四万十の山ん中で作る旨みたっぷりのアートな塩 山塩小僧(森澤 宏夫)

四万十中流域の山間部 山塩小僧の話

高知県の四万十川沿いの国道から車で5分ほど入った人家がまばらな山の中に、今日の訪問先があります。なにやら不思議な小屋がいくつか並んでいます。。

お塩なんと!ここで作っているのは塩。

森澤さんプロフィールこちらが、山で作る塩の生産者の森澤宏夫さん。人呼んで「山塩小僧」!
こう見えて(すいません!)実は神戸出身のシティボーイ。高知県の県職員として勤務し退職、それから20年以上、この土地で塩を作っています。

山塩小僧森澤さん

海に近い方が塩づくりには良いのではないでしょうか?
この場所は一番近い海でも車で30分ほどかかりそうな山の中。「なぜ、こんな海から離れたところで塩を作っているんですか?」と何百回聞かれたであろう質問を山塩小僧に聞いてみました。
「ここに住んでいるからよ、あそこが家!」とシンプルな返事。

「確かに塩づくりには海の方が近くて便利なんだけど、海のそばは漁師町で家が立て込んでいて僕が始めた頃は塩づくりに適した条件のいい土地もなかった。塩づくりにはある程度平らな土地も必要なので広さも必要だし」

「それにね」とお話が続きます。

山塩小僧 森澤さんの話を聞く

「山で作ると海に比べて晴れの日が少なくお日さんの量も少ないから、ゆっくり乾いて塩になっていくんよ。釜なんか一気に乾かすと、海の味が逃げてしまって塩の旨みが逃げてしまう気がする。そら早くできる方が効率的だけどね、けど食べてみたら味の違いがすぐわかるから。ゆっくり作る山の塩はとても味わい深いよ」と山塩小僧さん。
そっか、海で作るのと山で作るのでは味が違うのか!味の違いというれっきとした理由があったのですね。

山塩小屋これが山塩小僧の製塩工場。3つのビニールの小屋があり、手前の小屋では、組み上げてきた海水を蒸発させ塩分濃度を高めた鹹水(かんすい、塩になるための濃くした海水)を作る「鹹水ハウス」。奥はその第一の小屋鹹水ハウスからポンプで送り出された鹹水を塩にしていく「結晶ハウス」です。

トラックで運ぶ原料の海水はこのタンク付きトラックで、車でだいたい40分ほどかけておとなりの町の海岸から運んできます。海からポンプでくみ上げた海水を鹹水ハウスの中へ。

小屋の中なんじゃこりゃー?ホウキが立ってる!
海水の塩分濃度を高めていく鹹水ハウスの中では、逆さまのホウキが行儀よく並んでいます(本来の使い方ではないけど!)。これは山塩小僧の発明。このホウキに塩水をシャワーで吹き付け、ホウキを伝って流れ落ちた後の塩水をポンプでくみ上げ、それをまた…と何度も何度も繰り返すうちに濃度が高まり、塩の原料となる鹹水になっていくというわけです。

塩水を吹き付けるシャワーで塩水が吹き付けられます。
鹹水ハウスの中では、塩分の濃度を15%(だいたい海水の3~4倍)ほどにまで上げていきます。
ここで一気に上げると効率的だし楽チンなのですが、あまり急いで乾かすとカルシウムつまり、海のミネラル分が逃げてしまうのでおいしい塩ができないのだそうです。山塩小僧のちょっとしたこだわり。

カルシウムが付着流木についているのは塩ではなくカルシウム。成分の中でカルシウムが一番最初に結晶化してしまうので、旨味を逃さないための工夫が必要となります。

流木がある芸術的な塩は楽しんで作られます
海で拾ってきた流木が鹹水ハウスの床に無造作に置いてあります。これは少しでもハウスの中に滞留させるようにして、鹹水が一度に流れ出て塩のミネラル分を逃さないように。そして...

「だーっと流れたらおもしろくないし、かっこええやん、ゲージツ!遊びよ!」と山塩小僧さん。
ホウキの他に生産設備面でのこだわりは特にありませんが、塩づくりで大切なのは温度管理と湿度の加減。それさえ守っていれば作ることができるシンプルな調味料ですが、何よりも山塩小僧にとっては作るプロセスを楽しむ物語こそが大切です。

金魚も泳ぐ金魚(置物)も塩水の中で泳いでいます。

濃度の濃い塩は出口へ濃度が濃くなった鹹水は、結晶になるために次の小屋へポンプで運ばれます。

小屋その2次、結晶ハウス。

頭上注意おでこを打つ注意書きがたくさんあります。何度もおでこ痛かったんだろうな、山塩小僧...

湿気すごい結晶ハウスの中は、あったかいというか暑い、そして湯気がすごい。また、良い香りもしてきます。なんだかサウナに入ったみたいなここちと思いきや、ハウスに使われている木材はヒノキ。
塩用のサウナって思ってもらって大丈夫です。

湿気すごい中で話を聞く直射日光が入りやすい位置に建っているのとハウスのビニールが薄いので、夏には50℃くらいまで上がってしまいます。来たのが、春でよかった。

塩の仕掛け

この中で塩分濃度の高まった鹹水がいよいよ塩になっていくわけですが、山塩小僧の毎日の作業は「ゴミ取りながら、結晶を集めて、混ぜて、ほいで...あと何日かしたら、また混ぜる」の繰り返し。

説明の看板書いてました。

塩を寄せ集める塩を寄せ集めて、ゴミがあればすくい上げ、

塩きれいかき混ぜる

塩の結晶光り輝く結晶になっていきます。
ここで取れる塩は、夏場にとれるのは月に200kg、冬場は50kgくらい。冬場は2〜3ヶ月とか夏に比べて3~4倍ほど、時間がかかります。
「冬場はあんまりとれないけど、急いであんまりガバガバ炊くのではなくて、ゆっくりじわじわ作って塩もゆっくり乾いていけばいい。全体を月に均していくと150kgくらい、これを200〜250kgにしていくと、年間30tで左うちわの生活が待っている!がはは!」

塩づくりを語るこの混ぜて集めて、混ぜて集めて、を繰り返していくと、塩の結晶が太ってきます。さらに、別のさらの濃い海水入れて溶かすと塩の濃度や旨味が増していきます。日光で明るいと「ファーっと」乾くので、塩はとんがった味になっていくのだとか。

同じハウスの中でも棚の段の違いや、作った時期によって塩の味も実は違ってきます。山塩小僧ではとった塩をハウスごとに分けておき、あとでブレンドして出荷しています。
「塩の結晶も粒が太いのや粒が細くてサラサラしたのやら、いろんなのができる。季節によっても味が違うけど、その違いも『ええやん』って思う。春の塩、夏の塩、冬の塩...楽しいやん」

いい笑顔家庭菜園...じゃなくて家庭製塩
「塩づくりはシンプルなので、みんな自分で作ったらいいやん」。小学生が見学に来るこのハウスで山塩小僧が語るのは家庭菜園ならぬ家庭製塩。
商売で塩を作ることは大変ですが、自分たちが食べる量くらいなら、実は簡単に塩を作ることができます。ポリタンクを二つ買ってきておいて、近くの海で汲んできた海水を箱に入れておく、混ぜて溶かして徐々に濃い海水していく、最後に縁側かどこかにゴミが入らないように注意して乾かす。
繰り返しますが塩づくりはいたってシンプル。やろうと思えば誰でもできます。しかし山塩小僧が伝えたいのは塩の作り方だけではなく、別のこと。

話を聞く森澤さんが生まれ故郷の神戸で講演をした際にこんな話がありました。「『神戸でも塩を作ればいい』というお話をすると、『海が汚れていてとても塩なんて作れない』という答えが。その時はこう言うねん『きれいだから作るのではなく、作るからきれいにするんですよ』って。俺はそう思うよ。」つまり、塩を作るにはきれいな海が必要なのではなく、塩を作ることをきっかけに海がきれいになっていけばいい、という発想。

「自分らが汚したら、汚い塩を食べればいいし。キレイもの食べたいと思えば周りをキレイにすればいい」塩を毎日かき混ぜながら、そんなことを考えていたのですね。僕も塩づくりやってみようかしら、というかうちの近くの海見に行ってこよう。

塩「今までで一番うまいと思ったのは、塩づくりの友達が作った塩。布でこして、また海水に溶かす。溶かしては結晶させて、とかしては結晶させて『なにやっとんかいなー』というくらいを何回も何回も繰り返したのに、濃い塩水作って、最後にできた塩。効率じゃないけど」なのだとか。
初めて食べた時にこの塩つくりたいなぁ、面白いなぁと思ったのが県庁職員を辞めて、自分でも塩づくりをはじめたきっかけです。

集まった塩山塩小僧がこの場所で「塩を作りたいんですけど」とご近所に話した時には、「海で作るもんをなんで、山で作るがよ」と反対の声が起こりました。
「そら、当たり前かなと思ったけど...」実際に友達が作っているところ見てもらったり、浜で作る塩と違って海の水を他に流さない密閉型だし、ハウスの中で乾かすし、と設備のことなど、1年くらいかけて根気強く説明。
やっとできるようになり、最後はもし塩害などでみなさんに迷惑をかけることがあれば、この事業をやめてこの部落から出て行きます、という念書まで書いて、やっと踏み出すことのできた塩づくり。
山で作ることを一人も賛成しなかったので、それがモチベーションにもつながりました。今、思い返すとそのことが逆に幸運に感じられます。「塩を作りたかったのと違うのか」と気持ちを奮い立たせ、自分の奥底から湧き上がるものがありました。

その後は、ネックだった原料の海水をとることを、塩づくりの友達に相談し、わずかなレンタル料でポンプを貸してもらえることができました。田舎はなんでもいうてみるもんや、そうすれば解決すると、本格的に山塩小僧の物語がスタートしました。

山塩小僧横顔「今はもちろん迷惑はかけていない。ただ近くに『変な奴がおるよ』くらい(笑)」と山塩小僧。たまたま自分には塩があったけど、自らが楽しめて、四万十のためにもなることにつながっていけば良いと考えています。

苦労して、そして楽しんで生まれた小僧の山塩。しかし、「自分でこれ以上量は増やすするつもりはない」のだとか。
それよりも、誰かが真似して日本のどこかで山塩小僧パート2を作ってくれたらいい。そして、みんながゆるやかに連携して山塩小僧チェーンでその場所にあった、そしてその時々の塩を楽しんでもらうのが、山塩小僧の次の目的です。

記念写真結晶ハウスで記念写真。
味がぎゅーっと濃縮されたお話を今日は有難うございました!

【詳細情報】
森澤 宏夫
電話番号:0880-26-0369
住所:高知県高岡郡四万十町上岡95

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