江戸から続く職人のまち「タンス町通り」で聞いた、
「越前箪笥」の歴史と今

三崎俊幸さん

「千年未来工藝祭」に合わせて行われた、越前市の手しごとを巡るツアー、最後のテーマは越前箪笥です。福井県越前市武生の家具の販売店や建具のお店が立ち並ぶ、その名も「タンス町通り」にのれんを掲げ、八代続く老舗「三崎タンス店」にお邪魔して、今日は越前箪笥の歴史について学びたいと思います。

タンス町通りを歩く

商家や寺社を目指して指物師が集まり、やがて箪笥のまちに
タンス町通りは越前市の寺社や商家の集まる中心市街地、旧北陸街道を西に折れた約200メートルほどの通りです。現在は和家具洋家具の製造・販売の10数のお店が軒を連ねています。

三崎タンス店看板

そんなタンス町で立派な看板をデーン!と掲げるお店が三崎タンス店です
看板にはカンナなどの道具がシンボルマークが描かれています。
もともと医者や塗師をしていたと伝わる三崎家。江戸時代の末頃に初代の三崎半三郎さんが指物師として商家や寺社に出入りしいていたのが三崎タンス店のはじまりです。やがて地域の皆さんに親しまれ、家具店として昔ながらの技術を継承しながら、現代的なデザインのベッドやリビングの家具調度品、木製雑貨・木製おもちゃなども作っています。

越前タンス全景

時代劇でも見たことがある!そんな佇まいの越前箪笥
三崎タンス店八代目のご主人、三崎俊幸さんです。
「江戸時代、我々のような家具を作る職人は『指物師』と言っていました。指物師は、ホゾや継ぎ手によって材を組むことを「指す」、「物指し」を用いて細工するからなどの語源があるそうです。商家やお寺さんが多かったので、この周辺に仕事と求め指物師が集まってきたのではないか、と言われています。幕末から明治期にたくさんの指物職人が活躍していた原型があり、明治中期頃に本格的な箪笥造りの職人たちが中心となり『タンス町通り』が成立しました。三崎タンス店ができたのもちょうどその頃です。かつては15~16軒の店があったと言われています」

越前箪笥は「帳場箪笥(ちょうばたんす)」と言われ、衣類を整理するワードロープ的な現代の箪笥というイメージよりも、商家では特に金庫に近いものでした。金庫なので火事などの際には横通しの棒を差し込み、担いで持ち運べるようになっています。タンスを数えるときに単位を「一棹(さお)、二棹」というのもこの名残りです。
時代劇の参勤交代のシーンなどでご存じの方もいるかもしれませんが、江戸時代に衣類や寝具の収納に使用された木の箱の「長持(ながもち)」が運搬の際に棹を通して担いで運べるタイプが主流になり、同じ頃に普及し始めた箪笥にも棹を通して運べる機能が取り入れられました。

特徴

越前箪笥の特徴は、「框(かまち)組み」という作り方。角材を方形に組んだ枠を框と言い、その枠内に鏡板と呼ばれる板をはめ込み、釘を使わないほぞ組技法で構造で作られています。主な材料はケヤキ材で300年使えるものも珍しくありません。

「今ご覧いただいている箪笥は江戸末期頃、慶応年間に作られたもので150年です」と三崎さん。

金庫から衣類保管用の桐箪笥へ
江戸末期から明治にかけ、一般家庭にも箪笥が普及するようになると、用途も金庫から衣類や道具の保管を目的としたものに変わり、素材も軽くて丈夫な桐が素材に用いられるようになります。桐箪笥の良いところは、桐が呼吸し湿度調節できるため、衣類にカビが生えにくい点です。桐には防虫成分も含まれていて、虫がつきにくく、発火点が高いためになかなか燃えにくいという利点もあります。火事の時、箪笥の外側が燃えても中は無事だったという話も伝わっています。現在でも内部に桐が使われている金庫があるのも、防湿・防虫・耐火性という素材としての特性が活かされているからだそうです。

たくさんの木材

原木で1年、製材し渋抜き乾燥で1年、倉庫でさらに1年寝かせることで木の歪みや狂いが治ります、と三崎さん。

猪目

越前箪笥の証は、斜め向きのハートマークの金具
装飾における越前箪笥の特徴は何と言っても金具と表面に塗られた漆です。
「越前箪笥は金庫がはじまりなので、角の金具は補強が目的だと思います。しかし、装飾も見事だと思いませんか。現在、越前箪笥に使われる金具は80歳のおじいちゃんの職人さんにお願いして、手作りで作ってもらっています。金具には斜めになったハートマークが斜めについているのが越前箪笥の特徴です。これは『猪目(いのめ)』と呼ばれ、文字通り猪の目をモチーフとした意匠で、火除けの意味が込められています。法隆寺の門をはじめとする神社仏閣にも使われ、もともとは仏教的な図柄とされています。銅板の部分も、薄い板を後ろから例えば龍のや牡丹のデザインを叩き出して作るものが多いですが、越前箪笥では分厚い板をヤスリで削り出していくのです。今はレーザーやボール盤で穴を開けることもできますが、昔は大変だったと思います」

金具

金具の加工は近隣の河和田という越前漆器の産地の技術が生かされています。80歳の金具づくりのおじいちゃんも河和田の職人さん。箪笥に使う板をヤスリで木目が透けて見えるほど磨き上げる技術も越前漆器に通じるものがあります。金工の技が、一方では箪笥、他方は漆器へと生かされていることを知ると、越前が地域全体でものづくりが盛んだったことがわかります。

橘夫人の厨子

奥見えるのは国宝、法隆寺の橘夫人の厨子を再現したものです。
法隆寺の本物の厨子の台座の隅っこには『越前』と筆で落書された墨書きの跡があり、越前から微集された職人が描いたものではないか、と考えられています!

現代の越前箪笥

伝統的な特徴と現代のデザインが組み合わさって生まれた、新しい越前箪笥
「国内外で活躍する著名なインラストリアルデザイナー、渡辺弘明さんがプロデュースしてくれたタンスです。越前箪笥の特徴であるほぞ組みをわざと見せ、もう1つの特徴である金具も踏襲しました」越前箪笥の特徴を継承しつつダイキャストの金具や同じ型を使いつつ異なるデザインを4〜5つ展開する、と言った現代的なアプローチで作った商品です。

越前箪笥は2013年に国の伝統工芸品に指定されました。
昔ながらの技術や技法を受け継ぐことと、気軽に見学できるような体験型のコンテンツを提供したり、新しい商品づくりにも取り組む工房・店舗が残っています。

今の越前箪笥

「タンス屋は減ってしまったけど、越前指物組合として建具やさまざまな木工の工房さんたちと一緒に、タンス町通り全体でやって行きたいと思います」
見学の最後に三崎さんが力強く語ってくれました。

三崎さん

タンスのまちは時代に合わせ作るものを変えながらも、300年以上も使える越前箪笥に負けずにこの先も力強く残っていきそうです。

越前和紙に越前打刃物、そして越前箪笥と「越前」とつく3つのものに共通するのは、歴史や技術という資産を生かしながら産地や仲間みんなで協力している点です。
そして、和紙は内装や三次元を表現するものへ、打刃物は世界で評価されるナイフへ、越前箪笥は技術を生かした新たな商品づくりへと、世の求めに応えながら守るだけではなく新たな挑戦を続ける、そんなしたたかさがこの地のものづくりを長く支えてきた理由なのかな、と思いました。

ツアーは以上にて終了。この後はぜひ千年未来工藝祭のレポートもご覧ください。

【詳細情報】

千年未来工藝祭

URL:https://craft1000mirai.jp/

有限会社 三崎タンス店

住所:福井県越前市元町5-10
電話番号:0778-22-0568
URL:http://www.kagu8.net/

株式會社ヒュージ(千年未来工藝祭プロデュース)

住所:福井県福井市順化2丁目3-8 前川ビル 2F
電話番号:0776-21-0990
URL:https://hudge.jp/

(text:西村 photo:市岡)

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