも蓼藍に比べ色素の含有量が多く純度が高い、つまり強く染まるインド藍(マメ科)を使用します。ちなみに蓼藍はタデ科です。

道具を見て柄を思いついていく人、喋りながらアイデアを広げていく人、ひたすら頭の中で模様を組み立てていく人、と各自、全然違うアプローチでデザインを検討中。それぞれ違っていてで見ててほんとに面白い。

てるてる坊主やん。

柄と準備が決まったら、いよいよ染める!!

でも染め方にもたくさんのコツがあるみたいです。

コツその(1)甕に入れたら動かして!でも動かしすぎないで!
甕の中につけるのは約1分。中は結構冷たく、ああ、冷た気持ちええなぁ、染まっているかなぁどんどん染まっていけ、と念じているだけではだめ。コツは適度に動かし、でも動かしすぎないこと。はじめてだと加減が難しい。

同じ場所を手でずっと持っていると色ムラになってしまうので、持つ場所を変えていく。ガシャガシャすると藍が弱ってしまうので静かーに、ゆっくり泳がせるように優しく♪でも手は止めない。油断しない。ぼーっとしててはいけない。

美容室でシャンプーしてもらっているみたい。

コツその(2)甕からあげたらまんべんなく空気に触れさせる
約1分後、甕からTシャツをあげてみると、広げたTシャツは鮮やかな緑に!この瞬間からもう酸化がはじまっています。藍染めでは酸素に触れさせることで、色素が繊維に吸着し色素が水に溶け出しにくくなり繊維中の分子に止まることで染着が完了します。全体が酸素に触れるよう液から出したら素早く広げましょう。

「喋りながら作業すると絶対手が動かなくなるから、ずっとー動かしてください」。藍染めには集中力がとても大切です。

コツその(3)色の濃さは時間じゃなくて回数で調節
空気に触れさせた後は再び、染液へ。見えている色は乾くと3割程度薄くなるので、きちんと色をつけようと思うと最低でも3回くらい。濃くしたいのならば、5回...8回...とお好みで染液につけます。

何かの修行みたいだ。

おお、すごーい。ツートンね。

板の方向を変えて...

板染めはギンガムチェックになった!

ゴムで縛ってたのはこうなる。

てるてる坊主がこんなにかっこよく!

まるでわんぱく少年やな!

職人の顔になっている。

良いのができたみたいでみんなご満悦。できあがりを見るのが楽しみですね!

このワークショップでは、この後酢酸を加えて中和(pH整えることで色素を安定させる)と脱水をして渡してくれます。

宝島染工では、今回のようなTシャツだけではなく持ち込んでの染色も可能です。ネルシャツ持ってくる人や、家具やインテリアに使う木材を持ってくる人、革を持ってくる人もいるそうです。こんなの染めたい!という人はぜひ相談してみてくださいね。

藍は超シンプルなところが良い
「天然染料は色ストレスがなくて単純にきれいですよね。化学染料は悪くないけど、藍染めみたいなシンプルなきれいさは少ないですね。色は透明感があってくっきりしているだけでもない、魅力的な染料。それに染めてても楽しいじゃないですか。ずっとやってても飽きない。今、世の中でサステナブルって言いますけど、藍はいいんだろうな、化学染料ではなかなかできにくいんだろうな、と思います。学生の頃からずっと染工の専攻で、藍に行き着いたんです。超シンプルなところが良いじゃないですか!三つくらいのことをずっとやっている感じです」。

宝島染工を天然染料に特化しようと決めた千春さん。その理由は?
「藍染めを仕事にしたいと思った時、久留米絣の工房では個人経営や家族単位で働いていらっしゃるところが多く、雇用してくれる体力のあるところも限られていました。そこで、自分で立ち上げることを考えたときに、化学染料をやる意味が見出せなかったし、ゼロからやるなら天然染料に特化しようと決めました。設備投資をして時間をかけてないとちゃんとペイできないなようなマーケットに参入することに魅力を見出せず、人がやらないところをいかに取るか、自分にはそれしか残されていない、と思ったから」。

宝島染工では今、たくさんの若者が働いています。彼女たちも手を真っ青に染めながら、本当に藍染め大好き!って顔をして働いています。

中和と脱水を待っている間に、宝島染工さんのギャラリーを見せてもらいます。

開けぇーとびら。

このギャラリーはもともとお米の蔵だった建物を改装。宝島染工の商品が主に展示されています。

なんという肌触りでしょう~、初めて触った感じ。
触ったことない生き物を触った感じでカシミヤみたいな気持ちよさがあります。シルク100%を起毛させたものを墨で薄く染めています。墨で染めることでソフト感を出し、最終的にアルガンオイルで柔軟加工を施しています。

ワンピースも作っています。ウエディングドレスを染めることもあるんですって。

オリジナルラインが生まれたわけ
宝島染工は立ち上げ当初、アパレルメーカーのOEMのみでした。しかし、現在はメーカーの洋服の染色加工の請負とオリジナルラインの制作と、二つの顔を持っています。

「スワッチ(生地の見本帳)を見て図案を考えて打ち合わせをして、ファーストサンプルを作って、色試験やって、セカンドやってメーカーさんに見てもらって会議をして...デザイン構築といった知的労働する(アパレルメーカーの)みなさんの時間がどんどん少なくなっている、と感じました。そんな中商品のサイクルも短くなるし、デザイナーも変わってしまうこともありなかなか伝わらないな、と。だったら、こちらで先にデザインして良い生地で作って着て見せて...というふうに先に自分たちの仕事を見せないといけないと思いました。

そんなふうにはじまったので、宝島染工はメーカーになりたかった訳では全くなく、ちゃんと伝わるためには先にやらないとわからないんだなと危機感に近いところもあり、どんどん自分から勝手に作って見せて...最初はこんなことはしていなかったんですけど。でもそれを続けていくと在庫もどんどん増えていくから、ちゃんと管理して作っちゃおう売っちゃおう、売れるサンプルにしちゃった方がいいや、と。それを見て買いたいっていうメーカーさんも出てきたし、だったらちゃんと管理すればいいや、ってことで...。

作り続けるためにはどうするか。自分たちで工場を作って、こういった倉庫の展示スペースを作って、OEMはやめないしやり続けるけど、仕事を枯渇させないためにも閑散期にオリジナルを作って、自分たちに売る体力さえあれば...。オリジナルもたくさん作って、そんな二本柱になりました」。

別の建物では、撮影スタジオも完備。

ライトも完備。モデル撮影はもちろん、真上からのカメラで置き撮りもできます。オリジナルの商品はここで撮影します。

宝島染工のもう一つの特徴が「中量生産」です。ん?中量生産って何
ワークショップでやったような天然染色の手染めは1枚1枚染めるので時間がかかります。1ヶ月マックスで2,000枚です。手染めの中では数百枚ですごいね、と言われるし機械染めだとそれだけしかやらないの、と言われる藍染めの世界の中では、まさしく中量!

「仕上がり数量を試算するために工程やコストをすごく見える化して業務を管理しています。1枚ずつ触ってケアをする手染めで、1日100枚を仕上げる。

大量消費安価商品っていうのはうちの役割ではなく、染料特性の合致であったり、デザイン性だったりが合致し相乗効果あれば成立しますし、お客様(着る方も、アパレルメーカーさんやお店にも)に喜んでいただくのが宝島染工の役割かもしれません」。

個人作家の高価な作品でもなく大量生産でもない、天然染料から生まれた美しい服をその価値のわかる人に手に取ってもらう、というのが宝島染工の導き出した答えです。

筑後が誇る元気いっぱいのファクトリーブランド宝島染工、藍染め体験もお買い物も、そして何より話を聞くのがめっちゃ楽しいので、八女から少し足を伸ばして千春さんにぜひ会いに行ってみてください。

千春さん、ありがとうございました!

次は千春さんもお世話になっているという工場に行くよ。

久留米絣の製法の伝統を守りながら最新技術を取り入れ発展した筑後染織協同組合の工場見学

最後の見学先は筑後染織協同組合さん。分散していた地域の糸染めの工房を共同染色加工場として集約し1970年に設立。久留米絣の製法である先染めの伝統を守りつつ最新の技術や機械を取り入れながら発展してきました。

あらゆる染めの技法を一手に仕切る筑後の染めの大親分、古賀勘司工場長です。

「チーズ染色や精錬・漂白、糸と生地とタオルの染色とさまざまな仕上げ加工をやっています。基本的には組合さんの仕事をやってますので、ほぼ九州地区の仕事、全部受けてるような状態」と笑顔いっぱいで教えてくれました。

チーズ染色を見せてもらう
工場には行う工程や作業ごとにいくつかの建物があります。まずはチーズ染色を見せてもらいます。
「チーズ」とは文字通りチーズのように円筒形に巻かれた状態の糸のかたまりのこと。大きな筒の中にチーズを数十本並べて一度に染色することができます。筒の中で内側と外側から染色液が噴射されて全部が染まっていくという理屈です。

チーズ染色は大まかにいうと、不純物の汚れを洗い流し、生成りの糸の色素を抜いて真っ白にする漂白、染め、最後に洗浄、という流れ。漂白は発色を良くするために必要です。

「がぼん!と糸をセットして中から染色液が出てくるんですよ。ポンプの循環で染め上がっていきます。1日1回4時間~6時間染める。前処理のさらし漂白して、染色して、最後に後洗いするから仕上がりまで丸一日かかるんですよ。加工はこの中で全部できちゃう。全自動洗濯機みたいな感じです」。

これまで見せてもらった藍染めと違うのは熱との戦い。染色温度は通常60度ですが、漂白などの前処理では圧力をかけて120度まで温度を上げます。工場の中は夏場だと50度近くなることも。

こちらは生地の加工。この後水洗いして樹脂加工します。コシをつけたり防シワなどの加工が施されます。白い方は撥水加工されて靴の素材(アッパー部)になります。

もちろん糸の染色もできる
括り糸を機械で染めています。一瞬だけ蓋を開けて見せてもらいました。中から染色液が出て、表面を伝わって染まります。機械の中で圧力をかけて染めるので、糸の内部まで染まりやすくなりますが、糸の括りが弱いとその部分まで染まってしまうので要注意。

量が多い場合は、こちらのマシン。カセ状態になったたくさんの糸を染色液につけて一度に染めます。染色液から引き上げ糸の束を搾り上げていきます。

ギューッと搾る!

搾りきって糸の束が緩むとの色がフワッと変わる。糸の表情が緩むようなその瞬間が僕は好きです。

素材×染色×技法でみんなの要望に応える
「カセどめって言って昔ながらの染め方がこれだったんですよ。さっき見たのがチーズ染め。カセの形状で染めると、強く巻いていないからストレスもあまりかからず風合い的にも良くなります。カセの染色ができるのも日本ではもうあまりないんですよ」。

筑後染織協同組合では、染めるのも糸やタオル生地とさまざまで、使う染料も天然の蓼藍、インド藍、化学染料のインディゴとあらゆるものに対応可能。チーズ染色はかせの糸染めに比べ、同じ時間で仕上がる量は10倍以上。効率やコストパフォーマンスが求められる場合にはチーズ染色×化学染料、こだわりが求められる場合は天然藍の糸染めというように使い分けることができます。

宝島染工の大籠さんも独自のレシピを持ってここの設備で染めに来ることもあるそうです。古賀工場長とは大の仲良し。

「染料が万両よ!まったくもう」
試験室を見せてもらいます。ここで行っている試験は“色出し”という色合わせと、摩擦試験です。

色出しでは、チーズ染色の機械を使う前に現場で使っている染色剤と糸を使用して、三原色を計量・配合し機器を使用して試験、染まった糸の色が見本通りであれば本番の染めに進むことができます。

近頃、色が減ってきている??

「なんだかんだで市場的にはだんだん小さくなっているので、あまり使われない染色剤は製造中止でどんどん減っています。昔は流行色が出てきた頃には、色数をどんどん増やしちゃったけども、今はもう色は統一して、糸の不良在庫を減らそうというのが流れになっています。徐々に色が減って統一されていき、その結果これまで指示通りに作っていた色も出せなくなります。同じように見える色でも染料が違えば実は堅牢度(色落ちのしにくさ)では、全然違ってたりします。同じ色を出そうとすると堅牢度が変わったり、堅牢度を維持しようとすると微妙に色を変えなくてはいけなかったり....国内の染料メーカーも3社ほどになって半数以上は中国のもの、今まで数千円だった材料が1万円近くに値上がりしちゃって、千両(=染料)が万両になっちゃったよ。ガハハ」。

工場長ジョーク!面白いけどなんだか笑いにくい(汗)。

大きな工場だからこそ頭を悩ます排水問題
染色工場の課題はもう一つ、排水の問題。筑後染織協同組合では、染めや漂白や洗浄で1日300トンの水を使用。化学染料は染色液を浄化して排出しないといけないので手間もコストも大変です。

この工場で使用した水は色素を凝集・沈降させ基準をクリアした水を河川へ流します。

「限りなく透明に近くしていますが、実際には凝集する前に流れ出してしまうから少し色がついたまま排出します。脱色剤が入っているから温泉の匂いに近いかもしれません。保健所さんと市の方が定期的にチェックしに来られます。瀬戸内海とか有明海といった環境基準のある川には色の規制がありますが、筑後川には色のチェックはありません。仮に色を抜いて完全に漂白する場合には次亜塩素酸を入れて排出します。色は無色に漂白して見た目はきれいになるけど、薬剤の塩素を川に流すのもどうなのかという問題は残ります。アクリルやナイロンの場合は完全に染料を吸収するから色も出ませんが、綿の場合だと60%の吸収で残り40%の色が排出されます。SDGsが叫ばれる世の中だけど、部分的に見るだけではダメで全体を見ないといけないんですよね」。

のどかに見えていた藍染の産地にも経済と環境の問題が無関係ではないことを知りました。

楽しい体験と現場の人のリアルな声を聞くことができた久留米絣と藍染めの旅はこれで終了。

古賀工場長、有難うございました!

明日の産地デザインキャンプの発表に向け、夜遅くまで議論は続きました。

最後は産地デザインキャンプの締め、参加者が4日間の成果を発表します

産地デザインキャンプは、参加者のみんながが今回の見学や体験を通して久留米絣や藍染めについて考えた産地としての現状と課題について、またこんなことをしたら良いという提案や可能性を探ることが目的。最終日の今日は参加者のみんなの発表が行われます。

場所は地域の集会所を改装したKibiru(キビル)。「きびる」とは広川町の表現で、つなぐや結ぶこと。業務用ミシンやアイロンなどが用意されており「つくる」を仕事にする人や、これからそんな仕事にしたい人のためのものづくりの拠点です。

職人さんのすごさとユーザーとの距離

最初の発表は着物のシェアビジネスを起業した辻田さん。普段からの着物を着ている者としての目線で3つのポテンシャルを感じたそうです。

(1)綿の織物なので家でも洗える。そして洗えば洗うほど風合いが出る。
(2)紺と白というイメージだったが、藍染め体験を通して色の幅があることや温かさを知った。染めていくプロセスを訴求できるのでは?
(3)Tシャツの板染めを通して、小さい柄が大変なことを知った。自分で染めた大きな格子柄も我ながらかわいい。もっとデザインの面でも可能性があるのでは?

一方ではユーザー目線がないのでは?という思いも。職人さんの技のすごさや歴史を学んだが、一方で「どんな人をイメージして作っている」や「どんなシーンで着てほしい」といった利用者に関するコメントはあまり聞かれなかった、という辻田さん。技法を極めていくと、例えば小さな柄の方が難しいし手間が掛かって小ささにこそ価値があると思い込んでしまい、作り手として視座が固定化されているのでは?そういった点でユーザーの距離を縮めていく必要はもっとありそう、という意見でした。

今回のような産地に実際に来ることができない首都圏や都市の人に、セカンドハンドの久留米絣をレンタルして実際に品物を手に取ってもらい、オンラインでつながることで久留米絣や産地のことに関心を持ってもらい交流するというお手伝いが自分はできると思う、とまとめました。

旅せよ!冒険せよ!久留米絣

次は、広川町隣接の久留米市と東京2拠点在住で「IKI LUCA」というファッションブランドを展開し、久留米絣を盛り上げている小倉さん。
今回のキャンプへの参加の他にも藍の探求するため、徳島の藍葉の生産現場に出かけて見学したり、奄美大島の泥染めの職人さんに会いに行ったり、と自ら積極的に動いています。

職人さんの作り手としてのこだわりや強みを感じたという小倉さん。「百聞は一見にしかず、と言いますけど、百見は一体験にしかずです。生で触れることの大切さを感じました」。

自身のブランド作りを通して「企画して、作って、発信する」というポジティブな循環が大切だという小倉さんは、今回のキャンプで職人の凄さを実感しましたが、その作り手の思いをどう伝えるか、その発信方法が確立できれば、それが今後のデザインや企画にも活きてくるのでは、という提案です。

「私が言いたいのは『旅せよ、冒険せよ!』ってことです。作り手が外にじゃんじゃん出て新しいものにどんどん触れたら、どんなことが起きるのかな、って考えたら想像するだけでワクワクしてすごく良いものをもたらしてくれるんじゃないかな、と思います。職人さんが外の人と触れる機会が増えれば、自分のすごさやこだわりを再認識することができたり、自分の目や耳で体験することで感性が磨かれ、企画に生かされることができるとか...そんなポジティブな循環が生まれれば、外で得たアイデアが産地に還元されて、まるで藍甕の中の微生物が空気に触れて色を生み出していくように化学反応していくのかな、というふうに思いました!」

植物とデザインから久留米絣と藍染めを考える

3人目は植物とデザインというフィールドで活動を続けているデザイナーの尾形さんのレポート。参加の動機は、久留米絣がどうやって自然と共存しているのか、この土地から生まれた植物が手仕事を通して表現になるところに関心があったからだそうです。

「言いにくいんですけどせっかくの機会なので...はじめて久留米絣に見た時の印象は欲しいと思わなかったんです。ちょっと地味で伝統的な見たことある、みたいな。そういう感覚を持っていて、でも実際に見たり体験してみると、微生物の力だけで藍が染められる循環の中にある技法で、手と液と布が染まるというすごいプリミティブなところに魅力を感じました。それと同時に井上伝さんが12歳の時に発見した技法だとかそういうところにも衝撃を受けたり...今は久留米絣のファンになりました!やはり魅せられたのは糸染めの面白さ。微妙なディテールだとか、プロセスを知る前と知った後では印象が全く変わったんです」。

「これまでの柄のパターンは糸の太さや織機などさまざまな制約のもので生まれたちょうどいいサイズの柄だと思います。その制約を12歳の井上伝ちゃんがもしここにいたらやはりひっくり返しちゃうはず。例えば大きな柄にしてカジュアルな服に取り入れてみたり、織物じゃなくウールの糸を染めて編み物で表現したり、サーキュラリティの視点で、例えば裂織に藍染の技法を取り入れて素材を変えるアイデアもあると思います」。

溢れ出すアイデア!

藍の染液を使い切った後の藍甕の底に溜まった、藍の色素と洋服の繊維を含んだ汚泥、名づけて「藍の塊(あいのかたまり)」を活用した尾形さんの作品。インクとお湯で藍の塊を溶かし、柑橘の皮をスタンプして描かれています。

「何使って描こうかな、って考えた時に、みかんの皮がたまたまあったんですね。じゃあこれで描いてみよう、と思って作ってみました。やってみると、サーキュラーとか産地のデザインって頭で考えがちだなって思ったんです。特にデザインのバックグラウンドを持つ人ほど『世界の流行はこうでじゃあ自分たちはどうしよう…』とか、もちろんそういう視点も大事だと思うんですけど、実際に現地に行ってみたら、そこにたまたまみかんの皮があったりとか、そういうところから生まれるのも結構貴重な体験だな、と今回のキャンプで感じたところでした」。

柄のクラウドファウンディングと久留米絣ジム!?

発表の締めは、生態系とビジネスとデザインの間を探求し、さまざまな課題の解決を試みるコミュニティを運営している別府さん。テーマは、新たな柄へのチャレンジについて。

「先ほどの尾形さんの発表でもあった大きな柄を仮に作るとなった場合、今回の見学で反物を作るには最小ロットで12反の生地ができてしまうことを知りました。だからコストが発生して結構リスクがあるなと...。使う側が欲しい、作り手が作ってみたい、といった新たな柄に挑戦する際に、そのリスクを解消するためにクラウドファウンディングが相性がいいのかなと思いました。

ベンチャースピリットという観点で新たな反物を作るためのクラウドファウンディング。『2016 Arita』で行われていたように、外部のデザイナーを呼んで、デザイン案を作ってもらってその中で優れたデザインをクラファンによって出資者を募って反物を出していくプロジェクトです」。

「僕はものづくりが好きで今履いているズボンも、うなぎの寝床のもんぺの型紙で作ったりしています。それで今回も反物を買って作りたいな、と思ったんですけど、欲しいのが中古の反物屋さんと作るところまで伴走してくれる仕組みです。今は現地にきているからテンション上がっているんですけど、日常生活に戻ると反物で何かを作るスタートってなかなか切れないだろうな、と感じています。

だから、例えばジムみたいに...お金を払うから運動しないとみたいに、久留米絣で何か作るジムのようなもの。自分は今、広島在住ですが、遠方でも参加できるようにオンラインで週に1・2回、相談もできて作ったものを見せ合う。運営側も新たな柄で刺激を受けたり...そうして久留米絣に触れる人が増えていけばいいと思います」。

着物の利用者と作り手をつなぐビジネスを手掛けている辻田さん、すごい人と思ったらすぐに会いにいく軽やかなフットワークの小倉さん、植物とデザインとサーキュラリティーな視点が光る尾形さん、自らミシンで現在風もんぺを作ってしまう作ることが大好きな別府さん、皆さんそれぞれの思いが込められた素晴らしい発表でした。久留米絣と藍染めの可能性が広がりそうな予感がします。

総括はうなぎの寝床、白水さんから。

「やはり、自分たちも作り手と関わっているとどんどん作り手目線になっていくので、今回見えてなかった藍の塊インクや着物的な目線の再編集、サブスクなどいろんな伝え方があるなぁと。ものづくりをやっているとものに完結しがちになるので、そこはやはり自分たちの産地の視点だけではなくて、いろんな人とやりとりしながら、ワークさせていく仕組みみたいなものが結構必要なんだなと改めて認識できたのがよかったな、と思います。今回はきっかけなので、今後関わり続けてもらえる仕組みみたいなものをこちらも作っていきながら、いろんな人と一緒に盛り上げていけたらな、と思います。有難うございました」。

とても充実した4日間で、久留米絣と藍染、そして何より八女や広川町をはじめ地域のファンになりました。

今回の見学や体験を通して感じたのは、この地域の資源の豊かさです。久留米絣をとっかかりに、気候や土地と人間の関わりから農の営み、着る物とそれに関わった人たち、おしゃれな少女が生み出した技を今も受け継ぎならが多様に発展してきた技法...と地層のようにいくつも重なったこの地域の歴史と文化の厚みにほんの少しだけ触れることができたような...

残念ながら、また筑後初心者の僕にはこれ以上適切な言葉でまだまだまとめることができませんが、しゃかいか!でもこれからいろんな産地に行って、そこの産地が持つ力を伝えるお手伝いができたら良いな、と思います。

そして、今回の産地デザインキャンプのようにウナラボさんはさまざまな切り口でのツアーを計画中。

ご興味をお持ちになった方はチェックしておきましょうー!

ウナラボさん貴重な機会を有難うございました。

あー楽しかった。帰ってきたばかりだけどまた行きたい!!

UNAラボラトリーズ

住所:福岡県福岡市中央区薬院3-12-22-302
電話:092-982-7956
URL:https://unalabs.jp/

うなぎの寝床

住所:福岡県八女市本町267
電話:0943-22-3699
URL:https://unagino-nedoko.net/

うなぎの寝床 旧寺崎邸

住所:福岡県八女市本町327
電話:0943-24-8021
店休日:火、水 (祝日営業)、夏季休暇・年末年始

うなぎの寝床 旧丸林本家

住所:福岡県八女市本町267
電話:0943-22-3699
店休日:火、水 (祝日営業)

下川織物

住所:福岡県八女市津江1111-2
電話:0943-22-2427
URL:https://oriyasan.com/

藍染絣工房 山村健

住所:福岡県八女郡広川町大字長延241
電話:0943-32-0332
URL:http://kasuri.net/index.html

宝島染工株式会社

住所:福岡県三潴郡大木町横溝2068-1
電話:0944-33-0935
URL:https://takarajimasenkou.com/

筑後染織協同組合

住所:福岡県筑後市久富70
電話:0942-53-5136
URL:http://www.chikugosennshoku.com/

Kibiru

住所:福岡県八女郡広川町大字久泉814-1
電話:0943-24-8281
URL:https://hirokawa-newedition.org/kibiru/

Orige

住所:福岡県八女郡広川町大字吉常30-2
電話:0943-22-8122
URL:https://hirokawa-newedition.org/orige/

ニュー・ヒロカワ 合同会社

住所:福岡県八女郡広川町水原1328-1
電話:0943-22-8122
https://newhirokawa.store/

(text, photo:西村)

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