未来をつくる、河和田の工場開き&体験型マーケット! RENEW

来たぞ福井県鯖江市の未来をつくる工場開き&体験型マーケット「RENEW」をレポートするぞっ!

本部うるし会館RENEWとは、メーカーやクリエイターが、利用者が普段は見ることのできないモノづくりの現場を見てもらい交流し、コミュニケーションを深めていこうという初の試み。
メーカーで働く人たちや職人さんの思いや物語など製品に込められた背景を知ってもらうことはもちろん、1,500年以上も続く「作る」という伝統や歴史と、ライフスタイルの変化に対応して進化し続けてきた今の現場を肌に感じてもらうことも目的です。

旗このイベントの本部であるうるしの里会館(越前漆器伝統産業会館)には、万国旗ならぬ漆器の旗が飾られています。

旗はお椀の形だよ旗はお椀のかたち
なんだか楽しくなってきます。
漆っていうと、伝統、歴史、職人と背筋が伸びそうなキーワードが思い浮かびますが、どうやらそんな雰囲気でもなさそうです。

道行く人々道行く人に「こんちはー」とお声がけすると手を振ってくれました。そんな感じの雰囲気です。

河和田の山並み鯖江市は福井県の中でも嶺北地方のほぼ真ん中に位置し、古くから技術や産業が発展してきた土地柄。
代表的な産業は3つ!1,500年以上の歴史を持つ越前漆器、日本のシェアの9割以上を生産しているメガネフレーム、それに和紙などが全国的に知られています。
河和田地区があるのは鯖江市の東部、中山間地で11月から2月くらいまでは雨や曇りの日が大半。しかしこの曇りがちで湿気の多い気候が漆器づくりりには大切、その土地の気象条件や風土にあった産業が発展していくのが、季節や気候が多彩な日本の産業のかたちです。

RENEWの関係者の方にお話を聞いてみよう!

新山さん笑うこの方が企画&言い出しっぺの新山直広さん。
よろしくお願いします!

TSUGIさんかっこいいカットTSUGIさんの説明新山さんはTSUGI(ツギ)という、この河和田に魅せられ移住してきたデザイナー・職人などクリエイティブカンパニーの代表。
実は2015年の2月にしゃかいか!でお伺いしたのがご縁で、今回のイベントにお邪魔させていただきました。ご縁たいせつ。ありがとうございます。

インタビュー風景インタビュースタートです。

新山さんインタビュー「安売りは絶対にせず定価で売るイベント」それが持続可能なこれからにつながる
この河和田地区に移住してきたのは新山さんたちが参加した、河和田アートキャンプという地域づくりプロジェクトへの参加がきっかけ。その後、2014年に市役所の臨時職員として勤めていた頃、モノづくりイベントの構想が浮かびました。その中身は「行政主導のまちづくりイベントではなくて、作り手や住民自らが、自分ごととして地域・産業を盛り上げる」というもの。見学だけではなくマーケットの機能も持つが、安売りは極力しないで、定価で売って欲しい。その方が出展者の利幅が厚くなるし、工場を見せて濃く思いを伝えることもできる、一時的な盛り上がりではなく、最終的にはご商売・取引につながる持続可能なものにつなげる、という考えでした。

当時の上司も賛同してくれ、予算も少しつきましたが、基本的には自分たちで出資して行おうと決めました。でも、具体的にどの企業に参加してもらうか?という出展者選びはよそ者の新山さんにとっては、なかなか大変。「モノづくりの集積地 河和田」といっても、とにかく売りたい・商売につなげたいという思いの人もいるし、伝統的な会社・職人さんのいる地域やきちんとブランディングをしているおしゃれなメーカーなど、その思いや姿勢も同じではなくまだら模様な状態。

「構想と思いはある、しかしそれを実現する方法が見つからない。」という状態で半年近くが過ぎ、来年はきっとやろう!と思いを抱え、TSUGIを立ち上げました。
会社が落ち着き、再びスタートしようと思い始めたときは「数は少なくても、きちんと外向けに情報発信できるメーカーと一緒に、早く開催に向けて準備しよう」という思いになっていました。

谷口眼鏡さん写真ちょうどその頃、意気投合したのが50年近く続く谷口眼鏡の二代目経営者で、河和田地区区長会長でもある谷口康彦さんでした。
谷口さん曰く「区長会長とは町内会長のその代表のようなもの」。

よそ者の新山さんと地区代表の谷口さん、二人は「この地域の産業を盛り上げる」という思いは共通でしたが、話を詰めていくと、「外への発信が大切」vs「気持ちはわかるけど、まずは内からだ」とその方法は真っ向からぶつかりあうものでした。

谷口さんのメガネ谷口さんは、この地でメガネフレームの工場を受け継ぎ、経営して20年。町内のことはもちろん、ご商売の習慣やこの地域の経営者の思い・苦しみなど、きめ細かく知り尽くしたいわばこの地域のモデルであり、そして代表。
「気持ちはわかる、けど思いだけではダメ。外向きの発信ができている人もいるけど、どうしていいかわからない人もたくさんいる。その人たちも河和田を支える一員」など、たくさんのことを二人で話をしました。

外ももちろん大切だが、中で働く人もほうっておけない、という谷口さん。「地域の代表という立場からだけではなく、鯖江の眼鏡産業の厳しい現状も考慮する必要がある。産業や地域が持続的に発展するために、基盤としての、多様性のある新しい組織を育てないといけない。」とインナーブランディングの重要性を熱く語っていました。

バチバチあったその頃、バチバチがありました。

そのような思いをお互いに理解しあえたのは6月頃、「一人で行けば早く目的地に到着できるけれど、みんなで行けば遠くにいける」という思いが一致しました。中も外もどちらも大事、外向けの広報・PR、アートディレクションはTSUGIで、谷口さんは地域の働く人や地元企業、地区内のみなさんへのインナーブランディングを担当。「タッグを組んで中も外も両輪で頑張ろう」となりました。

できるだけたくさんの企業に参加してもらい、みんなの意識を高め、多様な価値を知ってもらうために、参加をお願いする企業も当初考えていた8つから22社へ。それから実際に出展者への声がけがはじまりました。

河和田夏祭り浴衣写真提供:TSUGI
外と内が混ざるきっかけになった夏祭り
また、夏は河和田地区のイベントが多くなる季節。
河和田地区の夏まつりは、これまでは地元を対象に行われていました。でも谷口さんは、あえて移住した若者と地元の若者の合同チームを作り、彼らに夏まつりを企画してもらいました。
結果として今までなかった交流がうまれ、地区の人たちと一緒になって楽しめる祭の企画ができあがっていきます。

河和田夏祭り写真提供:TSUGI
そこで飛び出したアイデアが「自己紹介のコーナァー♫」
移住者がお祭りの舞台に上がって、そこで自己紹介していくというシンプルなものですが、実行するには、出る人にとってはナカナカ根性がいる企画です。
いろいろな反発や「絶対ヤダ!!」という移住者も中にはいて、新山さん自身も「そこまでする?」という思いがありつつ、とにかく一度試しにやってみようと実行!

河和田夏祭り参加者写真提供:TSUGI

河和田夏祭り参加者写真提供:TSUGI

河和田夏祭り参加者写真提供:TSUGI

皆さんのお顔を見れば一目瞭然。移住者も地域の人も、一番星もくすぶってる人も、職人も社長もみんな混じり合い、いい雰囲気になって、やって本当によかったね、と大成功の結果になりました!

夏祭りをきっかけに出展者の賛同も獲得し、無事一気にイベントへ、そして大成功!と僕も書きたいところですが、そうは簡単に進むことはありませんでした。

シリアスな新山さん夏祭りを通して、今まであまり接点のなかった地域の人たちと、移住者の仲は深まりましたが、あくまでまだ一部。
出展者のメーカー・職人と工場開きの実行委員会の参加をお願いする場面では「産業・工場を見せて説明しながら売ろう」という方法に理解は示してくれるものの、気持ちがまだついてこない状態。
話し合いではネガティブな意見しかでない人や、ガードが上がりきった人に、新山さんも「分かち合おう」と震えながら言ったことがありました。

しかし、谷口さんはじめ実行委員会のメンバーと合意形成のために一軒づつ繰り返しお話しして回ることで、22社すべて参加してもらうことができました。
ハードルは上がりましたが、出展者に「自分ごと」でとらえてもらうために出展料を1万円ずつ出資してもらいました。

新山さん
RENEWという共通のものに向かって進んでいくうちに、出展者からもさまざまな意見が飛び出すようになりました。
TSUGIとしての携わり方はデザインでしたが、Facebookのシェアのやり方教えてと、ほぼ毎日、出展者の人と電話し合うようになっていったり、

アイデアその18つの三角を集めれば、オブジェになるアイデア!
これもスタンプラリー的なことをした方がいい、という出展者のアイデアから。
このノベルティーは工芸屋さんと一緒に作りました。

RENEW自転車「実は、レンタル自転車も僕らじゃなくて出展者のアイデアなんです」
河和田地区は車がなくても自転車で十分回ることができるほどのコンパクトなスケール。自転車ちょうどいい。

展示物展示ブースもあったほうがいいよ、台にパレットを使おう!、ということで、出展者の作品はこのようになっています。

だんだんみんなノリノリになってきました。
「価値観の共有って大切なんだな」と実感しました、と新山さん。

喜ぶ新山さん嬉しかったのは「もっと頼れよ!」というひとこと。
時間もなくて必死に間に合わせよう、ヒーヒーとなっていたころ、出展者の一人から「もっと俺らに頼れよ!」というひとことをもらったこともありました。新山さん、そのときは嬉しくて涙が出たんだとか。

そして今日、RENEWの工場見学やワークショップが無事に開幕。

谷口眼鏡さん谷口さんのあたたかい人柄は見た目の通り!メガネのこと、フィッティングのこと、工場のことたくさんお話を聞くことができました。

Hacoaイメージ素敵なデザインの木製雑貨のお店かと思いきや、実は木にかける情熱が半端ではない職人たちの集団「Hacoa」。木を嫌いな人はいない、という思いで、木のぬくもりや味わいを生かしたプロダクトを作りづづけています。

井上徳木工さん井上徳木工の二代目井上孝之さんには、カッティングボードづくり体験を通して、漆器の木地のこと、原料の木のことをやさしく丁寧に教えてもらうことができました。

駒さん若い職人さんが先生になって本物の漆や金を使った蒔絵のワークショップを体験することができました。本物に触れる大切さを教えてもらいました。

錦古里さん「彼らは宝物みたいなものだからね」
お話ししているうちに、TSUGIの家守、警備員にして、建物のオーナーかつ塗り職人、つまり応援団長の錦古里(きんこり)漆器店の錦古里正孝さんが登場!

錦古里さん2河和田は実は昔からいろんな人が入ってくる土地柄。それは漆器という産業があったから。
「漆かき職人は奈良時代に漆の採取のためにどこに行ってもいいよ、というお墨付きをもらっていたし、河和田の人々が漆椀を行商した時代、いろんな物はもちろん技術も情報も人も入ってきた。よそ者を受け入れる姿勢も、きっとそのおかげ。
人も物も出て行ったり、入ってきたりは当たり前で、「来るもの拒まず」という風土はずーっと昔からあったんだよ。
私の家が職人としてこの土地に移ってきたのは、実は3代前の祖父の時代、明治の中頃。
もともと外の状況を受け入れやすい下地はあったし、100年単位で回ってて、実はそう珍しいことじゃない。信頼関係や価値が近づいていけば、一緒にやっていけることはここにいるみんなが肌感覚で知っている。
彼らに建物を使ってもらっているのも信頼関係だけだからね。」

素敵なコンサートをやってる、ということで移動します。

コンサート会場へ移動
新山さん移動中移動中にも「今日ワークショップして売り切れになってしまった、やってよかった」という電話が新山さんの携帯にありました。実はその方は、当初RENEWに対して懐疑的だった方。「本当に嬉しいです。」と新山さん。

神社へ

コンサート会場RENEWの関連イベントとして河和田「秋の実りの音楽会」というコンサートを片山八幡神社で開催。シンガーソングライターの王舟さん、同じくシンガーソングライターでアコーデオンやトランペットも奏でる中山うりさんの歌声が河和田の町へしみ込んでいきます。

王舟さん
中山うりさん
コンサート会場3
お汁も売ってる
神社の上から神社の上からあったかいけど透き通った声が町中に響いています。

このRENEWでは、工場開き、ワークショップ、マーケットの他にも催しが盛りだくさんあります。

ろくろ舎さん外観
ろくろ舎さんコンサート1
酒井さんと新山さん
ろくろ舎さんコンサート2
酒井さん
ろくろ舎さん
ろくろ舎さん記念ショットろくろ舎さん、
お食事と素敵なコンサートを有り難うございました。

内田さんトークイベント
内田さんトークイベント内田さんうるしの里会館で開かれたスペシャルトークイベント「“未来のつくる”をつくる」では、以前お伺いした漆琳堂の内田徹さんが「ものづくりをつなぐ」をテーマにお話しされました。

すでに次回の開催が決定!
イベントが終わってホッとするのもつかの間、来場者・出展者からのフィードバックを分析する作業が始まっています。出展者からは「次回はどうする?」とすでに前向きな意見が集まっています。多かったコメントはやはり、これまでは直接エンドユーザーと接することがなく、やる前は半信半疑だったけど、実際に顔を見てお話をすることの大切さが身にしみた、といったものでした。
新山さん、谷口さんの実行委員会チームも「フタを開けてみれば予想以上、出展者に気づきを呼び起こすことができた」と手応えを感じています。

しかし、課題も目に見えてきました。
課題は大きく3つ。1つ目は開催時期。10月は展示会や漆器の正月商戦が重なり、繁忙期です。2つ目は出展者たち自身が、ほかの出展者のところをまわることができなかったこと。
最後に、来場者へのホスピタリティやエンターテイメントの問題。催しの内容はもちろん、飲食店や休めるところの整備が必要、という声が聞こえてきます。

今年参加しなかったメーカー・職人さんをいかに巻き込んでいくか?
2015年参加してもらった出展者は「次回やろう!もっとこうしよう!」と、とても前向きになっていますが、今回の出展者は実行委員会がチョイスしてお声がけしたところだけなのが実情。
新山さんは、次回こそは地元メーカーや職人さんから「出たい」と手を上げてもらえるような形にしたい、と考えています。そのためには、出展者以外の企業に、今回の振り返りを広く深く伝える内容、その方法がとても大切。また、参加を促すためにも、他の団体やイベントと絡むことの必要性も感じています。

新山さんまとめTSUGIや実行委員会がなくてもこのRENEWが続くことが最終目的です、と新山さん。
よそ者の目線と内側のやる気、そのタッグが噛み合った初の試みを、今回間近に見ることができましたが、河和田地区は「持続可能な産地を目指す」というテーマを核に、徐々に動き始めているようです。

記念ショット新山さん、そして河和田のみなさん、ありがとうございました!
RENEW 第二回楽しみにしています。

【詳細情報】

TSUGI Lab.

住所:福井県鯖江市河和田町19-8(錦古里漆器店内)
Web: http://tsugilab.com

(text:西村、photo:市岡 ※一部写真はTSUGI Lab.さん提供)

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